定年退職後も働いたり、趣味を楽しんだりする元気な高齢者の姿が当たり前になりました。65歳以上とされる高齢者の定義を75歳以上にすべきだという提言もあります。いつから高齢者になりますか? 中高年のアイドルで、漫談家の綾小路きみまろさん(66)に聞いてみました。

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 ――高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げることについて、どう思いますか。

 昔は60歳で「ご隠居様」と呼ばれ、のんびりと縁側で孫をだっこして、ひなたぼっこをする。こうした子ども時代のふるさとの光景からすると、世の中は急変しました。栄養状態が良くなり、医療も進歩して長生きするようになりました。だから75歳を隠居として、65歳はもっと頑張れ、働けということでしょう。

 お年寄りが多くて若い人がいないのは、誰でも分かっている。国もはっきりとは言わないけれど、じわじわと攻めていかないと支えきれない。私は当事者世代ですが、定義の引き上げに賛成です。

 ――65歳から74歳は「准高齢者」と位置づけました。

 元気で見た目が若く、高齢者とは言えないから「准」としたわけでしょう。「高齢者予備軍」「高齢者実習生」という呼び名も思いつきましたが、あえて高齢者という言葉を使わずひとくくりに「中高年」でいい気がします。

 ログイン前の続きこの世代はおしゃれになり、健康に気を使う。化粧やエステ、健康食品も時間とお金があるシニア層がターゲットです。きれいになった町並みに合わせるかのように、シャキッとしている。色々な考え方もあって、「ゆっくりしたいな」と思う人の気持ちも分かります。私もそうだったし、65歳を過ぎたら辞めてもいいかなと思っていました。

 ――辞めませんでしたね。

 周りがみんな元気だから、ぼーっとしていられない。タモリさん(71)、ビートたけしさん(70)、小倉智昭さん(69)と、目標にしている同世代の人が頑張っていると、こちらが辞めるわけにはいきません。年上の人が頑張っていると、俺もあの人の年齢まで頑張ろうと刺激を受ける。皆、そうだと思いますよ。

 ――サラリーマンには定年退職がつきものです。

 活躍の場からはじき出されるんでしょう。足は動かないが口は達者。一つはじかれて、もっと年を取るとさらにはじかれる。見えない差別みたいなもの。「頑張るぞ、若い者には負けないぞ」と気力がある中高年がいれば、もういいやと諦める人がいる。個人差があり、性格の問題もあるでしょうね。今回の提言は元気な人に合わせている。

 ――老いを感じることはありますか?

 公演をずっと録音していますが、4~5年前は声も若いし、歯切れやピッチもいい。今はスピードが落ち、体力も落ちていると分かります。でも、ブレークした52歳も、現在も、そして70歳になってもお客さんには元気な姿しか頭にない。ポスターには「『年を取った』綾小路きみまろ」とは書いていないですから。しゃべることで世に出た私は、いつまでできるかな、最後は滑舌やろれつが回らなくなるのかな、と思いながら毎日やっているわけですよ。

 ――若さを保つ秘訣(ひけつ)は?

 肌にクリームやオイルを塗っています。これが本当の「オイル(老いる)マッサージ」。55歳からはジョギングも始めました。泉ピン子さんからは「もうかりだしたから、長生きしようと思って走り出したんでしょう」と言われて。本当のことだったから、ドキッとしました。

 ――中高年の夫婦の日常をネタにした「あれから40年!」という毒舌漫談がありますね。

 25~30歳で結婚した人が70歳くらいになり、退職して夫婦2人の生活になる。その世代だったら、私のショーに来て楽しんでくれると想定しました。死ぬほど好きだった人が、死ぬほど嫌になる。この差が面白いんです。ラブラブからデブデブに。当たったというか、共鳴されましたね。

 ――毒舌でも「頑張っていただきたいの!」と観客にエールを送っています。

 中高年の悪口を言っているんじゃないよ、今日という日は二度とないんだから元気で幸せに暮らして下さい、というメッセージです。同じ時代に青春、バブルを迎えて、年を取り、入退院を繰り返して、そして火葬場で焼かれる。それまでお客さんに命の尊さを伝えたい。頑張ろうねと。元気で長生きして、2020年の東京五輪が終わった頃、ころっと死ぬ。これが本当の「ご臨終」です。(聞き手・及川綾子、松川希実)

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 〈あやのこうじ・きみまろ〉 1950年鹿児島県生まれ。中高年を題材にした毒舌漫談で、絶大な人気を誇る。全国で年間約100カ所の公演を開催している。

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 日本老年学会と日本老年医学会は1月、一般的に65歳以上とされている高齢者の定義を75歳以上とすべきだという提言を発表した。65~74歳は「心身が健康で、活発な社会活動が可能な人が多い」として、准高齢者と位置づけた。両学会のワーキンググループが、高齢者の心身の健康に関する複数の調査結果をもとに10~20年前と比較。生物学的にみた年齢は5~10歳若返っていると判断した。

 60歳以上を対象にした内閣府の意識調査(2014年)では、「高齢者とは何歳以上か」との質問に「75歳以上」という回答は28%で、15年前より13ポイント上がった。一方、「65歳以上」との回答は6%で、12ポイント低下。国民の意識も変化している。