ポエ活

村田活彦 a.k.a.MC長老のブログ。ポエトリー・スラム・ジャパン代表。ラップスクール2期生。

アンパンマンが飛んでいく先には

2013年10月16日 19時02分27秒 | マンガ
阪神淡路大震災のあと、
マンガ家たちが絵とメッセージを寄せたチャリティ画集がありました。

その本でやなせたかしさんは、
見開きページに空を飛ぶアンパンマンを描かれていました。
アンパンマンから子供たちに向けて
「怖い夢をみていませんか。ぼくが飛んで助けにいくよ」
という主旨のメッセージを添えて。

それを見たとき、どうしようもなく熱い感情が胸に押し寄せました。
壊れた街を直すのは大人たちの役目。
でも心の中まで助けにいけるのはアンパンマンかもしれない。
そんなことを考えながら
アンパンマンというヒーローと、
やなせさんの大きさを改めて感じていました。

そして東日本大震災のあと、被災地で『アンパンマンマーチ』が流れ、
多くの子供たち、そして大人たちを勇気づけたのは
よく知られてるところ。


個人的には、
アニメ映画にもなった『チリンのすず』という絵本は一生の宝です。
『手のひらを太陽に』の歌もたぶん自分の深いところにずっと流れてる。


『ぼおるぺん古事記』もしくはセクシー日本神話

2013年01月24日 15時37分23秒 | マンガ

古事記が好きだ。

初めて出会ったのは、
松谷みよ子さんが現代語訳した子ども向けの本だったと思う。
最初に読んだときは、まずスケールのでかさ、破天荒さに惹かれてた。
暴れん坊のスサノヲが、皮を剥いだ馬を機織り小屋に放り込むなんてのも、
残酷というより単に無茶苦茶さ加減を面白がってたと思う。

もう少し成長すると、神々の人間臭さに魅力を感じるようになってきます。
乱暴が過ぎて高天原を追放されたスサノヲは、
後にヤマタノオロチ退治で活躍する。
いつもはガキ大将だけど、いざという時は頼りになる、
映画版ジャイアンみたいですね。
良い面と悪い面、両方持ってるからこそ人間(いや神だけど)、
みたいなことを何となく感じていた訳です。

で、この本。
『この世界の片隅に』『夕凪の街 桜の国』のこうの史代さんが
ボールペンで描く古事記とは、なんて贅沢。

こうの版古事記は、原文を仮名混じりで書き下ろしたものが、
そのままセリフとト書きになっています。
つまり著者は絵だけで原作を解釈、脚色しているという訳。
神さまたちの「人間臭さ」がマンガによってより醸し出されています。

特に色恋が絡むシーンでの神様たちの表情は、さすがのひと言。
たとえばイザナギとイザナミの国生みの場面。
原文では「みとのまぐはひ為む」ですが、要するに初夜なわけです。
目と目で通じ合う恥じらいと色気!

そのあとイザナミは死んじゃうんですが、
妻の死因になったわが子、火の神に襲いかかるイザナギの修羅の顔。
斬り殺したあとの呆然とした顔。
亡き妻恋しさのあまり会いに黄泉国まで行ったのに、
結局永遠の別れとなってしまったときの、憂いある表情…。

あるいはスサノヲ。
私も大好きなんですが、さすが神話界一の人気キャラ、
実に感情豊かで楽しませてくれます。
アマテラス篭城事件のあと、高天原を追放されるスサノヲと、
追い出すアマテラスが最後に視線を交わすのもいいなあ。
さらに時代がくだって、オホクニヌシの物語にもスサノヲは登場します。
娘がオホクニヌシと駆け落ちするのを追いかけて
「幸せになりやがれ、この野郎!」と叫ぶところなんて、
娘を持つ父ならきっと胸に迫る(娘いないけど)。

そしてそのオホクニヌシ。
「因幡の白兎」伝説だと、袋をかついだおっさん的な印象だけど、
こうの史代さんが描くのは長髪イケメン。
駆け落ちまでしたスセリビメとラブラブかと思いきや、
稲葉(因幡)のヤカミヒメにも夜這いかけちゃう。
このシーンがまた艶っぽいんだ。
そして妻スセリビメとの仲直りイチャイチャ。あーもー羨ましいわ。

これほど情感たっぷりな古事記、
もはや現代ドラマを観るような感覚で読めます。
しかもそれが、ボールペンだけで描かれてるというのもすごい。

神話の地平とマンガ表現の地平を、
いっぺんに拓いちゃったこうの史代さんに敬服であります。

1,2巻が刊行中。2月に出るらしい完結巻が待ち遠しい。








世界中の当て馬男子に幸あれ!

2012年12月06日 22時34分54秒 | マンガ
半年前まで
仕事として関わっていたということもあり
今でもマンガは結構買っているんですが
雑誌でいま毎月買ってるのが、別冊マーガレット。

何ヶ月か前の別マの巻頭口絵に
「当て馬男子」特集というのがあって
そんな言葉があるのか!と目からウロコだったんですが


当て馬男子。
つまり「ヒーローやヒロインをより輝かせるための引き立て役」。
少女マンガにおいては
主人公のことが好きなんだけど
想い叶わない男の子…ということになるのかな。

大好きなんです、そういうキャラが。昔から。


結局のところ、
少女マンガの当て馬男子ってのは
主人公の恋路をかき乱すために登場してくる訳で
そのせいか最初からヒロインのことを
「好きだー!」と宣言することが多い。
わかりやすい奴なんです。

言われたヒロインのほうは
「私、本命君が好きなのに、
そんな風に言われたら当て馬君も気になる…どうしよう」
てな感じで悩みだしてドラマが展開する。

一方、本命君との恋はっつうと、
それが成就しちゃうと少女マンガ的には完結しちゃうので、
連載を続けていくためには
ふたりの間に誤解やすれ違いが生じる必要がある。

そこで本命君は何考えてるかわからなかったり、
無愛想だったり、
ライバル女子に傾いたり…してしまう。


かたや直球勝負の当て馬くん、
かたや彼女に誤解させたり寂しい思いさせる本命君。
だったら当て馬君のほうがいいやん!
乗り換えちゃえばいいやん!

ってヒロインの友達キャラ気分で
おせっかい焼きたくなるけど、
恋するヒロインはそう思わないんだよねえ。

マンガでも現実でも。


で、しまいには
当て馬君は自分の想いをこらえて
ヒロインの恋を応援したりしちゃう、
これもよくある展開。
いい奴だよ、健気だよ当て馬男子…泣けるよ…

嗚呼、すべての若き当て馬野郎どもに幸あれ!



えー、ちなみに
別マにおける当て馬男子の現状ですが

「正統派当て馬」丸井くんを擁していた『360°マテリアル』が最終回。
『アオハライド』の菊池冬馬くんが、
この正統派当て馬の系譜を継ぐと思われます。

『ヒロイン失格』は
本命vs当て馬が目下のところ逆転していておもしろい。
『ハニー』は
ヒロインが本命くんに告白されるところから始まってるのが変化球。

ヒロインと本命君が
最初っからスキスキスキスキ言い続けてる
『俺物語』は別次元。


山の彼方の思春期

2011年11月02日 08時28分45秒 | マンガ
押見修造『惡の華』の4巻読んじゃった。
次が待ち遠しい。



3巻のエピソードが
ひとつのクライマックスだと思うんだけど

小さな町に住む主人公が
「山の向こうに“こことは違う”なにかがあるんじゃないか」と考えて
山を越えていこうとする

途中で振り返ると眼下に
住み慣れた町が見えて

でも結局
山を越えることはできなくて
連れ戻されてしまう

という一連のシチュエーションが
個人的にものすごくツボでございます。


なんて説明すると
えらくロマンチックに過ぎますね。

このマンガの魅力は
なんかこうもっと「痛い」感じで
自意識まみれの10代を思い出していたたまれなくなるような
痛すぎてギャグすれすれみたいな
やるせなさと恥ずかしさと馬鹿馬鹿しさとエロさのハイブリッド

ですよ。




手塚治虫の『アドルフに告ぐ』にも
少年が山を越えようとするエピソードがあったっけ。
まあ全くシチュエーションが違いますけど。








雨だれも風のざわめきも君の足音もぜんぶ音楽だ

2011年07月24日 08時24分28秒 | マンガ
いー天気だ!

網戸を洗ったので
窓の視界が150%クリアになりました。




宮田紘次さんの『ききみみ図鑑』というマンガ

「音」にまつわる
短編集なんですが


すげえ。


特に大好きなのが
第3話『始まりのリズム』

書き文字の効果音、
いわゆる「どん!」とか「ジャン!」とかいうやつが
いっさいない
それどころか台詞も全くない
サイレントな作品なのに

確かに音がきこえてくるんだよ



マンガで音とか音楽を表現するのって
むずかしくて
どんだけカッコいい曲って設定でも
「ジャーン」って効果音を書いたり
「♪♫~」とかって記号を描いちゃうと
とたんにショボく残念な感じになっちゃうけど


(それをあえて
音を描かずに音を感じさせたエポックメイキングは
上條淳士さんの『TO-Y』だと思うけど)


『始まりのリズム』を読むと
なんだか
体が勝手に動きだしそうなんだ


ほかの収録作もそれぞれカラーが違ってて
この宮田綋次というマンガ家さんの
懐の深さを感じます




この読後感のまま

そうだな、
たとえばイルリメさんとか聴こうかしらん







魔法使いになれなかった

2009年09月25日 08時45分44秒 | マンガ
今更ながらに「NARUTO」をずっと読んでる。
まだ半分くらい。
やっと第一部が終わったとこ。


どうも
主人公じゃないキャラに感情移入しちゃうくせがあって
たとえばこのマンガだと
ロック・リーって奴。


おかっぱで目がまんまるでゲジマユで
ブルース・リーみたいなトラックスーツ着てる。
どう考えても女子には人気なさそうな気がする。


こいつのいいのはさ、
ほかの忍者たちは「影分身」とか「口寄せの術」とか使うのに
こいつだけ忍術・幻術がまるでできなくて
「なんで僕だけ…」って悔しい思いをしながら
それでも体術だけでがんばるんだ。




ちょっと関係ないけど
「ウルトラマンタロウ」の最終回を思い出した。

東光太郎がタロウに変身しないで、
人間のままバルキー星人を倒すんだ。


記憶の根っこのほうに焼き付いてる、大好きなエピソード。








「君に届け」(通称「きみとど」)

2009年09月22日 00時52分19秒 | マンガ
本日のブログは、
正直なとこ宣伝でございます。



朝から仕事で原宿いってたんですが
なにやってたかっつーと
別冊マーガレットの「君に届け」というマンガのイベント手伝いでして。


写真は原宿でくばってる小冊子とマップと絵馬。
どんなことやってるかは
こちらをどうぞ。


おっとコミックナタリーでも紹介されてたよ。
椿姫彩菜さんも応援してくれてるよ。


まあ、うちのブログ読んでくれる方は
休日に原宿・竹下通り行ってみるって感じじゃないでしょうけど。



作品は掛け値なしに面白いです。
ピュアピュアでキュンキュンです。キュン死にします。

ぜひ男子も読め。

だってこれ、ただ惚れたはれたの恋愛マンガじゃないから。
自分に自信がない主人公が
好きな男の子や、友だちとのつきあいのなかで
少しずつ自分のコンプレックスに向き合ってく話だから。

実は性別とか関係ないんじゃねーかって思う。



そして10月からはアニメ化されるのよー。







踊れ!ダメ人間

2009年09月17日 09時31分27秒 | マンガ
青野春秋「俺はまだ本気出してないだけ」を
3巻まで読み進んで

いやはやますます味わい深くなってきた。


40で漫画家めざすおっさんの話だけじゃなくて
まわりの登場人物のエピソードが
意外と掘り下げられてる。




花沢健吾「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は5巻まで読んだ。

こないだの記事じゃひとの批評引用して
「宮本から君へ」と比べるとどーのこーのって
言っちゃったけど


「定本 宮本から君へ」のオビに
花沢氏が「僕にとって聖書みたいなもん」と書いてあるのを読めば
さもありなんって感じだけど


いいんです。


どっちもビルドゥングスロマン。

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は恋愛とボクシングが軸の、
「宮本から君へは」恋愛と仕事が軸(かな?)のビルドゥングスロマン。


もうちょっと読み進まなきゃ。




秋晴れのいい空だ。





気がつけばヘタレ

2009年09月07日 22時08分26秒 | マンガ
気づけば最近
ダメ男が主人公のマンガばっか読んでる。


久保ミツロウ「モテキ」
花沢健吾「ボーイズ・オン・ザ・ラン」
青野春秋「俺はまだ本気出してないだけ」


そんで
新井英樹「宮本から君へ」

いやちがう。
宮本はダメ男じゃないね。
格好良くはないけどヘタレじゃないし。熱いし。


「宮本から君へ」と「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の比較については
紙屋高雪さんのこの記事が秀逸なので
ご参考まで。




そんななかで
「俺はまだ本気出してないだけ」の続きが特に気になる。
(まだ1巻しか読んでないし)


何はともあれこのタイトルが秀逸でしょ。

これ、同じことを
たとえば穂村弘さんが言ったなら
滑稽ながらもカワイクて、
あまつさえどこかしらオシャレだったりもするのだろうけど

このマンガの主人公は40歳で会社やめて
「マンガ家になる」って言いながらバーガーショップでバイトしてる
加齢臭もかぐわしいメタボなおっさん(子持ち)ですからね。



でもさ、困っちゃうのは
このマンガ、
いちおう「おっさんコメディー」を謳ってはいるんだけど
けっこういい話成分が多めだったりするのよ。


古谷三敏とは言わないまでも
ダメおっさんが不幸に見舞われるギャグにしておいてほしかったと
自虐的に思ったりする。

だってこんないい話っぽいと
なんか勘違いしそうで。

永遠の中二病の自分としては
「俺はまだ本気出してないだけ」なんて
つられて口にしてしまいそうで、逆につらい。




これって話がよくできてるから
つい青野春秋って作家が
主人公と同じように脱サラしてマンガ家になった中年男性
…みたいに思ってしまうけど

実はちがうんじゃないかな。
もう少し若くて20代か30代の男、あるいは女性かもしんない。