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不登校で通知表「オール1」〝負け犬のレッテル〟に心かき乱される生徒

2025年01月16日 20時03分25秒 | 教育のこと


不登校で通知表「オール1」〝負け犬のレッテル〟に心かき乱される生徒

1/24(火) 18:03配信2023

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小中学校で不登校だった田中さくらさん(仮名)

 横浜市の編集者、田中さくらさん(29)=仮名=はかつて不登校だった。きっかけは小学6年でのいじめだ。中学でも復帰できず、通知表は「オール1」。授業に出ていないから当然なのかもしれないが「学校って、分かってくれないんだな」と当時は思っていた。 

 小中学校の不登校児童生徒の数は2021年度に24万4940人。10年前のほぼ2倍で、過去最多だ。通知表はこうした生徒にも発行されている。ただ、不登校の子どもは通知表を「学校に『負け犬』のレッテルを貼られた」と受け止め、心をかき乱されている。中学生にとっては入試の結果も左右し得るため、その後の人生への影響も無視できない。  

さくらさんは一度、学校を見限った。それでも前に進もうともがき続けた結果、自分を見守ってくれていた教師の存在に初めて気付くことになった。学校の中には、立ち直ろうとする生徒を後押ししようと、独創的な通知表で工夫し始めた例もある。(共同通信=小田智博)

見たことのない数字


田中さんの中学2年の通知表
 さくらさんは小学6年の夏休み明けから学校に行けなくなった。クラスの中心にいた女子のターゲットにされ、仲間はずれにされたり、悪口を言われたりするようになったためだ。

「中学校からは復帰しよう」と決心。「友達に再会したら、どんな風に話しかけたらいいだろう」と頭の中でシミュレーションを重ねた。

  迎えた中学入学の日、思いとは裏腹に体が反応しなかった。ベッドから起き上がることさえできず、「無理だ」と悟った。近所の同級生が制服姿で中学校に向かう様子が窓越しに見えて、涙がこぼれた。

「私はもう『普通』にはなれない」。その夜、学校には行けないと両親に伝えた。「両親が『分かった』と言ってくれたのが救いだった」 

 小学校時代は優等生で、5段階評価の通知表は「5」ばかり。算数と図工が「4」になるぐらいだった。それが中学1年になって暗転。2学期制の前期の通知表は、評定が全て「1」だ。見たことのない数字に「逆に面白いかも」とさえ思った。  

通知表には欠席の日数も記されている。

「登校していない現実をリアルな数字で突きつけられた」と感じた。でも、どうして通えなくなったのかという理由は一言も書かれていない。一方で表紙には、学校の目標として「人を思いやる心を大切にする」とも印字されている。あのいじめっ子は何事もなかったかのように同じ中学に通っているだろう。そして彼女は、きっと良い評定なのだろう。 

 「こうなったのは私のせいじゃないのに。学校って、分かってくれないんだな」

  欲しいと言ったわけでもないのに一方的に届けられる通知表。

「何の価値もない」と感じるようになった。その後は通知表が届いても見なくなった。不登校も続いていたが、徐々に心の健康を取り戻し、フリースクールには通い始めた。


おしゃべりでジャージ姿の教師
田中さんが受け取った中学2年の通知表の記述

 一方、2年時に担任になった教師は毎月1回、自家用車で自宅にやってきた。定年間近の男性。親と会話をして帰って行くが、さくらさんは自室にこもり、一度も会わなかった。  

3年になり、通信制高校に進学しようと決意したが、そのためには受験の前に一度、担任教師に会う必要がある。2年の時と同じ人だ。気は進まなかったが、カウンセラーと母、さくらさんの3人で会いに行った。 

 教師とはこの時が初対面。

「よく来たね」と穏やかな表情を浮かべていた。さくらさんは「学校には行きません」とぶっきらぼうに返した。「分かった。君はそれでいいんだよ」。教師はそれっきり、登校に関する話はしなかった。

  さくらさんは「自分の意思を尊重してくれる人だ」と感じたという。不登校を受け入れてくれた両親の姿とも重なり、こう思った。「この人は信用できるかも知れない」。それからは毎月、自宅にやって来た教師と少しずつ話をするようになった。 

 ジャージ姿の教師はおしゃべりで、車やバイクの改造が趣味だと言いながら、細かいこだわりを楽しそうに語った。

「変な人だなあと思っていました。先生っぽくなくて」。さくらさんは当時を振り返り、顔をほころばせる。

  その年の秋。自宅の玄関先で、教師は通知表を手にしていた。3年の前期の成績だ。

「ここには君を評価することが書いてある。制度上、必要だから書いたけれど、君の全ての評価ではない。一番悪い数字が並んでいるけれど、これは君の価値じゃない」。静かにそう言って、書類を差し出した。 

 「この先生の通知表だったら、読んでみてもいいかもしれない」。 中を開くと、やはり「オール1」だったが、気にならなかった。担任教師が文章で記す欄に目をやった。すると、本来であれば学校生活の様子を書く場所に、受験に臨むさくらさんを励ます言葉が連ねられていた。


1年後に気付いた、担任教師の思い

田中さん

 「先生は、2年の通知表にはどんなことを書いていたのだろう」 

 急に知りたくなったさくらさんは、両親に尋ねた。自宅に保管されていた2年の前期と後期の通知表を見ると、「1」ばかりだった一方で、こんなことが記されていた。  

「(フリースクールに)通い出したとの報告を受けました。とっても嬉しいです。君にとってはじめの一歩です。頑張ろうとしていることは必ず形となって表れてくると思います。いい結果を信じて、挑戦していってください。君の成長を楽しみにしています」(前期)  

「とうとう君に会えないまま1年が過ぎようとしています。残念です。でも、うれしいことがありました。君自身の考えで動き出したことです。

(フリースクールでの)活動です。君が動けば、必ずやワクワクすることに出会えるはずですよね。そんな出会いを大切に、いっぱい動いてくださいね。3年生での成長を楽しみにしています。応援していますよ」(後期) 

 一度も会ったことがなかった2年生のさくらさんに対し、エールを送ってくれていた。しかも学校に戻るよう促すこともなく、これから歩んでいく道だけに目が向けられている。「1年後に届いた手紙」を受け取ったような気持ちになった。  

「ほかの人と比較するような言葉は一つもなくて、私のことだけ。それがすごくありがたかった。学校からの通知表なんだけど、そうではないように思えた」 

 その後は通信制の高校に進学。卒業後は海外の短大を経て編集者になった。手元には今も、中学2年の通知表がある。一度も授業を受けたことはないけれど、自分の価値は「オール1」なんかじゃないと言い切ってくれたあの教師に、心から感謝している。


以下はリンクで、



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産んでよかったの」不登校の子を持つ親の自責

2025年01月15日 22時03分04秒 | 教育のこと

産んでよかったの」「欠席の電話連絡が苦しい」 不登校の子を持つ親の自責〈AERA〉

12/11(日) 8:00配信
189コメント189件

全国ネットのアンケートでは、子どもの不登校で約92%の家庭が「支出が増えた」と答えるなど、家計への負担が増えていることも明らかになった(photo gettyimages)


 不登校の子どもの数が24万人超と、過去最多になった。不登校の子を持つ親は、追い詰められてしまうことが多いという。AERA 2022年12月12日号から。 【写真の続きはこちら】


*  *  * 

 この子を産んでよかったの。

  関東地方に住む女性(40代)は長男が不登校になった時、自分を責めた。  昨年9月、当時中学1年だった長男は心身のバランスを崩し、不登校になった。女性は長男に学校に行ってほしくて、車で送迎し、どうにか登校させていた。

  だが、やがて長男は車から出られなくなり、そうしたことを繰り返すうち、家の玄関からも出られなくなった。女性は長男を無理に登校させない選択をしたが、長男は壁に頭をぶつけるなど自傷行為を始めた。

 「死にたい」「生まれてこなければよかった」「どうして俺を産んだんだよ!」  

毎日のように大声で叫び、女性に詰め寄った。2階のベランダから飛び降りようとしたこともあった。長男が苦しむ姿を見るうち、女性は自分を責めるようになった。 

■追い詰められていた  

親になってよかったのか、この子を産まなければこの子は苦しまずに済んだのでは……。自問自答を繰り返した

「当時の記憶がほとんどありません。それだけ、追い詰められていたのだと思います」 

 文部科学省の調査で、2021年度に30日以上登校せず「不登校」とされた小中学生は前年度から2割以上増え、24万4940人と過去最多となった。新型コロナによる行動制限などで、人間関係や生活環境が変化したことが影響したと見られている。 

 同時に、不登校の子を持つ親もまた、社会的に追い詰められ、孤独を感じている。

  NPO法人「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク(全国ネット)」が10月、不登校の子を現在または過去に持つ保護者を対象に不登校に関するアンケートをネットで実施し、574人から回答を得た。

 「不登校がきっかけで、保護者に変化があったか」の問いに、約65%が「自分を責めた」と回答。他にも、約54%が「子育てに自信がなくなった」、52%が「孤独感・孤立感を覚えた」、約45%が「落ち込んだ、消えてしまいたいと思った」など、不登校の子の親の心身の負担が大きいことがうかがえる。




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「学校に無理して行かなくてもいいよ」→親に不登校を放置された子どもの行く末は?

2025年01月14日 00時05分55秒 | 教育のこと

「学校に無理して行かなくてもいいよ」→親に不登校を放置された子どもの行く末は? 





写真はイメージです Photo:PIXTA
© ダイヤモンド・オンライン


小・中学校時代に不登校を経験した子どもたちの多くが高校に進学しており、学校にもっと行っていればよかったと思っていることを考えると、不登校になった時点で早々に学校復帰を諦めずに、まずは学校への復帰を全力で支援することが重要なのではないだろうか。


「嫌だったら無理して学校に行かなくてよい」と考える大人が増えている。しかし、不登校児の中には、実は登校を望んでいる子どもや、登校しなかったことを後悔している子どもも多いのだという。不登校状態を安易に放置することで、成人後の引きこもり問題にもつながるなど、かなり深刻な問題を引き起こすおそれもある。本稿は榎本博明『学校 行きたくない 不登校とどう向き合うか』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。


文部科学省の方向転換が


不登校を増加させた?


 このところ不登校に関しては、無理に学校に通わなくてもいいのではないか、という意見もみられるようになってきた。


 かつては不登校への対応としては、校門までの登校、放課後の登校、保健室などの別室登校など、工夫をしながら学校に戻れるように支援していくのが一般的だった。もちろん今でもそうした支援が主流ではあるが、何も無理をして学校に戻らせなくてもいいのでは、と考える人も出てきている。


 それには、学校が個人の個性に対応した教育ができていないなど、一斉教育に対する批判に代表されるように、学校に対する不信感が根底にあるように思われる。



 だが、きっかけとしては、2016年に文部科学省により「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が公布され、この法律に則って不登校の児童生徒の教育機会の確保を推進するために、2017年に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」が公表されたことがあげられる。


 その基本指針では、「不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮」する必要があるとし、また支援に際しては「登校という結果のみを目標」にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的にとらえて、社会的に自立することを目指す必要があるとしている。


 そして、不登校の児童生徒が教育を受けられるように、教育支援センターや特例校、夜間中学などの設置の促進を訴えている。


 不登校の子どもたちに多様な教育機会を保障するのは大事なことである。だが、このような文部科学省の方針転換が不登校を増加させているとの指摘もある。


 無理して学校に行かなくてもよいと考える親が増えていることは以前から指摘されてきたし、そうした文部科学省の方針転換がこのところの不登校の急増をもたらしているのかどうかはわからない。


 だが、無理して学校に行かなくてもよいのではないか、という保護者がさらに増えるきっかけになったといえそうである。


学校に行かなかったことを


後悔している不登校児たち


 不登校の児童生徒の人数が増加し続けているだけでなく、成人後のひきこもりも増えており、2019年の内閣府による調査では、15歳から39歳よりも、40歳から64歳の中高年のひきこもりの方が多いことがわかり、深刻な社会問題とみなされるようになった。その後もひきこもりは増えており、2022年に内閣府により実施された調査では、15歳から64歳のひきこもり人数は約146万人と推定されている。


 このように不登校から成人後のひきこもりへの移行が懸念されるため、安易に、学校に行かなくていいとも言い難い状況になってきている。



 小・中学校時代に不登校を経験した子どもたちの多くが高校に進学しており、学校にもっと行っていればよかったと思っていることを考えると、不登校になった時点で早々に学校復帰を諦めずに、まずは学校への復帰を全力で支援することが重要なのではないだろうか。


 たとえば、文部科学省が2021年に実施した、前年度に不登校であった小学6年生と中学2年生を対象とした「令和2年度不登校児童生徒の実態調査」によれば、学校を多く休んだことに対して、小学6年生では、「もっと登校すればよかったと思っている」という者が25.2%であるのに対して、「登校しなかったことは、自分にとってよかったと思う」という者が12.8%というように、不登校を後悔している者の比率が不登校を肯定している者の比率の2倍となっている。


 中学2年生にいたっては、「もっと登校すればよかったと思っている」という者が30.3%であるのに対して、「登校しなかったことは、自分にとってよかったと思う」という者が10.3%というように、不登校を後悔している者の比率が不登校を肯定している者の比率の3倍となっている。


 このような不登校経験者を対象とした調査データからも、不登校に陥った際には、まずは第一に学校への復帰に向けて支援すべきであろう。


「学校に行きたくない」生徒の


8割以上が高校には進学している


 また、文部科学省による「不登校に関する実態調査~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査」では、中学3年生在籍時に不登校であった生徒に対して5年後に追跡調査を行っている。





『学校 行きたくない 不登校とどう向き合うか』 (榎本博明、平凡社新書)
© ダイヤモンド・オンライン

 その結果をみると、不登校だった生徒の85.1%が高校に進学している。さらに大学・短大・高専に進学した者も22.8%となっている。こうしたデータをみると、たとえ中学生時に不登校であっても、その後ほとんどの者が高校に進学していることがわかる。


 学校に通うことを軽視する風潮があるが、このような不登校経験者の意識やその後の進路についてのデータをみると、学校に行かなくてもいいと安易に考えるのは早計であるといってよいだろう。







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「女子御三家」の一つ>桜蔭学園の隣にタワーマンションが

2024年12月23日 22時03分34秒 | 教育のこと
「女子御三家」の一つ>桜蔭学園の隣にタワーマンションが


のぞき見、盗撮…尽きない心配 女子御三家・桜蔭の隣にタワマン計画
10/6(木) 16:00 2022

私立の中高一貫校で「女子御三家」の一つ、桜蔭(おういん)学園(東京都文京区)の校舎の隣に、地上20階建てのタワーマンションの建設が計画されている。教室が日陰になってしまう心配に加え、のぞき見や盗撮の恐れがあるとして、学園は計画見直しを訴えている。 

【写真】登校する桜蔭学園の生徒たち。タワマンが建てば、この光景も変わる?  桜蔭学園は今年で創立98年を迎えた名門。現在、約1400人の生徒が通う。今年の東大合格者は77人(現役69人)を数え、中学受験の最難関校の一つとして知られる。 

 タワマンの建設予定地は校舎のすぐ脇で、通学路にある。計画によると、現在立っている1979年築のマンション(地上8階地下1階)を建て替え、地上20階地下1階、高さ69メートルの超高層マンション(197戸)をつくる。都の特例制度を利用して高さ制限の緩和を申請しており、2025年着工、28年7月の完成を目指すという。 

 学園の齊藤由紀子理事長(校長)は「計画書を見てがくぜんとしました。教育環境が悪化する危機的状況だ」と言う。教室に日が当たらなくなるという日照面の懸念に加え、生徒たちのプライバシーも問題に挙げる。タワマン側からののぞき見や盗撮を懸念する。 

学園は6月、在校生の家族や卒業生らの署名1万5千筆分を添え、計画の再考を求める請願を都議会に提出した。一方、建築主であるマンションの管理組合側は「建て替えは事実。法令に従い利害関係者に説明している」としている。(本間ほのみ、津田六平)
朝日新聞社


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国内初「恐竜学部」は何を学べるの? 入試倍率10倍、学部長「就職先は引く手あまた」

2024年12月20日 22時03分44秒 | 教育のこと







国内初「恐竜学部」は何を学べるの? 入試倍率10倍、学部長「就職先は引く手あまた」
11/10(日) 18:00配信




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高校生新聞オンライン
福井県立大学に2025年春、国内初の「恐竜学部」(定員30人)が新設される。学部名のインパクトとユニークさから注目が集まっており、総合型選抜の倍率は10倍を超える人気ぶりだ。学部長に就任予定の西弘嗣教授(現・同大恐竜学研究所長)に、いったい何を学べるのか、どんな力が身に付くのかなどをたっぷり話してもらった。(文・野村麻里子、写真・福井県立大学提供)


「恐竜王国・福井」で研究の発展目指す
福井県立恐竜博物館による発掘作業の様子


―恐竜学部の設置の経緯をお話しください。
進士五十八(しんじ・いそや)前学長と、日本の恐竜研究の第一人者である東洋一先生(恐竜学研究所前所長)の発案でした。


福井県は、恐竜化石の発掘量日本一を誇る恐竜王国。東先生は、1989年に県が始めた恐竜化石の発掘を先導されてきました。県立恐竜博物館(勝山市、2000年開館)も、東先生が故・栗田幸雄元県知事に掛け合い設置に向けて尽力されました。博物館は恐竜王国の要になっています。

―東先生が軸となり、恐竜研究を拡充されてきたのですね。
恐竜学研究所も福井県立大学の附属機関として2013年に設立されました。現在、研究所の教員による教育は、大学院でないと受けられません。そのため、地学や地質学、古生物学など恐竜研究を深めるための基礎知識が学部生時代に身に付けられない問題点がありました。


恐竜研究を発展させていくため、学部教育から知識を身につけ広い視野を持つ人材を育てないといけない。そんな思いで「恐竜学部」を発足させることにしたのです。私は、東先生が定年に伴い退職されたことで引き継いだ形になります。


人の生き方のヒントを探る
実際に野外に出て地層の観察も行う


―「恐竜学」の研究は、社会にどう貢献しますか?
地球の気候は温暖期のほうが長く、現在は寒冷化してやや温暖化し始めている状態です。今後さらに温暖化したときにいったいどういう環境に変わるかは、過去を研究しないとわかりません。


恐竜が生きていた白亜紀は、二酸化炭素の濃度が今と比べて5倍以上あったと言われています。二酸化炭素がどう吸収されていったのか、メカニズムも明らかになっていませ

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「恐竜だけ学ぶ学部」は勘違い
4年間のカリキュラム(福井県立大学ホームページより)


―「恐竜学部」と聞くと、恐竜のことだけをひたすら学ぶイメージがあります。
恐竜だけの研究をやっていると「恐竜の本当の姿」はなかなか見えてきません。過去の生物は、絶滅していますから生態観測ができないし、昔どうやって生きていたか、環境もわからない。恐竜の姿を復元して、進化を明らかにしようと思う時には、原生の環境や今存在する生物と比較するしかない。それができなければ、ドラえもんのタイムマシーンを発明して過去に行くしかない……。


―では、恐竜学部では何を学んでいくのでしょうか。
1年次は一般教育科目のほか、古生物学や地学、地層学などの基礎を学び、2年次以降に専門的な知識や技術を深めます。3年次に「恐竜・古生物コース」「地質・古環境コース」の二つのコースに分かれます。といっても、地質・古環境を選んでも恐竜研究ができます。環境や恐竜絶滅を含めた視野の研究をするコースです。いずれのコースでも4年次には卒論をまとめてもらいます。


恐竜博物館で研究成果をアウトリーチ
勝山キャンパスの恐竜学部棟のパース。世界的にも有名な建築家・隈研吾氏による設計だ(画像・福井県提供)


―恐竜学部のキャンパスは、県立恐竜博物館と同じ勝山市に建設していますね。
県立恐竜博物館と密接に連携しながら研究を進めます。地域貢献は公立大学の使命の一つです。恐竜学の研究成果を、地域・社会で活用します。そのために、学生が博物館の新しい展示物を作る予定です。博物館は、同じ展示だけを続けては、飽きられてしまいます。


研究しながら、「恐竜博物館でアウトリーチ(周知)」する。恐竜学部が博物館の新しいコンテンツを次々に提供していきたいんです。新しい恐竜の知見をどんどんみなさんにお見せして、地域貢献につなげていきます。

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CTやドローン、最先端技術のスキルを身につける
骨の化石をCTスキャン


―どんなスキルが身に付きますか?
我々は、生理学的な解析を用いた新しい恐竜学を構築しようとしています。


「CT(コンピューター断層撮影。X線を用いて断面を画像化する)スキャン」で恐竜の骨の構造を見て、歩く姿勢、生理状態を分析するといった実習の時間をたくさん設けています。恐竜の標本をCTスキャンにかけて画像を組み立て、パソコン上で骨を作ってみるなど、恐竜研究ではCTが欠かせません。デジタル科学を扱う力を養えます。


まず、野外に出て恐竜の骨が発掘された自然を観察し、どういう環境で暮らしていたかデータをとる。画像を撮って、処理して、コンテンツ化して……これからの社会で活躍するには、デジタル技術をある程度習得しているかは非常に大きいと言えます。


発掘や地質調査で「自然観測力」をつける
海外へも赴き発掘作業ができる機会も提供する


―自然観察の力も重視されていますね。
野外に出て発掘や地質調査などを行い、自然観測力を養うのは恐竜学部の大きな柱です。国内の恐竜の発掘現場のほか、3年次に参加希望者は海外の発掘現場へも行けます。


地球の気候変動、震災や大雨、洪水などの災害に注目が集まっています。日本は災害大国で、今後も多く災害が起こるでしょう。室内でパソコンを打っているだけでは対策が立てられません。現場に出て観察することが必要です。


例えば、水がここから出ているから地滑りが起こりそうなど、自然を観測して、対策を立てられる人材の需要は高く、人手も全然足りていません。建設会社や土木会社はもちろん、これからの時代、自然観察の力は全ての人間に必要になってくると思います。


自然科学はカオス。自然と相対して観測する時は、AIのようなデジタル技術だけでは無理で、アナログな人間の感性でも対応する必要があるのです。

建設・土木、デジタル解析…需要ある業界に強み
―就職先が気になります。
研究職につけるのはごく一握りだから、恐竜の研究をしても就職がないんじゃないかと思われるかもしれません。説明したように、恐竜学部では恐竜だけを研究する訳でなく、自然観察力やデジタル分析のスキル、アウトリーチする発信力を身につけます。だから、就職先がないんじゃないかという質問は適当ではない。建設・土木業界など、自然を相手にする職業は需要が高いのに人材不足です。むしろ引く手あまたです。


例えば、土木の現場のトンネル工事で壊れている部分を明らかにするためにドローンを使ったり、レーザースキャンで測量したり、集めたデータを解析したり。これらは全て恐竜学で学ぶ力とつながります。デジタル技術を身につけデータ分析も学ぶので、デジタル系の産業でも力が発揮できますよ。発信力もつくので営業もできる。多岐にわたる職業の道があります。


一生恐竜を愛でる生き方ができる
CTスキャンしたデータを用いて恐竜の骨のモデルをつくる


―恐竜学部に関心がある高校生にメッセージをお願いします。
アニメが好きな人も、怪獣が好きな人も、どんな職業に就いていても趣味として楽しめますよね。恐竜研究も一緒で、研究者にならなくったって一生関わって楽しめるんですよ。


YouTubeやSNSなどで恐竜が好きで発信している人、恐竜のイラストを描いている人を見かけます。好きだけど専門家ではない人がほとんどです。我々はそうした恐竜愛がある人の活動をサポートできる体制を大学に作りたい。恐竜学で学んだことを社会的に生かす職業につけるチャンスもある。学生が「一生恐竜の模型を作って暮らしたい」という思いがあれば、それを叶えることもできるかも。


「卒業したらはい終わり」ではなく、卒業生のネットワークを作り、博物館の展示のサポートや、興味があるなら発掘のボランティアもできるようにしたい。大学の先生とのつながりも維持できる。


「恐竜に興味がある人はみんな福井県に住んでください。恐竜博物館と恐竜学部でみんなで一緒に恐竜を楽しんで人生を生きていきましょう」。そういう形になるのが一番よいなと思っています。


―となると、恐竜愛が深い高校生しか求めていないですか?
もちろん、恐竜への情熱を持った人は全員受け入れたいくらいの思いです。ただ、恐竜に限らず、野外での研究や「昆虫が好き」「宇宙が好き」など自然科学に興味があって明らかにしたいことがある人は誰でもウェルカムですよ!


「鳥が何で飛ぶか分からない。恐竜と鳥との関係を探りたい」「隕石衝突と生物の影響について学びたい」。それもよいですね。いろんなバリエーションで学べるので、ぜひ自然科学に関心がある高校生に門をたたいてもらいたいです。

にし・ひろし
福井県立大学恐竜学研究所長。九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了(地質学専攻)、理学博士。専門は古生物学、地質学、古環境学。


恐竜学部(定員30人)25年度入試情報
■一般選抜前期日程(15人)
学力検査等・2/25(火)、合格発表3/6(木)
■一般選抜後期日程(3人)
学力検査等・3/12(水)、合格発表3/21(金)
■学校推薦型選抜(6人)
学力検査等・11/23(土・祝)、合格発表12/2(月)
■総合型選抜(6人)
学力検査等・11/24(日)、合格発表12/2(月)
■特別選抜(若干名)
学力検査等・11/25(月)、合格発表12/2(月)、1/8(水)
※詳細は入学者選抜要項および各選抜募集要項を確認

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