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ストーン

2010-11-09 16:21:53 | レビュー
Stone はおそらく心理サスペンスというカテゴリーになるだろうが、いわゆる緊張感が続くという意味でのサスペンスではない。
登場人物の心理的な駆け引きが映画の根幹となっており、そのなかで人の本来の姿が見えてくるというストーリーだ。

登場人物は4人。
ジャックとその妻マディリン。
囚人ストーンとその妻ルセッタ。

この映画はは俳優になるための模範演技を見ているような映画だ。
特にエドワードノートンは、人物の描写、心理状態の変化、垣根をくぐって悟りを開く課程、煩悩から解き放たれた平穏な精神状態、どの演技をとっても見事に計算し尽くしている。
彼の演ずるストーンは脚本でも力を入れて描かれており、十分に楽しめる。

映画の前半で、ストーンと刑務官ジャック(ロバート・デニーロ)の間で交わされる厳しい言葉のやりとりは、タランティーノ監督お得意のテーブル会話シーン (Pulp Fiction や Inglorious basterd) を遙かにしのぐ大迫力だ。
さらに映画の冒頭では、ジャックの若かりし頃のエピソードがフラッシュバックとして挿入され、彼の本来の人格が端的に表現されている。
音楽が効果的に使用され、映画の筋書きと音楽の構成もぴったり調和している。
この両場面だけで、この映画に対する期待が一気にふくらんだ。
何も説明はいらない。
たったこれだけであふれんばかりの情報が伝えられ、まだ見えてこない筋書きについて様々な可能性が広がる。


ところが、そのあとの展開にはがっかりである。

まず、ロバートデニーロを脚本家が生かし切れていない。

彼の迫真の演技は、観るものを否応なしに引き込んでいく。
ところが、彼の演じるジャックの描き方が中途半端だ。
もっと、彼の屈折した人物像を、様々なエピソードを通じて見せて欲しかった。
過去の彼から現在に至る変遷、その間のマディリンとの絡みなどである。
平衡状態に達した夫婦関係だけが、不必要なまでにしつこく描写されており時間の無駄遣いだ。
その代わり、そこに到達する過程を筋書きに組み込めばいい。
宝の山を前にして素通りとは、何とももったいない話だ。

タイトルとなっているストーンは単純な人間に見えて実は奥が深い。
映画の結末部で新しいストーンが誕生するが、彼のこれからの人生をもっと観てみたい。
エドワート・ノートンは映画を通して変化していくストーンを絶妙な表情や仕草で表していく。
まさに芸術的だ。

ルセッタは逆に複雑に見えて単純な人物だ。
この妖しい女性をミラが好演している。

このように俳優陣の演技はすばらしく非の打ち所がない。
逆にそれが脚本の弱さを際だたせているのは皮肉だ。
皮肉と言えば、刑務所に服役しているストーンが悟りを開き、刑務官のジャックの本性が反社会的である点もそうだ。

この映画はテレビのようなカットが多用され、映画館に足を運んでまで鑑賞する理由を見いだせない。
DVD発売まで待って、自宅でゆっくり見るとしても何ら失うものはない。

この映画は外れかもしれないが、続編を見てみたい。
なぜなら、十分続編が作れるだけの材料を鏤めてあるし、第一、話が何も完結していないから。

C+


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