
狙いは「戦争終結」でも「鉱物資源」でもない…トランプ大統領がウクライナを見捨て、プーチンを選んだ本当の理由"ロシアの兄貴分"を倒すためならNATOも要らない
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狙いは「戦争終結」でも「鉱物資源」でもない…トランプ大統領がウクライナを見捨て、プーチンを選んだ本当の理由
"ロシアの兄貴分"を倒すためならNATOも要らない
PRESIDENT Online
岩田 太郎
岩田 太郎
在米ジャーナリスト
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何が「本当の狙い」なのか
2024年11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選して以降、一部の米識者の間で唱えられるようになった説に、「トランプによる中国からのロシア引き剥がし」がある。
国力が衰退しつつある米国は、第二次世界大戦のように欧州と太平洋の二正面で同時に戦うことはできない。ましてや、中東が問題になる三正面などなおさら無理だ。そのため、中東和平を片付け、さらに欧州でロシアと仲良くしておき、真の超大国化しつつある中国への対応力を高めることは、理にかなっている。
ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月から3年が経った。トランプ米大統領が和平仲介に乗り出したが、ウクライナを「戦争を始めた当事者」と責めるなど、暴論も目立つ。一体何を考えているのか。ジャーナリストの岩田太郎さんは「そもそもトランプ氏の狙いは、ウクライナの平和でも、鉱山資源でもない。一見支離滅裂な言動も、本当の狙いがわかれば筋が通る」という――。
「親ロシア的」な発言の数々
ロシアが2022年2月に開始したウクライナ侵攻が、4年目に突入した。
軍事・経済面で疲弊した両国の継戦能力が限界に達しつつある中、「ディール好き」で知られる米国のトランプ大統領が和平の仲介に乗り出した。「これ以上、多くの人が死ぬのを見たくない」からだという。
だが、同情心から休戦を提案したはずのトランプ氏は、交渉が始まるやいなや、侵略された被害者であるはずのウクライナこそが、ロシアとの戦争を始めた当事者だと暴言を吐いた。また、米メディアによると、トランプ政権は、主要7カ国(G7)の首脳声明で、これまで使われてきた「ロシアの侵略」という表現を使うことに反対している。
それだけではない。ウクライナの豊富な希土類(レアアース)資源の半分を、これまでの米国からの無償軍事支援への代償として、「後出しじゃんけん」で要求するなど、植民地主義的かつ法外な条件を連発している。
トランプ大統領は、わざとウクライナが受諾できない条件を突きつけ、ロシアのプーチン大統領を一方的に利そうとしているのだろうか。
ロシアとアメリカの国旗写真=iStock.com/mashabuba※写真はイメージです
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非現実的な和平案
和平交渉では、仲介役の米国が当事者のウクライナの頭越しに話を進め、ウクライナに無理難題を押し付けているように見える。
米国の軍事支援の見返りに、ウクライナ鉱物資源の輸出収入を米国が完全管理下に置く基金に配分する案は、その最たるものだ。これは、トランプ大統領が主張する、「これまでに米国がウクライナに支援した5000億ドル(約75兆円)の米国民の負担」に対する返済のためとされる。
ところが、この金額は「ふっかけ」もいいところである。
なぜなら、つい最近までトランプ氏本人が、米国の支援合計額を3500億ドル(約52兆円)としていたからだ。なぜ急に1500億ドル分も増えたのだろうか。
しかも、その本来の数字さえも怪しいものだ。米政府が運営する海外向け国営ラジオ放送のボイス・オブ・アメリカによれば、米議会が計上したこれまでの支援額の合計は1830億ドル(約27兆円)にとどまる。ちなみに、ウクライナは、実際に受け取った額は900億ドル(約13兆4300億円)だと主張している。
さらに笑えるのは、5000億ドルの要求額を返済しようとしても、ウクライナの2024年の鉱物輸出額は11億ドルに過ぎず、その全額を基金に分配したとしても、完済には利息抜きの元本だけで455年ほどかかる計算になる。
同国の未開発レアアース鉱床の多くは採算性さえ見通しが立っておらず、どう考えても、経験豊富なデベロッパー出身のトランプ氏が本気で追求しようとする現実的なディールには見えない。
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何が「本当の狙い」なのか
2024年11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選して以降、一部の米識者の間で唱えられるようになった説に、「トランプによる中国からのロシア引き剥がし」がある。
国力が衰退しつつある米国は、第二次世界大戦のように欧州と太平洋の二正面で同時に戦うことはできない。ましてや、中東が問題になる三正面などなおさら無理だ。そのため、中東和平を片付け、さらに欧州でロシアと仲良くしておき、真の超大国化しつつある中国への対応力を高めることは、理にかなっている。
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甘い蜜を吸うロシア、対して中国は…
一方、中国に対しては第1次トランプ政権末期の2020年7月に、当時のポンペオ国務長官が「ニクソン大統領が始めた半世紀の対中関与政策を見直す」と宣言した、やりかけの仕事が再開されるのではないか。
国際政治の基準が、トランプ大統領により「リベラルな価値観に基づく道徳や理想」から「マキャベリ的な実利と現実」へシフトするわけだ。
ロシアがウクライナでの戦争を終えれば、米国のフォーカスは欧州から西太平洋に向かう。中国共産党は、米国という大きな脅威に直面することになる。
トランプ大統領は2月27日にウクライナ和平について問われ、「プーチン大統領は約束を守るだろう」と答えている。トランプ大統領とプーチン大統領の「友情」で米国とロシアの接近が進むことで、現在の中国とロシアの蜜月にくさびが打ち込まれる。
トランプ大統領が和平交渉で、戦争犯罪容疑者のプーチン大統領をここまで持ち上げ、被害者のウクライナに理不尽な要求を突きつけるのも、中国とロシアの離間による国際秩序の再構築が究極の目的であるとすれば、辻褄が合うのではないか。
NATOの存在意義も消滅か
米国がロシアと組んで中国に対抗するためには、従来の自由民主主義体制の枠組みでタブーであった「西側諸国の安全保障体制へのロシアの組み込み」という力技が必要だ。そのプロセスにおいてリベラルな道徳や理想は、邪魔でしかない。
ニクソン氏以降の歴代米大統領は、中国共産党が腐敗した独裁で、自国民を抑圧し、近隣諸国への安全保障上の潜在的脅威であることを承知の上で、戦略的に手を組んだ。ならば、今度は中国を抑えるために悪のロシアと手打ちすることに問題があるだろうか。
プーチン氏はトランプ氏に対して、「紛争の根本的な原因を取り除く必要がある」と訴えている。そのため現在、停戦条件としてウクライナのNATO非加盟の確約を求めている。しかし、米ロによる不戦の和解が成立すれば、「紛争の主因」であるNATOはロシアにとって怖れる対象ではなくなる。なぜなら、米国の軍事的後ろ盾抜きでは、NATO加盟国がロシアと戦って勝つことは事実上、不可能であるからだ。
ロシアが主張するウクライナ侵攻の主な理由のひとつはNATOのウクライナへの拡張であったが、そのNATOがもはや敵対的でないとプーチン大統領が認識すれば、ロシアはウクライナのNATO加盟への反対を取り下げ、ウクライナが強く要求する「ロシアに対する実効性のある安全保障」も満たされる可能性がある。
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「5月9日」に何が起きるか
また、たとえウクライナが米国への5000億ドルの支払いに合意しても、単純計算で返済に455年かかる。現実案というよりは、「トランプ大統領が達成した和平が米国にとり利益をもたらす」と米国内で喧伝するための小道具に過ぎないだろう。
事実、2月27日には、トランプ大統領が2014年に当時のオバマ大統領が発出した、クリミア半島などロシアによるウクライナ領土奪取を「米国の国家非常事態」と宣言する大統領令を更新した。ロシアとの和平交渉で有利に立つためだ。
大事なのは水面下の、より大きな潮流だ。ウクライナの米国に対する返済額をめぐる激論は、米国内で未だ抵抗が根強い「米国とロシアの同盟国化」という核心から目を逸らす役割を果たしている。
だが、最終的には、トランプ大統領が5月9日にモスクワで挙行される対ナチスドイツ戦勝記念日の式典に出席してプーチン大統領と会談し、歴史的な対ロシア和解を宣言する可能性があるのではないだろうか。
それが実現すれば戦後国際秩序に幕が引かれ、リベラルな価値観にとらわれず「米国と中国の二極に集約される国際秩序」が姿を見せるかもしれない。