青山斎場の門を入ると、駐車場に清志郎の歌が流れてた。
「いい事ばかりはありゃしない」「君を呼んだのに」
日比谷野音のライブ盤だ。
正面の建物に向かって、長い列が蛇行してる。
大きなウサギのバルーンが立ってて、みんなそれを写メに撮ってる。
アナウンスが流れる。
「本日は忌野清志郎 青山ロックンロールショーにご来場いただき、誠にありがとうございます」
だよね。やっぱそうでなきゃね。
ゆるゆると歩きながら、曲に合わせて小声で歌ってるひとも多い。
「上を向いて歩こう」「トランジスタラジオ」
黒スーツにサングラスで坊主頭の、いかにもいかつそうな兄ちゃんが
口をへの字にして空を仰いでる。涙がこぼれないように。
俺はといえば、不謹慎なんだけど
曲を聴いてるうちにどうかするとニコニコしてしまいそうな気がして
たぶん変な顔になりながら、口ずさんでた。
斎場の建物にはいると、黒白幕のかわりに紅白の幕がかかってる。
正面に大きな遺影。遺影の前にたくさんの花とキャンドル。
中央にはドラム、ギター、マイクスタンド、アンプ…といったバンドのセットがあって
さらにその真ん中に愛用の自転車が置いてある。
あろうことか「スローバラード」が流れ出した。
動けなくなった。
さっきまで大丈夫だったのに。
歌までうたって下手すりゃ愉快な気分になりかねない感じだったのに、
一歩も進めない。勝手に涙が出てきた。ボタボタでた。
歯を食いしばろうとするのに、歯の根があわない。奥歯がガチガチ鳴ってる。
こんなの人間の、少なくとも大人の泣き方じゃないって
頭のすみでは思ってるんだけど、体が言うことをきかない。
それでも何とかすすりあげて
花を受け取って、献花台へ進んだ。
けど遺影の笑顔みたら、やっぱダメだ。
心拍数がどんどん上がってくる。息ができない。視界が急に暗くなっていく。
手を合わせればなんとか落ち着けるような気がして、
でも腕にガチガチに力が入ってるのがわかる。
曲は「ドカドカうるさいロックンロールバンド」になってた。
どうにかこうにか目をつぶって合掌して
ゆっくり顔をあげる。もういちど遺影の清志郎と目が合う。
そしたらそのとき、霧が晴れるみたいに
さっきまでの動悸がウソみたいに静まった。
会場に響いていたギターやドラムの音もすっと遠のいて
穏やかな、清々しいような気持ちになった。
すげえや。これが音楽のチカラか。
建物の出口へと歩きながら、たぶんにこやかな、満足そうな顔をしてたと思う。
ウサギのバルーンまで戻ってくると
「雨上がりの夜空に」が流れ出した。それから「気持ちE」。
その場にいたあんちゃんたちと一緒に歌った。
新曲の「Oh! RADIO」がかかり出した頃、会場を後にする。
病気だったとは思えないような、しっかり太い声を背中に聴いた。
青山一丁目駅の手前まで来たところで、学生時代のバンド仲間にばったり逢った。
「生きてりゃ逢えるもんだねえ」
5時間以上立ちっぱなしだったから「腰が痛くて…」とか言ってる。同感。
しばし立ち話する。清志郎のこととか、旧友のこととか。
別れ際に「死ぬなよ」と言われた。
死ぬもんかよ。
「いい事ばかりはありゃしない」「君を呼んだのに」
日比谷野音のライブ盤だ。
正面の建物に向かって、長い列が蛇行してる。
大きなウサギのバルーンが立ってて、みんなそれを写メに撮ってる。
アナウンスが流れる。
「本日は忌野清志郎 青山ロックンロールショーにご来場いただき、誠にありがとうございます」
だよね。やっぱそうでなきゃね。
ゆるゆると歩きながら、曲に合わせて小声で歌ってるひとも多い。
「上を向いて歩こう」「トランジスタラジオ」
黒スーツにサングラスで坊主頭の、いかにもいかつそうな兄ちゃんが
口をへの字にして空を仰いでる。涙がこぼれないように。
俺はといえば、不謹慎なんだけど
曲を聴いてるうちにどうかするとニコニコしてしまいそうな気がして
たぶん変な顔になりながら、口ずさんでた。
斎場の建物にはいると、黒白幕のかわりに紅白の幕がかかってる。
正面に大きな遺影。遺影の前にたくさんの花とキャンドル。
中央にはドラム、ギター、マイクスタンド、アンプ…といったバンドのセットがあって
さらにその真ん中に愛用の自転車が置いてある。
あろうことか「スローバラード」が流れ出した。
動けなくなった。
さっきまで大丈夫だったのに。
歌までうたって下手すりゃ愉快な気分になりかねない感じだったのに、
一歩も進めない。勝手に涙が出てきた。ボタボタでた。
歯を食いしばろうとするのに、歯の根があわない。奥歯がガチガチ鳴ってる。
こんなの人間の、少なくとも大人の泣き方じゃないって
頭のすみでは思ってるんだけど、体が言うことをきかない。
それでも何とかすすりあげて
花を受け取って、献花台へ進んだ。
けど遺影の笑顔みたら、やっぱダメだ。
心拍数がどんどん上がってくる。息ができない。視界が急に暗くなっていく。
手を合わせればなんとか落ち着けるような気がして、
でも腕にガチガチに力が入ってるのがわかる。
曲は「ドカドカうるさいロックンロールバンド」になってた。
どうにかこうにか目をつぶって合掌して
ゆっくり顔をあげる。もういちど遺影の清志郎と目が合う。
そしたらそのとき、霧が晴れるみたいに
さっきまでの動悸がウソみたいに静まった。
会場に響いていたギターやドラムの音もすっと遠のいて
穏やかな、清々しいような気持ちになった。
すげえや。これが音楽のチカラか。
建物の出口へと歩きながら、たぶんにこやかな、満足そうな顔をしてたと思う。
ウサギのバルーンまで戻ってくると
「雨上がりの夜空に」が流れ出した。それから「気持ちE」。
その場にいたあんちゃんたちと一緒に歌った。
新曲の「Oh! RADIO」がかかり出した頃、会場を後にする。
病気だったとは思えないような、しっかり太い声を背中に聴いた。
青山一丁目駅の手前まで来たところで、学生時代のバンド仲間にばったり逢った。
「生きてりゃ逢えるもんだねえ」
5時間以上立ちっぱなしだったから「腰が痛くて…」とか言ってる。同感。
しばし立ち話する。清志郎のこととか、旧友のこととか。
別れ際に「死ぬなよ」と言われた。
死ぬもんかよ。