インバーカーギルは雨の朝を迎えた。
日程は切迫していた。
というのも、
「クイーンズタウン」という町の宿泊を、
あらかじめ予約してあるのだ。
予約なんかするから、
日程が縛られてひっ迫するのだ、
わかってはいるのだが。
クイーンズタウンは近年国際リゾート化してバブルズタウンになった。
現代のゴールドラッシュだ。
北海道のニセコがいまそんな感じだが、
まさにニセコはクイーンズタウンの状況を10年遅れで追体験しているように見える。
そんな町だから回避したいのだが、
絶妙な位置にあり回避できない上、
僕の経営する「ガイドの山小屋」のふるさと、と言える町なので、
なおさら避けては通れない。
宿泊は高いし、混んでいるし、食い物も高いし、ヒトだらけだし。
しかし、繁栄に仕事あり。
多くの友人がこの町で暮らし、働いているから、
彼らが死にそうなくらい多忙(12月は超繁忙期)になる前の時期を選んで部屋を借りた。
みんなでメシでも食おうと。
そういうことで、今年もまた遊びに行くのだ。
あらかじめ、家具家電付きアパートメントを5日間契約しているのだが、
その日が迫っている。
直前予約や当日飛び込みでは、
まず無理だし、可能だとしたら、
『べらぼうな』金額、
例えば、一泊七万円とか、
そういうヤツしか無いのだから。
浮き世離れしたクイーンズタウンだ。
インバーカーギルからクイーンズタウンは自転車で3日の行程だが、天候待機で予備日は使ってしまった。
こうなったら、
ワープするしかない。
雨のバス停でバスを待つ。
自転車は分解して収納した。
バスきた。
しかし、
「インターシティ」(旧国鉄系の都市間バス大手)で予約したはずだが?
個人経営みたいなマイクロバスきた。
ドライバーのオッさんが、
「クイーンズタウンに行くなら乗れ」と。
やんや言う。
ん?
怪しい。
ははん、このオッさん、
個人経営やな。
白タクみたいなやつか?
インターシティの入線前にやってきて、
客を掠め取るインチキビジネスちゃうか?
ますます怪しい。
疑り深い俺。
俺の非常にマズい英語力さらにはオッさんのスコティッシュ訛りが激しすぎて、
オッさん何言ってるかわからん。
ここは、
君子危うきに近寄らず、だ。
とりあえず、そのまま待つ。
そのうち、他のヨーロッパ系夫婦のバス待ち客とオッさんの駆け引きが始まったので見物する。
あれ?
ヨーロッパ夫婦、A4にコピーした「インターシティ」の予約票持ってるゾ。
あれ?
交渉成立した?
あれ?
怪しいオッさん、予約番号リストを持ってて、ヨーロッパ夫婦をチェックしたみたいに見えた!
!!!
急いで俺も、
昨夜スマホからバス予約して保存した「バウチャー」、
つまり「予約票」をオッさんに提示しつつ確認を求めた。
ビンゴだった。
つまり、こうだ。
インバーカーギルとクイーンズタウン間は
客が少ないから地元業者への委託だか共同運行らしき様子。
あやうく置いていかれるところだったぜ!
怪しいオッさんドライバー、
インバーカーギルを発進する。
こうして俺は、
バスの人となった。
雨が激しい。
1時間走っても、
雨は降り止まない。
こんな日に自転車じゃなくて
ホントに良かった。
湖のほとりにあるキングストンという田舎村にて、
俺ひとり、バスを下車する。
雨ザーザー
ぽつんと1人、俺を残してバスは去る。
きょうはこの村のキャンプ場宿泊。
明日、ここからクイーンズタウンに向けて
自転車で走るのだ。
やや高低差の続くうねうね道で、
約60km。
やや強い西風の予報。
まあ、夕方までには着くだろう。
キャンプ場の共同キッチン
なんでもある。
鍋釜はもちろん、
食器もある。
自炊自在。
冷蔵庫は、
自分のモノには名前を書く。
しかし、
ビールはなくなる率高い。
経験上。
とりあえず、ホリデーTOP10(NZキャンプ場のチェーン)をあまり信用してない疑り深い俺は、
自分で使うモノは予め洗う。
夕方、雨があがった。
敷地内に小川が流れてるっていいな。
キャンプ場とはいえ、テント派は僅か。
日本でいうバンガローが中心だ。
いろんなタイプのキャビンがある。
以前は手作り感満載のカントリーコテージが点在していたエリアは木々を刈り払って新築のコテージが続々と誕生しつつある。
建て売り住宅団地みたいだ。
とりあえず、
空腹で死にそうなので米を炊いた。
その合間にインバーカーゴで仕入れた韓国製の「うどん」を作る。
まず、うどんを食い、
残った汁(天カスいっぱい)に炊き上がった白飯をどんどん入れて生卵を落として「雑炊」を作る。
ああ、うまい。
雑炊を食い終えて、
ようやく一息ついた。
明日は晴れるといいな。