儀式嫌い

僕は儀式が大嫌いだ。
儀式って、すべての人を同じ容の鋳型に押し込める。
それがたまらなく嫌なのである。

僕の53年間の経験知でいうと、芸術のげの字も分からない根性の卑しい低俗な凡人は儀式を重んずる場合が多いように思われる。
おそらく、儀式によってすべての人が標準化されると、自らの根性の卑しさが覆い隠されるからであろう。

今日の芸術とは、今までになかった新たなる様式を生み出す崇高な営みであるから、儀式にはなじまない。
つまり、魂の美しさをとるか、形式の美しさをとるか、ということである。

ドストエフスキーの作品に登場する人物は、あらゆる約束事・儀式等々を踏みにじり、破滅へと疾走していく。
安部公房も同じことを言っていたが、それがたまらなく美しい魂の高揚と、我々芸術を愛する者の心には映るのだ。
それは、どんな儀式（＝形式美）にもまさる「（魂の）美」なのである。

さて、現代において人生の大きな儀式と言えるのは、やはり結婚式と葬式であろう。

結婚式とは、男女の性的結合というなんとなく後ろめたいものを、無難なものとして社会に宣告するためのものである。
葬式は、突然「死体」という形而下のモノに堕してしまった人を、生きている時と同じ、否、生きていた時より以上に立派な「人格」として扱うためのものである。

僕は結婚しなかった。
偶然と言えなくもないが、小市民的な形式主義を嫌ったからとも言える。

さて葬式であるが・・・僕は嫌だ。
葬式なんてしてもらいたくない。
なぜなら、あらゆる儀式を否定することこそが前衛芸術を愛する者としての最低限の誇りと信ずるからである。