8月5日(木曜日)
朝7時に目が覚めた。カーテンを開けて外を見ると雲が出ていた。昨日の予報では晴れのはずだったが、こればかりは仕方が無い。身支度をして朝食をとりにレストランへ向かった。内容はありきたりのビュッフェスタイル。好きな物を好きなだけ食べてよい。本日は、釧路の和商市場にて勝手丼をいただく予定なので、少々控えめに頂いた。韓国人の新婚らしきカップルの女性が、筑前煮の筍を指差して、What is this?とボーイに尋ねていた。何と返答するのか興味があったので聞いていると、Bamboo. と答えた後、説明に困っていた。筑前煮は筑前煮なのだ。人参や大豆くらいなら簡単に説明できるが、鰹だしや蒟蒻など日本固有の材料全てを英語で説明するのは至難の業。仮に説明したとしても更なる質問がやってくるはず。質問に答えるのは義務であると同時に、彼らの後ろに並ぶ人の列を処理するのも義務である。上手に対応しないと、朝から思わぬ所で客の不評を買う。朝から人間を不機嫌にすると、その日は一日憂鬱になる。同僚がとっさに他の客を誘導したのは見事だった。
食事を済ませてホテルを出発する頃には、雲も消えて青い空と眩しい日差しが迎えてくれた。今日も暑くなりそうだ。昨日から思っていたことだが、今年の北海道はとても暑い。去年とはえらい違いだ。気温が30度を上回ることも珍しくない。何か東京都変わらないなーと思いながらも、空気が良くって湿度も幾分低いので、東京ほどの不快感は無い。8時30分にホテルを出発し、昨夜Mチャンが教えてくれた六花亭の本店をちらりと見た。当然のことながら閉まっている。早すぎるのだ。ここで二つのことが頭に浮かんだ。同僚のために開店まで待ってお土産を購入するか、最初の目的地である幸福駅に向かうかということだ。私の場合、回答は早かった。他人の幸福よりも自分の幸せである。一路幸福駅へと向かった。途中、ガソリンを入れるべく小さなGSに立ち寄った。出てきたのは70を過ぎているであろうおじいちゃん。東京のGSは、アルバイトの若者がきびきびと動いて接客するが、帯広の外れの大正町では勝手が違う。GPでもないので、給油で何秒稼いだかは大きな問題ではない。ただ、単価が高くてメータが小数点第一位しかないのには驚いた。今時珍しい。間も無く第一目的地の幸福駅に到着した。さすがに観光地らしく、広大な農地の一部に大きな駐車場が完備されていた。意外と周囲の農場の景色が良く、思わず写真をとってしまった。幸福駅にはライダーも数人居て、盛んにシャッターを切っていた。私も写真を撮り、自分と友達のためのお土産を買った。
幸福駅からは国道を外れ、道道を使って国道に向かった。昨日と同じ道を走るのも芸が無いと思ったからである。これが正解。十勝平野の農地や林の中を抜ける真っ直ぐな道。あまりにも直線が長いため、先が見えない。愛車を降りて、道の真中に立って写真を撮っても車が全く来ないので安心である。周囲では、大きなトラクターが日光を浴びながら農地で躍動している。この広大な耕地と、家畜から作る堆肥が、美味しい野菜を育てるのには不可欠である。道内であれば、食糧自給率100%だそうな。これも疑いなくうなずける。途中道路工事中の個所があり、手旗を振っている日焼けした女の子が珍しそうに私のバイクを眺めていた。そりゃそうだ、ここは道道であって国道でない。交通量もまばら。荷物を積んだ大型Cruiserなど珍しいかも知れない。地図にはあまり案内のない道ではあったが、走ってみると案外良かった。
国道に戻るとトラクターよりもトラックが多くなり、巡航速度が低下。黒煙を吐きながら坂道を登る車が多く、走行環境は更に悪化。トラックの集団をパスすると前を走る車は居なくなった。山の中をひたすら快走する。先ほどまでは蝿クラスの昆虫がシールドを直撃していたが、蜂らしきものや、ぶいぶい クラスの昆虫がヘルメットや車体を直撃するようになった。大型になればなるほど発見しやすくなるため、衝突直前に回避すれば何とかなるが、避けられるのも顔の付近だけ。あとは為すすべが無い。時折ヘルメットに昆虫が衝突し、彼らが命果てる瞬間に「コツン」という無常の音がヘルメット内に響く。かわいそうだが仕方が無い。シールドに当たらないように避けるのが精一杯。暫く走ると海岸沿いの道に出た。海岸からは湿った風がやって来るせいか、進行方向の釧路表面は曇っている。周囲の天気もだんだん怪しくなる。昨夜のMチャンの言葉を思い出す。「根室方面に行くなら、一枚余分に着たほうが良いですよ。」おっしゃるとおりだ。だんだん体も冷えてきたらしく、トイレに行きたくなった。地図を確認すると、釧路の前に白糠町があり、そこに道の駅があるので立ち寄ることにした。施設の目の前が太平洋。思わずトイレに行くのも忘れてカメラを取り出した。しかし、広大な太平洋をカメラに収めるには構図が難しい。12時を過ぎていたので、何枚か写真を撮って本来の目的を済ませた。白糠町を出るとすぐに釧路市の看板が目に飛び込んできた。本日2つ目の目的地、和商市場で勝手丼が待っている。釧路市内でネズミ捕りを見つけたが、どうやらお昼休憩らしく、機材を片付けていた。助かったかも・・・。何とか迷わずに和商市場に到着した。バイク用の駐車場が無いのには苦労した。何とか愛車を停めて、市場に入った。名物の勝手丼とは、名前のとおり勝手に具を選んで食べることができる面白い丼で、一度挑戦してみる価値はある。店によってネタや味付けに差があるので、よく吟味してから選ぶのが良いだろうと思い、まずはご飯を探した。市場入口近くに鮨屋があり、ご飯を売っていたので即購入。海鮮丼だったら鮨飯が良いに決っている。市場に入った瞬間は慎重派だったが、ネタの鮮度を自分の目で確かめて、良い物だと判断した瞬間に即断即決。こんな自分が大好きだ。ネタを市場の隅々まで歩いて探索しているうちに、各店舗のネタがどんどん無くなっているのに気づいた。大型バスに乗ってやって来た観光客が押し寄せて来たのだ。こいつらに取られる前に勝負だ!ということで、お目当てのネタを売っている店に直行。イクラ、マグロ、カニ子、鯛、蛸、平目、ハラス、秋刀魚。白色の陸地は何処にも見えなくなった。ネタだけで1,000円、ご飯を含めて1,250円。自分で選んだだけあって、納得の一品だ。食べてみるとネタによってはっきり差が出た。やはり新鮮な物は美味かった。特に蛸と平目を買った店はネタが一番新鮮だった。蛸は動いていたし、平目はおろしたて。釣り人の舌を唸らす美味いネタだ。実家に蟹でも送ろうかと考えたが、予算的にオーバーなので今回はパスした。
市場を出た頃に、雨がパラパラ降ってきた。大した事はなかったので、そのまま釧路湿原へ向かった。釧路湿原は大きな湿原で、中には公園や工場まである。元々湿原だった所を、人間が開拓しただけである。最初は草原かと思っていたが、観光センターに近づくにつれ本格的な湿原になった。何が本格的かというと、まず衝突する昆虫。水辺の昆虫が増えた。とりわけ大型のトンボが多く衝突した。本来は機敏なトンボも、あれだけ数が多いと衝突するみたいだ。路上にもおびただしい数のトンボの死骸がある。かわいそうだが仕方ない。次に草丈。1mをはるかに越え、自分の身長と変わらないくらいの高さである。二輪の着座位置が高いといっても限界がある。当然湿原は草の陰に隠れて見えなくなった。やっと観光センターに到着し、入場料を払ってそのまま展望台に向かった。展望台からの眺めは雄大そのもの。見渡す限り湿原。釣りキチ三平にも書いてあったが、一人で入って道から外れると、帰って来られなくなる。草の色がほぼ同じで、丈も高くて見通しが利かない。所々に深い穴があり、草が生えていて見分けるのが困難というまさに天然の迷路である。迷ったら最後、というのもうなずける。本当は散策したかったが、天気が悪くなり始めていたので、次の目的地へ向かった。
釧路を出てしばらく走ると厚岸に着いた。ここはどうやら蛎が美味いらしい。これはどうしても外せない。今夜の宿はショボイ宿なので、勝手丼を食べて数時間しか経過していないが、道の駅に寄り道した。入口付近からライダーらしき2名が現れたので早速聞いてみると、焼き蛎が美味かったそうだ。焼いた蛎なら少々鮮度が落ちても食べられるので、私はどうしても生が食べたかった。フランスのオイスターレストランのブローン、秋田の岩ガキなどこれまで全て生だった。やはりここも生だろう。俺はやっぱり生が好き(勘違いされそうだが)。厚岸でも生でいただくことにした。9つの蛎が氷の敷き詰められた器に仰々しく盛られていた。レモンを絞ってそのまま頬張ると・・・Yumyum!こりゃ絶品じゃ。ポン酢で頬張ると・・・これまたYummy!堪えられん。残った7つの蛎をどちらの味でいただくか悩んだのは言うまでも無かろう。蛎を食べ終わって出ると、先ほど情報収集したライダーがまだ話していた。どうやら帯広方面に向かうらしいが、テントを張るキャンプ場が無いらしい。「キャンプ場無かったですか?」と聞かれたが、あいにく二輪でのキャンプには全く興味が無いので「地図に無ければ無いのでは」と答えた。加えて、昨日Mチャンから教えてもらったホットな情報を提供した。「帯広の隣の鹿追町では、最近住宅地に熊が出没しているらしいよ!キャンプはくれぐれも気を付けて。」と。2人は宿を取ろうかと弱気になっていた。私は旅行中にインスタント食品や、コンビニ弁当を食べるのが嫌だ。折角違う町に来たのに、その土地の美味いものを食べないなんて愚かだ。キャンプしたり安い宿に雑魚寝するのも嫌いだ。少なくとも自分の空間が確保され、それなりの食事とお風呂を宿では楽しみたいのだ。旅の途中に知り合った友と騒ぐのは好きだが、お金を払って喫煙者と同室で寝たり、鼾をかく人と寝るのは嫌だ。だからお金を払って宿に泊まるのである。
話を元にもどそう。厚岸を出た私は、霧多布方面に向かい、ムツゴロウ動物王国を目指した。別に入れるわけではないが、どんな所にあるのか眺めてみたかったのだった。しかし、神は私に試練を与えた。走り出して30分もすると、霧が出始めた。気温も下がり寒くなってきた。表示板の温度は22度!まいるぜ。霧もだんだん濃くなってきて尋常ではない。最初は100メートル程度あった視界も、50メートルを切ってしまった。前が見えないのでやむなく減速するが、後の車両は前に行ってくれない。当然だ、私を追い越す瞬間に、対向車と接触したくないし、霧の時には後を走っている方が楽だからだ。この霧では視界が確保できないし、速度が落ちてしまって行程に支障が出ると判断した私は、道道から国道へ進路を変更した。針路変更により、ムツゴロウ動物王国への道が断たれた。(;。;)霧多布岬とはよく言ったものだ。名前に偽り無しである。岬から離れるにつれ、天候も回復してきたので、気を取り直して根室に向かった。十勝に続いてこちらも真っ直ぐな道が続く。天気さえ良ければ十勝と同じくらいの良い景色なんだろうなと思った。できれば写真に収めたかった。しかし、予定よりも遅れ気味だったのと、曇っていたこともあって、撮影は断念した。雨さえ降らなければ、霧で表面がしっとりしたジャケットも、暫く走ると乾くな・・・。などと考えていたら、根室の手前30㌔付近で雨が降ってきた。(`ε´)何とか乾くと思ったのに、台無しである。とは言っても、下着まで到達するような雨脚ではないので、何とかなりそうだ。諦めて走っていると、大きな湖が見えてきた。名前からすると白鳥が飛来するようだ。
根室市内に入ったのは5時を過ぎていた。本当は、納沙布岬を回る予定だったが、天気が悪いので諦めて宿に向かうことにしたのだが、初日のミスがここで響いてきた。宿の詳細マップを忘れたので、今日から4日間は自力で宿を探すしかないのだ。どうやら日没も近くなり、暗くなってきたので、迷わずに駅の観光案内所に向かった。ここなら間違いなく教えてくれるはずだ。予想通り、愛想の良いおじさんが細かく説明してくれた。どうやら宿は駅に来る途中の道沿いにあったようだ。日本最果ての地根室は、駅前でもかなり寂しい。最果て感が出まくりだ。何とかドイツの都市名と同じ名前の宿にたどり着き、愛想の無いオヤジと対面したのは午後6時前だった。何と外気温は18度!部屋には暖房が入っていた。でも、暖房が入っていたおかげで、湿ったウェアは翌日までに乾いた。この宿を予約する段階で、実はちょっとした行き違いがあった。俺がHawksファンで、オヤジが阪神ファンだから【昨年、久しぶりに日本一になるチャンスを得た阪神だったが、Hawksにことごとく粉砕された(ノ^^)ノ 】ではない。ネットで予約できる筈が、アクセスができなくなっていたのだ。これを私が指摘しても全く受付けない。他の宿にしても良かったが、予算に合う所が無かったので、仕方なくこの宿に泊まった。私は国内以外に海外12カ国で旅行をしたことがある。しかしこの宿は、海外の宿を含めて、客の方が先に挨拶をした初めての宿である。これくらい書けば、どの程度愛想が無いか判るだろう。ここは何を持ち込んでも良い珍しい宿だが、何も買っていなかった私は、近所にある食事のできる店に行って美味い物を探すことにした。
私はやはり甘かった。3軒ある店のうち、1軒は閉まって(倒産?)いた。残る2軒は居酒屋とラーメン屋である。あとは3キロ程歩いて駅前に行くしかない。何が悲しくて観光地の晩御飯にラーメンを食べねばならないのか!決った、今夜は居酒屋だ。この居酒屋、どう考えても品数の少ない食堂だ。はっきり言ってメニューが貧弱。花咲蟹が有名なのに、蟹類は一切ない。あぁ、蟹は明日にしよう。秋刀魚丼、キムチざんぎ、サラダと焼酎お湯割2杯をいただいた。釧路と厚岸で美味い物を食べた私にとって、ここでの食事はmealを通り越してsupperのレベルだ。嘆いても仕方が無い。その夜は早々と床に着いた。
つづく
朝7時に目が覚めた。カーテンを開けて外を見ると雲が出ていた。昨日の予報では晴れのはずだったが、こればかりは仕方が無い。身支度をして朝食をとりにレストランへ向かった。内容はありきたりのビュッフェスタイル。好きな物を好きなだけ食べてよい。本日は、釧路の和商市場にて勝手丼をいただく予定なので、少々控えめに頂いた。韓国人の新婚らしきカップルの女性が、筑前煮の筍を指差して、What is this?とボーイに尋ねていた。何と返答するのか興味があったので聞いていると、Bamboo. と答えた後、説明に困っていた。筑前煮は筑前煮なのだ。人参や大豆くらいなら簡単に説明できるが、鰹だしや蒟蒻など日本固有の材料全てを英語で説明するのは至難の業。仮に説明したとしても更なる質問がやってくるはず。質問に答えるのは義務であると同時に、彼らの後ろに並ぶ人の列を処理するのも義務である。上手に対応しないと、朝から思わぬ所で客の不評を買う。朝から人間を不機嫌にすると、その日は一日憂鬱になる。同僚がとっさに他の客を誘導したのは見事だった。
食事を済ませてホテルを出発する頃には、雲も消えて青い空と眩しい日差しが迎えてくれた。今日も暑くなりそうだ。昨日から思っていたことだが、今年の北海道はとても暑い。去年とはえらい違いだ。気温が30度を上回ることも珍しくない。何か東京都変わらないなーと思いながらも、空気が良くって湿度も幾分低いので、東京ほどの不快感は無い。8時30分にホテルを出発し、昨夜Mチャンが教えてくれた六花亭の本店をちらりと見た。当然のことながら閉まっている。早すぎるのだ。ここで二つのことが頭に浮かんだ。同僚のために開店まで待ってお土産を購入するか、最初の目的地である幸福駅に向かうかということだ。私の場合、回答は早かった。他人の幸福よりも自分の幸せである。一路幸福駅へと向かった。途中、ガソリンを入れるべく小さなGSに立ち寄った。出てきたのは70を過ぎているであろうおじいちゃん。東京のGSは、アルバイトの若者がきびきびと動いて接客するが、帯広の外れの大正町では勝手が違う。GPでもないので、給油で何秒稼いだかは大きな問題ではない。ただ、単価が高くてメータが小数点第一位しかないのには驚いた。今時珍しい。間も無く第一目的地の幸福駅に到着した。さすがに観光地らしく、広大な農地の一部に大きな駐車場が完備されていた。意外と周囲の農場の景色が良く、思わず写真をとってしまった。幸福駅にはライダーも数人居て、盛んにシャッターを切っていた。私も写真を撮り、自分と友達のためのお土産を買った。
幸福駅からは国道を外れ、道道を使って国道に向かった。昨日と同じ道を走るのも芸が無いと思ったからである。これが正解。十勝平野の農地や林の中を抜ける真っ直ぐな道。あまりにも直線が長いため、先が見えない。愛車を降りて、道の真中に立って写真を撮っても車が全く来ないので安心である。周囲では、大きなトラクターが日光を浴びながら農地で躍動している。この広大な耕地と、家畜から作る堆肥が、美味しい野菜を育てるのには不可欠である。道内であれば、食糧自給率100%だそうな。これも疑いなくうなずける。途中道路工事中の個所があり、手旗を振っている日焼けした女の子が珍しそうに私のバイクを眺めていた。そりゃそうだ、ここは道道であって国道でない。交通量もまばら。荷物を積んだ大型Cruiserなど珍しいかも知れない。地図にはあまり案内のない道ではあったが、走ってみると案外良かった。
国道に戻るとトラクターよりもトラックが多くなり、巡航速度が低下。黒煙を吐きながら坂道を登る車が多く、走行環境は更に悪化。トラックの集団をパスすると前を走る車は居なくなった。山の中をひたすら快走する。先ほどまでは蝿クラスの昆虫がシールドを直撃していたが、蜂らしきものや、ぶいぶい クラスの昆虫がヘルメットや車体を直撃するようになった。大型になればなるほど発見しやすくなるため、衝突直前に回避すれば何とかなるが、避けられるのも顔の付近だけ。あとは為すすべが無い。時折ヘルメットに昆虫が衝突し、彼らが命果てる瞬間に「コツン」という無常の音がヘルメット内に響く。かわいそうだが仕方が無い。シールドに当たらないように避けるのが精一杯。暫く走ると海岸沿いの道に出た。海岸からは湿った風がやって来るせいか、進行方向の釧路表面は曇っている。周囲の天気もだんだん怪しくなる。昨夜のMチャンの言葉を思い出す。「根室方面に行くなら、一枚余分に着たほうが良いですよ。」おっしゃるとおりだ。だんだん体も冷えてきたらしく、トイレに行きたくなった。地図を確認すると、釧路の前に白糠町があり、そこに道の駅があるので立ち寄ることにした。施設の目の前が太平洋。思わずトイレに行くのも忘れてカメラを取り出した。しかし、広大な太平洋をカメラに収めるには構図が難しい。12時を過ぎていたので、何枚か写真を撮って本来の目的を済ませた。白糠町を出るとすぐに釧路市の看板が目に飛び込んできた。本日2つ目の目的地、和商市場で勝手丼が待っている。釧路市内でネズミ捕りを見つけたが、どうやらお昼休憩らしく、機材を片付けていた。助かったかも・・・。何とか迷わずに和商市場に到着した。バイク用の駐車場が無いのには苦労した。何とか愛車を停めて、市場に入った。名物の勝手丼とは、名前のとおり勝手に具を選んで食べることができる面白い丼で、一度挑戦してみる価値はある。店によってネタや味付けに差があるので、よく吟味してから選ぶのが良いだろうと思い、まずはご飯を探した。市場入口近くに鮨屋があり、ご飯を売っていたので即購入。海鮮丼だったら鮨飯が良いに決っている。市場に入った瞬間は慎重派だったが、ネタの鮮度を自分の目で確かめて、良い物だと判断した瞬間に即断即決。こんな自分が大好きだ。ネタを市場の隅々まで歩いて探索しているうちに、各店舗のネタがどんどん無くなっているのに気づいた。大型バスに乗ってやって来た観光客が押し寄せて来たのだ。こいつらに取られる前に勝負だ!ということで、お目当てのネタを売っている店に直行。イクラ、マグロ、カニ子、鯛、蛸、平目、ハラス、秋刀魚。白色の陸地は何処にも見えなくなった。ネタだけで1,000円、ご飯を含めて1,250円。自分で選んだだけあって、納得の一品だ。食べてみるとネタによってはっきり差が出た。やはり新鮮な物は美味かった。特に蛸と平目を買った店はネタが一番新鮮だった。蛸は動いていたし、平目はおろしたて。釣り人の舌を唸らす美味いネタだ。実家に蟹でも送ろうかと考えたが、予算的にオーバーなので今回はパスした。
市場を出た頃に、雨がパラパラ降ってきた。大した事はなかったので、そのまま釧路湿原へ向かった。釧路湿原は大きな湿原で、中には公園や工場まである。元々湿原だった所を、人間が開拓しただけである。最初は草原かと思っていたが、観光センターに近づくにつれ本格的な湿原になった。何が本格的かというと、まず衝突する昆虫。水辺の昆虫が増えた。とりわけ大型のトンボが多く衝突した。本来は機敏なトンボも、あれだけ数が多いと衝突するみたいだ。路上にもおびただしい数のトンボの死骸がある。かわいそうだが仕方ない。次に草丈。1mをはるかに越え、自分の身長と変わらないくらいの高さである。二輪の着座位置が高いといっても限界がある。当然湿原は草の陰に隠れて見えなくなった。やっと観光センターに到着し、入場料を払ってそのまま展望台に向かった。展望台からの眺めは雄大そのもの。見渡す限り湿原。釣りキチ三平にも書いてあったが、一人で入って道から外れると、帰って来られなくなる。草の色がほぼ同じで、丈も高くて見通しが利かない。所々に深い穴があり、草が生えていて見分けるのが困難というまさに天然の迷路である。迷ったら最後、というのもうなずける。本当は散策したかったが、天気が悪くなり始めていたので、次の目的地へ向かった。
釧路を出てしばらく走ると厚岸に着いた。ここはどうやら蛎が美味いらしい。これはどうしても外せない。今夜の宿はショボイ宿なので、勝手丼を食べて数時間しか経過していないが、道の駅に寄り道した。入口付近からライダーらしき2名が現れたので早速聞いてみると、焼き蛎が美味かったそうだ。焼いた蛎なら少々鮮度が落ちても食べられるので、私はどうしても生が食べたかった。フランスのオイスターレストランのブローン、秋田の岩ガキなどこれまで全て生だった。やはりここも生だろう。俺はやっぱり生が好き(勘違いされそうだが)。厚岸でも生でいただくことにした。9つの蛎が氷の敷き詰められた器に仰々しく盛られていた。レモンを絞ってそのまま頬張ると・・・Yumyum!こりゃ絶品じゃ。ポン酢で頬張ると・・・これまたYummy!堪えられん。残った7つの蛎をどちらの味でいただくか悩んだのは言うまでも無かろう。蛎を食べ終わって出ると、先ほど情報収集したライダーがまだ話していた。どうやら帯広方面に向かうらしいが、テントを張るキャンプ場が無いらしい。「キャンプ場無かったですか?」と聞かれたが、あいにく二輪でのキャンプには全く興味が無いので「地図に無ければ無いのでは」と答えた。加えて、昨日Mチャンから教えてもらったホットな情報を提供した。「帯広の隣の鹿追町では、最近住宅地に熊が出没しているらしいよ!キャンプはくれぐれも気を付けて。」と。2人は宿を取ろうかと弱気になっていた。私は旅行中にインスタント食品や、コンビニ弁当を食べるのが嫌だ。折角違う町に来たのに、その土地の美味いものを食べないなんて愚かだ。キャンプしたり安い宿に雑魚寝するのも嫌いだ。少なくとも自分の空間が確保され、それなりの食事とお風呂を宿では楽しみたいのだ。旅の途中に知り合った友と騒ぐのは好きだが、お金を払って喫煙者と同室で寝たり、鼾をかく人と寝るのは嫌だ。だからお金を払って宿に泊まるのである。
話を元にもどそう。厚岸を出た私は、霧多布方面に向かい、ムツゴロウ動物王国を目指した。別に入れるわけではないが、どんな所にあるのか眺めてみたかったのだった。しかし、神は私に試練を与えた。走り出して30分もすると、霧が出始めた。気温も下がり寒くなってきた。表示板の温度は22度!まいるぜ。霧もだんだん濃くなってきて尋常ではない。最初は100メートル程度あった視界も、50メートルを切ってしまった。前が見えないのでやむなく減速するが、後の車両は前に行ってくれない。当然だ、私を追い越す瞬間に、対向車と接触したくないし、霧の時には後を走っている方が楽だからだ。この霧では視界が確保できないし、速度が落ちてしまって行程に支障が出ると判断した私は、道道から国道へ進路を変更した。針路変更により、ムツゴロウ動物王国への道が断たれた。(;。;)霧多布岬とはよく言ったものだ。名前に偽り無しである。岬から離れるにつれ、天候も回復してきたので、気を取り直して根室に向かった。十勝に続いてこちらも真っ直ぐな道が続く。天気さえ良ければ十勝と同じくらいの良い景色なんだろうなと思った。できれば写真に収めたかった。しかし、予定よりも遅れ気味だったのと、曇っていたこともあって、撮影は断念した。雨さえ降らなければ、霧で表面がしっとりしたジャケットも、暫く走ると乾くな・・・。などと考えていたら、根室の手前30㌔付近で雨が降ってきた。(`ε´)何とか乾くと思ったのに、台無しである。とは言っても、下着まで到達するような雨脚ではないので、何とかなりそうだ。諦めて走っていると、大きな湖が見えてきた。名前からすると白鳥が飛来するようだ。
根室市内に入ったのは5時を過ぎていた。本当は、納沙布岬を回る予定だったが、天気が悪いので諦めて宿に向かうことにしたのだが、初日のミスがここで響いてきた。宿の詳細マップを忘れたので、今日から4日間は自力で宿を探すしかないのだ。どうやら日没も近くなり、暗くなってきたので、迷わずに駅の観光案内所に向かった。ここなら間違いなく教えてくれるはずだ。予想通り、愛想の良いおじさんが細かく説明してくれた。どうやら宿は駅に来る途中の道沿いにあったようだ。日本最果ての地根室は、駅前でもかなり寂しい。最果て感が出まくりだ。何とかドイツの都市名と同じ名前の宿にたどり着き、愛想の無いオヤジと対面したのは午後6時前だった。何と外気温は18度!部屋には暖房が入っていた。でも、暖房が入っていたおかげで、湿ったウェアは翌日までに乾いた。この宿を予約する段階で、実はちょっとした行き違いがあった。俺がHawksファンで、オヤジが阪神ファンだから【昨年、久しぶりに日本一になるチャンスを得た阪神だったが、Hawksにことごとく粉砕された(ノ^^)ノ 】ではない。ネットで予約できる筈が、アクセスができなくなっていたのだ。これを私が指摘しても全く受付けない。他の宿にしても良かったが、予算に合う所が無かったので、仕方なくこの宿に泊まった。私は国内以外に海外12カ国で旅行をしたことがある。しかしこの宿は、海外の宿を含めて、客の方が先に挨拶をした初めての宿である。これくらい書けば、どの程度愛想が無いか判るだろう。ここは何を持ち込んでも良い珍しい宿だが、何も買っていなかった私は、近所にある食事のできる店に行って美味い物を探すことにした。
私はやはり甘かった。3軒ある店のうち、1軒は閉まって(倒産?)いた。残る2軒は居酒屋とラーメン屋である。あとは3キロ程歩いて駅前に行くしかない。何が悲しくて観光地の晩御飯にラーメンを食べねばならないのか!決った、今夜は居酒屋だ。この居酒屋、どう考えても品数の少ない食堂だ。はっきり言ってメニューが貧弱。花咲蟹が有名なのに、蟹類は一切ない。あぁ、蟹は明日にしよう。秋刀魚丼、キムチざんぎ、サラダと焼酎お湯割2杯をいただいた。釧路と厚岸で美味い物を食べた私にとって、ここでの食事はmealを通り越してsupperのレベルだ。嘆いても仕方が無い。その夜は早々と床に着いた。
つづく