kouheiのへそ曲がり日記

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『しろばんば』

2005-08-03 15:27:00 | 日記
井上靖著『しろばんば』を読んだ。
何の変哲もない日常が、何の変哲もなく過ぎ去っていくのだが、それがドラマたりうるのは、主人公の少年が青年へと成長していく、あの時代特有の甘酸っぱさが香り付けされているからである。

濃厚な人間関係がやけに懐かしさを喚起するが、今僕がこのような共同体規制の中に放り込まれたら、神経を患うであろう。

ノスタルジーはノスタルジーとして味わえばいいが、それに憧れてはならない。
そういう後ろ向きな生活態度では、未来を乗り切ることは出来ない。

我々は良きにつけ悪しきにつけ、都市化してしまったのである。
そこでは、14歳の少年が小学生を殺して性的快感を得たり、小学6年生の女児が同級生を殺したりすることが現実に起きているのである。

たしかに懐かしいあの頃、物質的には貧しかったが、心は満たされていたのかもしれない。
だが我々は物質的豊かさを求め、共同体規制の枠を破壊し続けて今日まで来た。
そこにマイナスの要素を認める論調は決して低くない。
しかし、いまさらあの貧しい時代に帰ってゆくことは誰にも出来ない。

所詮失うしかないものを、ノスタルジーとして語るか、もともとなかったものとして語るか、そのいずれしか選択肢はないのだから・・・。