AFP=時事】米首都ワシントンでバーテンダーとして働くダンジェール・ウィリアムス(Danjale Williams)さん(22)は、多くの米国人同様、新型コロナウイルスによる感染症の拡大に不安を感じている。
❸・12・2020
【図解】新型コロナウイルスの姿
しかし、ウィリアムスさんが感染よりも恐れているのは、感染した場合に発生する払えるとは思えないほど高額の医療費だ。
米国では2750万人近くが医療保険に加入していない。「医療費がものすごいので、病院へ行くのに二の足を踏むと思う」と言うウィリアムスさんもそうした一人だ。「病気になっても、健康を保つのに十分な貯金がない」
先月29日に同国初の死者が報告された米西部でも、新型コロナウイルスの拡大が始まっている。公衆衛生の専門家らは、米国には他の富裕国にない脆弱(ぜいじゃく)性がいくつかあると警告する。
このような脆弱性には、保険未加入者の数が膨れ上がっていること、当局との接触を恐れる1100万人前後の不法移民が存在すること、病気になっても失職を恐れて休まない「パワースルー(困難な状況でもなんとかやり切る)」文化があることが含まれる。
「これらすべてがウイルスのまん延を助長する」と、カリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)の疫学者ブランドン・ブラウン(Brandon Brown)氏は警告する。
■保険未加入者
無保険状態の米国人の数は2010年の4670万人がピークで、バラク・オバマ(Barack Obama)前政権時代の医療保険制度改革法(Affordable Care Act、通称オバマケア、Obamacare)以降減り始めていた。だが2年前から再び増加しており、現在の保険未加入者は2750万人と、全人口の約8.5%に上っている。
「(新型コロナウイルスの)感染拡大が続けば、われわれがすでに取り組んでいるのに解決できていない医療格差問題の一部が浮き彫りになる」と、ジョンズ・ホプキンス病院(Johns Hopkins Hospital)生物学的封じ込めチームのブライアン・ガリバルディ(Brian Garibaldi)医長は語る。
保険未加入者が病気になった場合、頼るものが全くないわけではない。米国法では支払い能力にかかわらず、緊急治療は受けられると定められている。だが、無料になるわけではなく、保険未加入の場合は後に多額の医療費が請求される可能性がある。 ■失業を恐れ「体調不良でも出社」
米疾病対策センター(CDC)は新型コロナウイルスに関する主な勧告の一つとして、症状が軽い場合は家にとどまることを呼び掛けている。「しかし仕事や立場、地位によって、そうできない人も多い」とブラウン氏は指摘する。
米国は先進国で唯一、有給の病気休暇を国として義務付けていない。米シンクタンク、経済政策研究所(Economic Policy Institute)によると、民間企業では年平均8日の有給休暇が付与されているが、最低賃金労働者で有給休暇を取得できているのはわずか30%だという。そうした労働者の多くにとっては、1日欠勤するだけでも経済的に大きな損失となり得る。
会計事務所ロバート・ハーフ(Robert Half)が昨年10月、全米の2800人を対象に行った調査によると、病気でも時々仕事に行くと答えた人が57%、病気でも必ず仕事に行くと答えた人が33%に上った。
■懸念されるワクチン代
新型コロナウイルスによる世界の死者は4500人を超え、ワクチン開発と治療法の確立が急がれている。現時点の予想では、ワクチン候補の開発に12~18か月はかかるとみられている。
議会では「価格は手頃なのか」という問いが、アレックス・アザー(Alex Azar)厚生長官に突きつけられた。アザー厚生長官は「われわれとしては手頃な価格になるよう努力していると請け合いたい。だが、民間部門には投資が必要であり、われわれは価格をコントロールすることはできない」と答えた。
この発言について、医薬品業界サイト「ファーマロット(Pharmalot)」のコラムニスト、エド・シルバーマン(Ed Silverman)氏は「言語道断だ」と批判している。
同氏は「利益をあげるなとは言わない」と指摘する。だが、「コロナウイルスに感染したかもしれない米国人を支払いができないからと、死なせてしまっていいのだろうか」。【