--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

ハムナ氷瀑

2006-11-29 | 南極だより・自然
お世話になったお医者さまのお別れの会に行ってきました。
亡くなってから2年、先生のご意思で献体をされ、ようやく戻られて行われた会は、先生の描かれた絵に囲まれ、スライドを見ながらたくさんのご友人が思い出を語り合うすてきな時間でした。
最後に5年生のお孫さんが、先生の好きだった詩、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を朗読したのを聴きながら、ああ、先生の生きる姿勢の根っこはここにあったのだと思いました。
私はとても先生のような生き方はできないけれど、今一度、自分の生き方を見つめなおしてみたいと思いました。
(でも、なかなか自分に向かい合う時間はとれず、仕事が片付いたら、ブログをアップしたら・・と後回しにしてしまうのですよね・・)
さて、それでは渡井さんからの南極だよりです。
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2006年11月23日(木) 快晴 ハムナ氷瀑

大陸に積もった雪は下の方は圧力がかかり氷となる。
氷は自分の重さに耐えられずより標高の低いところへと流れていく。
その流れが集まっているところが氷河だ。
その氷河が大陸縁辺部で特に高低差をもって海に落ち込んでいるところを氷瀑という。

氷河が落ち込むところでは応力がかかり、表面にはクラックが入りいくつものブロックができる。
そのブロックが重なるように海に落ちていくのだ。

昭和基地から比較的近く寄りやすいところに、ハムナ氷瀑はある。
幅は500mほど、落差110mほどの氷の崖だ。

氷瀑の末端は氷の壁が立ちはだかり、割れ目は渓谷のようになっている。
が、この谷間に入ることははばかられる。
今、現在もこの氷河は流れているのだ。
アイスブロックの崩壊がいつ起こるとも限らない。

氷瀑の横の斜面を登って氷瀑を上から眺める場所に立つことができた。
大陸を覆っている雪が氷河に集まり、それが氷瀑となって海に流れ出している様子を見ることができる。
絶え間なくこの流れは続いているのだ。
南極特有のしかもそう簡単に俯瞰できない景色。
ゆったりではあるけれど脈々と続く時間の流れを感じることができる。
これを眼前に見ることができる自分は幸せだなと思った。


#ハムナ氷瀑

#氷床は落ちて海に流れ出る

#ハムナ氷瀑の上は氷河が続いている
流れてきた氷床は氷瀑に近づくとクラックが大きくなりブロックも細かくなる


-----11月23日本日の作業など-----
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック

<日の出日の入>
日の出  なし
日の入  なし
<気象情報>
平均気温-6.4℃
最高気温-3.2℃(1611) 最低気温-11.0℃(0349)
平均風速2.9m/s
最大平均風速5.5m/s風向S(1850) 最大瞬間風速7.2m/s風向S(1841)
日照時間 22.0時間

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10年近く前にニュージーランドを旅行した際に、テカポという町からセスナで氷河を見に行ったことがあり、そのダイナミックさに心を奪われたことがありました。
でも、その旅はとても行き当たりばったりだったので、その町に行ってから急に10日ぶりに飛べることになったの氷河を見ることができるらしいということになり、勢いでセスナに乗り込んだのと、英語の説明がまったく分からなかったので(パイロットが「グラシア」と何度も言っていたのが後になって「氷河」であることを知った)、その氷河がなんという名前の氷河だったのかすら分からないままなのです(氷河に名前があることすらも知らなかった)。
それ以外は、南極のことをいろいろ調べるまで、氷河といえば「高い山のほうにあって温暖化で後退している」というどこかのテレビでやっていた情報を聞きかじったような知識しかありませんでした。
しかも南極に氷河があるなんてことも知らず、ましてや何で「河」の文字が付いているかも知らなかったのです。
当然、氷がゆっくりゆっくり流れているということも分かっていませんでした。
実は、NZで見たときには流れていた川が凍ったものだと思っていたのでした。
そんなわけなので、氷瀑というのは、氷河が流れ落ちる氷の滝であるのは分かるけれど、三大名瀑の「袋田の滝」のように、凍っている滝は登れると思っていました。
氷瀑は常に動いていて登ることはできないのですよね。
思い起こせば、氷河や氷床が海に崩落する写真や映像は写真集や自然番組などで何度も目にしているのに。
ちゃんと調べないと頭の中でつながらないものなのですね。

リュッツォホルム湾沿岸図

#ラングホブデ
ハムナ氷瀑というものがあるということは、南極のことを調べ始めた1年半ほど前に知りました。
今までずっと景勝地だとばかり思っていたのですが、すりばち池同様氷河研究では重要な場所であるらしいのです。
渡井さんからの写真では写っていないのですが、大陸氷床の底面氷というのがあるようなのです。

氷河の研究をされていて、観測隊にも参加経験のある白岩氏の白岩孝行:氷河のページには「ハムナ氷瀑の右手の露岩に露出する大陸氷床の底面氷。上半部は通常の氷床氷であるが、下半分の約7mは氷床と基盤岩との相互作用の結果、基盤岩から取り込まれた岩石を含み、 また、気泡が少ない透明氷であるため黒く見える」と書かれていました。
この写真を見ながら、ん?この黒い氷、最近見たし読んだと思いました。
「底面氷は氷床の上に積もった雪が次第に押し固められて氷になったモノではなく,底面圧力融解や融解水の浸透などによって再凍結したものである」というP.G. Knight氏が書かれたという記述をみつけたのは、澤柿さんのブログの「底面氷ー向い岩編」でした。
このあと、スカルブスネスにも底面氷の採取に出かけており、「底面氷ースカルブスネス編2」に紹介されています。
ラングホブデのハムナ氷瀑での採取はなかったのでしょうか。

底面が圧力で融解したり、融解水の浸透によって溶けたことを示していると言うことなのだと思うのですが、それはもしかしてドームふじで掘削された氷床が予測された年数よりも新しい72万年前だったということにも関係するのでしょうか?
報道発表では地熱で融けていたようなことが書かれていたのですが、圧力での融解や融解水の浸透も可能性がある?
それとも大陸辺縁まで移動してくる間に融解して再凍結いるということなのでしょうか?
ドームふじの近くにも氷床の下に湖が眠っているとの報道もあったばかりだし、いろいろ想像してしまいます。

すりばち池の時も思いましたが、沿岸には見て面白いだけでなく調べても興味深いものがたくさんあるのだな、と思いました。

すっかりハムナ氷瀑から離れてしまっていますが、やはり氷河が動いていると実感できる瞬間に出会いたいのです。
大規模な崩落はめったに見られるものではないのでしょうけれど、ときおりギシッと音がするとか、そういうことってないのかな、と思うのです。
写真では見ることができても、音は届かないので知りたいです。

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2 コメント

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たのまれしごと (さわがき)
2006-12-01 16:55:30
ハムナ氷瀑での底面氷は,すでに白岩さんがJARE35で採取してますので,今回は別の場所のを採取しました.実は今回の我々がやった頼まれ仕事は,かつて白岩さんが持ち帰ったハムナ氷瀑の底面氷を研究して博士号をとった研究者からの依頼だったんです.
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さわがきさま (み・くり)
2006-12-02 09:16:07
ハムナ氷瀑での底面氷の採取場面は白岩さんのサイトで見ました。
氷の壁に人間が張り付いているような感じで圧倒されました。
今回の天平山の底面氷の採取も同じ方につながっているのですね。
ハムナ氷瀑を調べなければ、さわがきさんのところにアップされていた底面氷のこともサラッと流れていってしまったかもしれないのです。
調べているといろいろなことがつながっておもしろいです。
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