ポエ活

村田活彦 a.k.a.MC長老のブログ。ポエトリー・スラム・ジャパン代表。ラップスクール2期生。

ストリートから地球を回せ。“渋谷サイファー”インタビュー

2015年09月24日 02時34分45秒 | 音楽

週末の東京・渋谷、夜。ハチ公前交差点からTSUTAYA前に渡ると、地下鉄入り口わきのスペースに人だかりができている。その輪の中心にいるのはドラムやギターの生演奏、そしてそのビートに乗せてフリースタイル(即興)を披露するラッパーたち。彼らこそが「渋谷サイファー」。ネット動画で知り、あまりに面白そうだったので実際に聴きに行ったら、さらにびっくりでした。本来「サイファー」というのはラッパーたちが輪になって互いにフリースタイルをし合うことだけど、「渋谷サイファー」はその枠を軽々と超え、路上発の音楽集団として注目を集めてるんだから。どうにもウズウズしてきたので、中心メンバーのACE(エース)とCHARLES(シャルル)、ふたりのラッパーに話を聞いてきました!




渋谷サイファーは異種格闘技戦みたい

ー渋谷でサイファーを始めたのはいつからですか?
ACE:もともとハチ公前サイファーっていうのはあったんです。そもそもサイファーってのは別に誰ものでもないんだけど。ただそのころハチ公前は休みがちで、イベント帰りの奴らが集まってやるぐらいだった。それでサイファーやりたかったんだよね、俺が。最初、高円寺でゲリラサイファーをやったんです。スピーカーとか何もなしで。それから渋谷でもやるようになって。去年の8月ぐらいかな。その頃に路上ライブ用のスピーカーを手に入れたんですよね。それで、ハチ公前にもスピーカーとマイク持って行ったんですよ。仕切るの面倒くさいからマイク使った方がいいな、音もスピーカーから出した方がいいな、って感じで。そしたら意外と人が集まってくれた。しかも高校生だったり中学生だったり、若い子が多くて。

-その動画をネットで観ましたけど、確かに若い子多かったですね。
ACE: 15歳から19歳くらいかな。そのときは「高校生ラップ選手権」の前夜祭だったから、そこに出場する人とかが遊びに来てた。地方から来た子もいたし。それで、主催したからには保護者的な立場もあって。補導されたりしないよう気にしなきゃなんないんで8時頃に一回仕切り直したんですよ。「じゃ若い子は帰って。こっからは自己責任なんで」って。そのあと大人の部をやりますか、と。でもここで俺らが同じ場所に溜まってたら帰る子も帰らないから、移動しようってことでTSUTAYAの前に行ったら、ドラムのレルレさん(レルレ・カワグチ氏)が路上で叩いてて。

-つまり偶然なの?
ACE:偶然です。で、そのビートに合わせてフリースタイル(即興)やったら面白そうだなって思って。スピーカーとマイクセッティングして、ラップで入った。それがきっかけですね。去年の10月とか11月かなあ。

-その日の出会いがものすごく重要だったんだね。
ACE:そうっすね。面白かった。なんだ、あの風貌のドラムはって。しかもスーツケースがバスドラだし(レルレ氏はストリート演奏用にスーツケースをバスドラム代わりにしている)。その日、俺とレルレさんはそんなに喋んなかったんだけど、ツイッターで「またよろしくお願いします」「またやろうよ」みたいなやりとりをして。そこから連絡取り合って、ラッパーとかいろんな人が集まってきて今の形になったんです。やっていくうちになんか、これはやばいねって。ヒップホップの現場ではあんまり感じられないものを感じられた。それで「絶対来たほうがいいよ、超楽しいから」って仲間誘って。来てみたらみんなも「やばい」ってなった。やっぱオープンマイクで自由だし。大物から若手までいろいろ参加してくるのがクラブの中ではありえないことだった。ドラマーがメタル、ギタリストはジャズで、俺らヒップホップだから、すでに異種格闘技戦みたい。

-CHARLESも渋谷にはよく来てたんですか?
CHARLES:ハチ公前サイファーに行ってました。TSUTAYA前で始めた日はたまたま参加してなかったんですけど。ヒップホップのイベントは渋谷でやってるのがすごい多くって、私はほぼ渋谷にしか行ったことないくらいの勢い。なんかラップしに行くっていったら渋谷みたいな。

-ラップまだはじめて1年ですよね?
CHARLES:一年ちょっとですね。初めてラップというものをしたのは去年の1月。それまでラップのラの字も知らなかったんだけど、とりあえずサイファーに行けばラップできるらしいって聞いて、原宿サイファーっていうのに行ったんです。ネットで調べたら行きやすいのが新宿か原宿で。新宿サイファーって名前がなんかちょっと怖いなって思って(笑)。原宿サイファーのほうは「初心者大歓迎」「スケーターやダンサーもカモン」みたいに書いてあったんです。その場所で会ったスケーターの女の子に「サイファーやってるんですか」って声かけたんですけど、「え? ちがう」って言われて。でもその関係ないスケーターの子にお願いして、一緒にサイファーの輪に入ってもらいました(笑)。だけどその時は緊張のあまり、もう全然言葉が出てこなくて。え、言葉が出ないってことあるんだ!みたいな。面接のときより緊張しました。

-それが今や、渋谷サイファーのメインメンバーですね。
CHARLES:もう少し前の段階で今の渋谷サイファーに会ってたら、たぶん輪に入れない。たぶん一回くらいはチャレンジするんでしょうけど、心折れたりするんじゃないかな。その当時の自分だったら、「わあすごい」って普通にファンになってたと思います。

-この1年、すごい進歩ですよね。
CHARLES:去年の5月には初めてMCバトルに参加しました。環境も含めて、なんかいろいろすごい進歩です。


路上ライブは町の温かみを感じられる

-基本的なことなんですけど、サイファーっていうのは普通、ラッパーたちが集まってフリースタイルをすることですよね。ところが渋谷サイファーではドラマーやギタリストもいてお客さんもいる、路上ライブの側面もある。そもそも「渋谷サイファー」っていうのはユニット名? イベント名?
ACE:そこはですね、『名探偵コナン』で黒ずくめのボスがわからないのと同じくらいにミステリーなんですよ。
CHARLES:そこまで? けっこう難易度高い(笑)
ACE:どっちでもあるんですね。「それも自由でお願いします」って感じです。「サイファーってこんなもんなんだ」て間違って覚えられるパターンもあるかもしんないですけど。他のサイファーを見て「あれ違くない?」って思うのもまた一興。渋谷でやってるサイファーはこうなんだよ、って感じですね。
CHARLES:確かにそうですね。ヒップホップとかサイファーとか知らない人が見てくれていて。ツイッターの書き込みを見ても、渋谷サイファーでサイファーってものを知ったんだろうなっていうのも多くなりましたね。嬉しいというか、なんというか…。
ACE:でもね、そうしてくべきだと思うよ。普通のサイファーはラッパー同士のもの。スキルの高め合いやトレーニング、あるいは会話や近況報告に近いけど、メイクマネーにはつながんないんですよ。でも僕らのサイファーは投げ銭もらったりCD売ったりして、その売り上げをイベントや遠征の資金にしてるから。スピーカーも路上で稼いだお金で機能のいいやつを買って、最初のものからかなりグレードアップして。なおかつ表現っていうものの根本として「外に打ち出す」っていうのがあって。人に伝えなきゃ意味がない。要は楽しくラップもできて、好きな音楽をするためのお金も稼げて、しかもその場で反応してもらえて、自分たちの活動を広げられる。ラップっていうものが認識される。あ、これ最強じゃんっていうのがいちばんある。閉鎖的な空間だけではなく、外に自分たちから行くっていうね。

-先ほど「ヒップホップの現場では味わえないこと」という話が出ましたけど、たとえばどういうことですか?
ACE:クラブの中って、要はそれが好きな人しか来ないじゃないですか。ヒップホップが好きな人、MCバトルが好きな人。あるいは自分のイベント告知のために来てる人。それが路上だといろんな人がいる。たまたま待ち合わせをしている人だったり、ラップ超嫌いっていう人だったり、音楽はBUMP OF CHIKINしか聴きません、みたいな人だったり。そこでいきなり始めるからみんなびっくりするんですよね。賛否両論あると思うんですけど、その中に「初めてラップっていうものを聞いたけど、めちゃめちゃかっこいいです」「CD欲しいです」「どこでやってるんですか」ってまたイベントに遊びに来てくれる人がいる。老若男女問わず。気を使わない素直なリアクションがその場で見れるんで、すごい嬉しいっすね。
CHARLES:クラブだったらMCが「オー」って言ったら「オー」って言わなきゃなんないのかなって気を使う人もいるかもしれない。けど、路上だったら興味ない人は素通りしていくし、気になった人は見てくれる。60代後半くらいの女性の方がCD買ってくださって「あたしねえ、ラップすごい好きなのよ」って言ってくれたこともありました。ヒップホップのイベントって、ツイッターとかフライヤーとか、あるいは毎回クラブに行かないと情報を得られないと思う。でも路上でやっていれば、あんまりイベントに来ない人、昔はクラブに通ってたけど最近行ってない人にも聞いてもらえますよね。スーツ着た方が「ちょっと、俺もまたやりたくなっちゃった」みたいに言ってくださって、すごく嬉しかったり。
ACE:こないだ感動したのが、中野での話なんだけど、サラリーマンのひとがケンタッキーのセットを置いて「食べなよ!」って。ジュースもポーン「飲みなよ!」みたいな。ラップしながら「ありがとうございます」ってお礼言って。これはすごいぞと思ってたら雨が降ってきて。そしたらひとりの方がすぐ傘をスピーカーにかけてくれて、もうひとりがササッとふいてくれて。なんだなんだ、この街はどういうことだ? 東京ってあったかいやんけ!って。アーティスト的には「安売りしてんじゃないの」と言われるかもしれないけど、人間的な部分では路上ですごい温かみを感じれたというね。
CHARLES:イソフラボンの化粧水いただいたこともありましたね。めちゃ困ってたんで助かりました(笑)。あと、似顔絵を描いてくれた方もいました。サイファーしてる様子を描写して、ツイッターであげてくださって。いまインスタグラムやってるので、その絵をトップ画にしてるんですけど。
ACE:言い方難しいんですけど、ふれあいができる、やってる意味あるなっていうのを実感できますよね。まあでも、立ち止まって聞いてくれている時点でだいぶ嬉しいんだけどね。それこそ今日みたいなインタビューをしてもらうのも、少なくとも自分たちのアクションで何かしらの影響が及ぼされているっていうことだし。知ってる限り、今のところはそれがすごくいい方向に動いているので。

-この間もダンスで飛び入りしてきた女性いましたね。
ACE:ミュージシャンの飛び入り参加っていうのも目玉の一つなんですよ。
CHARLES:トロンボーンだったり、バイオリンだったり。トロンボーンの方たちは所属団体のコンサートがあって、そのあとの飲み会でベロンベロンだったんですけど、面白そうだからって酔っ払いながらトロンボーン吹いてました。




ハプニングも含めてリアル・フリースタイル

-いま渋谷サイファーはどんなペースでやってます?
ACE:一応固定で毎週金曜、でも土曜日もイベントがない時、もしくはイベント終わりで間に合えばやってますね。たまにクラブのイベント終わりで早朝にやったり。あれも面白かったね。聴いてるのはクラブ帰りの人たちばっかで、「いつも夜見られねえから見られてよかったわ」みたいな。
CHARLES:体力的にはヘロヘロになりながら。早朝、私だったら絶対帰りたいのになっていう時間なのに足止めてくれて。中には高いヒールの人もいて、疲れてるだろうに立ち止まって見てくれるからすごいことです
ACE:面白いよね、いろいろ出会いがあって。クラブのイベントだとやる側の気持ちだけ先走っちゃって人が集まらない、ギャラが支払われないっていうことも多くて。だけど路上だと実感、達成度が半端ない。この先どうなるんだろう、夢しかねえじゃんって。つらいこともいっぱいあるんだろうけども、これから楽しみ!みたいな、早く武道館サイファーやりたいね!みたいな。武道館を吹き抜けにしてもらってね。
CHARLES:さっき「オープンな」って言われましたけど、まず即興ってことがそもそも自由感あると思うんです。それでなおかつ屋外だから。決められた箱の中で即興やるのもいいですけど、街なかで、演奏もラッパーも即興で、飛び入りもあるからさらに自由ですよね。我々も何が起きるかわからない。突然おまわりさん来ちゃったりもするし。

-おまわりさんはもちろん、困ることもたくさんあるでしょう?
ACE:困るのは雨とか。機材があんまり雨に耐えられないので、ある程度降ってしまうとできないというのがいちばんネックかな。おまわりさんに関してはもう、最近は向こうもノリノリなんですよ。たぶん、おまわりさんの中ではいま渋谷サイファーブームがきてるんじゃないかと。
CHARLES:おまわりさん同士じゃんけんして、「俺止めに行く」「いや俺行く」「俺行く」みたいなことやってると思う。
ACE:「ちょっと聴けるぜ」みたいな。おまわりさんも、職業としてこなしてるだけなんで、人間は人間だから。だんだん最近サイファー好きな人が増えてんのかなって俺は思いますね。すごい優しいっすよ。優しいって言ったら失礼かもしれないですけど、彼らは真摯に彼らの仕事をこなしていて、僕らは真摯にそれに歯向かっていくという。渋谷の街自体が活性化されつつある感じするしね。路上ライブやってる人が増えてきたので。

-おまわりさん登場みたいなハプニングにも柔軟に対応していて、それも魅力ですよね。
ACE:そうですね。それも含めて渋谷サイファー感があるというか、リアルフリースタイル。
CHARLES:おまわりさんをスタメンに入れたらどう?
ACE:こんど言ってみる?「ラップしたら」って(笑)


渋谷中心に地球サイファーを広げたい

ACE:ただ、聞きたくない人もいるじゃないですか。一回だけありましたね、文句言われたことが。その時は雨が降っていたんで、井の頭線の高架下でやってまして。ちょっと強面の体格のいいお兄さん、30代後半くらいの人が、たぶん駅に向かっていたんでしょうね。掌幻(ラッパー)とふたりでラップしていたんだけど、向こうから声が聞こえたんです。なんだろう、けっこう大きな声だな、「かっこいいよ」って言ってくれてるのかなって思ったら「うるせえよ」「んなとこでやるんじゃねえよ」って。ま、当然至極まっとうな意見ですよね。ああそうか、そうだよな、今まで言われなかったのが逆におかしいんだよな。みんながみんなあの人みたいに大声で言えるわけではないんだって思って。それに対して僕はラップでアンサーを返したんです。そしたら彼は、信号が青に変わったのにそこで言い続けて。マイクを持ってる人と持ってない人のMCバトルみたいになったんですよ。俺が8小節やる間も彼は怒鳴ってるんですけどね。「ふざけんなよ、お前うるせえよ」「おい、やめろって言ってんだろうが」っていうのに対して、俺は「うるさくてもやめらんない、これがヒップホップのサガだ」「申し訳ないけど始めたからには突っ走るしかねえんだよ」みたいなこと言ったら、そのぶんお客さんもオォーって盛り上がっちゃって。結局その人が諦めて信号渡って行ったところがその日の盛り上がりのピーク。なんだこれ、この構図複雑だな、と。
CHARLES:絶対やめる気なかったね
ACE:なかった。で、道徳的に考えるとね、エゴとエゴのぶつかり合いみたいな部分もあるじゃないですか。そもそも路上で音出して人を止めるのが道交法違反っていうのなら、普通に立ち止まってるだけでも道交法違反かよってなってしまうわけじゃないですか。路上ライブっていうと警察の厄介になるんじゃないのっていうイメージがあるけど、なんかこうもっとピースになればいいなあと思いますね。

-TSUTAYA前は、そもそもこれ以上スペースがないですよね
CHARLES:そうですね。確かに、騒音というより人がたまりすぎて注意されるんですよね。おまわりさんもちょっと笑いながら「もう、君たち人気あるんだから、ハコとか借りてやりなよ!」みたいに言われて。
ACE:渋谷区が早く土地を明け渡して来れば、すべて解決するんですけどね。区長のほうに直談判を(笑)
CHARLES:いや都知事にしましょ。
ACE:ま、ていうかどっかに路上ライブ専用スペースを作ればいいんですよ。常に無料ライブやっているような場所が一ヶ所あってもいいんじゃないかなって思うけど。
CHARLES:それが変な場所に追いやられちゃったらやですけどね。
ACE:それはとりあえずTSUTAYA前ってことで。スクランブル交差点の信号変わるたびに一組ずつ交代するみたいな。いやそれじゃライブ時間が短すぎるか。なんかね、ハチ公前とかそういう広場にしちゃえばいいのにとか思っちゃうんです、自分は。ま、いろんな事情があるんでしょうけど。

-じゃあこの先、渋谷サイファーをどうしていきたいですか?
ACE:とりあえずフェスやりたいんですよ。でっかく言えば地球サイファー的な。まず渋谷から始まって、渋谷中心に地球サイファーが広がればいいかなっていう。まずは渋谷のVUENOSで9月27日にやるんですけど。

-バンドとしての渋谷サイファーはどう展開していきます?
ACE:それはまた『名探偵コナン』の黒づくめ級の謎で…って再び青山剛昌先生をパクらせていただくんですけど(笑)。ま、楽しみにしておいてくださいって感じですね。バンドとしての渋谷サイファーのCDが販売中なので、ぜひ買ってください! それと、中津川のTHE SOLAR BUDOKAN2015っていうフェスに出演決定してます。9月26日です。それこそ渋谷の路上でライブやってたら声かけていただいて、出演が決まったという。

-それはすごい!
ACE:この先、100年後も語り継がれるレジェンド・サイファーになりたいね。それぞれのメンバーがレジェンドであることはもちろんだけども。
CHARLES:はい。がんばります!

(取材・撮影:村田活彦)


<MOVIE>







<ライブ予定>

◆渋谷ストリートMUSIC FES
2015年9月27日(日)  Open 15:00/Start 16:00/Close 22:30
@渋谷VUENOS →チケット購入ページ
◆中津川THE SOLAR BUDOKAN2015
2015年9月26日(土)~27日(日) 
※渋谷サイファーは26日“Welcome Stage SP Live”に登場。
@岐阜県中津川公園内特設ステージ
公式サイト 

<リリース情報>
◆ACE ファーストアルバム『STRAIGHT』絶賛発売中!!
ブラジル生まれ新宿育ちのラッパーACE。客演にアジカンgotch、TOC、SHUN、R-指定、輪入道 を迎えた渾身の15曲入り。
購入はこちら 


◆掌幻 ファーストEP『FORK』絶賛発売中!!
東京は下町"墨田区"で生まれ育った1989年産のゆとり世代MC、掌幻。featuringにMEKA×MUMA、Casper、OTHELLO&ぴえろ(from RoZEO Crew)!
購入はこちら





路上で表現するということについて考えてみた ―小関峻インタビュー

2015年01月16日 23時47分33秒 | 音楽
昨年11月、ひとりのミュージシャンのブログ記事がネットで話題になりました。書いたのは小関峻というソロシンガー。池袋駅前の路上で弾き語りをしていたら、ある日警察に連行されて、池袋での路上ライブができなくなった、という内容です。路上ライブを週に4回、2年間続けてきたなかで初めての経験だったとのこと。この記事には賛否両論のコメントが寄せられ、またFacebookなどを通じて拡散されました。拡散したひとの中には有名ミュージシャンも含まれています。

私自身そのころ路上でオープンマイクイベントを試みていて、池袋ではパフォーマンス中に警察の注意を受けるという経験をしたところでした。そんなタイミングでこの記事を知り、彼に会いにいくことにしました。路上で表現をするってどういうことだろう。彼の経験を、自分なりに考えてみたくなったんです。

小関くんは現在、池袋を離れて別の駅などで路上ライブを続けています。この日は大塚駅のロータリー前。小さなアンプとスタンドマイクそしてアコースティックギター。それほど大きな音量ではないけれど、ハイトーンな声が駅前に響きます。19時半ごろからスタートして、休憩をはさみつつ21時ごろまで。年末の冷え込みの中、常連のファンが6~7名集まっていました。通行人のなかにも足を止めてしばし耳を傾けていくひとが。

ライブを終えた彼に、ファミリーレストランで話を聞かせてもらうことにしました。

―ブログ記事がシェアされたことで騒ぎが大きくなり、驚いたでしょう?
 批判するコメントが多くなってきたとき、あ、これはやばいなと思ったんで、早めに(コメント投稿を)閉鎖しました。応援コメントもあれば、それに被せるように「ダメだろ、路上ライブなんて。当たり前じゃねえか」みたいなのも来るようになった。それに便乗して批判が増えると、賛成派もまた来る。で、これはどんどん荒れてくなと思ったんで、5、6件来た段階でコメントは閉じちゃいました。でもフェイスブックとかツイッターのリプとかはどうしてもやっぱり見えてしまうんで、いいコメントも悪いコメントも両方見ちゃいましたね。気持ちは良くないですよね。別に路上が違法だってことはもちろんわかってやってますし。

―腹が立つという感じ?
 うーん、けどちょっと考えさせられましたね。こんなに嫌がってる人もいるんだなというのはやっぱり受け止めなきゃいけない事実かなと思ったんで。やっぱり僕らのマナーとかも見直さなきゃいけないんだろうなとは思って。ほかの路上アーティストもみんなやっぱりそうでしたよ。僕のブログとかコメントとかを読んで、みんな「自分がやったことは本当に正しかったのかな」みたいにちょっと考えさせられていると思います。

―路上演奏を批判する人には音量とか通行の邪魔とかゴミが出るとか、いろんな理由があるだろうけれど、どういうものが多かったですか?
 たぶん「うるさい」。あとやっぱり「通行の邪魔」だと思います。

―なるほど…。ではまず、2年前に路上ライブを始めたきっかけから教えて下さい。
 大学生の時はデモテープを送りまくってたんですよ。路上ライブは全然やってなくて。そしたらある、メジャーのレコード会社から声がかかって、一回お話をさせていただいたんです。そこで言われたのが「デビューさせたいけど動員数が足りないから無理だ」っていうことだったんです。「お客さんをなんとかして集められるようになったら、まあ考えられるよ」っていう感じだったんですね。それで、レコード会社のプレゼンのライブをやってあげるから、お客さんを集めなさいって言われたんです。その時に思いついたのが路上ライブだった、それがきっかけですね。

―そのライブまでの期日が決まってた?
 そうです。この日にプレゼンライブやってあげるから、それまでになんとかして人いっぱい集めろっていう感じで決まっちゃったんで。それが大学卒業間近ぐらいで。だからもう卒業と同時に路上漬けにしようと決めて卒業したんです。そのライブまで一年もなかったですね。10ヶ月とかくらい。その時からずっと変わらず週4回です。池袋で週4回やり続けようって決めて。

―そのころ池袋には路上ライブするひといっぱいいました?
 いましたね。そもそも駅前では新宿と池袋がツートップです。渋谷は若干やれる場所が少ないんで、池袋や新宿のほうが多いとおもいます。
 やる前は、どういうところでやってるのかなって研究して回って。あ、こことここでやってるんだ、じゃあ俺はここでやろうみたいな感じで。池袋西口は多いときで2、3組いました。3組いたらもうカオスですからね。音がかぶって。東口も4組くらいいます。あとサンシャイン側の五叉路にも何組かいますよね。西口でもルミネの方にいくとまたひとりいたりして。トータルでいったら毎日10組くらいいます。特に夏場は場所がなくて、取り合いです。 

―場所は決まっている?
 そうですね。だいたいここにいくとあいつがいるみたいのはありますね。僕も週4でやってたんでわりと自分の縄張り的なのはあったんですけど。

―ライブ動員を増やすために路上をやって、効果はありました?
 ありましたね、やっぱ。それまでライブハウス出ても誰もお客さん呼べなかったんですよ。特にこういうアコースティック弾き語りの人って、友達を呼べて2、3人じゃないですか。で、同じように友達2、3人呼ぶアーティストが集まってライブやると、入っても10人とか。お客さんは観たいの観たら帰っちゃうんで、本当にガラガラのところでやるっていうのが大学生の時の現状だったんですよ。いちばん最初に出たのは渋谷のアンコール渋谷っていう、アコースティック系の小さいハコでした。出やすいんですけど、出やすいぶんお客さんは全然入んない。かといってお客さんがめっちゃ入るようなところはノルマが高くてとても一人じゃ払えない。で、バーみたいなところにも出るんですけどやっぱりお客さんがいない。大学生の頃は本当にファンはひとりもいなかったです。だからこのままじゃいかんなって思って。プレゼンライブの話もいただいたんで、路上ライブに切り替えたんですよ。路上ライブやったらやったぶんだけお客さんつくんで、全然違いましたね。

―そのプレゼンライブは結局どれくらい集客できました?
 それはね、身内もたくさん呼んだんですけど50人くらい。でもそれまではノルマ10人も達成できなような自分だったんで、50人でもえらい進歩です。純粋なお客さんもちゃんと来てくれて。路上を半年以上続けたおかげで、10人以上のお客さんがちゃんとお金を払って来てくれたわけです。だから路上やったほうが、成果はでると思います。

-路上ライブをやることで仲間も増えたでしょう?
 増えましたね。ミュージシャンの仲間もできましたし。池袋の路上ライブのシーンが本当にすごく楽しかったんですよ。僕と他のアーティスト、共通のファンがいたりして。僕のライブ観たあとにあっちを一緒に観に行こう、みたいになってて。ちょっとフェスみたいな感じだったんですよ。お客さんにとってもすごく楽しい路上のシーンで。アーティストとしても集客のために効率いいし、お客さんもただで新しい音楽に出会えるチャンスがあるわけですから、うるさいだけではないと思うんですよね。今日来てくれた男の人とかは、池袋の路上ライブをハシゴされてたんです。だから池袋の路上が一気になくなっていちばん悲しんでましたよ。

―警官に止められるときというのは、どんな感じですか?
 「ダメだよ、片付けてね、また来るからね」みたいな感じで、去っていく。だからまあ僕らはそれを見てどうしようか、移動しようか、ちょっと時間あけてやろうか、とかいろいろ話し合ったりするんですけど。ま、基本移動しますよね。やっぱり危ないというか、さすがにちょっと申し訳ないので。あとはまあ「苦情が入ったから」って誓約書を書かされることもあります。

―誓約書?
 苦情が入った場合は「こういうことはもうしません」っていう誓約書にハンコ押すんです。ま、あれもいちおう形式的なものなんで、どうにもなんないんですけど。それも僕とかもう100枚近く書いてるんですけど。

―え! 100枚⁉︎
 ぜんぜん書いてます。たぶん路上やってるひとはもう何十枚と書いてます。路上を始めたばっかりで書かされた時は「やべえんじゃないか」と思ったんですけど。罰金とか取られるのかな、とかドキドキして。けど別にどうにもならないってことがわかってきて。それでみんな、誓約書を書いてもまたやるわけですよね。あと、別に苦情が入ってないのに嘘ついて誓約書を書かせる人もいるんですよ。

―警官によって? その嘘って分かるものなの?
 えっと僕、さすがにそれはないと思ってたんですけど、こないだ僕の知り合いのシンガーソングライターさんが警察に連れて行かれた…正確に言うと、警察官が「苦情が入ったからダメです」「誓約書書きなさい」って言ったところにお客さんが食ってかかってトラブルになったらしいんです。お客さんが公務執行妨害ということでちょっと連行されることになって、アーティストも「事情を聞く」っていうことで一緒に連れて行かれたんですよ。けど、いざ署で詳しい話を警官から聞いたら、別に苦情は入っていなかったと。違う件で近くに来て、たまたまやってたから声かけたんだと。で、それを知ったアーティストは「なんだあいつ、嘘ついてたのか」って怒ってました。嘘はダメでしょって。だから意外とそういう人もいるんだなという。ただまあ毎回嘘とは限らないですし、嘘は少数だとは思いますけど。やっぱ池袋とか新宿だと、路上やめさせる口実として、苦情なくても「苦情入ったから」ってやめさせる場合もたぶんあると思います。

―結局その場にいた警官の気持ちひとつでいくらでも変わってしまいますね。
 そうです。見逃す方もいますよね。今日の大塚駅前でも(警官が)ぜんぜん素通りしてたし。街にもよるし、人にもよる。あと忙しさにもよると思うんですけど。池袋でも、忙しそうな時はぜんぜん無視のときもあります。
 苦情が入ることは結構あります。やっぱ通報魔もいるんですよ。もうとにかく、路上をみかけたら通報するみたいな変な奴もたくさんいるんですよ。僕の友達で警官やってる人がいるんですけど、その人に路上の件を話したら、警察の方々も路上ライブは正直悪いと思ってないと。どっちかっていうとすぐに通報ばっかしてくる馬鹿な奴が多くて困ってるって言ってました。ちょっと車がうるさいからって苦情言ってくるやつとか、めっちゃ多いらしんですよ。「だからまあ、やむを得ないんだよね」っていう話でした。

―誓約書を書かされる頻度はどれくらい?
 池袋だったらまあ、3日に1回くらい。週4で路上ライブやってるから、週に1回は書く感じです。たとえば東口でやってダメだよって注意されて西口に移動して、そしたら西口で苦情が入っちゃったってこともあります。1日に何ヶ所か移動してやってたんで。本当にしょっちゅう書いてました。でもそれは僕に限らず、池袋で路上やってるひとたちはもう死ぬほど書いてますよ。池袋署に連れて行かれた時に、年間の通報の束を見せられました。すげえ数でした。だから苦情がたくさん入っているというのは事実です。その中にはまあ、悪質な通報魔もいると思いますけど、純粋に嫌だっていう人もたぶんいるのは間違いないです。人が多いとそれは避けられないと思います。もちろん、人が多いところだからこそ路上ライブする意味がある、とも言えるんですけど。

―なるほど。では、連行された当日はどんな経緯だったんでしょう?
 いつもどおり7時半から同じ場所でライブして、同じような常連のお客さんが集まってました。その日は6~7人くらいいたのかな。なんだかんだ1時間ちょっとはできたんですよね。じゃ一旦休憩いれますって終わったところで、普通のあの青い制服の警官が来たんですよ。
 で、その警官に「苦情入ったから今日はやめてね」って言われました。いつもように誓約書も書いて、片付けて「撤収!」ってみんなで移動しようと思ったら、そのあとに別なところから私服警官が来て「実はいま見てたんだ。苦情が入って捕まるの待ってたんだ」って。苦情が入んないとやっぱ現行犯で連れていけないみたいで。んで、たまたま池袋東口で俺がライブ始めるところを目撃したから「じゃあちょっと見ておこう」ってずっと見ていたみたいです、1時間近く。そうしたら案の定、苦情が入ったからってことで。「ちょっと署まで来てくれない?」って池袋警察署まで連れていかれました。乗せられたのはパトカーじゃなく、ちょっと違った車でしたね。
 もともと、それより数週間前に普通のお巡りさんに「今後ちょっと池袋のライブ取り締まりを強化するっていう噂を耳にはさんだから、君たち本当に気をつけたほうがいいよ」って言われたんです。で、それはちょっとやだなと思ってたんですけど。

―お巡りさんが?
 お巡りさんが教えてくれたんですよ。「上の者がそういう話をしているのを小耳に挟んだから、ちょっと今後危ないかもよ」って。まあ特に信憑性はなかったんで、変わらずみんな路上やってたんです。そんなときに私服警官が来たんで「あ、本当にそうなったんだ」って。なんか上の人が変わったらしいんですよ。池袋署の道路交通課の偉い方が今年になって変わって「もっと厳しくしていきたい」みたいな。通報の数にもううんざりしている、と。なんか毎日、書類にハンコ押すんですって。一枚一枚に。その通報の束見せられて「こんだけ来てんだよ」と。だから池袋でやるのはやめろ、と言われました。だから警官も別にそんなに取り締まりたくはないんですよ。それはすごく伝わりましたね。それで「今まで路上ライブやった街で、警官に止められなかった場所はどこだ」って言われて。津田沼とか止められなかったんですよね。「じゃあ、そこでやれ。そういう町だったら大丈夫だ」って。新宿、池袋、渋谷には特殊部隊がいるからって。

―特殊部隊って?
 道路交通法の特殊部隊がいるんだそうです。俺もそれはそのとき知ったんですけど。だからその特殊部隊がいる街は、いきなり連行して、現行犯で罰金とか、懲役とかにできるんだそうです。だけどほかの街では、注意はされるけどそういうリスクは絶対ないって言ってました。僕こういうことも細かくブログに書いちゃったんですよ。だからそれも今回の拡散の原因かなあと。けど、たぶん本当だと思いますね。新宿では、僕がつかまる一ヶ月前にアイドルバンドが連行されて書類送検されてます。そっちのほうが先駆け的な感じではあります。そのアイドルはニュースになったんですよ。で、それの影響もあって、池袋の路上が厳しくなってきたっていう噂が広まってきたんです。新宿で路上ができなくなったからアーティストがこっちに流れてきてるし、池袋もその流れで厳しくなってきてるっていう話を耳にはさんだのが10月とか11月だったんですよね。そんな矢先に、僕がああなった。

―今回、罰金はありました?
 ないです。厳重注意ですんだんで。けど「本当に次やったら(罰金を)やらざるを得ないから、君ほんとうに池袋はやめたまえ」っていう感じでした。ただ、それは僕が路上ライブやりまくってたからではなくて。「今日小関峻つぶしにいくぞ」って来たわけではなかったみたいです。「君のことは知ってたけど、今日たまたま君を見つけたからこういう形になった」と言ってました。そこにいたのが違う人なら、その人が厳重注意を受けて、池袋ではできなくなってたんでしょうね。で、その場で警官に「ほかの路上の仲間とかいるでしょ」って言われて。「そういう仲間のひとたちも捕まって罰金とかになっちゃうかもしれないから、ブログとかに書いて広めてね」って言われたんですよ。だから確かにそれはまずいなと思って。それと自分のお客さんがすごい心配してくれてたから、お客さんと僕の仲間に向けて「こういうことがあったから、池袋はちょっと気をつけたほうがいいよ」ってブログに書いたんですよ。それなのにあんなことになって。ちょっとびっくりしてます。

―なるほど。警察署にいたのは実質どれくらい?
 1時間までいかない…40分とか。写真撮られたりしました。誓約書を書いたり。それもいつの誓約書とは違う、がっつりしたやつ。なんかいつもは決まった文章に穴埋めをしていくレベルなんです。名前とか生年月日とかを穴埋めしていく。「はいここ書いて、ここ書いて。名前書いてね、はいハンコ」で終わり。だからあれはもう警官の方も形だけ、一応ちゃんと止めましたよっていうだけものなんですよ。けど、今回は白紙に「私、小関峻は何月何日どこどこでなになにをしました。もうこういうことはしません」みたいにがっつり一枚分書かされました。ちょっと、レベルが違うなと思いましたね。

―怖かったですか?
 うーん。怖かったというより、ああ俺はついに池袋でできなくなったという感じで。今後どうしようかなと考えてました。さすがに一発罰金とか懲役とかはないだろうなと思ってたんで。大人しく従いましたし。
 写真は前と横と、あと機材とかギターとかも全部撮られました。「これ上のひとに提出するから」って。で、「まあたぶん、罰金とか懲役にはならないと思うけど、まだ今の時点では確定ではないから」「1、2週間以内に連絡がこなければ大丈夫だ」って言われました。「僕らも別にそういうことにはしたくないから、なるべく穏便にするように上の人に言うから、君はもう池袋でやるな」っていう感じだったんです。その後は連絡がないから大丈夫だったみたいです。まあそのかわり、僕はいったいいつになったら池袋でできるのかなっていう。さすがにそこまで言われると、もうちょっとできないって思いますね。

―ミュージシャン仲間の反応はどうでした?
 いや本当にショックを受けてました。すごい励まされましたし、慰められましたし、心強い言葉をもらったんですけど。その人たちも池袋でやりにくくなってしまったんで、やっぱみんなすごい考えてました。今後どうしようか。やっぱ同じようにネットの反発コメントとか見て、本当に路上ライブってどうだったんだろうかっていうこともやっぱみんな考えてました。すごいいろんなストリートミュージシャンに考えさせられる事件になってしまったな、と。

―「路上ライブは正しかったんだろうか」というのがみんなの率直な感想?
 けどなんですかね、本当に悪いと思ってたらみんなやってないわけですから。みんなやめようとは思ってないでしょうし…。

―いま池袋で路上ライブやる人は減ってるの?
 もう誰もいないと思います。僕と一緒にやってた方たちも他の町に流れていったりして。けどたぶん僕以外のひとは別に連行されたわけじゃないんで、やっぱり池袋復活を考えてますよ。年明けくらいから少しずつやっていったらいいんじゃないかって。

―小関くんはブログで「路上ライブは違法」と言い切っていますよね。一方、池袋ではできなくなったけど、他の場所で路上ライブを続けています。そのあたりを詳しく聞かせてもらえますか。
 確かに、反発コメントで「自分で違法と書いといてなんなんだ」って人もよくいました。けど僕は、違法だと思いますけど、別に悪だとは思ってないです。絶対そうは思ってないです。だってこの世の、法からちょっとはみ出てることって全部悪いことですかって言ったら、そんなことないですよね。グレーなものもいっぱいありますし、他の国に行ったらオッケーなものもあるわけですよね。それをたまたま日本のこの町の、価値観だけで、違法だから悪だって決めつけられるのはおかしいですよ。と、僕は思うんです。違法だとは思ってますけど、グレーの範囲でやりたいですって話です。別にそれで反発くらうのはわかってますし、覚悟はしてます。グレーゾーンでありつづければよかったんですよ。けど今回警官がちょっと一歩踏み込んできて黒にしようとしてしまったがために、こうなってしまったという感じ。
 もともと路上はライブハウスで呼ぶための手段でしかなかったんで、お客さんが増えればやめてもいいと思いましたけど、けどやっぱり路上ライブっていうのはひとつの文化ですよね。路上ならではの楽しみって絶対ありますし。路上ライブによって救われた人も絶対たくさんいると思います。

―路上ならではの文化ってどういうもの?
 なんだろな…今ってライブハウスでふらっと立ち寄れるところってすごく少ないじゃないですか。帰り道にちょこっとなんて全然ないんですよ。だから一般の客なんか全然入んなくてガラガラなんです。それに比べて路上ライブって帰り道に音が聞こえてなんだ?って立ち止まって、で、そこで人と人とが出会って繋がって、恋人になったりもするんですよ。友達にもなるんですよ。コミュニティーにもなるんですよ。その人たちの人生変わってくるんですよ、ほんとに。そういうこともあり得るわけですよ。もちろん嫌がる人もいると思いますけど、反面それをすごく望んでる人もいるんですよ。お金がなくてライブハウスに行けないっていう人も、路上ライブだったら毎日来たいっていう人もたくさんいるんですよ。常連のお客さんも、これ聴きたくて今日1日仕事頑張ってきてんですよ。そう考えたらどうですか、完全に排除なんかしちゃっていいのかなってなりますよね。仮にあの広場に嫌がる人がひとりいたとしても、あそこにいた5~6人がやってほしいって望んでいたんならなんで、ってなりません?

―たとえば東京の制度としてヘブンアーティストというのがあります。あるいは千葉の柏では路上ライブを認定制にてして認めていますよね。
 もちろん、そういうのもすっごい調べましたよ。けど、やっぱりああいう制度って、ストリートミュージシャンにとってとっても都合がよくないんですよ、どうしても。

―どういうところが都合よくないですか?
 時間、場所の制限。アンプ不可。物販不可。この時点で、僕らとしてはもう致命的です。あとヘブンアーティストは門が狭すぎて。弾き語り系は全部もうアウト、取りませんっていう感じなんです。100%とは言いませんけど、ヘブンアーティストで邦楽を弾き語りしてるひとはまずみたことないです。審査があって、たぶん取る気ないんだと思います。憶測ですけどね。大道芸と、外国系の音楽はとってますけど。

―ではもう少し路上ライブがやりやすくなるとしたら、どういう形がいいと思いますか?
 こないだ池袋のライブハウスの店長さんとお話してきたんですよ。その店長さん的には、今回のことでストリートミュージシャンがいなくなってしまった。よってお客さんがいなくなってしまって凄い打撃をうけた。ホントに死活問題で困ってるから、ちょっと俺と相談したいってことで僕呼ばれて、今度そこでライブさせてもらうんですけど。その人は本当に困ったから、池袋の署の上の人にアプローチしてるみたいなんです。で、そんときも話あったんですけど、例えば規制をユルくしていくんだったら考えられることとして、西口公園を何時から何時まではオッケーにするとか。そういう形であれば現実的にあり得るかもしれない。けど、たとえば西口公園の一角を物販なしで何時から何時までオッケーにしたとして、そこでやりたいというストリートミュージシャンはほとんどいないはずなんですよ。条件が悪い訳ですし。そしたら結局ほかの駅前でやるようになったり、他の町に流れて行ったり、他の時間でもやるようになっていったり、というようなことがきっと起こると思うんです。そういうふうにガッツリ制度を設定したとしても、完全にシロにはならないと思うんですよ。それはもう性質上どうしようもないところかなと思うんですけど。
 柏はストリートミュージシャン申請式になっていて、許可をとった人だけ、アンプを使わないなら演奏できますよってことになってます。だけど、グレーゾーンでアンプ使ってふつうに物販する方もたくさんいるんです。それでまあ一応共存してるわけですよ。だから、仮に池袋の西口だけオッケーにするっていうだけでも「あ、池袋は音楽オッケーな町なんだ」ってイメージはつくかもしれません。そうするとおのずとグレーのレベルが上がるんじゃないかな、と思うんです。僕は路上ライブを完全にシロにするのは無理だと思ってます。別にしなくていいと思う。だけどちょっと「音楽の町だよ」ってうたってる感じになればいい。川崎とか柏みたいになれば、違法ではあっても警察官も優しく見守る、僕らも最低限のマナーを守ってやる、といううまい共存の仕方があるはずだと。実際、川崎とか柏がそうできているように、池袋でもできないことはないんじゃないかなと思います。

―川崎や柏で路上ライブしたことはあります?
 柏はないですけど、川崎は行ったことあります。川崎はかなりゆるいです。警官もほぼ止めないです。すごい黙認ですね。で、かなりの数の人が路上でやってます。もちろん嫌がって通報する人もいるんで、通報入ったら止めにくるんですけど。

―苦情も少ないのかな?
 いや苦情はあると思います。けどもう川崎は音楽の町ってうたってて。たぶん市のほうで、川崎のイメージアップのために「音楽のまち」っていうことで路上ライブをオッケーにしたんですよ。そういう町のイメージついてるので、たぶん通行人とかも川崎は路上でやっていい町なんだねってみんな思ってるんですよね。

―結局意識の問題なのかもしれませんね。
 ほんとに意識の問題なんだと思います。けど川崎で僕がやったときに。通行人に「ここでやっちゃダメなんだよ」って言われたんで、ま、やっぱいるんですよね、嫌がる人は。文句言ってくるひとは。
 池袋もたぶん、徐々に元に戻って行くと思いますよ。僕がもどれる日はだいぶ先だと思いますけど。多分他の方々は年明けぐらいから徐々に戻ってくるんじゃないかなあと思います。

―小関くんのことは、警察による見せしめみたいなところあるよね。
 そういうことです。なんか、僕の仲間が、こないだ池袋の南口の隅っこのほうでちょろっと路上やってたんですって。ホントに隅っこのほうで。そしたら運悪く私服警官に会ってしまったらしくて。「君はこの噂の池袋で何をやってるんだ」って言ってきたらしいです。普通に注意されただけで終わったんですけど。で、警察としてもこんなにネットで騒ぎになるとは思ってなかったらしくて。「僕らも本当は共存したいんだけどね」というようようなことをぼそっと言ったみたいです。俺のブログがこんな風になるとは予想してなかったみたいですね。

―効果てき面だったわけだ。
 てき面なんですけど、ちょっと警察のイメージも悪くなっちゃうじゃないですか。「池袋の警官ひでえ」ってなるじゃないですか、だから警察も「ちょっとやべえな」ってなったと思うんですよ。憶測ですけどね。

―なるほどね。
 だからもしかしたらちょっと緩めていくんじゃないかな、という気がしないでもないです。グレーゾーンで続けていくのでいいと思うんですよ。そういうものっていっぱいあると思う。

(2014年12月22日 JR大塚駅前ロイヤル・ホストにて)


 食事をはさみながら45分ほどのインタビュー。「路上で表現をするってどういうことだろう」という大きな問題を考えるには、まだ入口にすぎません。
 ただひとつ言えるのは彼の真摯さがひしひしと伝わってきたということ。自分の音楽やお客さん、仲間に対してはもちろん、たまたま出会う人や批判する人、警察に対してもまっすぐに受け止めている感じがします。そのうえで自分の考えを時に冷静に、時に熱く語ってくれました。
 歌声を聴いたときの第一印象は繊細な感じだったんだけど、思っていた以上に骨太。最後にそれを本人に伝えたら
「ま、それなりに信念もってやってますから、路上は」
という答が返ってきました。



中島みゆきコンサート「縁会」@東京国際フォーラム

2012年11月16日 09時39分31秒 | 音楽
最近、なんの脈絡もなく
中島みゆきの『りばいばる』が頭のなかに流れ出したことがあって
それから2~3日脳内ヘビーローテーションだったんですが

それくらい、みゆきさんの曲が体にしみこんでます。
中学時代から聴いてますんでね。


昨日、東京国際フォーラムAホールにて
中島みゆきコンサート「縁会」聴いてきました。

『愛だけを残せ』という曲で、ちょっと涙腺ゆるんだ。
個人的なエピソードをふと思い出したもので。
かといって、当時この曲をよく聴いていたからという訳でもないんですが。

『愛だけを残せ』っていうのは
スケールが大きくて情景描写の少ない歌。
みゆきさんの場合こういう歌でも、つまり情景やストーリーを歌わなくても、
聴く側がそのメロディやフレーズに触発されて心ふるわせる、
歌が聴き手の鏡のようになっているのだろう。
そうやって、涙とか思い出とかこらえてきた気持ちとかをデトックスして
明日からまたやっていける、ということなんだろう。



この写真は終演後のロビー。
なんでまたハリウッドスター来日の成田空港みたいになってるかっつうと
セットリストをみんな写真に撮ろうとしてるのね。




あと、こっちはおまけ。
国際フォーラムの出口あたりに貼ってあったポスター。
このメンツすげー、と
隣りで同じポスターみてた男性と盛り上がってしまった。



フジロックのロック以外部分

2012年08月16日 16時44分51秒 | 音楽
フジロック2012で
ライブ以外に印象的だったことがあるので
ちょっと書いておきたいんですが。


それは3日目、7/29のジプシーアバロン。
17:10からのアトミック・カフェ トークという時間がありまして

津田大介氏を司会役に
松田美由紀、巻上公一(ヒカシュー)、
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、
そしてサステナという広告会社の代表・マエキタさん
以上の方々のトークだったんですが


そのなかでお二方の発言を。

一人目はアジカン・後藤氏。
彼は震災のあと、
「身体性のことを考えるようになった」と言うんですね。
「原発のことも、沖縄の基地も、それがどこにあるのか体で感じないと」
そう思って、ツアーの合間などに
原発立地に実際に行ってみたりしたと。

それを聞いて大きくうなづいたんですが、
たとえば原発のことを考えるのに
それは自分の住んでいる場所からどれくらい離れているのか、
どんな海や川があって、そこにどんな言葉をしゃべる人が住んでいるのか、
一度でも自分で行ったり、見聞きしたり、体験するというのは重要だと思う。
知識としてだけじゃなく、
自分の身体で関わりを持つということ。
私はまだまだできてないことですが。

それともうひとつ
後藤氏がThe Future Timesというフリーペーパーを始めたことについて
音楽活動以外に、なぜそれをやろうと思ったかという質問に対して
「音楽史を調べると、吟遊詩人がニュースを伝えた時代があった」
ということを言ったんですね。
荘園から荘園へ渡り歩いて、世の中の出来事を伝えていた、
その吟遊詩人のような役割をフリーペーパーでやってみよう、と。

これもなるほど、と思う話で。
以前、ブラジルに行ったときに
ブラジル北東部のヘペンチスタ(吟遊詩人)について少し調べたんですが
確かに吟遊詩人という存在は
詩人であり、音楽家であり、大道芸人であり
しかもニュースメディアでもあったんですね。
ほかの町で起こったことを即興の定型詩にして、
それを街頭や酒場で朗読したり、冊子にして売ったりしていた。

ノルヂスチ(ブラジル北東部)に行くと
今でもそういう吟遊詩人の冊子、
コルデルといってガリ版刷りのものなんですが、
お土産として売ってたりします。


現代はどちらかというと
音楽は音楽、報道は報道みたいに
細分化、専業化しがちな時代だと思うんですが
後藤氏が音楽の歴史について調べてるうちに
吟遊詩人という存在に触れ、しかもそのやり方を実践してるのが
面白いし、意義あることだと思います。



もう一人はヒカシューの巻上公一氏。
トークの間、それほどたくさん話された訳じゃないんですが
最後のほうで言われたこと。
要約するとこんな感じ。

  「あれをやれ」とか、「こうしよう」っていう音楽は嫌い。
  「愛し合おう」という音楽も嫌い。
   だけど、音楽はパーソナルなことのエネルギーになる。



うん。
これはこれ以上、私の感想を付け加えずにおきます。









復興の花

2011年11月05日 20時26分09秒 | 音楽
という曲を


ツイッターから知りました。
そのCM動画。





竹原さんは3月11日、
ライブで福島市にいて足止めをくらい
そのあと避難所に指定された小学校で
子供たちとサッカーボールを蹴りながら
頭の中でこの曲を完成させたそうです。



フジロックで
野狐禅の『自殺志願者が線路に飛び込むスピード』を聴いたときのことは
忘れようがない。


ジプシーアバロンから溢れ出るくらい
お客さんが集まってるのが見えて
近づいていくと
人垣の向こうから音よりもまず
正体不明のとてつもない熱量が伝わってきた。







倍速モードの今日この頃

2011年10月07日 07時57分48秒 | 音楽
AKB48とももいろクローバーきいてたら

いや聞きくらべるつもりはなかったけど
最近AKBとももクロばっか聴いてたら



気になったのが、歌詞の文字量
ももクロのほうが圧倒的に多くない?


やっぱ秋元先生は
古き良き作詞家だなというか
一音一語の原則をわりと守ってる感じがするんだけど

ももクロちゃんは
もともと楽曲の音符数も多くて
さらに歌というよりしゃべりになってる部分もあるから
必然的に語数が多い



逐語的な情報量、というか文字数の差でいうと
「Dr.スランプ」と「銀魂」くらいの違いを感じる

わかりにくい比喩ですね




ともあれ、こういうのも
日本語ラップが浸透、定着してきた影響なのかなあ










方言萌えってあるよね

2011年09月29日 07時39分37秒 | 音楽
「ヒダディーひとり旅」みてて思ったんだけど

みんなもっと
方言とか地元のイントネーションが
ラップに出てきてもいいのにって



四国とか大阪のMCで
ちょっとそういうのいたかな。

でもほとんどみんな
しゃべってるときは方言なんだろうに
ラップだと標準語になってんだよね



こないだ
大宮サイファーをちらっと(遠巻きに)見にいったときも
標準語でやってるっぽかった。



レベゼンなんちゃら
とか言ってるわりには
その土地の「お国言葉」が出ないのって
もったいないというかさびしいというか。



今ってさ、全国どこいっても
コンビニとファミレスとジャスコとTSUTAYA
みたいな風景になってて
それはそれで便利だし嫌いじゃないけど

良くも悪くも
地方が均一化していくなかで
最後に残る「差異」は
言葉なんじゃないかと思う








成仏必須

2011年08月22日 23時05分55秒 | 音楽
ひさしぶりにニコ動めぐりしたら
やっぱボーカロイドがおもしろくってですね

とにかくこれ貼っておきたい。




般若心経ポップって。

ちょっと思いつくかも知らんが
「思いつく」と「作ってみる」の間には
深くて暗い川があるのね。


そして、この「おにゅうP」に触発されて
アレンジが続出した模様



ロック般若心経





ハードコア般若心経





般若心経in Loud Park





バラード般若心経





ダンスホールレゲエ心経





ゲームプレイ中にかかりそうな般若心経





アニメオープニング般若心経





都会のオシャレな般若心経





カフェで聴きたい般若心経。別名「菩薩ノヴァ」(これイチオシ)




般若心経スカ





80年代シティポップ心経





ジュリアナ心経





サンバ般若心経(かなりベストマッチング)




般若心経ポンチャック





レクイエム心経





スコットランド般若心経





本場印度風般若心経





般若心経シューゲイザー(これも絶妙)





(ドラムンベースならぬ)モクギョンベース般若心経





般若心経R&B(リズム&ボーズ)ボーカロイドじゃないけど完成度は涅槃級





って腹筋痛くなるまで笑いながら
次々に聞いてたら
とうとうこんなオリジナル(?)ラップに行き当たり





最終的にこんな開祖にたどり着きました。








はんにゃーしーんぎょー。






Serphの“vent”ってアルバム聴いてる

2011年06月19日 07時14分48秒 | 音楽
ヴェント。ベント。


そう、あの「ベント」



もう四半世紀くらい愛用してる
旺文社の英和辞典「comprehensive」によると

名詞として
1.[気体・液体などを出し入れする]口、穴、通気孔
2.(比喩的)[感情などの]はけ口、発露、表出

動詞として
[感情など]にはけ口を与える
[かわうそなどが呼吸のために]水面に顔を出す
[液体・空気などが]出口を見つける、漏れ出る



赤いボールペンでアンダーライン引いてあるってことは
受験時代に一度おぼえたことあるんだな