高倉健さんばかりでなく、降旗康男監督のコメントも記録しておきましょう。
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背中が真っすぐな健さん
高倉健6年ぶりの映画「あなたへ」
降旗 康男監督
大坂日日新聞 2012年8月12日
小さいけど温かい物語
高倉健(80)が「単騎、千里を走る」以来6年ぶりに映画主演した「あなたへ」(東宝配給)が25日から、大阪ステーションシティシネマほかで全国公開される。健さんと名コンビの降旗康男監督(78)は「これが20本目。今でも背中が真っすぐな健さんは日本映画の宝」とほほ笑みながら撮影を振り返る。
■長年のコンビ
-やっと重い腰をあげた健さん。
長い間、一緒にやって来たので、また組んで仕事できたのがうれしい。これまで何本も企画があったが、健さんの気に入るものがなかった。「夜叉」からずっと付き合いのあった故市古聖智プロデューサーが生前に「健さん映画」として残されていたシノプシスの一本に「あなたへ」があって、これを脚本にして健さんに持って行ったら気に入ってくれた。むろん東宝のOKも取って企画がスタート。
-健さんの重い腰を上げさせたものは?
脚本の中身。ストーリーでしょうね。それに市古プロデューサーとこれまで健さんと一緒に仕事した人たちの思いがこもっていたからかもしれない。脚本にする過程で健さんとは打ち合わせもしたし、市古さんが企画したのは十数年前だから今の健さんの年代に合わせる必要もあった。「夜叉」の田中裕子さん、ビートたけしさんにもう一度出演してもらった。
-健さんは刑務官の役で、亡くなった奥さん(田中)の遺言で遺骨を九州まで運ぶ。
「網走番街地」シリーズと違って今の健さんは温かい刑務官の方が似合う。健さんのイメージは、過去に漆黒の世界があって、そこを抜けながら、また戻ってしまうということが多かった。荒事を選んでしまう宿縁。今度はそれを外そうと思った。それまでとらわれていたものから解放されていくプロセスを、富山から長崎までの旅で経験する。その間いろんな人に出会いながら。
■解放の旅
-奥さんの遺言の意味も考えながら。
刑務官の仕事は決して楽な仕事ではないがそれなりに平和で幸せに暮らしていた夫婦。奥さんは夫に故郷の長崎の海を見せたかったし、「人生は狭くない」と言いたかったのだと思う。そんな外の世界に触れる機会が少なかった健さんの旅は解放の旅であると同時に、人間の終末、あるいは死をその先に見据えているのかもしれない。
-新しい道を発見するような男のたたずまいが健さんにある。
もうまなじりを決するようなことはないが健さんの刑務官は真っすぐに立っている。それは俳優・健さんとダブって見える。80歳になっても健さんの背中は真っすぐで、それが素晴らしい。6年ぶりの仕事になったがそんなに空白があったとは思えないし、魅力が深化している。
-最近少ない大人の映画になっている。
亡くなった奥さんの思いが夫の健さんに届くことが旅のテーマ。そして、健さんの思いが旅の途中で出会う人たちに伝わればいいなと思う。映画のクランクイン時に東日本大震災が起こった。大変な災害の中で多くの人が人間同士の絆の大切さを痛感したが、今回の映画は小さくて細いけれど、地下でつながっている地下水のように染みる映画になればと思った。
-健さんと降旗監督の友情が映画に染みている。
僕が助監督時代からのスターで、僕の2本目の映画「地獄の掟に明日はない」(1966年)で初めて出てもらった。あの時、初号の次の日に健さんが「うちの(当時奥さんだった江利チエミさん)がこういう映画の方があなたに合っている」と言っていたとおっしゃったことがうれしかった。健さんは僕の厳しい批評者でもある。怖いですよ(笑)。
■緊張をほぐす
-今回の健さんにとって初共演者が多かった。
田中さん、たけしさん、大滝秀治さん以外は皆さん初めての仕事になった。草なぎ剛さん、佐藤浩市さん、綾瀬はるかさんなど。皆さん、健さんが入って来るとどうしても緊張してしまうが、健さんは「がんばってますね」と気軽に声をかけてコミュニケーションを取る。それが自然で、共演者はその言葉にほぐされて芝居に集中できるようになる。
-またもう一本健さん映画を。
今回毎日が楽しかったし、健さんもやってよかったとおっしゃっているので、またチャンスがあるかもしれない。その前に「あなたへ」を見てください。ラストシーンの健さんに思いを託した。
ふるはた・やすお 1934年生まれ。長野県出身。57年東大卒業後東映入社。66年に緑魔子主演の「非行少女ヨーコ」で監督デビュー。2作目で高倉健主演「地獄の掟に明日はない」を監督。以後今作まで20本コンビを組む。ほかに藤純子(富司純子)主演「日本女侠伝・真っ赤な度胸花」など多数。次回作「少年H」(東宝系来春公開)を取り上げている。
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監督の思いが十分に伝わった映画になっています。観客は行間を読む作業を要求されますが、映画ファンとしては、それが楽しみ。試写会で見ましたが(レビューは、こちら!)、劇場でもう一度楽しませてもらいます。
21本目の健さん映画をお願いします。
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