--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

極成層圏雲

2006-06-08 | 南極だより・自然
昭和基地は今日もいい天気。
昭和基地WEBカメラ リアルタイム画像で朝焼けと夕焼けを見るのが楽しみになりました。
勝手にお昼をさかいに朝焼け夕焼けを分けることに決めたので、昼の12時までが朝焼けでそれ以降が夕焼けです。
それでは渡井さんからの南極だよりです。
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2006年6月7日(水) 快晴ただし太陽は出ず 極成層圏雲

オーロラが良く見えた昨晩、47次隊の観測が始まって以来はじめての極成層圏雲が観測された。

生憎、月が明るく輝きオーロラ観測には絶好のコンディションとはいえなかったが、月に傘がかかっていたのに気付いた隊員もいたことと思う。
日本では空気中に水蒸気がたくさんあるとこのような輪がみられ、悪天候の兆しとされている。
では大気中の水蒸気も少なく、雨など降らないこの時期の南極においては何故なのであろうか?

実はこれ、極成層圏雲(PSC : Polar Stratospheric Clouds)という成層圏で形成される雲なのだ。
PSCは-78℃以下でないと現れない。
南極でも冬から春先の寒い時期でないと現れないのだ(北極ではあまり現れない)。
PSCはオゾンホール生成の大きな要因と言われている。

南極上空は強い南極周回気流によって、より北の空気と混合しにくい。
そんなわけで冬季には北極よりも冷えることになりPSCも出現しやすくなる。
PSCに硝酸塩素(NO2ClO)が衝突すると、雲粒表面のHClやH2Oと化学反応し、空気中にCl2やHOClを放出する。
これが春先になって太陽が当たると光解離して塩素原子が大量にできる。
そしてこの塩素原子がオゾンを減少させるのだ。
オゾンホールが春先に出現するのはこのためなのだ。

今回データからもPSC出現が読み取れる。
観測棟にあるMPLで観測された雲の高度が、MPL高度にして16-17kmくらいにあるのがわかる。
MPLは斜めにレーザーを打っているので実高度に換算すると12kmほどだ。
成層圏は高度10kmくらいより上なのでPSCに間違いないであろう。

#このデータはMPL高度のため、成層圏は15km(実高度に換算すると10.6kmほどになるのだそう)くらいより上
このPSCの出現を心待ちにしていたのが矢吹さん@気水圏の持ち込んだ多波長ライダー。
生憎翌日に控えたS16へのオペレーションのため、この晩は観測できなかったが次の機会に期待するとにしよう。


-----本日の作業など-----
・「日刊昭和」執筆
・論文
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック

<日の出日の入>
日の出  なし
日の入  なし
<気象情報6月7日>
平均気温-16.1℃
最高気温-14.0℃(0049) 最低気温-18.0℃(2350)
平均風速9.6m/s
最大平均風速13.3m/s風向E(0330) 最大瞬間風速16.5m/s風向E(0323)
日照時間 0.0時間

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昨日、勝手に予告したらさっそくPSCのことを書いてくれました。
極(域)成層圏雲(PSC(またはPSCs): Polar Stratospheric Clouds)は昨日書いたとおり、エアロゾルやオゾンホールを調べていて知ったものでした。
南極だよりにはオゾンホールとの関わりと、エアロゾルとの関係を匂わせるようなことが少しずつ書かれています。
すべてを考えると頭がどうにかなってしまいそうなので、今回は極成層圏雲がどうやってできるのかということにしぼって考えてみることにします。(ところがオゾンホールとのかかわりで書かれているものが多くて、PSCの生成のみを詳しく説明したものは少ないのでした)

石油や天然ガスなど化石燃料の燃焼や、大規模な火山噴火のときにでる二酸化硫黄(SO2)は、大気中で酸化され、上部対流圏付近の低温域で核化して硫酸エアロゾルという小さな小さな粒になります。
空気中にはいろいろな大きさのエアロゾルがあり、低中緯度で暖かい空気の塊が上昇気流に乗って上部対流圏まで行く途中に、粒の大きいエアロゾルは雲の核になりふだん私達が見ているような雲を作りますが、それよりも小さな粒の硫酸エアロゾルを含んだ空気はここでは雲の核にはならず対流圏界面を越えて成層圏まで上昇します。
この空気はおよそ30kmの上空を両極(高緯度地域)へ向けてゆっくりと移動し、南極・北極や中緯度地方の上空にたどり着いた空気は下降し対流圏に戻るのだそうです(ブリューワ・ドブソン循環というらしい)。
ここまで調べて、どうしていろいろな物質(フロンガスなども)が南極や北極に集まるのかが分かってきました。
ここからは南極にたどり着いた硫酸エアロゾルの話です。
南極の上空に成長しながらたどり着いた硫酸エアロゾルは、次第に下降を始めます。
夏ならそのまま対流圏まで下降するのだそうですが、冬の南極(北極もですが)の成層圏では極渦(きょくうず)と呼ばれる極を中心とする強い低気圧ができて、その周り、緯度60度付近に強い西風の極夜ジェットが発生するのだそうです。
極渦の中は、季節が冬で太陽が当たらないこともあって、僅かに含まれる水蒸気でも凍るほどの低温になっています。
その中に下降していった硫酸エアロゾルは雲核となり、極成層圏雲を形成するのだそうです。
ふつう成層圏には雲はできませんが、このような条件が揃うことで、-78℃以下にも温度が下がり、雲ができるのですね。

この極成層圏雲、今回は夜だったので月の傘のように見えましたが、真珠母雲(アコヤ貝の内側)などと呼ばれる美しい色彩の雲に見えることもあるそうです。
渡井さんが、翌日に送ってきてくれたこの写真。

一見、きれいな朝焼け(夕焼け)に見えますよね?
この写真は極成層圏雲の出た翌日7日の午前9時55分に撮ったものなのだそうです。
どこかで見たことがあるな、と思ったら極成層圏雲(PSCs)でした。
同じような感じに見えませんか?
太陽が水平線から5度以下であれば、輝いているのは成層圏雲かもしれないと思いました。
渡井さんに聞くと、MPLのデータでは朝方に消えたのだそうですが、ライダーは一点しか見ていないので、極成層圏雲の可能性はあるのではないかとのことでした。
今度は真珠母雲の写真も撮ってほしいです。

オゾンホールの破壊に密接な関係のある極成層圏雲が、また見たくなってしまうほど美しいなんて、なんだか皮肉な感じがします。
美しいものには毒があるってことでしょうか?

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2 コメント

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大変ためになる解説ありがとうございます。 (ソ\リトン)
2006-06-11 22:28:32
雲の形成について興味深く読ませていただきました。携帯からだと記事中の画像が見られないのが残念ですが、詳しいご説明で助かります。

「真珠母雲」ですが、(夜光雲とも言うようですが)拙ブログの一番上のブックマークにありますドイツのサイトを開いていただきますと、右側の西暦年の並んだところをクリックすると、そこにも夜の波止場上空に輝くきれいな画像が掲載されています。もしよろしければ、ごらんください。

日本でも撮影例がありますので、一度見たいと思っています。
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ソリトンさま (み・くり)
2006-06-13 23:16:24
ソリトンさん、こんにちは。

「夜光雲」というのは納得です。

日が沈んで暗くなろうとしているときに、成層圏にある雲に太陽が当たって輝くのですものね。

日本でも撮影例があるのですか?!

日本の上空に成層圏雲ができたことがあったっていうことですよね?

ドイツのサイト見させてもらいました。

きれいな空の写真にうっとり。

「真珠母雲」なのかな?と思われるきれいな雲の写真も見つけました。

私も見てみたいです。

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