散日拾遺

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ハリコフ

2022-04-02 06:36:50 | 日記
2022年4月1日(金)

「ここはハリコフである。
 現在の自分の気分と戦うことは無益であるし、私の力にも余るので、せめて形式面においてだけでも生涯の最後の日々を完璧なものにしようと、私は決心したのだった。これは充分に自覚していることだが、もしも私が家族に対して正しくない態度をとっているとするなら、これからは家族の望む通りに行動しようと思う。ハリコフへ行けと言われれば、ハリコフへ行こう。それに最近の私はすべてに無関心になっているので、ハリコフだろうと、パリだろうと、ベルジーチェフだろうと、どこへ行くのも同じことなのである。」
アントン・チェーホフ『退屈な話』小笠原豊樹(訳)


 ハリコフという地名をこの作品で知った。主人公の娘に言い寄っている相手が、自分はハリコフに領地があると吹聴している。それを確認するため、死期の迫った老教授が妻にせっつかれてハリコフにやってきたのである。
 この地名はウクライナ語に即してハルキウと表記されることになった。Wikipedia もさっそくそのように変更し、「日本ではハリコフ(ロシア語: Харьков ハーリカフ)の名でも知られる」と注記を付している。ロシア軍の侵攻がなければ、キーウやハルキウに書き改められるのは、たとえ実現するとしてもずっと先のことになっただろう。
 小説の場合、主人公らはウクライナ人ではなくロシア人であるから、事情を承知のうえで「ハリコフ(ハーリカフ)」と記すのが考証上は正しいことになるだろうか。


 「年老いたボーイはハリコフの生れで、この町のことなら知らぬことはないそうだが、グネッケルという家は聞いたことがないと言う。領地のことも訊いてみたが、結果は同じである。」
(同上)

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