「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの教育:算数・数学の公式について(3)最終回

2014年03月16日 | 教育



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 いつもコメントを頂くKさんから、示唆に富むお話が届きました。今日は、このコメントからスタートし、「割合」と「速さ」の学習を発展的に進めるために、これらの公式を理解することの大切さと、指導する上で問題となる事柄をまとめ、3回に亘るこの話題を終わりにしたいと思います。

 Kさんのコメント抜粋:『初めて知った算数の公式……数字の足し算はお金、割り算もお金で考えると不思議と暗算もできました。……複雑な分数はケーキの詰め合わせの食べられる個数で考えていたのかも。』

 Kさんは理系出身で、その分野を極めた人物です。彼は、私のブログを読んで、「初めて知った算数の公式」と述べています。この事から、これらの公式を、公式としてではなく、日頃の生活の中で得た経験から、常識として取り扱えた子どもだったと言えるでしょう。

 Kさんのおっしゃるとおり、小5・小6位の年齢になれば、日常の経験からストックされた知識で、「割合」や「速さ」の考え方は、類推して納得できるはずです。実際、塾では1日でその項目の導入授業を行い、応用問題まで一気に指導します。また、Kさんが小学生の頃は、「割合の公式」は教科書には載っていない、一般的な指導法ではありませんでした。


 学力上位生にとって、それらの公式を理解することにおいて、使う言葉の統一がやや難点ですが、既存の知識に公式がすんなりと収まる程度のハードルでしかありません。しかし、これが理想なのですが、多くの生徒がこのように上手く知識として定着するかと言えば、そうではありません。

 「割合」を、小学生に理解できるように指導する方法は、ここ数十年かけて確立されてきました。初期段階では、使う言葉さえまちまちで、統一性に欠けていました。すんなりと割合の3つの数量の関係を理解した学力上位者と同等に、多くの子どもたちに割合を理解させるための手法が、さまざまに研究されました。

 けれども、今まで綴ってきたように、小中学校における「割合」と「速さ」の習熟は低い状態です。では、どうしてこのような状況が起きるのか、その原因を考え問題点を指摘したいと思います。



1.算数は、覚える教科でしょうか、考える教科でしょうか?

 無論多くの人は、算数は「考える教科」と答えるでしょう。そして、多くの方が望み、そして理想としたい正解が、その答えに込められていると思われます。けれども、算数には、その両面が含まれ、二元論的に論じられないという方もいるでしょう。確かに、公立小学校においては、考える力を養成する教科として算数を位置づけたいところです。けれども、現場で費やす指導者のエネルギーは、九九・単位・筆算・求積公式などを修得させるために費やされます。建前は、考える教科ですが、そうした現状を鑑みれば、算数は繰り返しの練習を必要とする、基礎知識・技能に重点がある教科とも言えます。

 したがって、「割合」や「速さ」の項目に関して、線分図や情景図を書いて、みんなで考えて何とか答えを導き出す学習は、ある意味で充実した授業となります。指導法にテクニックが必要な「公式」を前面に出さず、学習項目の全体像(概念)を理解できなくとも、個々の基本的な問題を、多くの子供たちに考えさせる機会としたいという、教える側の考え方は良く分かります。

 小学校の算数では、求積公式のように、それを知っていれば、数値を代入して解答を得る問題練習が多いはずです。ですから、割合や速さの学習項目では、「公式」を暗記させ、算数を「覚える教科」にしたくないと考えても、不思議ではありません。

 けれども、その結果、「割合」の習熟度の低い中学生を、大量に生み出す状況が起きています。「公式」を用い、発展的な内容の問題を取り扱えない公立小学校において、3つの数量の関係を理解させる「公式」の役割りを再認識し、暗記ではなく考える授業を展開できる指導法の、さらなる研究が求められます。

2.大人が分かるからといって、子どもも分かると言えるでしょうか?

 「公式」に対する拒否反応を示す指導者の多くは、大人は「公式」など覚えていなくとも、そうした問題を簡単に解くことができるのだから、「公式」など不要と主張する場合が多いようです。

 例えば、1000円の20%引きの値段を出すのに、確かに大人は公式など不要です。けれども、ある品物を買って8%の消費税360円払ったとき、その品物の定価を求めることができない大人は、恥ずかしとは言い切れません。大人が分かることとは、生活の中で繰り返し経験するワンパターンな事柄に限定されることが多く、そこから発展して全体を見ることができるとは限りません。

 子どもは、大人のようにそうした日常の経験が乏しいことを、まず認識すべきです。大人が常識的にできることが、多くの子ともたちにとっては、全く新しい知識であることも結構多いのです。

 そうした子どもたちの特性を理解して、「割合の公式」を用いて指導する方法が工夫されたのは、そんなに古いことではありません。割合で使う言葉の統一も、ここ数十年の成果です。当初は、大人が使うような、基準量・比較量・割合といった熟語を使っていました。子どもに、「割合」という漠然とした知識ではなく、汎用性のある3つの数値の関係を理解させる方法として、公式が定着してきました。

 ですから、「割合」の概念を理解し使えるようにするために、子どもに「割合の公式」を理解させるという指導法に対して、実践的な成果と意義を話せば、賛成する方は多いと思われます。

3.言葉がややこしいからといって、言葉を教えないままでよいでしょうか?

 「割合の公式」に対して、違和感を覚える方の多くは、その「公式に使われている言葉」に対して、拒否感をお持ちのようです。大人が、割合に関する事柄を考えるときに、間違いなく基準とする値が見えていて、それに対する比較量と割合も、生活上繰り返しお目にかかっています。この枠組みは、大人にとってさほど難しいものではないので、かしこまって公式にあるような語彙を用いて考えません。かつ数値を日々取り扱う専門分野の人は除き、ワンパターンの事象に割合を適用していますので、なおのこと公式など用いる必要を感じず、それらを常識として感じとります。

 その結果、割合の公式に使うあらたまった言い回しの語彙は、問題を複雑にしてしまう厄介者と、大人は認識することが多いでしょう。しかし、「割合」という新しい概念に、初めて触れる子どもたちにとって、的確にその知識を習得するために、実はそうした言葉は重要な役割を果たします。

 多くの子どもに対して、「割合」の概念を定着させるために、使用する言葉が統一され、実践の中で指導法が確立されてきました。また、子どもが物事を考えるとき、言語を介して考えているので、「キーワード」となる言葉は、問題解決に重要な役割を持っていることも、こうした指導法を後押ししました。

 子どもは、多くの場合、さまざまなキーワードを思い出しながら、問題の中核にフォーカスしていく思考法を採っています。キーワードは、問題解決に必要な情報を体系化し、取り扱う情報量を最小限に限定する役割も果たします。

 「割合の公式」と「速さの公式」は、それぞれ3つの言葉を使用して成り立っています。それらの言葉の意味内容を、子どもに理解させて、使いこなせるようにすることは、こうした項目の学習には必要なことだと私は考えています。

4.汎用性のある公式だからこそ、その指導法研究にチャレンジしてみては!

 中学1年で学習する球の体積と表面積を求める公式のように、この学年では論理的に導き出すことができないこのような公式は丸暗記しなければなりません。(私は、『身(3)の上に心配(4パイ)アール(r)の三乗』と教えます。)

 けれども、「割合の公式」と「速さの公式」を小学生に教える場合は、子供たちの既存の知識から導き出されるように、さまざまな工夫が必要です。暗記する公式から、考えて導き出した法則としての公式にできたなら、子どもたちは考えの深まりに喜びを見出すことでしょう。指導の成果は、教師の力量により、大きな差があることは確かなのです。

 毎年塾で、また公立小学校でも、「割合」と「速さ」の導入授業を行いましたが、指導法と子どもの反応は、何度行っても興味深いものがあります。基本的には、私は「公式」をマスターさせることを前提に「割合」「速さ」を指導します。特に、塾では中学入試問題を解ける力を養成するために、手足として使いこなせる程に習熟させる指導を行います。

 個々の問題を正解することに主眼を置く余り、その領域全体を見通す力を養成する本来の学習を、疎かにする指導者をよく見かけます。極論すれば、個々の問題の答えなど、どうでも良いのです。しっかりとした言葉を使って、自分の考えを論理的に説明できるように、私は指導したいと常々考えています。

 そうした視点で、今回「公式」について、3回にわたって綴ってきました。「公式」をどう指導するか、そこを回避して「公式」を悪者扱いしている指導者も存在しますが、今まで綴ってきたように問題があると考えています。指導法について、対象となる子どもたちの学力により、様々な意見があることを承知しています。互いに切磋琢磨して、指導法の研究を深めていかなければなりません。

マッキーの教育:算数・数学の公式について(1)

マッキーの教育:算数・数学の公式について(2)

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7 コメント

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理解できそうで理解できず (tsuguo-kodera)
2014-03-16 15:16:18
「算数は繰り返しの練習を必要とする、基礎知識・技能に重点がある教科とも言えます。」

 論旨に反対しませんし、上に張り付けた一文こそ私の考え方であり、昔小学校で実践させられた、また好きでやったことだと思っています。
 算数は技術であり、まさに機能の領域の教科だと思っていました。覚えるや考えるより習熟して伸ばす機能なのだと思っていました。
 その技能を伸ばすとどうなるのか、私にはいろいろな波及効果があると思えるのですが、あまりに風が吹けばおけ屋が儲かるの類だろうと言われそうだし、好きで得意だから広く演繹していると言われかねないと考えています。
 とにかく算数は大事。中高一貫校の難解な算数も思考力を高める練習法なのだと考えて孫と雑談しています。
 まだ管理人様の論を真に理解できていません。算数を教えると言う行為を実践したことがないからだと考えています。ありがとうございました。
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願うことと現実の溝 (マッキー)
2014-03-17 15:04:17
 私は、算数という教科が、物事を論理的に考える力をつける訓練になると考えています。その道に進むごく僅かな子どもを除き、多数の子どもにとって、そのことが重要なのだと思っています。ですから、自分でもよく分からないけれども、答えが合っていた的な算数の学習は、意味をなさないと考えています。
 ゆとり教育の時代、「考える」という重要性だけを前面に押し出したために、基礎的な知識や訓練で習熟する技能が軽視されました。「基礎知識や訓練」などを強調したら、立場上「受験算数」などと揶揄されかねませんでした。
 そんな経緯から、私の主張の中に、「考える」ということを一層強調しなければならないといったことが、圧力として加わっているのかなと、koderaさんのコメントを読みながら、思ってしまいました。
 本当に役に立つ算数の基礎知識を子どもに習得させるためには、繰り返しの訓練と、その知識を使って考えるといった、相互関係の重要性を認識する必要があると思います。
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Unknown (藤村眞樹子)
2014-03-19 18:50:03
算数や数学をもっと活き活きしたものとして感じさせる工夫がいるのかもしれません。

消費税導入によって鉛筆の値段がどう変わるかとか
円高と円安での物価の変化とか

モノの値段について関心がない子どももいるのかも。
リンゴ1個、お米1キロの値段とか知ることも大事でしょうね。

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実生活と知的好奇心 (マッキー)
2014-03-20 11:22:11
 特に小学生の場合、実生活で体験したことと関連して、新しい項目の導入授業が行われるのが理想でしょう。そこからスタートして、知的好奇心を刺激するような授業ができれば良いと思います。
 ただ、中学生になると、実生活から離れた学習内容になってくると、「おれ、社会に出たら、こんな数学はつかわないと思うけれど!」などと、数学を学習する意義に疑問を持つ生徒も出てきます。
 数学は、そういうことではなく、「論理的に物事を考える訓練になる。そのことは、社会に出ても必ず役に立つよ!」程度の説明をします。

 ところで、藤村さんは所沢方面にお住まいだったと思いますが、周囲にはまだまだ自然が残っている所が多いのでは。知る人ぞ知る山菜の採れる場所もありそうですね。フキノトウなども、出ているのでは?
 コメント、ありがとうございました。

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透視力をお持ちなんですか? (メゾフォルテ)
2014-03-20 13:48:31
我が家の生け垣のところにフキノトウがたくさん。

今までは主人の好物だったので顔を出したフキノトウを
すぐ採っていたんですが・・・・・

今年は伸びて花を咲かせています(涙
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Unknown (藤村眞樹子)
2014-03-20 17:15:19
上のコメントでうっかり名前をメゾフォルテにしてしまいました。
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Unknown (マッキー)
2014-03-20 20:15:58
 杜甫の春望を思い出します。人間の営みがどの様であれ、自然は間違いなく必ず巡ってくるのですね。ご自宅に、フキノトウが出るなんて、羨ましいです。
 この時期は何かと大変でしょうが、春の息吹を感じる自然に癒されながら、お過ごしください。
 メゾフォルテでも、藤村さんであることは、無論分かりました。
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