ノーベル生理学・医学賞のペーボ博士は沖縄科学技術大学院大にも在籍、東北大・大隅教授が偉業を緊急解説

10/4(火) 6:01配信

2022年のノーベル生理学・医学賞が10月3日に発表され、沖縄科学技術大学院大学教授で、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所所長のスバンテ・ペーボ博士が受賞した。ペーボ博士は9月に東北大学でセミナーを実施するなど日本との縁が深い。ペーボ博士の友人で、セミナーの招聘を実現させた、東北大学副学長・東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授に、偉業を緊急解説してもらった。
● 文学部から医学部に転身したペーボ博士 ミイラの解析から古代人ゲノムの解析に発展
毎年のことながら、選考委員長のトーマス・パールマン博士
Thomas Perlmann >偉くなってますね☆古いColleagueです。
の電話を1時間前に受けたのは誰なのか、固唾を呑んでライブ配信を見守っていたところ、最初のスウェーデン語の受賞者発表で、馴染みのある名前が呼ばれた。
「スバンテ!!!」という私の声に、学生は驚いたことだろう。
2022年のノーベル生理学・医学賞の受賞者、沖縄科学技術大学院大学教授でドイツのマックスプランク進化人類学研究所の所長であるスバンテ・ペーボ博士は、古生物遺伝学の開拓者だ。
生物学的な父親であるスネ・ベリストローム博士は、プロスタグランジンや関係する脂質分子の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した。ペーボ博士は父親のDNAを受け継ぎながら、当初はスウェーデンのウプサラ大学文学部でエジプト学などを学んでいた。
しかし、そこからさらにペーボ博士は医学部へと進学。さらにはミイラのDNAを解析できるのではと考えて実行し、今回のノーベル賞受賞の研究テーマとなったネアンデルタール人などの古代人ゲノムの解析につながった。
● ネアンデルタール人の骨からDNAを採取 人類にもネアンデルタール人のゲノムが残ることを証明
絶滅したネアンデルタール人は、化石となった骨にその“実態”を残している。化石を用いた従来の解析は、例えば頭蓋骨のサイズを計測し、脳の容積が現生人類に至る過程でどのように大きくなったのかなどを“推察”するものだった。
しかし、ゲノムに遺伝情報が書き込まれていると教わったペーボ博士は、ならばネアンデルタール人のDNAを抽出して、その塩基配列を決定すれば、さまざまな情報を得ることができると考えた。
「貴重な古代人の化石を砕いてDNAを採取するなどもってのほかだ」、と糾弾した化石人類学者は、当時は多数いたことだろう。
「エジプトのミイラならともかく、何万年も前の古代人のDNAなんて、ズタズタに壊れてしまっていて、何も分からないのでは?」という分子生物学者の批判もあったに違いない。
しかしペーボ博士は揺るぎない信念のもとに予備実験を重ね、辛抱強く周囲を説得して、小指のかけらほどの化石試料からDNAを得ることに成功した。そして、2010年にネアンデルタール人のゲノムのおおよその配列を決定して、米科学誌サイエンスに発表したのだ。
この論文でペーボ博士は、ネアンデルタール人と現生人類が欧州で共存していた事実と併せ、現生人類の中に数%、ネアンデルタール人のゲノムが混在しており、それが2種の人類の交雑の証拠であるという議論を展開している。興味のある方は、ペーボ博士の著書『ネアンデルタール人は私たちと交配した』(文藝春秋、2015年)をお読みいただきたい。
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