朝日新聞の連載です。名優大滝秀治さんの発言に注目です。
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〈高倉健撮影日誌:10〉軽トラ登場、運転席には…
2012年8月7日03時00分
11月10日 長崎県平戸市・薄香港
再び平戸の薄香へ。大滝秀治さん演じる老船頭のところへ、英二が船を出してくれるよう頼みに行くも、「ほかを当たってくれ」とすげなく断られるシーンを撮影します。
断られた英二は「失礼しました」と一言残し、クールに格好良く家を出て行く演技を見せるのですが、カメラに写り込まない場所まで来たところで、健さん、そこにあった柱を蹴ったりパンチしたり、八つ当たり攻撃をしてみせ、みんなを笑わせていました。
健さんほか俳優たちが引き揚げた数時間後、スタッフだけ残って、食堂前の実景撮影をしていました。嵐が吹き荒れるシーンです。風を起こす機械と放水機を使って、繰り返しリハーサルしていると、1台の軽トラックが現場を通っていきます。一般の車かと思いきや、運転しているのは何と健さん!
スタッフの軽トラを借りて、いたずらをしに戻ってきたのでした。口あんぐりの一同。そして爆笑。そのまま健さんは走り去りました。「まだやってんの、って驚かしてやろうと思ってね。でも、マニュアル車は慣れてないからぶつけちゃわないか心配だったよ」。おちゃめ全開の健さんでした。
全ての撮影が終わったあと、健さんが、22人いる女性スタッフ全員を近くの焼き肉屋さんに招待してくださり、降旗組の女子会になりました。「こんなに女子が頑張る現場は初めて」と激励していただきました。とろけるお肉、とってもおいしかったです。
11月12日 薄香港
お昼の後、船のシーンです。次の出番に備えた大滝秀治さんが見ていました。ご自身が乗る船を見て「止まってても揺れてるぞお」とニコニコしながらも、ちょっと不安そうです。スタッフが「大丈夫ですよ。酔い止めが6時間効くそうですから」と応えると「6時間も乗ってられないよ~」と冗談で返すところがなんともかわいらしいです。
船の出港シーンは、どんよりした厚い雲が去るのを待ってから始めることになりました。健さんは待ち時間も車に戻らず、綾瀬さんと恋人役の三浦貴大さんと3人で、寒い中にもかかわらず、1時間以上も立ち話をしています。おっとりした綾瀬さんに、健さんが鋭い突っ込みを入れている様子が遠目にもわかります。
その間、大滝さんは、船の先端にずっと座って待っています。スタッフが気を使って、船から下りていただくよう案内しようとしますが、大滝さんはそれを断っています。ひたすら現場で待つ、その姿がとても印象的でした。
結局、撮影は延期になりました。待ちに待たされた一日。長崎名物の角煮まんじゅうの差し入れがあり、みんな、あったまって帰りました。
11月13日 薄香港
延期になっていた出港シーンの撮影。この日の朝も空は雲に覆われていましたが、1時間待ってようやく晴れ間が現れました。大滝さんが船に乗る際に、健さんが大滝さんの体を支えてエスコート。太陽が出ると少し温かくなります。本番一発でOKになりました。
その後、三浦さんと健さんを乗せた船が港から出て行くシーンを撮影。湾を出発した船を横から狙うカメラ、湾を出て遠ざかる船を追うカメラ、遠くで健さんの寄りを狙うカメラ、3台使って一気に撮影してしまいます。
健さんは「いま、おにぎり食べたばかりだから吐きそうだなあ」と冗談を言いつつ、いよいよ出港です。
操縦は実際はスタッフがしているのですが、カメラに入らないアングルに隠れており、画面では三浦さんが操縦しているように見えています。これも一発OKでした。この日で大滝さんと三浦さんがアップ。
「駅 STATION」など健さんと共演の多い大滝さんは「仕事に入ると、高倉さんは役を普通に演じておられる。だから僕も普通に演じられる。役者の芝居で一番難しいのは普通にやることですね。普通にやるためには、中身がぎっしり詰まっていないといけないんです。高倉さんは俳優として大変怖い人です」。
大滝さんは86歳とは思えないくらい大きな声でパワフルな芝居をして下さり、そんな大滝さんを健さんはとても尊敬していらっしゃいました。(東宝・中村仁美)
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普通がいちばん難しくて、普通にやるためには中身がぎっしり詰まっていないといけない。肝に銘じさせていただきます。
+++++健さんの著作集+++++
あなたに褒められたくて (集英社文庫) | |
高倉 健 | |
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旅の途中で (新潮文庫) | |
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