漫画の思い出
花輪和一(33)
『赤ヒ夜』(青林堂)
『牛耳る女』
疲れる。
これは、つまらん。ただのエログロ。掲載誌のせいか。
『玉の価はかりなき事』
これもつまらん。掲載誌は前と同じ。
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「アホ みたいね 恋とか愛なんて…」
(『玉の価はかりなき事』)
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だから何?
『心の影』
「天狗の子」と呼ばれるETみたいな「あの子」に、ある少女が拘泥する。好奇心、慈愛、嫌悪、恐怖など、さまざまの感情が入り混じっている。
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縄屋の縄助さんが あの子を見て笑っていた。縄助さんが立ちあがってあの子に何か話しかけているようだった。私は庭虫を釣っていた。
「あっ!釣れなかった……。あっ!また釣れなかった……。あっ!また釣れなかった…… あっ!ん?まただ…… あっ また釣れなかった!あっ また釣れなかった…… どうして? あれ? まただ…… ようし! あれ! またつれなかった…… あっ! まただよ…」
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しつこい。「庭虫」が何か、不明。後で出て来る蚯蚓みたいな化け物か。
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「あの子も一人ぼっちなんだわ あんなに涙が……」
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同情したせいで「あの子」は彼女にまとわりつき、少女はうるさがって「あの子」を避けるようになる。
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「でも どうして こんなに おっかないのかな」
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母親を後追いする幼児の依存と、後追いされる母親の心労とが、入り乱れている。母親に対する作者の遺恨と愛着が分離できなくなった。しかし、そのせいで、偽の融和が保たれることになる。停戦か。
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「あんなやつ絶対に 絶対に入ってこられない所へ逃げ込んでやるわよ!」
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逃げ込もうとした穴は子宮の象徴だ。穴には「あの子」がいる。
作者は、母親への執着を諦めることと、母親から受けた虐待の記憶を薄めることとが、分離できない。そして、一休みしているところだ。
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「入らなくてよかったわよ」
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もし、穴に入ってしまえば、どうなっていたか。彼女も「天狗の子」になるのか。あるいは、彼女と「あの子」が合体して「庭虫」になるのか。どちらでもなくて、漫画家になるのかもしれない。
(33終)