ヒジュラ暦1427年ムハッラム(1月)3日 ヤウム・ル・ハミースィ(木曜日) |
いろいろなコメントが寄せられ、論点が見えにくくなっているので、もう一度基本的なことを整理しておこうと思います。
私が、「イスラム教徒やイスラム教に関心のある人くらいしか、こんなブログ読んでいないだろうな」と思いこんでいたのが失敗でした。ごめんなさい。
思ったより多くの、非イスラム教徒の方も読まれているようなので、イスラムの基本的な部分を含めて、何が問題になっているのかをまとめておきます。
ということで、①より前の段階の話なので、今回はタイトルの後ろに「0(ゼロ)」とつけてみました。
すごく基本的なことから大雑把に説明するので、イスラム教徒の方は、いらいらするかもしれませんが、我慢してください。またあんまり細かいところで突っ込まないようにお願いします。
まず、ムスリマというのは、女性のイスラム教徒のことです。これはいいですか? そして、今問題になっているのは、ムスリマがベリーダンスをやっていいのかどうかということです。
ですから、イスラム教徒でない女性がどんなに肌を出してセクシーにベリーダンスをやろうが、イスラム教徒としては知ったこっちゃないということになります。好きな方はどんどんやってください。
ところが、イスラム教徒となると話は別です。
イスラム教では、人間の言動を次の五つに分けています(一昨日も書きました。採録です)。
- 義務(やらなきゃいけないこと)
- 推奨(やった方がいいこと)
- 許容(やってもいいこと)
- 忌避(やらない方がいいこと)
- 禁止(やってはいけないこと)
人間のある営み、たとえば、酒を飲むとか、踊るとか、車に乗るとか、そういうあらゆることをこの五つの分類に振り分けるわけです。
といっても、実際は1、2、4、5が決まれば、それ以外は自動的に3になります。
では、どのような基準で分類するのでしょうか?
それは、まず『クルアーン(コーラン)』が基本です。イスラム教で最も大切な聖典、神の言葉を記録した本です。
それから、いくつかの「ハディース」と呼ばれる文書群。聖預言者ムハンマド(SAS)が、どのような言動をしていたのかの記録書です。
この二つにストレートに「やれ」「よし」「だめ」とか書いてあることはあまり問題になりません。
ところが、これらの文書が成立してから、ずいぶん長い年月が経ち、新しいものがたくさんこの世に現れました。コーヒーとかとか電話とか。
そのような新しく現れたものについて、たとえば「コーヒーを飲むことについて」『クルアーン』や「ハディース」を手がかりに、偉い学者さんたちが、五つのうちのどれにいれるかを決めるのです。
これにはすごく時間がかかることもあります。場合によっては、判断が決まるまで数世紀かかることもあります。
ですから「健康に良さそうだから推奨」とか、そういう基準ではないのです。
例えば、豚肉などはビタミンB群豊富で、疲労回復には良いですし、私も好きですが、禁止といったら禁止なのです。
一神教とは本来、そういうものなのです。神の命令で「ダメ」と言われたら、別に理由をあれこれ考えることはないのです。好きでもなんでも、酒はダメと言われたらダメ。
日本的な感覚だと理解しがたいと思いますが。ちょっとした例え話として、上の五つの区分に、イスラム的価値観と、日本的価値観をあてはめて比べてみましょう。
【イスラム】
1.義務の例:一日五回の礼拝
2.推奨の例:義務以外の自発的な施し
3.許容の例:犬の肉を食べる
4.忌避の例:(しまった。ここだけ思い浮かばない。だれかヘルプ!)
5.禁止の例:豚肉を食べる
【日本】
1.義務の例:働く
2.推奨の例:親孝行
3.許容の例:豚肉を食べる
4.忌避の例:猫の肉を食べる
5.禁止の例:電車内で携帯電話で話す
イスラムの場合は、きっちりと境界線が定められているのが特徴です。
日本の場合は、はっきりとした境界線がありません。日本国憲法では「勤労の義務」などと言っていますが、実際は働かない若者も多いですし、働かなくても食っていける資産家は、働かなくても別に非難されません(疎まれるかもしれないけど)。
親孝行も、なんとなくそんな感じになっています。人によっては義務だと言う人もいるかもしれません。これも境界線がはっきりしないからです。
許容と忌避のところに注目です。イスラムでは禁止や忌避でなければ、逆に何を食ってもいいのです。犬だろうが、猫だろうが、禁止・忌避でなければ全然問題ありません。
でも、日本では野良猫を捕まえて、包丁でさばいて食ったら、きっと大問題になるでしょう。マスコミも飛びつくかもしれません。「猫をさばいて食った男」とかね。で、評論家みたいな人が出てきて「世の中がだんだんおかしくなっている」みたいなことを、したり顔で言うわけです。
しかしね。猫を食うことは別に法律で禁止されていませんよ。たぶん全国のどこの条例でも。
にもかかわらず、猫を食うのはけしからんということになっている。もしかしたら、忌避ではなく禁止だと思われているかもしれない。
そんなわけで、日本の基準は、なんとなく世間がそういう雰囲気だからという曖昧なものですが、イスラムでははっきりと区別することになっています。
イスラムではベリーダンスも1~5のどこかに分類されるはずなのですが、それが、3~5のどれなのだろう? というのがひとつの問題です。
夫などの親族の男性を除いて、女性は男性の前で肌をあまり露出してはいけないことになっています。
それを考えると、1や2はあり得ません。
となると、3~5のどれかだということになります。ここが議論となっているのです。ですから、イスラム内部の問題とも言えます。
ちょっと図にしておくと下のような感じでしょうか。
問題になるのは、5という判断がなされている場合です。
禁止なのに、なぜ、アラブの盟主とも言うべきエジプトやモロッコで、多くの人びとに愛されながらベリーダンスは普及しているのか。
歴史的な経緯も含めてそこら辺を考えてみようと思っています。
ということで、論点を二つ、最後にだめ押しでまとめておきます。
1.ベリーダンスは、「許容」か「忌避」か「禁止」か?
2.「禁止」だった場合、なぜベリーダンスが現実にムスリマの間に普及しているのか?
今回も長くなりました。最後まで読んでくださった方、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。