今日は、志野焼の大家・鈴木蔵・加藤孝造・若尾利貞の3人の作品を取り上げて、私の作品鑑賞を綴ります。
志野焼の入門解説は、以下の私のブログをご覧ください。
『人を魅了する陶芸の世界(8)…鈴木蔵の志野ぐい呑み 』
『入門講座(14)…荒川 豊蔵のぐい呑み』
『入門講座(20)…林正太郎・玉置保夫・安藤日出武の志野焼』
『現代陶芸入門講座(23)…堀一郎の志野焼』
鈴木蔵 志野ぐい呑み
昭和9年岐阜県出身・チェコ国際陶芸展グランプリ受賞
日本陶磁協会賞金賞受賞・芸術選奨文部大臣賞受賞
1994年 重要無形文化財保持者(人間国宝)認定
鈴木蔵のぐい呑みの中でも、最も上がりの良い作品と言えます。日本橋三越で店頭に出品する前に、送られてきた数点の蔵さんのぐい呑みから、2点選んだ内の一点です。形状・色調・格調三拍子そろった秀作と言ってよく、手に持った存在感は格別です。(1992年・日本橋三越)
ぐい呑みの高台
板目を使った桐箱・蔵の箱は出来が大変良い
鈴木蔵 志野茶碗
色の発色はおとなしいが、手に持った収まりは、見た形状よりも良い
箱書き
加藤孝造 志野ぐい呑み
昭和10年生・岐阜県出身・岐阜県重要無形文化財保持者
加藤孝造の風貌を彷彿させる、ゆったりとした形と色合いの円相を描いたぐい呑み
加藤孝造 志野ぐい呑み
上のぐい呑みよりも、志野釉が薄く掛かった円相のぐい呑みで、強い個性は感じませんが、手に馴染みやすい落ち着いた作品となっています。これが、彼の持ち味なのかも知れません
加藤孝造の箱書き
【円相について一言】
茶掛け・色紙・焼き物・染め物など身の回りに、この『円相』は多く見かけることができます。
円相とは、円を一筆書きした、極めてシンプルな形象です。
しかし、円相は禅の影響を受け、様々なものを象徴的に描いたものとして、理解されています。
円相は、円窓とも書いて、心を映す窓という意味もあります。
書院造りの円窓も、こうした意味を含めて設置されているのかも知れません。
茫漠とした円相が表出する意味は、それを見る者がその時々に自由に感じたことであり、それがその人にとっての円相の意味なのでしょう。
加藤孝造 志野湯飲み
これは、かなり薄手に作られた絵志野の湯呑です。志野釉の下から梅の文様が発色した出来の大変良い作品です。これは、釉の下に鬼板で絵付けした上に、志野釉をかけて焼いています。鈴木蔵の志野焼としては極限に近い薄手の湯飲みを持っていましたが、それに次ぐ薄手の作品で、加藤孝造の力量が伝わってくる作品です。
箱書き
加藤孝造 瀬戸黒茶碗 美濃陶芸協会図録抜粋
瀬戸黒茶碗は、鉄釉を施し、焼成中に釉薬が溶けている途中で窯から引き出して急冷させ、漆黒色に発色させます。
瀬戸黒茶碗は、一般的に高台の低い筒茶碗ですが、この茶碗は高台が高めに削り出されています。
ちなみに、加藤孝造の師である荒川豊蔵は、1955年に志野と瀬戸黒の両方で、重要無形文化財保持者に認定されました。
(追)2010年 瀬戸黒の技法で、国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
若尾利貞 志野ぐい呑み
昭和8年生・岐阜県出身・岐阜県重要無形文化財保持者
日本陶磁協会賞受賞
これはかなり大胆に作られたぐい呑みです。髭のような文様も、インパクトがあって面白い作品となっています。若尾利貞というと、琳派調の文様の器を想い出す方が多いと思いますが、こうしたざっくりと作られた作品に、彼の力量を感じます。
箱書き
若尾利貞 2005年 松坂屋個展図録より抜粋
現在、志野焼を牽引する代表的な作家は、今回観てきた3人であることは、衆目の一致するところでしょう。
それぞれが、その個性を生かしながら、独自の志野焼を追求していくことが、将来の志野焼の発展のためになることだと思います。
その作陶姿勢を、後から続く若い作家たちは、しっかりと見ているのだから。
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若尾利貞さんの展示会写真を見てびっくり!
昨日、デパートの美術専任の方に引越しのお餞別ですと頂いた若尾利貞作の志野組皿が図柄が同じなのです。箱を開けてええな~と思ったのですが
高価なお品なのかしら?
まじょんさんは、デパートのお得意さんのようですね。陶芸の個展が開催される時、得意客回りで、湯呑みやぐい呑みを届ける場合があります。実際、私も何回かそうした経験があります。
若尾利貞作の志野組皿であれば、とても良いものだと思います。特別なお客様がいらっしゃった時など、実際に使ってみるのもよいでしょう。そうすれば、もっとその器の良さが分かることがあります。
焼き物は、大切に観賞用として戸棚にしまっておくか、ちょっぴち危険を冒して実際に使ってみるかは、所有者の考え方次第ですが。