goo blog サービス終了のお知らせ 

さいえんす徒然草

つれづれなるまゝに、日ぐらしキーボードに向かひて

無重力で手術

2006-09-28 12:44:06 | 医療・衛生
 フランス人の医師らで構成されたチームが、無重力状態での人の外科手術に世界で初めて挑みました。

 目的は宇宙空間での手術がどんなものかという検証実験。そして遠隔操作ロボットによる地球や遠方からの手術という将来的なプログラムの一環として。航空機に乗込んだ五人の医師と患者らは、上空からの急降下で作られた無重力状態の中で腕部の嚢胞の摘出手術を行いました。急降下は合計で22回行われ、そのインターバル(約22秒)の無重力状態の時だけ施術が行われたようです。

 手術は無事成功し、チーフの外科医Dominique Martin は「宇宙空間での手術において、それほど難しい障壁はないだろう」と話しています。ちなみに今回被験者となった患者は熱心なバンジージャンパーで、一応“その道”の専門家だったようです。

参考:
Zero-gravity surgery 'was success'(CNN.com)

標的レセプターの阻害剤で炭疽症に対抗する

2006-08-30 22:46:15 | 医療・衛生
 炭疽症は皮膚、消化器系、肺などから感染する致死性の感染症で、細菌学の父ロベルト・コッホによってグラム陰性棍菌の炭疽菌(Bacillus anthracis)によって引き起こされることが証明されました。この B. anthracis は生物兵器として研究されてきた歴史があり、国際法上生物兵器の使用が禁止された現在でもテロに使用される懸念があります。2001年のアメリカ同時多発テロの直後に何者かによってこの細菌の粉末(芽胞)が郵便で多数の人間に送付され、5人の死者を出した事件は記憶に新しいところです。

 現在有効な治療法は抗生物質によるものですが、この方法では細菌が何らかの方法で抵抗性を獲得したり、また“悪意ある者”が遺伝子組み換え技術により人為的に抵抗性を付与するような可能性が考えられます。また吸入による感染では抗生物質による治療・予防だけでは依然75%の致死率があるそうです。

 アメリカのRensselaer Polytechnic InstituteのRavi Kaneらは細菌自体やその毒素を攻撃する代わりに、炭疽菌毒素の標的となる部位(ANTXR1,2)に結合する阻害剤となるペプチドをスクリーニングしました。得られた阻害剤を抗生物質に加えてマウスに与えたところ、与えた動物全てで B. anthracis の感染が防がれました。
 この毒素の標的部位に結合するタイプの治療薬は細菌側が抵抗性を獲得する可能性が低く(細菌が抵抗性を獲得するためにはターゲットそのものを変えなければならないため)、同じアプローチによってSARSやインフルエンザ、AIDSなどの感染症に対する有効な治療薬が見つかるのではないと期待されます。

参考:
Scientists find 'anthrax blocker'(BBC)

DDTの価値

2006-08-03 21:14:51 | 医療・衛生
 DDT(Dichloro-diphenyl-trichloroethane)はスイス人科学者のミュラー(後にノーベル賞)によってその殺虫活性が発見され、安価に合成出来ることなどから当時非常に爆発的に普及した農薬です。しかしながら、その難分解性や生物濃縮性などの問題から人間や生態系に対する有害性が疑われ、現在各国でDDTの使用が禁止されています。
 公害問題の一般論を学ぶさいによく引き合いに出されるDDTですが、少なくともマラリアの防除という面おいてはいまだ有効な資材であるようです。マラリアはハマダラカ属の蚊によって媒介される感染症で、全世界で毎年およそ200万人の死者を出していると推定されています。また死者数のうち90%がアフリカ地域の貧困層に集中しており、特に5歳以下の児童において最も死亡率が高く、生存した後も重い後遺症を残します。マラリアに対する有効なワクチンは今のところ開発されておらず、最も有効な予防手段はこの病気の媒介者である蚊を防除することです。DDTは過去にもマラリア媒介蚊の駆除として用いられていましたが、次第にその様な感染症予防から農業害虫駆除のほうに使用目的が移行していくにつれ、環境に対するリスクや人体に対する影響への不安が大きくなり、多くの国でその使用が禁止されるようになりました。
 農業における害虫防除資材として使用する場合、確かに環境に対する懸念や直接人間の口に入るため健康への懸念がありますが、ハマダラカの防除・忌避のために壁に塗布するなどの限定された使用であれば、非常に有効な資材だとマラリアの専門家の多くはその使用を支持しています。DDTの使用中止以降、様々な人体に優しく有効な殺虫剤が開発されてきましたが、コストや残効性などの面でDDTほど理想的な殺虫剤はないようです。とくにマラリアの被害と貧困は密接な関係があるため、低コストというのは非常に重要な要素になります。世界保健機構(WHO)も近年感染地帯でのこの殺虫剤を推奨するスタンスを取っています。
 DDT自体には発がん性や胎児に対する毒性などが疑われていますが、実際のところよく分かっていません。その辺のリスクをもっとはっきりさせるべきだという意見もありますが、なんにせよその使用によってマラリアで死亡せずにすむ人の数と、その使用によって健康被害を被るリスクは比較され、その上で科学的に合理的な決定がなされるべきです。

参考:
DDT to Return as Weapon Against Malaria, Experts Say (National Geographic)
Malaria (Wikipedia)

ダウン症の原因遺伝子?

2006-06-05 21:31:51 | 医療・衛生
 ダウン症の原因遺伝子と思われる二つに遺伝子が同定されました。

 ダウン症は、主にヒト21番染色体のトリソミー化(通常は二本のはずが三本と一本多い状態)が原因で生じますが、いったい21番染色体中のどの遺伝子のコピー数の異常増幅(1.5倍)がそのような症状を引き起こすのかに関しては不明でした。今回同定されたDRYK1ADSCR1 という遺伝子は協力的にNFATc (nuclear factor of activated T cells) と呼ばれる調節因子の働きを阻害し、ともにヒト21番染色体のDown's Syndrome Critical Reagion (DSCR) と呼ばれる領域に存在しています。マウスにおいてこれらの遺伝子の過剰発現やNFATcの機能損失は、ダウン症を思わせる頭蓋骨の形体異常や行動を示しているそうです。

 参考: Down's syndrome: Critical genes in a critical region (Nature)

HIVの起源

2006-05-28 00:25:26 | 医療・衛生
 日本のメディアにも取り上げられていますが、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の自然宿主がカメルーンに生息するチンパンジーの亜種(Pan troglodytes troglodyte)であることが明らかになりました。

  アラバマ大学のBeatrice Hahnのチームは、このチンパンジー集団の糞からヒトで最も流行しているHIV1の祖先と考えられるサル免疫不全ウィルス(SIV)遺伝子の痕跡と、それに対する抗体を発見し、おそらくこの集団の30から35%の個体が保因者となっていると推定しました。このSIVの塩基配列はHIVに非常に近いことからおそらく、この土地でチンパンジー→ヒトの感染が直接起こったと考えられます。

  HIV陽性の血液は1952年にキンシャサ(コンゴ共和国)で最初に採取されたため、従来まではこの地域が集中的調べられていたようです。しかし今回本当の起源地域が特定されたことで、おそらくカメルーンで感染した人間がキンシャサまでウィルスを運び、当時都会的な環境であったその場所で感染が一気に拡大したというストーリーが浮かび上がります。

  ちなみにSIVに感染しているチンパンジーには人間のAIDSのような症状は見られないようです。HIVもあと数百年か数千年ぐらいすれば人間との共生関係が確立し、その病原性を失っていくのかも知れません。もちろんその前に有効な治療法が確立している筈ですが。

参考:
HIV-like virus found in wild chimps (News@Nature)


二種の家禽ウィルスに対する二価ワクチンの開発

2006-05-23 23:26:32 | 医療・衛生
 近年、感染力の非常に高いH5N1型の鳥インフルエンザウィルス(AIV)が世界中の家禽類の間で蔓延しつつあります。このウィルスはヒトへの感染例はまだ少ないながらも、感染した場合、非常に高い死亡率を示しています。ひとたびヒトからヒトへの感染力が突然変異などで発達すれば、世界中で多数の死者が出ることが予想されます。

 こうしたパンデミックを未然に防ぐために最も有効とされているのが、感染が確認された地域一帯の家禽類を速やかに処分することです。すでに一億5千万匹以上の鶏が世界で殺されました。経済的なことを考えればワクチンによる感染予防が望ましいのですが、今までのところ有効で実用的なものは開発されていないようです。

 ドイツのFriedrich-Loeffler-InstitutのAngela Römer-Oberdörferらは、現在有効なワクチンがすでに普及している同じく家禽類の病原性ウィルスであるニューキャッスル病ウィルス(NDV)の弱体化した株に、AIVから単離したヘマグルチニン(H5)の遺伝子を導入し、遺伝子組み換えNDV(rNDV)を作りました。こうして作られたワクチンを与えられた鶏では、AIV、NDVともに非常に強い抵抗力を示しました。
 また、Mount Sinai Medical SchoolのPeter Paleseのチームは違うサブタイプのヘマグルチニン(H7)を用いて、同様の結果を得たそうです。

 NDVそのものは飲み水など通して容易に感染するウィルスであることから、実用化すれば非常に便利で、また安価な二価ワクチンになると期待されます。

 しかし一方で、一度NDVに免疫を獲得しまった鶏ではこの方法が使えなくなるため、最初のワクチン接種以降この方法が使えず、さまざまなサブタイプの鳥インフルエンザウィルスに免疫を持たせるという訳にはいかないようです。

参考:
Two Bird Vaccines with One Stone(ScienceNOW)
Combo Vaccines Show Promise against Bird Flu(Scientific American)

乳製品で双子出産率増?

2006-05-22 21:43:05 | 医療・衛生
 双子を授かるのは、一般的にはおめでたいイメージでしょうか。それは人それぞれ、また出産の苦しみを負わない男性側の身勝手さを象徴するのかもしれませんが、母親にも胎児にも負担がかかるということで通常の妊娠よりもリスクが高いといわれます。

 近年アメリカでは多胎妊娠率が急激に増加している傾向が見られ、1980年から75%も増えているようです(日本にも同様の傾向が見られるみたいです)。不妊治療の普及によるところも大きいようですが、それだけではこの伸び幅の全てを説明できないと多くの研究者らは考えてきました。

 Long Island Jewish Medical CenterのGary Steinmanはベーガン(動物性の食品を全く食べない菜食主義者)の女性が、通常の食事をする女性や乳製品を食べる菜食主義者の女性に比べ、双子の出産確率が5分の一も低いという統計結果を示しました。このような食生活と多胎妊娠の関係を示した例は珍しいそうです。

 Steinmanはおそらくある種の乳製品の摂取がIGF(インシュリン様成長因子)の生産を促し、排卵を促進しているのではないかと考えています。また、近年乳牛に使用される合成ホルモン剤(日本では使用されていない)も、何らかの影響を与えているのではないかということです。実際、牛乳の消費が多い国では双子の出生率が多いという傾向も彼の仮説を一応支持しています。

 ただし、この結果を見てすぐに食生活を変えようという女性がいれば、それはいささか時期尚早だと専門家は指摘しています。

参考:
A diet of milk could bring twins(News@Nature)

働くママは健康

2006-05-15 21:19:34 | 医療・衛生
UCLの疫学研究者Anne McMunnが1946年生まれのイギリス女性1,400人を抽出してその健康状態を調査した結果によると、「働く子持ちの女性」、「専業主婦」、「独身の子持ち女性」、「子供無し」、「複数の結婚暦のある子持ち女性」、「断続的に仕事に従事した女性」の中で最も健康状態が良好だったのが「働く子持ちの女性」であることが分かりました。また一番健康状態がよろしくないないのが意外にも「専業主婦」のグループでした。その他、健康状態が悪いとされたグループは順に「独身の子持ち女性」「子供無し」だったそうです。

今回の調査では何故働くお母さんが一番健康なのかということの理由までは分かりませんが、全グループのうち最も肥満率が低かったようです。

何故同じ働く女性でも子供無しでは健康状態が良くないのでしょうか、という疑問がわきます。そういえば、哺乳類では妊娠経験のあるメスでは脳に変化が起きてストレスに強くなり認知能力も妊娠前と比べて向上する、という話を某科学系雑誌の特集で読んだことがあります。ひょっとしてそのようなことも関係してくるのなら、非常に面白い話だと思いました。

参考:
Working Moms Healthier than Full-Time Homemakers (Scientific American)
子育てで賢くなる母の脳 (日系サイエンス2006年4月号)

マウスの癌抵抗性は移植可能!?

2006-05-10 20:52:39 | 医療・衛生
1999年、Wake Forest大学のZheng Cuiは悪性腫瘍を様々な系統のマウスに注射し、癌の成長を観察していく過程で、ある日、全く癌が進行していない一匹の雄のマウスを見つけました。彼は当初アシスタントの手違いだと思い、もう一度注射をやり直すように指示しました。ところがそのマウスでは何度腫瘍を注射しても一向に癌の進行が見られなかったのです。そしてなんと、その雄マウスと通常の雌マウスを交配させたところ、できた子供さらに孫でも腫瘍注入において癌が進行しないことも分かりました。つまりこれらのマウスには遺伝的に癌に対して抵抗力があることが分かったのです。

抵抗力の正体は彼らの免疫システムにあります。何故かこの系統のマウスの白血球細胞は癌細胞を認識して攻撃することが出来るようです。

Zhengらのグループは今回、この癌抵抗性系統のマウスの脾臓と骨髄から抽出した白血球を腫瘍を患っている通常のマウスに与えてみました。驚くべきことに、抵抗性マウスの白血球を注射された後の通常マウスの癌においても、著しい縮小が見られたのです。しかもこの効力は非常に長く持続するようで、実験から10ヶ月たった今でもこのマウスは健康的に生存しているということです。

今後この抵抗性の遺伝的な起源を明らかにすることが必要となってくるわけですが、このような癌に対する抵抗性はマウスだけでなく、おそらく人類の中にも存在すると思われます。もしそうだとしたら、例えばそのような遺伝的要素を持っているヒトの白血球を取り出して、癌治療薬として直接使用することも可能となるのでしょうか?

参考:
Cancer Resistance Found to Be Transferable in Mice(Scientific American)
Immune Systems of New Mutant Mice Fight Off Cancer(Scientific American)
The Mouse That Roared