Thor (邦題:マイティ・ソー)は北欧神話に基づいた映画だ。
まず背景を確認しておきたい。 主人公の Thor (トール)はハンマーを武器として人間を守る雷神として記述されている。 ちなみに木曜日 (Thursday = Thor's day) は彼の日で、 この映画の中で友人とされているシブ (Sif) が神話上の妻だ。
映画には北欧神話の3層9つの世界のうち3つが登場する。 霜の巨人一族が住むヨトゥンヘイム(第2層)。 人間の世界、ミズガルズ(第2層)。 アース神族の住むアースガルズ(第1層)。 そして第1層と第2層は虹の橋 (Bifröst) で結ばれている。 この橋が映画において重要な意味を持つ。
筋書きは、好戦的な無頼漢だったトール Thor が試練を乗り越えて立派な王様になると言う正統派。 アース神族と霜の巨人の長年に渡る対立が物語の設定だ。 そのなかでロキとラウフェイ王が悪役を演じる。 本来、ラウフェイはロキの母親で、霜の巨人の王はウートガルザ・ロキのはずだが、名前を混同されないように変更したのかもしれない。獅子が子を崖から突き落とすようにオーディンはトールをミズガルズへ追放する。 神としての力を剥奪されたトールはただの人である。 自信を喪失しつつも、友人達に助けられミズガルズを守るために立ち上がる。 一方、アースガルズではロキの奸計が成功しつつあった。 そこへ成長して帰ってきたトールがアースガルズを救って大団円を迎える。
この展開はほとんど一本道で予想を裏切らない。 ジェーン(ナタリー・ポートマン)とトール(クリス・ヘムズワース)の関係は定型通りで、政府関係者の行動パターンもおきまりのもの。 正邪がはっきりと分かれている点もコミックのお約束だ。 このタイプの映画の見所はアクションと特撮だから、単純な筋書きでも許容できる。 欲を言えばジェーンの内面の変化や葛藤をもっと丁寧に掘り下げて欲しかった。 ナタリー・ポートマンならもっと厳しい要求にも応えられたはずだ。
肝心の特撮については十分楽しめると言える。 ただ、セールスポイントの3Dに大きな不満が残る。 広角で遠近差のある場面でこそ3Dが威力を発揮する。 バーで飲み明かすシーンは3Dである必要がない。 悲しいかな、そういった近接がこの映画では多用されている。 通常($5)の倍の料金($10)を払って3Dにする必要はない。 日本の公式サイトでも「7月2日3D公開)と宣伝されているが、2D版で十分だ。
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出演者を観てみよう。 アースガルズの王オーディンを演じるアンソニー・ホプキンスはさすがに存在感がある。 妻役のレネ・ルッソはあまり目立たない。
主役の二人はしっかりと演技しており、間合いがいい。 笑える台詞が所々にちりばめられているが、その表現の仕方がさすがに上手だ。 ナタリー・ポートマンは最近本格派女優として脱皮したばかりだが、こういう軽い役もまだこなせることを示した。
脇役ではステラン・スカルスガルドとキャット・デニングズがいい味を出している。
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追記:兄弟として育てられたトールとロキについて
オーディンに認められアースガルズに住むロキが霜の巨人の血を引くことが映画の中で示される。
この点を持って、二人の関係が映画の中でのひねりだと感じる人もいるかもしれない。
ただ、ロキが霜の巨人ファールバウティとラウフェイと子供だということが北欧神話では周知の事実なので筋書きに意外性を与えていない。