今から、10年前にある一人の男性が相談に訪れました。
その男性の訴えは、「早漏を治したい。」
ここまでは、他の男性からも相談を受けたことがあります。
しかし、それに続いたのが
「自分が声をかけた全ての女性とSEXが出来るようになりたい。」
このあたりから「ん?」
そして、「自分の男性自身を大きくして欲しい。」
どれ位の大きさを希望しているのかを聞くと、
「最低でもキッチンペーパー位に。」
その男性の表情や話しぶりから冗談でもふざけているのでもなく
本気であることが分かります。
最初の訴えの早漏の解消は可能としても、
後に続いた訴えは、
とてもじゃないけれども実現は不可能です。
実現不可能なものを、
目を見開いて真剣に本気で訴えてくる様子を見て、
その男性の現在の心の混乱が相当なものであることは明白です。
さらに追い打ちで、
「銃で撃たれても男性自身には絶対に弾が当たらないようにして欲しい。」
訴えに共通しているものは男性自身ですから根本の原因は推察できます。
しかし、元々の原因について
話を向けようとしても状態が状態ですから
「そんな話をしに来たのではない。」
と一蹴されることは間違いありません。
ですから、最初は本人の訴え通りに
話を進めていくことになりますが、
それでは、何回の施療どころか、
一年、二年でどうこうなるとは思えませんから、
「それが実現する可能性はあるけれども、
毎週一回施療をして3年以上は間違いなく掛かる。
だから、施療を始めるのは止めた方が良いのではないだろうか。」
と、施療を受け付けることを断る意味で伝えたのですが、
それでも良いとのことで、施療が始まりました。
当初は、途中で来なくなるかもしれない。
費用も無駄になる確率は高いだろう。
当初は、施療する側の私が、
そんな思いを持ったままの施療のスタートでした。
そして、施療の部屋でのさらなる追い打ち、
「この部屋に盗聴器はないでしょうか。」
「絶対に無いですか。」
この言葉で、その男性の状態がどのようなものであるのかが確信に。
催眠の反応性が思いっきり良ければ機会を見て、
ダイレクトにに問題に触れていくことも出来るかもしれないと、
試してみたものの反応は良くなく。
リラックス誘導を時折敢行するだけで、
殆どの施療の時間はカウンセリングです。
心の混乱を収める方法など分からない。
だから、その男性の今の気持ちを知らなければどうしようもない。
一つ一つ、話を聞き、一つ一つの気持ちを知ろうとしたのですが、
男性の話し方が特徴的で、徹底的に正確に話そうとします。
例えば、
「少し腕の力を抜いてみて。抜いてみた?」と聞くと
「腕に力が少し入っているように思いますから
力が抜け切れているとは言えないかもしれません。
しかし、少し前の腕と比べると
抜けていると言えるように思えるのですが、
他の人の力が抜けている腕と言うのが
どのようなことを言うのか分かりませんから、
もしかすると、抜けてはいないと言えるかもしれません。
私の今の腕の状態よりも力が入っている人がいたとしたら、
力が抜けていると言えるかもしれません。」
全てにおいて、このような感じでしたから
話が先へと進むのにとてつもなく時間を要しました。
当初の私の気持ちは、
少しでも解決の可能性を感じながら施療を進めているのではなく、
解決の一筋の光さえみえないまま施療を進めているのですから
本人の経済負担への申し訳なさと罪悪感を持ちながらの施療です。
今もあの時の本当の重い気持ちを忘れることが出来ません。
ただ、何か道があるはずだと
絶対にあきらめることだけはしないことだけが、
自分を支えていたように思います。
その施療がどの様な結末となったかと言うと、
施療期間は2年どころか5年が経過していました。
何とその男性は今、会社員として働いています。
「あの時、あんなことをお願いしていた自分を笑ってしまう。」と言いながら
心の底からの照れの混じった笑顔を見せてくれました。
神戸に来た今も、その男性から時折、
今貯金がいくら出来たとかの近況の報告メールを頂きます。
私にとって、この男性のことは
忘れようと思っても忘れることが出来ません。
「私が何をどうしたから、このような回復に至った!」
と言うように胸を張って言えるものはありません。
施療と言えるのかどうかも分かりません。
ただ、人と人との交流があっただけのように思います。
そして、その男性は、心は混乱から抜け出て来ました。
その人だからこそ成し得たのかもしれません。
「個人には、それを克服するだけの力を持っている。」
頭の中で分かっていたことが、
その考えに魂を入れてくれたのがその男性です。
催眠療法&心理療法 神戸ストレスカウンセリング・ルーム花時計