さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

ガラクタなどではない!?

2006-04-30 21:22:52 | 分子生物学・生理学
人間のゲノムサイズは約30億塩基対、ショウジョウバエは約1億8千万塩基対。この長大な鎖の中にいわゆる生物の設計図が記述されているわけですが、実際にタンパク質に翻訳される領域(Coding region)はごくわずかで、ほとんどの領域、ヒトにおいては約97%程が機能不明のガラクタ(Junk DNA)とされてきました。言ってみれば、ゲノムとは広大な無意味の砂漠の中にポツポツと遺伝子というオアシスが点在しているというイメージだったのです。

しかし近年、タンパクに翻訳されないRNA(non-coding RNAs;ncRNAs)が様々な遺伝子発現の調節に関わっていることが分かってきており、それらは従来"ガラクタ"と考えられてきた場所から転写されているということも明らかになってきています。特に二重鎖のRNAが引き金になって起こる遺伝子の配列特異的なサイレンシング(RNA干渉)の発見は、セントラルドグマという従来の概念を大きく揺さぶっています。

数学的な解析法を用いてヒトゲノムのジャンク領域に頻発するモチーフ配列(何らかの機能を持っていることによって保存されていると考えられる配列)が一体いくつあるのかということを、今回IBMのチームが調べました(4月25日付けのPNAS誌に掲載)。彼らは数百万個のモチーフ配列を見出し、そしてその内の12万8千個のモチーフは実際にタンパクに翻訳される領域、いわゆる遺伝子にも存在することが分かったのです。それらの遺伝子の多くは転写調節など機能を持つタンパクをコードしているものでした。

もちろん単なる統計的な解析ですので、実際に確かめる必要があると著者らは警告していますが、これらのモチーフはおそらくRNAに転写され、RNA干渉機構などを介して転写後型遺伝サイレンシグ(Post-Trancriptional Gene Silensing ; PTGS)に関わると考えられます。同じゲノムを持つ筈の人間の個々の細胞が、組織によってまったく異なる遺伝子発現を持つ仕組み、そのスウィッチングのメカニズムが解明される日も近いのでしょうか。

ncRNAの話は以前から非常に興味があったのですが、未だ難しい内容で把握しきれない部分が多いです。それでも、従来からの考えが崩壊しようとしている、教科書が書きかえられようとしている、そんな実感を与えてくれる話であり、その時代に立ち会えることに非常に興奮してしまいます。

参考;
BBC NEWS (http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/4940654.stm)

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2 コメント

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教科書疑惑問題 (310405)
2006-05-31 12:47:58
> 教科書が書きかえられようとしている、そんな実感を与えてくれる話であり・・・



教科書の書き換えといえば「社会」の教科書というイメージがありますが、

本来、科学の教科書はどんどんと新しい発見が足されていくものなんだね。と気づかされました。



遺伝子になかなかすっきり解明されそうでされない?もうそろそろ!?

実際に応用されるのはずっと先でしょうが、きっと立ち会えないけど、人類は変わるんだね。

↓無意味でごめんさなぃ。



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コメントありがとうございます (管理人)
2006-06-01 09:32:58
>310405さん

歴史の場合、時が経てば経つほど検証が困難になる分、その悪意のある書き換えは性質が悪いのかも知れませんね。



科学の分野でも、当たり前として多くの人間に信じられている「事実」が、実はかなり曖昧な観察結果に基づいた仮説でしかない場合が多いようです。狂牛病のプリオン説とかもその類みたいですけど。



だから自称科学者の卵としては、大手メディアから配信される情報だけを鵜呑みにせずに、なるべく様々なソースにあたって(出来るだけ原著の論文に)その事実を検証してみようというのが、このブログを始めたきっかけの一つだったような気がします。

そんなふうに反省しながら書いていますが。
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