kouheiのへそ曲がり日記

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要領のいいエゴイスト(37)

2015-05-21 05:01:54 | 日記
H教授はこの僕の言葉を聞いて、科学者としての関心を惹かれたようだった。
心理学専攻や教育学部とも協力して、僕という人間の社会学的分析を思い立ったのである。

H教授は僕の両親をだまし――息子さんは、自分を神に選ばれた人間だと言っています、そして自分のやったことを一切認めようとしない、こういう異常な精神構造はどのようにできあがったのか? それを私は知りたいのです――、僕の家の居間と自室に盗聴器と盗撮カメラを設置する許可を、僕の両親から得た。

恥ずかしい話だが、僕の父はある新興宗教の信者だ。
その教えでは、何より守らねばならない大切なことが「親孝行」である。
当然、親は子供に何をしてもいいということになる。
僕は今でもこのような信仰をもつ父を軽蔑している。

甘い親だと思われたくないのだ。
厳しい親だと思われなければならないのである。
僕の両親は僕のプライバシーを大学に売りとばしたのだった。

・・・調べたところ、これはディープ・パープルの『Live In Japan』ですね・・・
・・・こんなのがいいんだねぇ、まったく・・・
・・・いや、そうおっしゃるけれど、私は3歳の頃からギターをやってますけど、こんなの、どうやって弾いてるのか、見当もつきませんよ・・・

「おい! あれはなんだ?」
「? あれとおっしゃいますと?」
「20分もあるやないか」
「・・・20分?」
「お父さんから聞いてるやろ!」
「親父から聞く?」

・・・これはイエスの『Close To The Edge』です・・・
・・・あのオルガン・ソロ、彼が弾いてるんじゃないのか? この落ち着きのない弾きかた・・・
・・・キーボードはリック・ウェイクマンとなってますけど・・・

「どうしてあそこまで<狂気>にこだわるんや?」
「?・・・何の話です?」
「ほら、あの、プリズムに光が分光されるジャケットの・・・」
「あぁ、あれは元リーダーに対するレクイエムです。シド・バレットというのが発狂してしまいましてね、商業的成功なんて無視して前衛ロックをやりはじめたのに、いつの間にか自分たちは人気スターになってしまった、とくにベースと作詞担当のロジャー・ウォーターズはシドに対する思い入れが強かったんですね」
「君、俺がなんで君の聴く音楽を知ってるか気にならんの?」
「はぁ、まっ、僕は大音響でいつも聴いてますから・・・」
「しらばっくれるな!」
「?」

・・・ピンク・フロイドの『Dark Side Of The Moon』です・・・
・・・ロックなんて僕はバカにしてきたけど、ロック・ミュージックというものを根本から考え直さなあかんなぁ・・・
・・・この歌詞、文学的にも価値あるよ・・・

「なぁ、なんでキエフの大門のところでめちゃくちゃな音だすんや?」
「?・・・キエフの大門・・・あぁ、あれはキース・エマーソンのお得意のパフォーマンスです、彼はミニ・ムーグをステージに叩きつけたりします」
「なんでそんなことするの?」
「それがロックというものなんです」

・・・エマーソン、レイク&パーマーの『展覧会の絵』です・・・
・・・私の耳はクラシックしか受けつけなかったけれど、これなら最後まで聴けますわ・・・

「なぁ、君は高校生の頃、詩を書いてたんやろ? いちばん自信のあるやつ1篇でいいから、読ましてくれよ」
「とんでもない、他人様にお見せできるようなものではありません」
「・・・じゃあ、どんな手段つこうても見るで!」
「(思わず微笑んで)H先生、ウチで泥棒でもしはりますか?」

・・・これは、こんな詩、高校生に書けるか? こんな詩、60歳の大詩人が書くもんやで!・・・
・・・18歳でこんな詩を書くということは、やっぱりこないだのピアノ・コンチェルト、彼が作曲したんちゃうんか?・・・

「君はピアノ・コンチェルトのレコードもってる? 音楽の先生がこんな曲聴いたことない言うてたで」
「ピアノ・コンチェルト? あぁ、1枚だけもってます」
「誰が作曲したの?」
「キース・エマーソンです」
「ピアノは誰?」
「キース・エマーソンです」
「指揮ぶりがえらく板についとるけど、君の棒で録音したんか?」
「えっ、そんなバカな」
「高校生があんな詩を書くちゅうことは、全然音楽教育うけてない者が、あの程度のピアノ・コンチェルト作曲するくらいの衝撃なんやて」
「?」

・・・これはなんぼ何でも商品ではありえないわな、これは彼の実験作品ちゅうとこやな・・・
・・・それはそうとしか考えられんわな・・・

「(満面の笑みで)昨日の曲は、君の作品やな」
「昨日の曲と言いますと?」
「歌のない、即興曲のような・・・変拍子の・・・」
「あぁ、あれはキング・クリムゾンの『Fracture』という曲です」
「!?」

・・・こんなめちゃくちゃな曲が商品として流通してるんやねぇ・・・
・・・いや、そうおっしゃるけど、じっくり聴いてると引き込まれていきますよ、とにかくこのギターは私には弾けません・・・(つづく)
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