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スクラッチ木造帆船製作日記と映画、スタトレなどあれこれです。

職務と階級

2005年05月15日 | 本日のあれこれ
 軍隊組織などの階級組織が、他の民間企業などの構造と一番違うのは、階級があることでしょう。民間の場合、例えば、部長とか、取締役など、職務のみです。軍隊の場合、基地司令官とか、中隊長とかが職務で、大尉とか軍曹とかが階級になります。
 日本語の場合、職務と階級呼称とではかなり違う単語なので、混乱することはまずありません。例えば、艦長と言う職務と、中佐や大佐、(一佐や二佐)という階級呼称の間に混乱を招くような類似は全くありません。英語の場合、Captenという単語が意味するのは、軍用船舶、民間船舶の運用最高責任者という職務、米英陸軍海兵隊、米空軍の大尉という階級、海軍の大佐という階級、他にも、アメリカの警察組織における警視(警部と訳したり署長と訳したりするケースもありますが、日本の警察階級との対比で言えば、警視が一番近いかもしれません)スポーツチームの主将など、実に幅広いので、まことに厄介です。
 艦長が大佐の艦なら、大佐を意味しようが艦長を意味しようが、それほど混乱はありませんが、中佐が艦長の潜水艦や、少将が艦長の空母などでは、Captenと使われた時点で、艦長の意味なのか大佐の意味なのか、あるいは、乗り込んでいる海兵隊大尉のことなのか見極めないと困ったことになってしまいます。
 中佐も曲者で、陸軍海兵などは、Lieutenantを省略してColonelというくらいなので、中佐と大佐を間違える程度ですが、海軍の階級の場合、Commanderなので、司令官のCommanderなのか中佐のCommanderなのか、少佐のLieutenant-CommanderのLieutenantを省略した、会話上のものなのか、混乱が発生します。特に、司令官という言葉と同じなので、ニュースの同時通訳などでは、よく混乱しています。
 こうした、職務と階級の類似は、大抵の場合、もともと、階級と職務の区別がなかったことから発生しています。
 日本の場合、聖徳太子の頃に、その頃、中国では確立されていた位階の制度を導入したので、階級と職務の二本立ての概念が、古くから存在していたので、こうしたことが起こりにくかったのかもしれません。正二位とか従三位とかが階級で、右大臣や太政大臣が職務に相当するわけです。
 イギリスの海軍では、もともと、士官は、船の指揮官である艦長Captenとそれを補佐する士官Lieutenant、複数の艦を指揮する提督Admiralというすっきりしたものだったのが、組織の拡大や複雑化を通じて、大型の艦と小型の艦の責任者が、同じ格であることに問題がでてきたり、乗組員の増加(艦の大型化)に伴い、士官数が増加したため、艦内の士官の序列が役職化したりと、職務名だけで対応できなくなってきたため、職務と階級の分離が発生するようになりました。同じ艦長でも、勅任艦長(Post-Capten)は、戦時平時を通じてCaptenと呼ばれ、身分が保証されますが、小型艦を指揮するLieutenantは、艦をなくしてしまえば、他の艦の士官のLieutenantと同じになります。通常のLiutenantと、艦を指揮するLuitenantの区別をする必要から、船の指揮官と言う意味で、Commanderと呼ばれるようになります。支配海域の拡大に伴い、中、小型艦が増加するにつれて、このLieutenantが指揮する船の数が増加してゆき、臨時にLieutenantが指揮する船というより、Post-Captenではない士官が指揮する小型艦の需要が増え、独立した航海長を持たず、艦長であるLieutenantが航海長を兼任するMaster and Commanderという格が発生します。後に、航海長兼(Master and)の部分が省略され、海尉艦長(Commander)という名称が定着しついには階級になるわけです。この格が後の中佐Commander と少佐Lieutenant-Commanderの階級になります。Liutenantから一足飛びに艦長Captenになるケースは減り、艦長へのステップとして、Commanderに任官されるのが通例になるのですが、流石に、艦の数が足りず、指揮する艦を与えられずに、昇格=半給生活という不幸な状態になります。ナポレオン戦争中、これらの士官の救済策として、小型のスループが多数建造され、チャリティ・スループなどと陰口を叩かれますが、士官にとっては、かなり深刻な問題でした。そうした小手先の技を弄しても、問題は解決できず、最終的に、Commanderは、等級外のスループやブリッグなどの小型艦の指揮に加え、大型艦の副長も、この格の士官が任命されるように変わって、ようやく解消しました。更に、大型艦の副長や等級外艦の指揮官の口も任命すべき士官の数には足りないので、もう一階級、少佐Liutenant-Commanderの階級が増設され、中型艦や小型艦の副長の格式となり、中佐Commanderの数自体が分割制限されて、ようやく解決に至るのです。この、少佐Liutenant-Commanderは、その階級呼称が示すように、船舶指揮官の格と船舶指揮官補佐の格の中間の存在なわけです。こうして、もともと、1階級しかなかった船を指揮する士官の格が3階級(但し、船は大型化もしたので、同じ艦長Captenでも、任官三年未満のCaptenでは指揮出来ない船も発生して、三年未満は主にフリゲート艦、三年以上は、戦列艦を指揮するようになります。英海軍では、このCapten二階級がそのまま残り、SeniorとJuniorのCaptanになります。)になったわけです。
 一方、艦の運営をする士官達は、その艦内で、先任順に、First,
Secondいうように呼ばれ、その順に応じた職務を受け持っていました。一番先任順の高いFirst-Lieutenantは、日本では副長と訳されます。この職務名の名残が、米軍などにおける副長職のNumber oneという通称です。米陸空海兵では、First-Lieutenantという呼称がありますが、英軍では、Firstをつけません。以前も述べたように、両軍ともSecond-Lieutenantという呼称はあります。この職は、他のLieutenantより遥かに職責も重く、一線を画していたため、階級化してゆきます。通常のLieutenantが、このSecond-Lieutenantという階級になり、見習いであったMidshipmanとで、三階級の下級士官を構成します。
 つまり、大掴みに言って、佐官級は、船舶指揮官、尉官級は、船舶指揮官の補佐と分かれるようになったわけです。
 艦長の権限は絶大で、船内での権限にとどまらず、場所によって外交から行政にまで責任を追うこともある非常に高い地位と言う認識があったので、Captenの階級にない船舶指揮官のことを単に司令官(指揮官)と呼んだのが階級化したことが、諸悪の根源なわけです。
 米軍では、階級に関わらず、艦の指揮官のことを会話上ではCaptainと呼ばず、Skipperと呼びます。職務名ではありませんが、職務名と階級呼称が同じ所から来る混乱を避けるための知恵と言えるでしょう。ちなみに、この呼称は、Skipp-jackなどの小型の船の責任者から来ていて、艇長ほどの意味の言葉ですが、創立当初の大陸軍海上部隊に大型艦がなかったところから定着し、伝統化したもののようです。何事にも仰々しい格式を重んずる英国式に反発するアメリカ精神と相まって、受け継がれているのでしょう。

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