庭の睡蓮鉢の横の芝生に蛍が一匹、蒼白い光を放って、静かに居た。
ぬばたまの闇の中、俺は手を伸ばし蛍を捕らえようとしたが
蛍の元気がなかったのか、俺の指の間から転げ落ちて、芝生の草の間に落ち込んでしまった。
それでも、蛍は、ぼおっと、淡い緑色のような、蒼白いような、そんな光を放ち続けている。
捕らえるのをあきらめて俺は家の中に入り、母に蛍がいたことを告げる。
テレビを見ていた母は、俺の言葉に喜んで庭に出て蛍を探した。
最初、どこに隠れたのか、見つけられなかったが、
ほどなく、草の陰で光っている蛍を見つけることができた。
見つけてうれしそうに笑む母。
闇の中、蛍の姿は見えず、放つ光しか見えないのだが、
その光があまり動かないところをみると、やはり弱っているのかもしれない。
「おまえ、こんなところで、このまま、終わっちゃうのかい?」
母の何気ない、蛍を思いやるつぶやきに、俺の心が揺れた。
どうやら、俺んちも夏が来た。