さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

チェルノブイリ原発と野鳥とカロテノイド

2007-07-13 18:34:12 | 生態学・環境
 前回に続き抗酸化物質の話。

 生物が放射線による暴露を受けた場合、生じたラジカル類によってDNAが損傷されます。抗酸化作用を持つカロテノイドはこうした電離放射線によって生じた遊離ラジカルを中和しその影響を緩和する作用があるそうです。一時期β-カロテンが癌を抑える効果があると注目されましたが、こちらの方は否定的な研究結果(むしろ癌の発生率を上げるかもしれない)が出ているようです。

 カロテノイドは一方で、動植物の色素や代謝制御など幅広い役割も持っています。仏マリ・キュリー大と米サウスカロライナ大の研究チームによる調査によると、チェルノブイリ原子力発電所の近辺に生息する野鳥類では、カロテノイドを色彩のために多く費やす色鮮やかな種類の野鳥ではそうでない種に比べ生息数が減少しているそうです。どうやら、放射線によって生じたラジカルを処理する分が不足してしまうみたいです。また興味深いことに、原発近辺にずっと生息している留鳥よりもむしろ渡り鳥の方が放射線の影響を強く受け数が減小していることも分かりました。これは渡りの際の高代謝状態でカロテノイドを多く消費してしまうからだろうと考えられます。

<参考>
Chernobyl Hits Birds Hard(Science Now)
松永和紀「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)