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トランプの「国力低下」政策が止まらない!...世界トップクラスの大学を「潰したがる」理由
3/25(火) 17:50配信
彼らの教育に対する戦争と言論に対する戦争は、
根本的につながっているのだ。
ニューズウィーク日本版
「敵対勢力を喜ばせるため」としか思えない政策ばかり。コロンビア大学を皮切りに「教育に対する戦争」を始めたトランプ政権の「真の目的」とは?
ハリルの釈放を求める人々。コロンビア大学はトランプ政権の「見せしめ」に(3月18日、ニューヨーク) MOSTAFA BASSIMーANADOLU/GETTY IMAGES
アメリカの国力を低下させるため、敵対勢力がホワイトハウスに通ずるパイプを確保し、米政府の政策に影響を及ぼそうとする。いや、もっと直接的に、大統領の頭の中にアメリカを凋落させるアイデアを吹き込もうとする......。
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もしそうなったら、敵対勢力はどんなアイデアを吹き込むだろう。
アメリカの国力を支える要因は多くあるため、敵対勢力はどこから手を付けたらいいか迷うはずだ。
まずは移民・難民など多様な人々を受け入れるアメリカ社会の懐の深さ。長い目で見れば、それが米経済の繁栄をもたらしている。これを打ち壊すには、排外主義や偏見をあおる政策が有効だろう。多様性・公平性・包摂性(DEI)の取り組みを撤廃するのもその1つだ。
領土拡大を目指す権威主義国家の侵略に苦しんでいる国(しかも、アメリカと長年同盟を組んできた欧州諸国の隣に位置する国だ)への支援を突然打ち切ることも、国際社会におけるアメリカの評判を落とすのに役立ちそうだ。
「戦争を始めたのはロシアではなく、ウクライナだ」と発言することもそう。
さらには人権理事会やWHO(世界保健機関)などの国連機関から離脱すること。トランプ米政権のこの決定も、人間の尊厳と自由を守る闘いや人類を脅かす感染症との闘いで「アメリカは指導力を発揮しない」という宣言になる。
米国際開発庁(USAID)の閉鎖も敵対勢力を喜ばせる決定だ。技術支援や資金供与で貧しい国々の経済開発を助けてきたUSAIDは、アメリカのソフトパワーの増強にも役立ってきたからだ。
太陽光・風力など再生可能エネルギー源の開発を阻害し、化石燃料生産を加速させる政策もアメリカの凋落を招く。それにより国内に深刻な環境破壊が広がるばかりか、未来の経済的繁栄と競争力強化に欠かせない再生可能エネルギー部門でアメリカは他国の後塵を拝すことになるためだ。
敵対勢力がトランプに吹き込むアイデアはまだまだある。
米国立衛生研究所(NIH)など、医学研究におけるアメリカのリードを支えてきた主要機関を弱体化させるのもその1つ。
アメリカの研究チームはNIHの助成を受けて、驚異的な速さでmRNAワクチンの開発に成功し、新型コロナ封じ込めで世界を牽引したが、アメリカは今後こうした偉業も達成できなくなる。
アメリカを凋落させるアイデアは数々あり、大統領の頭にそれらを吹き込もうとする敵対勢力は途中で疲れてしまいそうだ。
けれども心配無用。ドナルド・トランプ米大統領は彼らにたき付けられずとも、そうしたアイデアを着々と実行に移している。しかも今の米政権にはそれを制止しようとする動きは皆無だ。
高等教育を「敵」と見なす
トランプ政権の「国力低下政策」を挙げればキリがないが、ここではその中でも最も狡猾で陰湿とみられるアイデアに注目したい。それはアメリカが誇る世界トップクラスの大学を破壊しようする試みだ。
トランプ政権は複数の前線で既にこれを実行しているが、大半のアメリカ人はその動きを警戒するどころか、気付いてもいないようだ。
大学への攻撃の予兆は、保守派の敵対的な発言に表れていた。J・D・バンス米副大統領は自身もエリート教育の産物でありながら、大統領選前からアメリカの高等教育を「敵」と見なしていた。
トランプ政権はそうした主張に沿って、大学を拠点とする研究への連邦政府の支援金を削減し、留学生のビザ取得を厳格化して、アメリカのキャンパスを多様性に対する戦争の最前線にしている。
最も有害な影響を及ぼしかねないのは、反ユダヤ主義の取り締まりを道具に使い、政府の政治的介入を学部や教室にまで広げていることだ。
政治が大学を乗っ取る
私はトランプ政権の最大の標的となったコロンビア大学で20年近く教授を務めている。
パレスチナ自治区ガザへのイスラエルの攻撃的な戦術に対するキャンパス内の抗議活動は、大学への攻撃の大きな口実にされてきた。トランプ政権はイスラエル批判を、法的に処罰の対象となる反ユダヤ主義と事実上同一視している。
実際にキャンパスで抗議活動を見てきた私は、圧倒的に平和的なものだったと感じている。もちろん、一部のプラカードや挑発的な掛け声に、ユダヤ人学生が不快な思いをさせられた可能性を否定するつもりはない。
しかしそれを理由に、アメリカの最も重要な自由の1つであり、優れた高等教育というアメリカ文化の本質である言論の自由を制限することを、正当化してはならない。
コロンビア大学の大学院を卒業してアメリカの合法的な永住権を持つマフムード・ハリル(Mahmoud Khalil)が、昨年の抗議活動を理由に逮捕され国外追放されようとしている。ここにトランプ政権の真意が明らかになった。
彼らの教育に対する戦争と言論に対する戦争は、根本的につながっているのだ。
トランプ政権はコロンビア大学に対し、荒唐無稽な要求に応じなければ4億ドル相当の助成金と契約を打ち切ると通告した。要求の1つは中東・南アジア・アフリカ研究学科を「管財管理下」に置くことで、学科の運営権を大学側から奪うことを意味する。
「私たちは今、米政府の権威主義的な乗っ取りの渦中にいる」と、コロンビア大学のリー・ボリンジャー(Lee Bollinger)元学長は語っている。
「私たちの問題の1つは想像力の欠如だ。事態が最も恐ろしい展開をたどるとどうなるのか、私たちは思い描けずにいる。三権分立を無力化し、メディアを無力化し、大学を無力化して、本当の目的へと進んでいくのだ」
アメリカの大学は、この国の民主主義制度の輝かしい栄光だ。この国の自己認識は、法律、科学、人文科学の価値観は、大学のキャンパスと、言論の自由を含む学問の自由を重んじる偉大な伝統から生まれている。アメリカの経済的、技術的、軍事的な優位性もそこから生まれている。
アメリカの大学がアメリカのリーダーシップを強化してきたのは、世界中の野心的な人々を引き付ける力があるからだ。彼らの多くはアメリカの理想を信じ、国籍を取得して市民となったり、あるいは民主主義の価値観を世界に広めたりしてきた。
彼らを引き付ける力は、富や成功への個人的な欲望を超えて、自由の上に築かれている。この究極の価値こそがアメリカの象徴であり、破壊されれば二度と取り戻すことはできないかもしれない。
From Foreign Policy Magazine
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授)