さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)

2011年06月29日 22時19分08秒 | 犯人特定
※初めていらした方へ:
「目次」から順に読んでいただくと、よりわかりやすくなっています。リンク→ ■目次(全記事)■

朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)
 筆者-初出●Townmemory -(2011/06/29(Wed) 22:16:18)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=63784&no=0 (ミラー


●番号順に読まれることを想定しています。
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)


     ☆


『うみねこ』を、朱志香=ベアトリーチェの物語として創作ふうに読み解いていくというエントリです。順番にお読み下さい。

 Ep4の後編です。


●魔女の発想を持つ霧江

 霧江が密室の中で、朱志香に小一時間尋問されている話の続き。話題その2です。

 留弗夫一家に隠された事情はだいたいわかった。次に聞きたいのは霧江本人のことだ。あんたはいったいどういう人なの? 何を求め、何を守ろうとしている人なの?

 そういうことを聞かれたからって、霧江が素直に全部答えたとも思えませんが、わたしたちはEp8まで見たので、おおむね知っています。

 たとえばEp7の裏お茶会。霧江が大量殺人者になっていくエピソードがあります。霧江は「殺す前に長々としゃべるのは三流悪役」という持論を持っているのですが、絵羽の前で長々と喋って、絵羽に射殺されてしまいます。

 これはもう、ほとんどの人が同様に考えていると思いますが、留弗夫が死んだことを知った霧江は、だったらもう自分も生きててもしょうがないやと思って、わざと絵羽に自分を殺させたのです。そう考えると筋が通ります。

 霧江という人は、留弗夫さんがこの世にいないんだったら、自分もこの世にいたくない。そのくらい留弗夫を愛しているんだ、そういう気持ちを持っていることがわかります。
 そこまで思い詰めた愛のかたちを持っているのは、この物語の中には、たった2人しかいません。1人は霧江、もう1人はベアトリーチェです。

 六軒島事件の犯人は、全員を殺すことに意味を見いだしています。自分を含めた全員が死ねば、全員が相互に観測不能状態に陥るからです。自分がどこにいてどうなったのかわからないし、他の人がどうなったのかもわからない状態になります。なにしろ死んでますからね。
 それは「猫箱」ということに、ひとしいのです。どうなったのか、どうなっているのかわからない。その場合、逆説的に、可能性が増える。というのが、「シュレディンガーの猫箱」です。死んだ人は、観測できないことによって、生きてるかもしれないことになる。
 そのようにして、全員が死んだ結果、全員が生きているという可能性を現出させることができる、それが「黄金郷」であるらしいのです。
(詳しくはこちらを参照のこと→ 「チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷」

 留弗夫さんがいないというのに、そのまま自分ひとり生きて、「留弗夫さんがいない」という現実を観測しつづけるなんて耐え難い。観測者である自分を消滅させることで、「留弗夫さんがいない」という観測現実じたいを消滅させてしまおう。
 そのようなアクションとしてこの自死を見たとき、この発想は「ベアトリーチェの黄金郷」に限りなく近しい。霧江という人は実はほとんど魔女なのです。


 Ep4は、しょっぱな第1の晩で留弗夫が死に、しかし霧江はラスト近くまで生き残るというシナリオです。つまり「留弗夫は死んで、霧江は生きてる」という状況が、Ep7お茶会と同一です。
 よってこのとき霧江は、Ep7お茶会と同様に、もう自分は死んでもいいや、と思っています。

 が、自分は死ぬとしても、ひとつ手当てしておかなければならないことがあります。


●須磨寺送りの阻止

 それは残される縁寿のことです。

 自分が死に、右代宮家もほぼ壊滅状態にある場合、本土に取り残されている縁寿がどうなるかといえば、これはほぼ間違いなく須磨寺家に引き取られます。
 縁寿を須磨寺にやらないために、あらゆる手をつくしてきたのに、そうなっては台無しだ。

 だからEp7などでは、絵羽に向かって、「自分がどんなに縁寿を憎んでいるのか」というストーリーを、迫真の演技で披露する。
 自分が死ぬ場合、右代宮家で生き残るのは絵羽だけです。よって、縁寿を須磨寺にやらないためには、絵羽が縁寿をひきとってくれなければならない。ところが譲治を殺したのは留弗夫・霧江コンビです。ふつうだったらそんな状況にはなりえません。
 けれども、絵羽という人は家族愛のかたまりです。「縁寿ちゃんはひどい霧江の被害者だったんだ、なんてかわいそうな」と思わせることができれば、絵羽が縁寿を引き取る可能性が出てきます。
 だめ押しで、絵羽が自分を射殺するようもっていきます。「縁寿ちゃんから母を奪ったのは自分のこの手だ」というひけめを与えるわけです。


 そんなわけで、霧江の行動式が、だいたい把握されます。
 留弗夫がいなかったら、自分は生きててもしょうがないが、縁寿が須磨寺送りになることだけはうまいこと避けたい。
 そういう、わりかし具体的なガイドラインを霧江は持っています。
(どこまであけすけに朱志香に語ったかというのは、微妙ではありますが)


 さて、そこでEp4の客室の状況に戻ります。
 留弗夫はもうおらず、縁寿は本土に置いてきている。目の前には自分を殺そうとする殺人者がいる……。
 これはEp7お茶会の状況と、ほぼ同じ。
 よって、Ep4のここでも、同様の行動式で動く。そのように把握することにします。

 自分はここで死ぬとして、うまいこと他人に影響を及ぼし、縁寿が須磨寺に引き取られないように手配をしたいものだ……。

 そういう思惑を知ってか知らずか、朱志香は霧江にテスト問題を出します。


●ロジックエラーの二択

「魔女が悪魔を召喚して、島の人々を殺してる」というストーリーを、戦人相手に完遂したい。
 そういう、ちょっとびっくりするような希望を朱志香はのべます。
 戦人が真に受けてくれるように、協力しろ。そんなことを霧江に言うわけです。

 でも、そういうファンタジーなことを、他人に真に受けさせるのはなかなか難しいことです。だいたい、人死にが出ているということだって、なかなか真に受けるものじゃありません。
 Ep3なんかじゃ、第1の晩で6人死んでるのに、生き残った連中は「どうせドッキリなんでしょ」なんていうナメた理解をしていました。家族の生々しい死体がごろごろ転がるようになって、ようやくみんな本気になるのです。

 戦人を本気にさせるには、いろいろ手続きが必要だ。

 たとえば、戦人から見て、知性において最大級に信用がおける人物。霧江のような人物が迫真の演技で深刻なことを言えば、戦人は真に受ける。


 そこで。
「戦人に電話をかけろ。そして《魔女や悪魔が我々を殺しに来るぞ》というストーリーを語れ」
 朱志香はそういう命令をします。
 ちゃんと伏線として、同じ内容の電話を朱志香は戦人にしておいてあります。同じ証言が複数重なることになって、信憑性が出る。

 そして、次のような付帯条件をつけます。
(はっきり条件提示をしたというより、自然にこういうことになります)

 1.命令に従わず、「朱志香から逃げろ」という電話をした場合、霧江を殺す。
 2.命令通りのストーリーで電話をした場合、それによって油断させ、戦人を殺す。

 これは実は子供たちに出題した三択クイズと同じものです。自分・大切な相手・それ以外の全員、のどれかを生贄に捧げよ、ということです。ただ、それ以外の全員はもう死んでしまっている状況ですので、第3の選択肢は無効になっちゃってます。

 この二択は、実際には意味のないものです。それは朱志香にもわかっているし、霧江にもわかっています。
 1の「朱志香から逃げろ」という電話をした場合、朱志香はもちろん霧江を殺し、戦人は朱志香と対決しにくるので、朱志香は戦人を殺します。
 2の選択肢「戦人を殺す」を選ぶような人でなしを、朱志香は許さないので、朱志香は霧江を殺します。そして戦人のところに行って、おそらく朱志香は戦人を殺すことになります。

 どっちみち、バッドエンドしかない選択問題です。いってみれば、窓からも出られないしドアからも出られない「ロジックエラーの密室」のようなものなんです。

 朱志香的には、霧江がどっちを選んでも、べつにさしつかえありません。霧江が「殺人犯は朱志香よ!」と指名しても、大きな問題にはならないのです。
 実際のEp4では、魔女ベアトリーチェの姿で戦人の前に現われて、問題を出したり罪を問い詰めたりしたわけですが、それが朱志香の姿で行なわれるだけです。
 朱志香の姿で同じことをやって、爆弾を爆発させるだけです。戦人が何かを思いだしてくれたからって、べつに彼と2人で島を出て逃避行する気もないですし。

 このような、「ロジックエラーの選択肢」を出すのは、もちろん、
「この設問にどう答えるかにおいて、霧江自身の価値観を露呈せよ」
 という意味です。

 どっちかを選ぶのなら、それで霧江という人物を見切ることができる。
 朱志香が想定しなかった、あっと驚くような別解を出してくるのなら、それはそれで朱志香の糧になる。
 行くも地獄、帰るも地獄。そういう状況で、霧江は何を最適解とするのか?
 そいつは是非とも見てみたい。


●霧江が出した「正解」

 そんな問題を出された霧江です。
 前述のとおり、自分は死んでもいいし、むしろ死にたいくらいのことを思っています。
 が、縁寿が須磨寺送りにならないような方策だけは、何とかとらねばならない。霧江の勝利条件は、自分が生き残ることではなく、縁寿が須磨寺送りにならないように持っていくことです。

 Ep7の場合は、目の前の絵羽を誘導すればよかったし、それは比較的簡単でした。しかし朱志香でそれは難しい。なぜなら、もう見るからに朱志香本人も死ぬ気満々だからです。かりに生き延びても逮捕・服役が待っていて、用をなしません。

 ですから戦人に生き延びてもらうしかありません。戦人が生きていれば、縁寿を保護してくれるでしょう。右代宮グループが戦人の後ろ盾になり、戦人が縁寿の後ろ盾になる。この構図が発生することにカケるしかありません。

 が、単純に朱志香が望むようなファンタジーストーリーを語ったところで、戦人が死ぬのは目に見えています。ただ選択肢1をバカみたいに選んではダメなわけです。

 霧江は電話をかけます。

 霧江は、悪魔が現われてみんなを次々に殺害していったんだ、悪魔や魔女というものは実在するのよ……というストーリーを語り出します。
 朱志香は、あぁ、そっちね……と思い、かるく失望します。
 ところが、その後、霧江はびっくりするようなことを付け加えます。

「………もし。あなたの前に悪魔やら魔女が現れても。」
「あぁ…。」
「その正体を、疑う必要は何もないわ。……そういうものだと、理解して。」
(略)
 だから、……あなただけは信じ、理解して、………私たちに受け止め切れなかった存在を、……受け止めてほしいの。
(Episode4)

 このことについては、「右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル」を先に読んだほうが、理解がしやすいかもしれません。

 魔女が現われたら、危険だから注意しろ、というのが当然のところです。大勢を殺した存在なんですからね。ですが霧江はすさまじいことを言って、傍聴していた朱志香をぎょっとさせます。

 魔女のことを、そういうものだと理解しなさい。
 魔女のことを信じて理解して、受けとめてあげなさい。


 朱志香は、
「私のことを理解してくれ、私のことを認めてくれ、私の本当を知ってくれ」
「私のことばを聞いてくれよ」

 という強い願いを持っていて、そのせいでこの事件を始めています。
 魔女がどうとかいうことも、「私は本当はこういう存在でありたいんだ」という、理解を求めるメッセージです。

 そしてその願いは、おもに戦人に向けられています。
 私という人間が、こうしてここにいたんだよ。戦人のことを待っていたんだよ。それを知ってほしい。私のことを思いだしてほしい。私のことを認めてほしい。
 そういう内心を持っている。

 霧江はそれを見抜いた。

 戦人がぶじに島を出る可能性があるとすれば、それは、戦人が朱志香をただしく理解し、受けとめ、それによって朱志香の心が満ちたりたときだ。

 だから、
「戦人くん、これからあなたの前に、魔女と称する人物が現われる。その人物のことを理解して受けとめてあげなさい」
 そういうスゴイことを、霧江は言う。

 それはまさに、正解にして最適解だったのです。霧江がぎりぎりで伝えたことばを正しく理解することができれば、戦人はたぶん生還してた……。


●「右代宮戦人の罪」を身にしみて理解する者

 さて。けっこうショックなことをいろいろ霧江からきいてしまった朱志香は、霧江をかたづけたあと、自室に戻って魔女の衣装を着て、戦人を呼びだし、嵐のバルコニーに出現するわけです。

 とりあえず戦人に三択クイズを出します。大切な人の名前は空欄にしてあります。
 その空欄に彼が何を入れるか。それがひとつのポイントです。何かをちゃんと覚えているのかどうか。紗音の名前を入れるかどうか。あるいはひょっとして朱志香の名前を入れたりするかどうか。

 戦人くんときた日には、さっき霧江から「理解して受けとめてあげなさい」と示唆されていたのに、
「愛してるぜベアトリーチェ、そして俺はせっかくだから二番の選択肢を選ぶぜ」
 とかいう、クリティカルにひどいことを言います。
 ベアトリーチェが一番求めてやまない言葉を使ってベアトリーチェを攻撃しているのですからこれはもう最悪です。

 これはどうも反応が悪いな、と思った朱志香は、「どうして6年間も右代宮家から離れたのだ、それをとがめに感じないのか」と、わりと直接的に問いただします。

 戦人は、「そりゃ子供っぽかったかもしれないが、オヤジだって悪いんだからおあいこで相殺ってことでいいだろ、こっちもいろいろ悩んだんだからごちゃごちゃいうなよ」くらいの答えでした。

 朱志香は「もっと他に懺悔すべきことがあるだろう。おまえには罪がある。それを思いだせ」と強要します。具体的には、紗音との約束を思いだすかどうか。あるいは奇跡的に、その陰にいた朱志香のことをおもんばかって悔恨するかどうか。

 戦人は、「わけがわからない」という反応です。そなたの罪でこの島の全員が死ぬ、と言われて逆上したりします。

 無理もない、といえば、無理もない話ですが、戦人くんは「理解し、受けとめる」ということが、ほとんどできませんでした。まあ公平に見て、朱志香が言ってるのは一種の無茶ぶりではありますからね。


 しかし。
 朱志香はここで、単に言葉通りの意味で、「なにがしの約束を思いださない戦人、それを思いだせ」ということを言っているのではないわけです。

 問題は、
「思いだせるか、思いだせないか」
 ではない。
「人の気持ちがわかるか、わからないか」
 です。

 紗音との約束を、忘れっちゃって、さっぱり思い出せないという、表層的な現象が問題なのではありません。
 そういうことをしたら紗音がどんな思いを抱くか、ということをまったく考えた形跡がない。それをとがめているのです。
 紗音がどんな気持ちで待っていたかなんて想像しようともしないし、そのまた陰で朱志香がどんな気持ちでそれを見ていたかなんて考えもしない。

 戦人は留弗夫のことを、「明日夢にひどいしうちをした、悪党」だと思っています。ことここに至ってもその認識が変わっていない。
 どうして親父はそんなことをしたんだろう、そこには何か特別な理由が?
 といったことを想像していこうという態度が、さっぱりない。

 だいたい、
「浮気をして、子供までできたあげく、前妻の喪にも服さないで再婚する」
 という留弗夫の行動を、「明日夢母さんをないがしろにしたな!」として怒ってるわけですが、「紗音と約束しといてそれをコロッと忘れ、6年間まったく放置する」というのは紗音をないがしろにしてるにもほどがあります。留弗夫はとがめに感じていますが戦人はそうじゃないのです。自分の都合しか考えてない、他人を責めるばかりで、自分がやってることに自覚がない。明らかに戦人のほうがろくでなしです。

 それを考えろ、気付け!
 朱志香ベアトリーチェは、そう言っているのです。

 朱志香には、それは人ごとではありません。
 その戦人の考え無しの態度は、
「夏妃が、どんな気持ちで自分を見守ってくれていたか考えもしなかった朱志香」
 という立場と、完全にひびきあっています。

 朱志香ベアトリーチェが、戦人の罪を告発するとき、それは朱志香自身の罪をも告発しているのです。

 これまで見てきたとおり、Ep1~4を通して朱志香は、
「ろくでもない生きる価値のない人間だと思っていた人が、全然そうではなくて、すぐれた心の持ち主だった。自分の目がくさっていただけだった」
 という体験を、いやというほど繰り返しました。
 自分の気持ちしか頭にない、人の気持ちを考えもしない自分だったから、大切なことがまったく見えていなかったのです。

 そして今ここに、自分の気持ちしか頭にない、人の気持ちを考えもしない少年がいます。
 それがどれだけ罪深いことか。
 その罪深さを最も身にしみて理解しているのが、朱志香ベアトリーチェです。


 この物語は、自分の気持ちばかりとりあっていて、人の気持ちがわからない2人の少年少女が、それぞれに何か大事なことをつかみとろうとしてもがく物語です。


「おまえは誰で、どうしてこんなことをしたんだ?」
 そういう疑問を抱き、積極的に身を投げ出して想像していくこと。
 それが霧江のいう、「理解し、受けとめる」です。戦人はそれに失敗してしまいます。失敗してしまいましたから、ベアトの物語は終わっても、戦人の物語はまだまだ続きます。


●朱志香から戦人へ。戦人から縁寿へ

 以上が、朱志香=ベアトリーチェの物語です。

 ひどい人たちが集まる右代宮家、六軒島。
 ここを「死」という永遠の扉で閉ざし、観測不能の時空のはざまに、幻想の黄金郷を築こうというのが、彼女の思惑でした。
 すべての人が美しい心を持ち、みんなが慈しみあう理想郷。黄金郷。そういうまぼろしの世界を量子力学のトリックのはざまに築き上げようと思っていました。

 けれども。

 黄金郷は最初からここにあったのです。それが自分に見えていないだけだったのです。

 それが分かった結果。殺人者である自分は、黄金郷の創造者などではなく、黄金郷の破壊者でした。
 黄金郷を、自分の手で損なうということを、4度、繰り返しました。

 もういい。
 もう充分です。自分の罪が充分にわかりました。

 このうえどれだけ繰り返しても、戦人への愛は成就せず、美しいものを自分の手で壊すことのくりかえしです。

 もうこれ以上、自分の手で黄金郷を壊したくありません。ですから彼女は、ゲームを放置し、永遠に停止しようとします。
 それができなかったので、彼女は、思考ずることをやめ、動作することをやめ、人形のようになることでこの拷問からドロップアウトします。


 そしてゲームには、まだ自分の罪が――人の気持ちがわからないという罪がはっきりと自覚されてはいない、右代宮戦人が取り残されます。彼は、ベアトのいないゲーム盤の中で、それを知っていくことになります。

 右代宮戦人がそれを思い知ったあと――

 12年後の世界に、右代宮家を憎み、六軒島を憎み、そこが実は光輝く黄金郷であることに気付きもしない右代宮縁寿が取り残されています。
 自分が霧江と絵羽にどんなに慈しまれ守られていたかなんて知りもしないで、六軒島の人々がどんなにいい人たちだったか知りもしないで、絵羽を憎み、右代宮家を心のない金持ちだと思っています。

 そうじゃないんだ。
 そうじゃないことを、俺もベアトリーチェも、この島で知ったんだよ。

 戦人はとくべつに、縁寿を六軒島に呼び、そのことを教えてあげるのでした。


●まぼろしよ美しくあれ

 これが、わたしの目には見ることができた、まぼろしの世界です。



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■
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朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)

2011年06月28日 09時10分07秒 | 犯人特定
※初めていらした方へ:
「目次」から順に読んでいただくと、よりわかりやすくなっています。リンク→ ■目次(全記事)■

朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)
 筆者-初出●Townmemory -(2011/06/28(Tue) 09:06:24)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=63754&no=0 (ミラー


●番号順に読まれることを想定しています。
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3


     ☆


『うみねこ』を、朱志香=ベアトリーチェの物語として創作ふうに読み解いていくというエントリです。順番にお読み下さい。

 前後編でEp4を扱います。


●3つのイベント

 Ep4を朱志香の物語として読む場合、重要なイベントは3つあります。

 ひとつは、「三択クイズ」
 ふたつめは「霧江との対決」
 みっつめが「戦人には罪がある」


 この順にお話を展開させていきます。


●三択問題の意図

 一コ前のEp3では、右代宮親世代を全員生かしておき、どんな反応があらわれるかを見ました。
 では今度は、右代宮の子供世代たちを見てみよう。
 彼ら・彼女らは、いったい何を大事だと思っているのか。そのために、どれだけのことをする覚悟があるのか。

 どうやら人間は、死の危険にさらされると、本性を露呈するみたいです。ですから、彼ら彼女らには、死にそうな状況を味わっていただかねばなりません。

 しかし、子供世代と大人世代を同時に生かしておくと、大人が子供を守ってしまうので、いまいち緊迫感を与えられません。
 そこで大人たちを6人殺し、残った大人は別室や倉庫に隔離して、子供たちから引き離します。

 子供たちから確実に何らかの反応を引き出したいので、三択形式の問題を作ります。
 譲治に出題された問題は、こうでした。

 以下に掲げる3つの内。
 2つを得るために、1つを生贄に捧げよ。
 一.自分の命
 二.紗音の命
 三.それ以外の全員の命
 何れも選ばねば、上記の全てを失う。
(Episode4)

 2番の「紗音」のところには、本人が愛する相手が入ります。朱志香なら嘉音。真里亞ならママでしょうか。

 朱志香は、Ep1から3までのあいだに、六軒島の人々が、「自分自身よりも大切なもの」のことについてカミングアウトしていくさまを、いやというほど目撃してきました。
 こんどは、子供世代の面々にも、それをカミングアウトさせようというのです。

 おまえは何が(誰が)大事なんだよ。
 それは自分自身と比べてどのくらい大事なんだよ。


 そういうことを端的に露呈せざるを得ない質問事項になっています。

 ただ、譲治と真里亞がどういう反応を示すのかは、おおむね朱志香にはわかっています。
 ですから、ここで重要なことは、

「朱志香自身が、自分の価値観を告白する」
「戦人の大切なものは何か、それはどのくらい大切なのか、を喋らせる」


 このふたつが主眼になります。

 戦人については、ここでは置いておきます(あとでまとめて問い詰めることになるのですね)。
 まず、朱志香本人は、大切なものをどのように扱うのか。


●朱志香の回答と「夏妃リフレイン」

 彼女はこう回答します。
 大切な嘉音くんを死なせる選択は論外。自分と嘉音くん以外の全員を死なせる選択も、嘉音くんに罪の意識を背負わせることになるから、彼を不幸にするだろう。だから、乙女として選択するならば、「自分を死なせる」以外にはない。
 しかしそれ以前に、こんな馬鹿げた三択をつきつける奴をぶんなぐり、選択肢そのものを無効にしてやる! 戦って全員を守る、それが「右代宮次期当主」としての選択だ。

 朱志香のこの回答を、
「愛する人がいちばん幸せになれる選択をする、という方針を明確にした上で、状況そのものにあらがっていく」
 という形に読み替えたとき。

 これは、Ep1で夏妃が宣言したことと、まったく同一といえます。

 夏妃はEp1で、「朱志香を守ることが最優先で、そのためなら何でもする」という方針を明確に宣言します。
 その上で、「殺人犯には抗戦する」という実際の行動をとりました。朱志香の回答は、夏妃が見せた態度のリフレインなんです。

 特に注目したいのは、朱志香は、戦ってみんなを守ることを「右代宮次期当主」としての選択だというのです。

 Ep1で夏妃は、犯人と一騎打ちをすることでみんなを守ろうとしたとき、「右代宮家代表、右代宮夏妃です」と名乗っているのです。

 夏妃という人は、自分が片翼の紋章を持てないことに、忸怩たる思いをいだいていた人です。それでも、言動だけは片翼にふさわしい、右代宮家にふさわしいことをしようとつとめていた人です。

 朱志香はそれを知っています。
 だから彼女は、「これが片翼の鷲の選択だ!」といって、夏妃と同じ行動を取る

 それは、右代宮家当主である朱志香から、片翼を持たない夏妃に対して、「あなたの態度はまさに右代宮家にふさわしいものだ」という認定を与えたのに等しいのです。

 母さん、あなたは立派な人だ。右代宮の誇りを持った人だ。
 そういう、ベアトリーチェからの「遠い返信」として読むことができるのです。


●霧江を閉じこめて語らおう

 朱志香はEp3の中で、
「霧江という人は、私にとって重要なことを教えてくれそうだ」
 という認識を持ちました。

 謎が多い人です。
 Ep3まで消化してきて、夏妃、楼座、絵羽のことは、かなり解明されました。母親たちが本気で、娘や息子をいつくしんでいることも、いやというほどわかりました。

 ただ、右代宮家の母親4人のうち、霧江のことだけが、よくわからない。
 縁寿を連れてきていないので、「霧江と縁寿の母子関係」の実体をたしかめることができません。
 戦人との関係も、いまいち微妙なところがあって、判然としない。


 それを確かめてみたい、と朱志香は思います。
 確かめるための方策をとります。

 その方策というのは簡単なことで、第1の晩では殺さずにおいて、しばらく泳がせておき、第8の晩(ラストの殺人)のときにどこか適当な部屋に追い込みます。
 それで足でも撃って動けなくしておき、小一時間も問い詰めたらよいわけです。

 Ep4では、霧江は殺人者から逃げて本館の客室にたてこもり、戦人に電話をかけてきました。あれは実際には、客室に犯人が同室していて、霧江は負傷させられ、逃走不可能な状態にあったと考えるわけです。

 さあ、自分の命を人質に取られた状態で、霧江は何を言い、何をするのか。


●留弗夫一家の家庭問題を知りたい

 朱志香には、霧江から手に入れたい知見がいくつかあります。

 まっさきに知りたいのは、「戦人家出事件の真相」です。戦人が家出しなかったら、そもそもこんな連続殺人事件は起きなかったっぽいのです。

 なんでまたそんな、6年間も家出するほど親子関係がこじれたのか。自分の運命を決定的に狂わせたきっかけですから、それは知りたい。

 これまで朱志香は、霧江を第1の晩でまとめて殺しちゃったり、銃撃戦のあげく殺しちゃったりしていたので、ゆっくり事情をきくひまがありませんでした。Ep4客室というのは情報収集の絶好のチャンスであって、これを見逃すとは思えません。というかそのチャンスを作るために、Ep4みたいな殺人の順番を設定しているわけです。(ここで想定しているストーリーでは)


 戦人が激怒して家出までした理由は、確かこうでした。
「留弗夫が、明日夢の喪もあけないうちから霧江と籍を入れた」
 という、ちょっと常識では考えられない行動を留弗夫がとったからです。

 じっさい、なんちゅー非常識だ、と夏妃などはEp7で激怒しておりました。

 そもそもをいえば、「留弗夫が浮気をした」というところが発端なわけですが、単に「浮気」だけでは、戦人が6年間一瞬たりとも許さん、というほどは激怒しないように思います。
 それだけではなくて、
「浮気をして、子供までできたあげく、前妻の喪に服さないで再婚する」
 という連続技が問題なわけです。
 明日夢という人への敬意がまったく感じられない行動をとった。いらない人だったかのように扱った。
 だから戦人が義憤にかられることになる。


 そこで問題になるのが、なんでまた留弗夫はそんな行動をとったのかってことです。
 それが大問題になるのをわからない留弗夫ではないでしょう。

 かりに留弗夫が、そういうことをわからないお馬鹿さんだったとしても、彼のそばには霧江がいるのです。あなたそれはデメリットが多いからおやめなさいと強く助言しそうなものです。

 とりあえず喪があけるまで1年くらい待ったらよいのです。縁寿はひとまず認知だけしておき、明日夢の両親にきっちり筋をとおし、戦人にもゆっくり説明して、喪があけて、さてそれでは、といって籍を入れたらたぶん何の問題もなかった。そうすることによるデメリットなんてなさそうですよ。

 が、留弗夫はそうしなかったし、賢者である霧江も、留弗夫に反対しなかった。
 何故だ。
 そこには、彼らしか知らない、何かの事情があるはずだ。それを教えろ、と朱志香は迫ります。


●須磨寺家が要求したこと

 そこで「須磨寺」というキーワードを登場させることにします。Ep4は、須磨寺の実体が露呈するエピソードなのです。

 霧江の実家、須磨寺家は、ヤクザそのものか、限りなくヤクザに近い家です。霧江が愛人になって子供まで作って、そのことに家が激怒したなんていう話がありました。本来なら霧江はスマキにされて海中投棄されるとこだったそうです(そう書いてあります)。

 よろしいですか、もし留弗夫が即座に籍を入れなかった場合、霧江は実際にそうなってた、というのが、ここでわたしが語るストーリーです。

 作中では、霧江が勘当だけで済んだのは右代宮グループから須磨寺への金銭的な優遇があったからだ、みたいな説明がされていますが、確かにそういうこともあったでしょう。
 が、金銭だけでは済まない部分もあります。
 ヤクザというのは面子を重んじますから、本家の総領娘がどっかの馬の骨の2号さんをやってるなんていう状況を、彼らは許すはずありません。そんな恥をかくくらいなら自分らで霧江を殺すわ、というのが彼らの価値観です。実際にそう書いてあります。

 しかもその家の次男坊の、正妻ならまだしも愛人とは…。
 本来なら、これほどの不名誉ならば、本家の娘とて容赦はされない。
 棒を立てて、右に倒れれば太平洋、左に倒れれば日本海に、簀巻きにされて放り込まれているところだ。
(Episode4)

 よって、金のことは金のこととして、それとは別に、「霧江が愛人の立場である」という状況を解消してもらわなきゃ、須磨寺的には面子が立ちません。ですので須磨寺は、そういう条件を出しました。それがのめないならうちで霧江を殺すよ?

 これが、霧江の語った「即座に入籍しなければならなかった理由」だろうと想定することにします。
 愛人じゃダメ。いちおうの富豪である右代宮家の正妻ということなら、それなりの面子は立つ。

 これは喪が明けた1年後ではダメです。なぜなら、縁寿はもう生まれているからです。1年待つとすると、非嫡出子となる縁寿は、母の籍に入って須磨寺縁寿になります。それはとりもなおさず「霧江はシングルマザーになりました」という事実を戸籍が証明するということであるのです。
 だから絶対に即座の入籍でなくてはならない。縁寿は最初から右代宮縁寿でなければならない。そのためには縁寿の誕生と同時に入籍がなければなりません。

 そうでない場合、赤ちゃんを抱いてそのへんを散歩していた霧江は、ある日、黒塗りの車に乗った黒ずくめの男たちにさらわれて、やがて水死体として発見されることになります。
 これは、同じEp4で語られる「黒塗り車に乗った黒ずくめたちに拘束されそうになる縁寿」の展開と、響き合います。Ep4は、「母子が二代にわたって須磨寺から圧力を受ける話」という側面があります。縁寿が須磨寺から圧力を受ける描写をもとにして、霧江もそうだったかもしれないという方向に想像を進められるか、という部分があるわけです。

 もうひとつ大事なことは、霧江がスマキになって海に放り込まれたあと、須磨寺縁寿は須磨寺家の手に落ちることになります。
 須磨寺家の籍にいる縁寿が、須磨寺の祖父や祖母や叔母の手元に渡るわけですから、世間的には何の問題もないわけです。そして縁寿は、右代宮家に影響を及ぼすための何らかのカードとして使われます。
 いや、カードとして使われるぶんにはまだ良いです。
 須磨寺家で育つというのがどういうことなのか。それをEp4で須磨寺霞が怨念をこめて語り尽くすわけです。霧江だって、どうも須磨寺がいやでいやで、それでおん出てきた。留弗夫の子を妊娠したのも、あえて須磨寺から勘当されたいがためのカケなのじゃないかとも思えます。

 縁寿が須磨寺縁寿になることを、断じて避けねばならない。そのためには、喪に服すとかそういうことをとっぱらってでも、即座に入籍しなければならない。
 世間からそしられたり、息子が激怒して家出するかもしれないがそれもやむをえない。


●全部自分のせいにする留弗夫

 こんなややこしい、泥沼めいた事情を、12歳当時の戦人に説明するわけにはいきません。だから黙っています。すると、何も知らない戦人は明日夢がないがしろにされたと思って激怒して家出するわけです。

 じゃあ、17~18歳になった戦人になら、説明したら理解できるだろうから、留弗夫は説明をするかというと、これはしません。
 なぜならそんなのは言い訳にしかならないからです。
 それに、今後、戦人と霧江とのあいだには好ましい関係性が生じてもらいたいのです。霧江の実家はひどい悪党でね、なんていうお話をしていいわけがない。

 だから留弗夫は、そうした種々を自分1人の腹にぐっと収めて、俺1人がすべて悪かったんだと言って、実の息子に土下座するんだ。それが男のけじめというもんです。


 そんな話を霧江の口から、朱志香は聞いちゃったわけです。そう考えます。

 そこにあるのは、自分のしでかしたことについて、すべて自分で背負い込んで、不器用なりに何とか責任を取ろうとする、1人の男の姿です。

 留弗夫叔父さん、立派な人じゃないか。
 女にだらしない、顔だけちょっといい、しょうもないオッサンだと思っていたけれども(実際、夏妃=朱志香の母は、留弗夫に対してそういう評価っぽいです)、そうじゃあなかったらしい。男らしくけじめつけてるじゃないか。

 そう、ここにもひとつ、「駄目な人だと思いこんでいたが、そうじゃなかった」が発見されました。またしても。

 そういう立派な父親に対して、事情をわかろうともせず、だだっ子のようにあたりちらして、あてこすりのように家出する戦人という人はいったい何なんだという話になる。

 そして、それは。
 その「いったい何なんだ」は朱志香には人ごとではありません。
 相手の気持ちや事情をわかろうともせず、幼児みたいな心根で、母さんのことを嫌ったりしていた朱志香自身……その姿と完全に一致するからです。

 ここに至って、
「自分の気持ちばかり考えて、他人の美しい心をまったく見ていなかった朱志香の物語
 だったものは、
「自分の気持ちばかり考えて、他人の美しい心をまったく見ていなかった朱志香と戦人の物語
 へと変質をとげるのです。

 だから、そうしたことを嫌というほど思い知った朱志香ベアトリーチェは、このEp4で退場し、まだ全然そういうことを思い知っていない戦人は、バトンタッチされて、物語の中にひきつづき取り残されます。


(続く)


■続き→ 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)


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朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3

2011年06月27日 07時10分47秒 | 犯人特定
※初めていらした方へ:
「目次」から順に読んでいただくと、よりわかりやすくなっています。リンク→ ■目次(全記事)■

朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3
 筆者-初出●Townmemory -(2011/06/27(Mon) 07:06:53)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=63720&no=0 (ミラー


●番号順に読まれることを想定しています。
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2


     ☆


『うみねこ』を、朱志香=ベアトリーチェの物語として創作ふうに読み解いていくというエントリです。順番にお読み下さい。


●Ep3で確かめたい2つのテーマ

 Ep1と2を経験して、朱志香はひどく動揺しています。

 夏妃は自分を愛さない冷たい母だと思っていました。まったくそうではありませんでした。
 楼座を愛のない非道な母だと思っていました。あながちそうでもありませんでした。
 郷田を卑怯な心ない奴だと思っていました。そうではありませんでした。人の心がわかるやつだった、他人のために戦えるやつだったんだ。

 朱志香=ベアトリーチェは、無価値だと思っていた人間の、心根の美しいところを、どんどん見つけてしまいます。

 無価値だから殺していい、という論理で自分を納得させていたのですから、そこに実は価値があるとなれば、殺すのは心理的に難しくなります。
 殺してもいいようなやつを殺していくゲームだったはずのこの儀式は、いつのまにか、
「良い人、心の美しい人を、それでも殺していかねばならないゲーム」
 へと、変化してきているのです。
 ただでさえ、人を殺すのには……殺す側にだって苦痛が伴います。
 しかもそれが、「殺したくないような良い人」を際限なく殺していく義務であったなら……?

 そう、際限なく。
 戦人が、「まだまだ屈服しねぇぜ、ベアトリーチェ、もう1ゲームだ!」といえば、新たにまた、自分を愛してくれていた母さんや、真里亞のママや、郷田みたいな立派な男を殺害しなければなりません。ついでにいえば、親友の紗音や、その婚約者の譲治兄さんも。
 ガッツのある戦人が「もう1ゲーム」と言いつづけるかぎり、永遠に。


 そこで朱志香は、Ep3におけるテーマを2つ設定します。

 ひとつは、このEp3のゲームで、何とかして戦人に屈服してもらう。戦人が「わかりました、魔女はいますから、認めますから」と言えば、この苦痛のゲームをこれ以上くりかえさなくてもすむのです。
 これはほとんど成功しました。

 ですが、Ep3で使った屈服のさせ方は、ウソ八百をならべたててとにかく「認めた」って言わせてしまえ、という種類のもので、
「戦人に私のことを、わかってもらいたい」
 という願望からは、遠く離れたものです。
 なので、
「でもやっぱり、このやり方じゃあ駄目なんだよなあ……」
 そういって朱志香は、「ウソでしたー」とベロを出して、自分でネタバラシをします。


 もうひとつのテーマは。
 母さんや楼座叔母さんが、じつは私の思っていたようなひどい人じゃないことがわかってしまった。むしろその反対だった。

 じゃあ、他の親たちは、どうなんだ。

 右代宮の四きょうだいは、昔から人間関係のハタンした人たちとして描写されます。蔵臼は長男であることをかさにきて横暴で、絵羽は意地悪で、留弗夫は姑息で、その3人にいじめられた楼座は性格がいがんでる
 この4人は、全員が他の3人をきらってる。右代宮の相続問題は、自分がお金をほしいという以前に、他のあいつらがいい思いをするのがしゃくだ、みたいな感情もありそうです。
 もう、心根が醜いったらない。
 死んじゃえばいいのに。

 そう思っていたわけだけれど……。
 ひょっとして、それは私の目がゆがんでいたからで、実はそうじゃないの?


 それを確かめようと思ったのが、Ep3です。
 朱志香は、第1の晩で使用人たちばかりを殺し、右代宮の四きょうだいを全員生存させておくという盤面を設定します。生存させておいて、何を言い出すか聞いてみようというわけです。

 何が見えてくるのだろう。


●絵羽と蔵臼が見えてくる

 Ep3の第1の晩は、6人を比較的きれいな形で殺しています。Ep1や2のように、グロテスクな飾り付けを行なっていません。
 朱志香はもう、自分の始めたこのゲームが、自分の思っていたようなものじゃないことに気づいているからです。自分が殺した人たちの良いところを、これからもきっと、どんどん理解してしまうだろう。そう思うと、死体操作をする気にはなれません。

 第1の晩を全員生き残った四きょうだいは、見えない敵を警戒して、協力体制を取ります。
 そして、初めて「碑文への挑戦」を始めます。右代宮の大人が7人がかりなら、碑文は解けるかもしれません。
 それも朱志香は狙っていたでしょう。碑文が解読されたら、朱志香は殺人をやめることができるのです。少しでも早く解読してもらいたい。


 Ep3で朱志香は、3つの重要なイベントに遭遇します。


 ひとつは、秀吉と譲治の死体を見て、正体をなくして泣き叫ぶ絵羽の姿です。
 絵羽が夫と息子に抱く愛情は、まったく嘘偽りがない、それどころか誰よりも深いということを朱志香は実感します。(絵羽が家族を失う、という状況は、ここで初めて出るのです)
 秀吉おじさんと譲治兄さんは、絵羽おばさんが右代宮家に復讐するための道具じゃなかったんだ。
 朱志香はそれを、ちょっと疑っていました(ように思います)。
 だって絵羽は、譲治と紗音の恋仲に断固反対でした。譲治のお嫁さんは私が用意するわ、なんて言っていたのです。それは「譲治の幸せよりも、私の都合で結婚相手を決めるんだ」と言ってるも同然です。結局譲治兄さんは絵羽おばさんが自己実現するための道具なんじゃないのか? 朱志香はそう思ってたでしょう。
 でも、そうじゃなかった。


 ふたつめは、朱志香の父である蔵臼の本心です。
 蔵臼は若い頃から、当主跡継ぎの立場をかさにきて、弟妹をいじめてきた人です。とくに絵羽にはきつくあたってきました。
 でも、今はそれを後悔しているんだ……ということを、彼はぽつりともらします。

「絵羽に限らん。……留弗夫にも、楼座にも。…私がした兄らしいことと言えば、それを横柄に語り、彼らを苛めただけだ。
 ………父のようになりたくて、私なりに必死だった。…だが、いつもそれは及ばず、そのはけ口を彼らに向けてしまった…。しかし、それは言い訳にならん。…絵羽にも、未だ傷が癒えぬほどに、深い心の傷を負わせてしまっただろう。……悔いているが、今更それを詫びたところで、その傷が癒えるわけもない…。」
(略)
「……絵羽、………すまん。……もちろん、許さなくていい…。」
(Episode3)

 朱志香が人殺しを行えるのは、「ウチの一族はいがみあって憎しみあって、最悪だ。もうみんな死ねばいい」という心理的な「ハードル下げ」があるからです。
 でも、そうでもないことが、わかってしまう。悪評ふんぷんの「右代宮家のきょうだいゲンカ」も、内心ではくやむ気持ちでいっぱいだった。


 そして、みっつめは……。


●右代宮霧江が示唆するもの

 みっつめは、右代宮霧江の情念に、直に触れたことです。

 屋敷のホールで起こった銃撃戦の一幕。
 愛する留弗夫が、別の女(しかもよく知ってる相手だ)と結婚し、子供をつくり、家庭をはぐくむそのさまを、留弗夫の近くで、十数年にわたって、ずーっと見ていなければならなかった。
 その苦痛。その嫉妬。その憎悪。
 そういうナマの本心を、霧江は自分の言葉で、はじめてしゃべった。朱志香はそれをじかに聞いたのです。

 それは朱志香には、重大な価値を持つ言葉でした。
 なぜなら。
 朱志香は、戦人と紗音が幼い恋をはぐくんでいくその様子を、近くで、しかも傍観者として、ずっと見ていなければならなかった立場だからです。
(参照→Ep7をほどく(8)・ジェシカベアト説(中)
 霧江と朱志香は、ほとんど同種の境遇にあります。

 朱志香も戦人が好きだった。でも戦人が重大な約束をしたのは紗音です。朱志香は、私のことを思いだしてほしい、私という人間があなたのそばにいたことを認識してほしい、私を見てほしいというサインを、連続殺人事件を通じて送り続けます。「思いだせ」というサインを。
 でも、戦人が何かを「思いだした」としても、それはきっと紗音との約束のことなのです。

 どっちみち詰んでいるゲームなんだ。最初から「ロジックエラー」に陥っているようなものです。

 このまま状況が進んでいったなら、朱志香はどうなるのか。という絶好のモデルケースが右代宮霧江なのです。というか、霧江はもろに、未来の朱志香の姿です。
 気の強さ、頭の良さ、行動力、運動神経。霧江と朱志香はパラメータ分布が似ています。方向性が似てる気がするのです。だから、おんなじ地獄にはまりそうだ……。

 もし、戦人が、「6年前の紗音との約束」という、比較的思いだしやすそうなイベントを、ぽろっと思いだして、恋心を復活させたりなんかしたら。それで2人がうまくいったりなんかしたら。
 朱志香はそれを、近くでじーっと……親戚付き合いがあるかぎりずっと見続けることになる。きっと朱志香は地獄を味わうことになるだろう……。
 霧江の告白は、そういう宣告として響きます。

 だからこれ以後、「霧江と朱志香」という組み合わせがフィーチャーされていくのは、そういう共鳴のためです。この2人の対比は、朱志香犯人説を採る場合、重大な意味があります。

 Ep7では霧江と朱志香のバトルが描かれました。霧江が朱志香をボッコボコにしました。
 Ep6でもバトルが描かれ、こっちは朱志香が霧江をボッコボコにするわけですが、こういったことを「朱志香の未来をふさいでいる不幸な運命の象徴としての霧江。それとの闘争」と見るのも、なかなかおもしろいアングルです。

 Ep6では、「自分の幸せの追求のために、他人をどこまで踏みつけることが許されるのか」という質問を朱志香は霧江に投げかけ、
「その答えは、無限に許される、である。断固として自分の幸福をつかまなければ、あなたは地獄を這うだろう」
 と霧江は答えます。
 当然、この問答はEp3の延長上にあるものです。

「人は、幸せになるために、どこまで他者を踏み台にすることが許されるのか」

 このEp6の問答は、「私が恋を成就させたら、紗音と譲治の恋がハタンするのはどうなのか」という家具の決闘問題が下敷きになっているのですが、これをもっと引き延ばして、

「私が願いをかなえるために、六軒島の全員を皆殺しにすることは許されるのか」

 という問いとしてとらえなおすことは、それほど無理ではなさそうなのです。
 この問いに霧江は「許される」と答えます。

 朱志香=ベアトリーチェは、まさに「それは許されるんだ」と考えて、それを実行している人物です。
 そして霧江もまた、Ep7で、「自分が大金をつかむために、六軒島の全員を皆殺しにする」というアクションを実行しているのです。


●その先にあるもの

 このように、霧江という人物は、「朱志香=ベアトリーチェ」を想定するときのキー・キャラクターです。
 朱志香は、Ep3で霧江が語った「嫉妬の物語」に、非常に興味を持ちます。
 もう少し、この人の言葉や行動を、見聞きしてみたい。

 そこで、Ep4でもひきつづき、霧江を生かしておいて、どんな行動に出るのか見てみようとします。第1の晩のメンバーから外し、第8の晩まで生かしておきます。


 Ep1~3で、親世代たちのことはだいたいわかった。中でも、霧江は興味深いものを持っていそうだ。
 それをふまえて朱志香は、「その先にあるものを知ろう」とします。

 Ep4が始まります。


(続く)


■続き→ 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)


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朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2

2011年05月23日 20時31分47秒 | 犯人特定
※初めていらした方へ:
「目次」から順に読んでいただくと、よりわかりやすくなっています。リンク→ ■目次(全記事)■

朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2
 筆者-初出●Townmemory -(2011/05/23(Mon) 20:28:12)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=62997&no=0 (ミラー


     ☆


 前回からの続きです。(前回→ 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 朱志香=ベアトリーチェの想定で、Ep2の物語を(想像をまじえ、創作的な方向で)読みます。


●じゃあ、楼座はどうなんだ?

 朱志香は、母さんが自分をまったく愛していないと思っていました。だから殺してしまってもかまわないと見なしていました。
 けれども、実は全然そうじゃなかったということを、Ep1を経験することで、知ってしまいました。

「母と娘」というテーマが、朱志香の中に、浮かび上がります。
 そこでこういう問題設定が立ちあがるのです。

 真里亞と楼座おばさんの間柄は、どうだろう。


 このエントリの想定では、ベアトリーチェの正体は朱志香です。ですから、朱志香と真里亞は、魔女同盟の間柄です。
 よって朱志香は、真里亞の境遇を完全に熟知しています。楼座は育児をネグレクトしており、しかも深刻な家庭内暴力が発生している。
 真里亞がママを憎みたくなったとき、それを押しとどめる役目を持っていたのはさくたろうでしたが、楼座がさくたろうを破壊してしまったため、もはや真里亞はママを憎んでいます。
 なんてひどい母親だろうって、朱志香は思っています。

 魔女同盟は、「ママが嫌い同盟」でもあるのでした。
 ここが重要な共振ポイントです。朱志香=ベアトリーチェと真里亞のあいだには、「当然受け取るべき母の愛を、うまく受け取ることができなかった2人」という特別なむすびつきがあるのです。
 そしてそのことは後に、「母代わりとなった絵羽に虐待される縁寿ベアトリーチェ」というかたちで、リフレインされていきます。

 でも、ひょっとしたら、それは朱志香にはそう見えているだけで、楼座もあれでいて真里亞のことを愛しているのだろうか。
 いや、まさか……。

 それを確かめようというのが、朱志香にとってのEp2の裏テーマです。
(という構図で読んでいきます)


●楼座を生かし、自分を殺す話

 楼座の反応を見ようというのが趣旨なのですから、楼座を生かしておかないといけません。
 そこで、怪文書なり、あるいは朱志香が直接正体を明かして説得するなりして、楼座を親族会議の途中で退席させます。
 すると親族会議が楼座を除いた6名となり、第1の晩の人数ぴったりとなるので、犯行しやすくなります。

 右代宮親世代の6名を殺して、生き残ったメンバーの中から「寄り添う2人」に該当しそうなコンビを探して第2の晩とします。
 当てはまりそうなのは、
「譲治&紗音」「朱志香&嘉音」「紗音&嘉音」
 くらい。

「譲治&紗音」を選んでしまうと、紗音が先に死んで嘉音が生き残る状況になってしまい、嘉音が反乱を起こしますので、不可です。
(でも、本来の計画ではこの組み合わせが予定されていました。Ep2の譲治のTIPSに「ひょっとしたら、彼らが第二の晩だったかもしれない」というほのめかしが書いてあります)

「紗音&嘉音」は問題なく殺すことができますが、この場合、紗音が死んで譲治だけが生き残ります。すると、プロポーズしたばかりの婚約者をその翌日に失う譲治、という状況ができてしまいます。
 譲治の悲嘆ぶりというのは、それはもう、見るに堪えないほど、胸ふさがれるものです。朱志香はそれを、Ep1で目の当たりにしています。
 それはもう、見ていられない、できれば見たくない……。
 と、朱志香には思っていてもらいたいのです。そこで、これを避けることにします。

 すると、「第2の晩は朱志香&嘉音」という結論が消去法で導かれます。


●セッティング完了

 朱志香は自分の部屋で死んだふりをし、共犯者である南條に虚偽の検死をさせます。

 いちばん居心地が良く、融通がきき、時間をつぶしやすい場所、つまり自分の部屋を犯行場所に選びました。Ep6の集団狂言殺人も、そのようにして死体場所が選ばれていました。つまりEp6の戦人は、ベアトリーチェの方法を知って「焼き直して」いるわけです。

 嘉音はもとから実体としては存在しないので、「彼はここで死にました」「死体は消えました」という設定を付加するかたちに「世界を変更」すればすみました。

朱志香の死体発見時、朱志香の部屋にいたのは、戦人、譲治、真里亞、楼座、源次、郷田、紗音、熊沢、南條のみだった。おっと、死体の朱志香ももちろん含む

 という、赤い字がありました。
「死体の」があえて白字なのは、死体でない朱志香が部屋の中にいるからです。

 ついでに、楼座が嘉音を犯人あつかいしたとき、朱志香と嘉音の幽霊みたいなのが浮かび上がって抗議するくだりがありました。もちろん、死んだふりをしたまま周囲の会話を聞いている生きた朱志香ちゃんが、自分の脳内キャラクターと一緒に頭の中で繰りひろげた会話なわけです。

 これで、朱志香は死んだことになりましたので、自由行動が可能となります。人の目につかない範囲で好きな場所に行くことができ、また、聞き耳を立てたり盗聴器を利用することによって、人々の動向を知ることができます。


 ここまでが準備。ここからが物語の始まりです。


●「母の行動」リフレイン

 第2の晩を生き残った面々は、客間で籠城を開始します。

 これはEp1で、夏妃や生き残った人々が書斎に籠城したのと同じ行動、同じ状況です。この状況をつくることが朱志香の目的でした。
 この状況下で、「真里亞の母」であるところの楼座は、どういう行動をとるだろうか。それを見たかったわけです。

 楼座は、使用人たちと南條を客間から追放しました。
 夏妃と同じ判断、同じ行動です。

 そしてこんなことも言いました。

「………私だって、今の自分はあまり褒められたものじゃないとは思ってる。でもね、私は母なの! 真里亞の無事を守るためなら鬼にもなるわ。本当なら、真里亞と二人きりでどこかに閉じ篭っていたいくらいよ。」
(Episode2)

「娘を守るためなら鬼になる」というのは、Ep1で夏妃が言ったのと、ほとんど同じ表現なのです。夏妃も「鬼になる」と言っていたのです。

 やはり、あんなふうに見えても、楼座は真里亞のことを愛しているのだろうか……。
 朱志香は一瞬、そうなのか……と納得しかけます。

 が。
 楼座さんは、夏妃とちがって、言いぐさがいちいち邪悪な感じなので、
「ホントかよ?」
 いまいち信じ切れません。

 だって朱志香は、楼座が真里亞にひどい暴力をふるうのを何度も見ているのです。真里亞の日記だって読んでます。同じものを読んで、縁寿が義憤のあまり席を立った(Ep4)ほどの、あの日記を。しかも、さくたろうという良心を失った真里亞が、憎悪にみちみちて、想像力の中で楼座を何度も引き裂いて殺す、その殺害幻想の場にいやというほど同席してもいたのです。
 だって、あの楼座だぜ、と彼女は思う。

 だから、もうちょっとしつっこく突っついて様子を見ることにします。


●銃、黄金、そして真里亞の手

 時間を早送りします。
 第8の晩まで終わり、碑文殺人がすべて成立したあと。

 朱志香は源次と一緒に(朱志香単独でも良いですが)、楼座を襲撃します。
 楼座は、応戦しながら逃走をはかります。
(因果関係的には、逃走したから追撃した、でもかまいません)

 この襲撃ですが、楼座に対して以下のような三択クイズをつきつけよう、という意図がありました。

「銃、黄金、真里亞の手。あなたが最初に手放すのはどれ。最後まで手放さないのはどれ?」
(もしくは、「3つのうち2つを救うために、どれか1つを生贄に捧げよ」という理解でも良いです)

 この出題に、楼座は正解するのです。
 彼女は最初に黄金を手放し、真里亞の手を最後まで手放さないのです。

 しかも楼座ははっきりと悟ります。自分は黄金なんかに執着していた。でも違ったんだ、真里亞さえいればよかったんだと。

 ここに至って。
 朱志香の目には、「楼座は真里亞をまったく愛していない」と見えていたけれど、実際にはちがったんだ。楼座は真里亞を彼女なりに愛していたんだということが、確認されます。
 夏妃のときと、やはり同じだったのです。

 それが確認されるのですが……。

 それでもやはり、朱志香には何か納得がいかない。

 朱志香の頭からこびりついて離れないのは、真里亞を無人の家に何日も放置して、たまに帰ってくれば暴力をふるう、そういう楼座の姿です。

 心の底には愛があるからといって、その罪が消えるわけではない。不器用なだけであった夏妃とは、やったことのレベルが違います。

 だから、爆弾が爆発してすべてが終わったあと、朱志香=ベアトリーチェは、あの魔女のサロンに楼座を召喚します。そして悪魔の料理で楼座を拷問するのです。たとえ真里亞が許しても、私の感じた怒りが消えるわけではない……。
(この怒りはEp4の縁寿……つまり魔女同盟者エンジェ・ベアトリーチェに受け継がれます)

     *

 けれども、そんな朱志香の義憤をよそに、真里亞本人は、
「たとえ悪いママでも、それでもママが大好き」
 という気持ちを甦らせていました。いいママも悪いママもない、ママはひとりしかいないんだから。自分はママと一緒にいたい、と。

 娘のために必死になる母の姿を見て、娘は母の愛を再確認する。
(失われていた愛が甦る)

 それはEp1で、朱志香が確認したことと同じだったのです。
 やはり、そうなんだ。
 朱志香にとって、楼座は生かす価値のない屑のような人間の筆頭でした。

 でも、本当はそうじゃない。
 真里亞がそうじゃないって訴えている。

 そうじゃないということが、朱志香の目には見えていなかっただけなのです。


●三魔女の「母をめぐる共振」

 ちょっと前の段で、魔女同盟マリアージュ・ソルシエールは「ママが嫌い同盟」なんだっていう話をしました。
 朱志香も真里亞も、母に愛されないという欠落を抱えていた。そしてそのことは後に「絵羽という養母に虐待される縁寿ベアトリーチェ」というかたちでリフレインされる。

 Ep1・2を経て、朱志香も真里亞も「母は本当は自分を愛してくれていたんだ」ということを発見します。

 縁寿の場合はどうでしょう。
「縁寿は絵羽に嫌われていると思っていたが、実はそうではなく、より大きな意味で絵羽に守られていた
 といったことが、Ep8で暗示されます。読んだら最後、縁寿が確実に不幸になる「絵羽の日記」の内容を、絵羽は何があっても絶対に縁寿に教えたがらなかったのです。それを公開すれば、絵羽犯人説なんてものは世間から消えたはずです。でも絵羽は口をつぐみ、墓までもっていった。(参考→Ep8を読む(3)・「あなたの物語」としての手品エンド(上)

 そこまで含めると、「朱志香・真里亞・縁寿」という三魔女の「母をめぐる関係性」は、まったく同一です。
 自分を愛してくれない母。そう思っていたけれど、でも本当はそうではなかった母。

 この「母をめぐる共振」は、朱志香=ベアトリーチェの想定でないと発生しないものです。


 Ep8は、「六軒島の人々はひどい人ばかりと思っていたが、実はそうではなかった」ということを、縁寿が理解し納得するまでを描いた物語です。
 実はその物語は、朱志香や真里亞を主人公にして、Ep1からすでに、繰り返し繰り返し行なわれていたんだ、Ep8はその総決算なんだ、というのが、このエントリでわたしが語りたいことです。


 ところで、Ep2にはもうひとつ、「朱志香にだけ見えていなかった重大なこと」があります。


●なぜ、共犯者を殺したのか

 朱志香の共犯者はだれとだれなのか、ということから話を始めます。

 源次、南條、熊沢の3名は共犯です。ほとんどの推理が、この3名を共犯としているはずです。
 だって、彼らは碑文の解き方や九羽鳥庵ベアトのことを知っているのですし、それを黙っていてくれないと、この連続殺人は成立しません。
「殺人が起きて、非常事態だから、碑文の解き方をお教えします」と源次が言い出したらおしまいなのです。
「殺人が起きて恐いですから、皆さんで九羽鳥庵へ非難しましょう、ええ、私は通り道を知っています」と熊沢が言い出しても、おしまいです。
 南條が検死でウソをつくことを拒否しても、成り立ちません。

 ベアトリーチェであるということは、碑文を解いて、家督を継いでいるということですから、朱志香は彼らの忠誠も受け継いでいる、と見てもいいでしょう。
 ただ、いくら忠誠があるといっても、殺人の片棒を担ぐとなったら話はべつです。そこで、「ひとりあたま一億円あげる」「あなたたちは殺さない」という条件をつけくわえて、共犯者になることを納得させたことにします。

 これに、魔女同盟の真里亞をくわえた4名が、朱志香の共犯者であることにします。

 余談。
 この4名は、Ep1でちょうど、書斎から追い出された4名です。
 追い出されたとき、碑文殺人の進行は、「あと3名殺される」という状況でした。
 書斎に残ったのは、夏妃、戦人、譲治、そして朱志香でした。つまり「犯人プラス3名」です。
 つまりこの局面は、
「殺されないと約束された共犯者たちが、わざと書斎から追い出される。そして残った者が犯人に殺される」
 というプランニングだったと推定できるのです。少なくとも共犯者たちはそのつもりだったのです。でも、朱志香は、そう思わせておいて違う心づもりを持っていた……。
 朱志香説を採る場合、なんとEp1のこの段階で、「共犯者が誰と誰なのか」を確定することができた。そういうことになります。

     *

 さて、話を進めて、Ep2

「二人の遺体を儀式にお借りします」
 という魔女の手紙を、朱志香は使用人室に置きます。熊沢と南條を殺した直後です。

 使用人室には、源次、南條、熊沢、紗音、郷田の5人がいました。
 この手紙を書いた時点で、
「5人のうち2名を殺して、死体を隠す」
 というプランがあったことになります。

 使用人室の5人の内訳を見ると、3人が共犯者で、2人がそうでない人です。

 つまりここでは、
「源次、南條、熊沢の協力を得て、紗音と郷田を殺す
 というプランがあっただろうと推測できるわけです。

 ところが、朱志香はそうしなかった。実際に殺したのは、味方であるところの熊沢と南條だったわけです。
 それはなぜだ? というのが、この話のお題です。

 端的に言うと、
紗音と郷田をなるべく殺したくない理由ができてしまったので、お金で殺人の片棒をかつぐような人を代わりに2人殺した」
 のです。

 紗音を殺さなかった理由は、先にすでに述べました。
 朱志香という人は、とても感情的、情緒的な人です。
 紗音をここで殺すと、「譲治が最愛の婚約者を失う」という状況が発生します。
 その状況が、朱志香は嫌なのです。

 この連続殺人には、「愛のありかを確かめてみよう」という側面があります。
 朱志香は、譲治が紗音を失って悲嘆するさまを、Ep1でもうすでに充分見ています。これ以上見たくない。これを無意味に何度も繰り返すという行為は、愛し合う2人を何度も生死で引き裂くということであって、それ自体が愛のない行為なのです。
 だから朱志香は、譲治と紗音を「同時に殺す」のでなくてはならない。それだったら、「一緒に黄金郷に送り出した」ことになるからです。

 では、郷田は?


●郷田の価値

 郷田という人は、「自分勝手な嫌らしい人」として描かれます。
 自分がいい格好をしたいために、他人の手柄を奪い、自分のミスを人に押しつけるような人間なのです。
 その被害に遭うのは、たいてい、紗音です。
 おまけに、料理以外のことはなまけます。そのなまけた分も、紗音がひっかぶるのです。

 そういう郷田のろくでもなさを、朱志香は、紗音からきいて知っているだろうと推測できます。朱志香と紗音は親友同士だからです。

 そんな話を聞いて、垂直定規みたいな性格の朱志香は、きっといつも義憤にかられているのです。
 なんという嫌なやつだ。そんなやつは生きている価値がない。

 だから朱志香はEp1で、郷田を第1の晩のリストにまっさきに加えました。


 ところが。
 Ep2では、そんな郷田の意外な一面を見てしまいます。

 右代宮家に10年奉職してきた紗音を、楼座がまったく信用しないどころか、犯罪者あつかいしてなじるという場面がありました。
 そのとき、あの郷田が、紗音をかばい、楼座に激しく詰め寄ったのです。

「紗音さん、下がって…。……楼座さま、確かにこの郷田はお勤めして日も浅く、信用を勝ち得ていないのはわかります…。」
「…しかしッ、……せめて紗音さんだけでも信じていただくわけには参りませんか…?! 彼女は、10年間も右代宮家に奉仕を捧げてまいりました…!
 この郷田を信じろとは申しません…! せめてッ、紗音さんだけでも信じてやっていただくわけには参りませんか…!!」
(Episode2)

 これを見て、あるいは耳にして、朱志香はビックリするのでした。

 男らしい立派な態度じゃないか。
 生半可な腹の据わり方では、この啖呵はきれない。

 生きている価値がないなんて、とんでもない。郷田は大事なところでは一本筋の通った、立派な男だったのです。

 殺しても惜しくない男だなんて、とんでもない話だった。
 金で殺人の片棒をかつぐような人間より、ずっと情があり、義もある、価値のある人間だった。

 朱志香の殺人は、「殺されてもしょうがないやつらを、殺すんだ」という自己正当化によって、かろうじて成立しています。
 しかし、郷田はそんなやつじゃないということが、わかってしまいました。
 だから、簡単には殺せなくなるのです。


●どうして見えないのか

 そのようにして重大な問題が、朱志香にふりかかります。

 こういう立派な男を、よく知らずに、伝聞情報だけで、「殺したってかまわないようなやつ」と思いこんでいた自分って、いったい何なんだ?

 夏妃のことを、殺してもかまわないような人間だと思っていた。
 でもそうじゃないことが、手遅れになってからわかった。

 楼座のことを、生かしておけない人間だと思った。
 そうじゃないことがわかった。

 郷田のことを、生きてる価値のないやつだと思ってた。
 そうじゃなかった。

 何だか自分って、立派な人間のことにかぎって、そうじゃないように思いこんでいるみたいだ。
 どうしてだろう?
 生かしておく価値のない人たちを殺して、さっぱりした気持ちになるはずの計画だったのに、「実は素晴らしい人たちだった」ということが、手遅れになってからどんどんわかっていく。

 どうしてそんな大事なことが、私はあらかじめわかっていなかったんだろう。
 どうして自分は、あの人たちの本当の価値が見えていなかったんだろう。

 いったい、生きている価値がないような人間って、誰のことなんだ?
 死んだ方がいいなんて、どっちのことだ? 醜いひどい人間って、私のことじゃないのか?

 ひょっとして私って、何か重大なものが著しく欠けているんじゃないのか?
 何かが欠けているから、大事なことが見えなかったんじゃないだろうか。

 何かがないから、あの人たちの本当の姿が見えない……。


(続く)


■続き→ 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3


■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■

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朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1

2011年05月17日 01時54分30秒 | 犯人特定
※初めていらした方へ:
「目次」から順に読んでいただくと、よりわかりやすくなっています。リンク→ ■目次(全記事)■

朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 筆者-初出●Townmemory -(2011/05/17(Tue) 01:51:03)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=62750&no=0 (ミラー


     ☆


 朱志香=ベアトリーチェ説です。

『うみねこのなく頃に』前半4話の犯人を朱志香と仮定し、犯人視点から見たら、どのような物語が流れていたのかを想像をまじえて語ってみようというのが今回の趣旨です。
 彼女は各エピソードで、何を思い、何を見ただろう。そういうことを、「犯人・朱志香から見た物語」として見直してみよう、という試みです。

     *

 このエントリは、
「とにかく今日、島にいるやつ全員を殺そう」
 と、朱志香が思い詰めたところから、話を始めます。

 どうしてそんなふうに思い詰めちゃったのか、については、既存の別エントリをご覧下さい。
 というか余談ですが、紗音が犯人だとしても、朱志香が犯人だとしても、作中で語られたことをもとに動機を逆算していくと、ふつう想像不可能だろっていうような結論にたどり着くように思います。
 でも、それで良いのです。わたしが思うに、たぶん。
 想像可能なことを想像するのは、何らハードルではない。

 ふつうの想像力を絶したところにある「異常な理由」に対して、
「ああ、ひょっとしたら、そういうこともあるのかもしれないなあ……」
 と、自分自身を投げ出して積極的に「それでも想像してみよう」と務めること。

 それがひょっとして、作中で幾度となく言われてきたキーワードとしての、「何とかがないとどうこう」みたいな話につながっていくような気もします。


●殺されても文句のいえない人たち

 さて、朱志香は
「とにかく今日、島にいるやつ全員を殺そう」
 と、思ったことにします。

 それには彼女の個人的な、大きな理由があるのですが、前記のように、ここではそれには触れません。

 が。
「朱志香が殺しに至るサブ要因
 といったものが、あると思います。それがこのエントリの主題です。

 人を殺すというのは、なみたいていのことではありません。
 異常なエネルギーを必要とします。
 15人~17人という大量の人間を、たった2日間のうちに殺そうなんていう話なら、なおさらです。
 端的に言うと、単に自分都合だけで、17人という人間を殺すなんていうことは、ほとんど不可能です。

 例えば、あの自分勝手な、デスノートの夜神月くんですら、殺人には「あいつは殺してもかまわないような人間だから」というエクスキューズを必要としたのです。

「あんな人たちは生きてる価値がないんだ」
 朱志香はそんなふうに自分に言い聞かせ、殺人へのハードルを下げていたことにします。

 あの人たちは、たまに集まったと思えば、お金を奪い合って、徹夜で醜い争いをしている。
 醜い。あんな人たちは死んだ方がいいんだ。

 使用人たちは、1億のお金に動かされて、殺人の片棒を担ぐような人たちだ。
 醜い。あんな人たちは死んだ方がいいんだ。


 そういう理論武装によって、「殺人をしてもいいんだ」と自分にいいきかせていた。そのように想定するわけです。ちょっと『罪と罰』のラスコリーニコフみたいなニュアンスがありますね。
 少年少女は、そういう幼い純粋さを持つことができる、と思うのです。


●母さんが嫌い・絵羽おばさんが好き

 わたしが想像する、「Ep1の朱志香=ベアトリーチェの物語」をかたります。


 朱志香にとってのEp1は、「母が見いだされる物語」です。

 Ep1の夏妃は、「朱志香に対して非常に抑圧的に振る舞う母親」として登場します。夏妃は朱志香に、常にしとやかであること、優秀であることばかりを要求しています。朱志香本人がどうしたいかなんてまったく聞く耳を持たない母として描かれます。
 実際、朱志香は夏妃を「そういう人」と認識しています。
 はっきりと本文に、
「朱志香は、母のことなど嫌いだった」
 と書かれるほどです。「母を含め、親たちを軽蔑する感情でいっぱい」といった表現もありました。

 自分を矯正しようとするいやな親。嫌いだ。だから朱志香は、第1の晩のリストに、まっさきに夏妃をふくめるのです。


 いっぽう、朱志香には、絵羽という叔母さんがいます。

 絵羽という人は、朱志香から見ると、とても話のわかる素敵な女性なのです。
 Ep2で語られた過去話ですが、数年前、何かの用事で絵羽一家が六軒島を訪れてアフタヌーンティーになったとき、蔵臼と夏妃は「朱志香がしとやかでない」などと例のごとくいやなことを言うのでした。
 ですがそのとき、絵羽だけは、
「時代は変わっているんだし、朱志香ちゃんは魅力的だ
 と、いまある朱志香を肯定してくれたのです。
 そのうえ絵羽は、朱志香が苦労したお化粧をほめてくれました。眉のつくり方がいい、とピンポイントで注目してくれたのです。蔵臼と夏妃はまったく気づかなかったことでした。

 両親は朱志香にいつも「今のおまえは駄目だ」ということばかり言うのです。でも絵羽おばさんは、「今の朱志香ちゃんが良い」と、ありのままの朱志香の姿を肯定してくれたのです。
 Ep8では、幼少時の朱志香を絵羽がとてもかわいがっていた、というエピソードも披露されました。

 ですから、朱志香は夏妃を嫌悪し、絵羽に好意を抱いていたはずです。

 だから、Ep1……すなわち「初めての六軒島大量殺人」では、朱志香は第1の晩のリストから、絵羽を外すのです。
 もちろん、それに伴って、絵羽の旦那さんである秀吉も外す。金蔵の名を騙った怪文書か何かで、絵羽と秀吉を親族会議から退席させ、殺さずにすむようにする。

 うまくいけば、絵羽夫妻を最後まで殺さずにすむような展開がみちびけるかもしれない……そんな祈るような気持ちもあっただろうと、思います。


 ですから、朱志香が計画した本来の「第1の晩のリスト」は、こうでした。
 蔵臼、夏妃、留弗夫、霧江、楼座、郷田。

 夏妃が含まれており、絵羽と秀吉は含まれていないのです。そして使用人の中から、共犯者ではなく、なおかついちばん嫌なやつである郷田が入っている。

 ところが、想定外の事件が起きてしまいました。サソリのお守りです。


●サソリのお守りが語るもの

 海岸で真里亞が、朱志香にサソリのお守りをくれました。これが想定外のはじまりです。
 サソリのお守りは、ベアトリーチェの魔の手から、持ち主を守ってくれるものだとされました。

 この話の想定では、朱志香はベアトリーチェです。ですから、ベアトリーチェから自分を守るお守りを、朱志香は必要としません。朱志香が持っていてもしょうがないものです。

 これどうしようかな……とポケットに入れて放置していた、そのとき、廊下でたたずんでいる、とても弱々しげな夏妃に会ってしまうのでした。
 朱志香は狼狽しました。(と書いてあります)
 寒々しいこの家で、誰にも理解されない夏妃。
 朱志香にとっては嫌いな母ですが、それでもお母さんであり、どこかでつながっているのです。どんなに頑張っても理解はされない、というところに、一瞬、シンパシーを感じたかもしれません。つい、母さんに優しくしたいという衝動が生じてしまいます。まっさきに殺す予定だった人に対して……。

 朱志香は夏妃に、サソリのお守りを渡してしまいます。


 その日の深夜。
 マスターキーと、魔法陣を描くためのペンキと、殺人のための凶器をたずさえて、朱志香はそっと、夏妃の部屋に侵入します。夏妃を殺すためです。
 後ろ手でドアを閉めようとして……。
 ドアノブに、あのサソリのお守りがかかっているのを見つけてしまいます。

 朱志香はそんなこと想像もしていなかったと思います。

 サソリのお守りは、実際にはゲーセンかどこかで取ってきた景品です。つまりガラクタです。形だけ受け取っておいて、そこらに放り出しておかれても文句はいえないようなしろものです。大人ならむしろそのくらいの扱いをするのが自然です。夏妃は当然そうするだろう、と朱志香は思っていた。
 でも、夏妃はそうしなかった。
 なぜか。

 愛しい娘が、自分を案じて手渡してくれたものだからに決まっています。

 夏妃という人は、ふたことめには朱志香を矯めようとする(納得いくように直そうとする)母親です。つまり気に入らない娘を気に入るように直したくてしょうがない母です。
 気に入るように直したいということは、今は気に入らないということ。
 好かれていない。愛されてはいない。
 あるがままの朱志香は、夏妃からまったく愛されていない。朱志香はそのように思っていました。
 しかし、どうもそうでないことがお守りひとつでわかってしまいました。

 重ねて重要なことは、サソリのお守りは、魔女から身を守ってくれる御利益をそなえた、「おまじない」のアイテムであるということです。

 おまじないというのは、つまり、魔法だ。

 夏妃は、朱志香が教えた魔法を、きちんと真に受けて、その通りにしてくれた。

 ここでの想定は、朱志香はベアトリーチェです。
 朱志香が心の中で、とても大事にしている「魔法はある」「私は魔女である」という「幻想」
 その幻想を、母さんが承認してくれたも同然なのです。
 夏妃は、自分でも知らず知らずのうちに、朱志香の「こうありたい理想の姿」を承認してくれたのでした。
 朱志香が誰にも語ったことのない幻想が、奇跡的に母さんに通じて、認めてもらえた。母さんにこのことを言ったことなんてないのに。母さんって、私の姿を認めてくれないわからずやだったはずなのに。

「くそっ、どうしてこんな大切なことが、こんなタイミングになって初めてわかっちまうんだよ、くそっ、くそっ」

 真っ先に殺してもいいと思っていた人が、この件ひとつで、いちばん殺せない人になってしまいました。
 そのいらだち、その混乱を、朱志香は夏妃の部屋のドアにたたきつけます。持っていた赤ペンキの刷毛を、やつあたりのようにドアに塗りたくるのです。

     *

 このことは決して「もしお守りをかけてくれたら殺人をやめよう」といったカケではありません。(と思いたいです)
 そうではなくて、ごく自然な反応として、弱々しい横顔を見せている人に、ちょっと優しくしたかった。
 それだけのことです。
 何でもない、本当にそれだけだったはずのことが、後で大きな意味を持ってきた。

     *

 夏妃を殺せなくなった朱志香は、とぼとぼと屋敷の廊下を歩いていきます。

 そして、本来そこにいないはずの紗音と、ばったり出くわしてしまいます。朱志香は使用人のシフト変更を命じていて、紗音をゲストハウスに追いやっておいたはずでした。でも、紗音はプロポーズされた興奮をさますために屋敷の本館に来てしまったのです。

 紗音は、赤ペンキの容器と消音器つき拳銃をたずさえた、思い詰めた恐ろしい形相の朱志香と、暗闇の中でばったり出会ってしまいました。

 朱志香はやむをえず、紗音を殺します。見られてはならない姿を見られたからです。それに、夏妃を殺さないのなら、かわりに誰か1人を殺さなければならないのです。


●夏妃と絵羽の対決

 そのような流れを経て、「夏妃と絵羽が両方生き残る」という状況が発生しました。

 本来の朱志香の計画にはなかった状況です。前述のとおり、朱志香は夏妃を殺して絵羽を生かしておくプランを持っていたからです。

 この状況が発生したことにより、朱志香は、思いもよらなかったものを、見ることになりました。

 それは、「夏妃が金蔵を殺したのではないか」という勝手な推測を、ねちねちと、それはもういやらしい口調で語る絵羽おばさんの姿でした。

 夏妃を犯人だと決めつけるような絵羽の態度に、朱志香は頭に来て、「そんなわけないじゃないか」という論陣を張ることになりました。おかしなことです。本来的には、朱志香は夏妃が嫌いで、絵羽に好意を持っていたのです。

 嫌いだった母さんが、自分を大切に思ってることを知ってしまった。
 好きだった叔母さんの、本当に嫌らしい一面を見てしまった。

 朱志香の世界観は、180度、転回してしまいます。
 自分は、殺してもかまわないやつと、なるべく殺したくないやつを主観的に選んできた。でも、その主観って本当に正しかったのか? こんなふうに、なんとなく好意を持っていた人は実はいやな人で、なんとなく嫌だと思っていた人はとてもいい人だったりするのでは……。
 そんな疑問が生じます。


 朱志香の本来の想定では、第10の晩の爆発まで、絵羽夫妻は生き残らせておくはずでした。絵羽のことが好きだったからです。
 しかし、夏妃を自分勝手に犯人呼ばわりする絵羽に対して、朱志香は本当に腹が立ったのです。

 だから、第2の晩で殺すことにしました。


●言葉として発せられた夏妃の本心

 姿なき殺人者をおそれた右代宮一族とその使用人は、金蔵の書斎で籠城することにしました。

 全員が一堂に会して籠城した状態では、さすがの朱志香も、殺人を続けることができません。そこで、不和の魔法陣が入った手紙を出現させ、「この中に裏切り者がいる」という疑心暗鬼を発生させます。人員を分離させ、殺しやすくするためです。

 夏妃は、「犯人と通じている可能性がある」という理由で、使用人たちと真里亞を書斎から追放します。
 書斎の外というのは、この状況では、「殺人者がうろうろしている空間」です。

 さすがにこのしうちはひどすぎるのではないか。戦人や朱志香は訴えかけます。それに対する夏妃の返答は、こうでした。


「……………………………。朱志香は、…………主人と結婚してから、12年もかけてようやく授かった、……大切な娘です。私は、朱志香を守るためなら、どのような鬼にでもなります。」
(Episode1)


 夏妃にとって、右代宮邸内の人事、使用人とのつきあいというのは、彼女が腐心してきた仕事そのものです。
 危険が迫ったとき、使用人たちを放り出して家族だけの安全をはかるというのは、自分の信用を完全に放り出したのと同じことです。

 でも、そういうあらゆる信用を失うことになっても、朱志香ひとりの安全を守りたい。人の心がないと言われてもかまわない。朱志香を守るということは、他の何とひきかえにしても構わないほど価値のあるものなんだ。
 夏妃は、そういう立場を、毅然として表明したのです。
 おそらく、それは、朱志香がこれまで一度も聞いたことのない言葉だったのでした。

 母さんが自分をそんなふうに思っているだなんて、想像もしてなかった……。だって母さんは、私のことなんてまともに見てやしない、むかつくことばっかり言う人だったわけで……。


●決闘

 ここに至って。
 まっさきに殺していい人だった夏妃は、どうしても殺せない人になってしまいました。

 朱志香は、とある仕掛けを用いて、源次、熊沢、南條の3名を殺害します(別エントリをご覧下さい)。
 この時点で、碑文の13人殺しが成立しますので、これ以上の殺人は必要ありません。12時の爆弾が爆発するのを待つばかりです。

 このままだと、夏妃は死にます。

 いったい、死ぬべきなのは誰だろう。
 ここには、あまりにも幼く狭い視野で、殺していい人とそうでない人をえりわけていた人物が、1人います。
 そのことが今さらになってわかったけれど、もう自分は13人も殺していて、儀式はほとんど成立している。今さら、後戻りすることなんてできない。

 そこで朱志香は、ルージュかノワールか、二分の一のルーレットを回します。

 手紙で夏妃ひとりをホールに呼びだします。
 そして2人きりになって、自分が犯人であることを夏妃に告げるのです。

 朱志香は、黄金の間への通行方法と、時限爆弾の停止方法を夏妃に教えます。そしてこう言うのです。どうかその銃で私を殺して、時限爆弾を止めてきてほしい。それができないのなら私が母さんを殺す。

 朱志香は夏妃に生き延びてほしかったのです。そして、母さんの手で、罪深い自分を殺してほしかった。
 でも、夏妃にはそんなことはできませんでした。あたりまえです。何に代えても守りたい朱志香を、自分の手で殺せるわけがありません。
 朱志香は、持っていた自分用の銃で、夏妃を殺すしかありませんでした。

(これは、Ep4で出てきた背景巨大赤字「お願いです」「私を殺して」「さもなきゃ」「お前が死ね」にも響きあってきます)


 やがて、12時の鐘が鳴り、爆弾は予定通り爆発し、朱志香もろとも、生き残った全員が爆死することになります。

 死の瞬間、朱志香は、こんなことを思っていただろうと思います。

     *

 ああ。
 母さんの愛が、これまで少しも見えなかったのはどうしてだろう。



(続く)


■続き→ 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2


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犯行告発ep6・サファイア・アキュゼイション6

2010年06月10日 04時59分53秒 | 犯人特定
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


犯行告発ep6・サファイア・アキュゼイション6
 筆者-初出●Townmemory -(2010/04/24(Sat) 00:58:39)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45379&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注

「うみねこのなく頃に」公式掲示板にて、「サファイア・アキュゼイション」(蒼き告発)シリーズという企画が行われています。

 これは、各エピソードの各殺人現場で、いったい誰が殺人をし、誰がその共犯者なのか、考えうるパターンを最大3個まで挙げて、その結果を集計し、
「いったい誰がどのくらい怪しまれているのか」
 を、数値化してみよう、という企画です。

 わたしが提出した答えを、以下に再掲します。今回はep6です。

 ep6の殺人は、古戸ヱリカが自分の犯行であると自分で言っていますので、焦点を「誰がやったか」ではなく「どのようにやったか」に合わせて回答することにしました。

 出題文はここからの引用です。
 初出に入っていた雑談部分を削除しました。

 過去のの「サファイア・アキュゼイション」をご覧になりたい方はこちらへ。

 以下が本文です。


     ☆


> 【EP6】第1の晩 夏妃の部屋・貴賓室・蔵臼の部屋
> 〔被害者〕右代宮夏妃・右代宮絵羽・右代宮霧江

 パターン1(のみ):古戸ヱリカ(殺害)

 サファイア開催を強力リクエストした身としては、ひとつ奇抜な回答でもして皆さんのご機嫌を伺いたいところなのですが、何の奇もてらわない回答です。

 殺害犯古戸ヱリカによる他殺。タイミングは、見取り図を片手に検死と現場検証に駆け回っていたとき。殺害方法は厨房から拝借した包丁とビニール袋。
 作中で語られたとおりのことが起こったという素直な受け取り方です。頭部を切断したので、赤文字レベルで死を確定できる、という論理を、そのまま納得します。

(でも、「頭部を切断された死体を誰も確認していない」ことはひとつのポイントではあると思う。ヱリカがそう主張しただけかもしれないし、「ヱリカは、殺してもいないのに殺したかのように思いこんだ」のかもしれない。このへん検討している人、いないかな)

 個人的に、重要だと思うのは、
「古戸ヱリカは、自分の推理を美しく完遂させるためには、殺人も辞さない」
 という行動式を持っている人物であることが、ここで示された。

 という点です。

 わたしは「Ep5古戸ヱリカ犯人説」というのを持っていますので、おおっとお、やっぱそうですかあ、的なことを思ったりしたわけです。

 古戸ヱリカは、
「連続殺人事件が発生し、その犯人は右代宮夏妃である」
 というEp5の論理を美しく完成させるためには、自ら殺人を犯すことも辞さない。

 そういうことを充分にやりかねない人物であることが示された……というのが、自分の推理にひきつけた言い分です。

 ビニール袋をかぶって返り血を避けた、というのも面白いところで、Ep5の殺人犯が古戸ヱリカであるなら、「秀吉殺し」のときに同じ方法をとった可能性があります。
 秀吉は客室で殺人犯に直面したとき、
「誰やあんた!」
 と叫んでいます。たぶん、86年当時のゴミ用ビニール袋は真っ黒色でしょう。そんなものを頭からひっかぶっている人物がバスルームあたりからふらっと現れたら、それはもう、「誰やあんた」の世界なのです。


> 【EP6】第1の晩 客間
> 〔被害者〕右代宮楼座・右代宮真里亞

 パターン1(のみ):古戸ヱリカ(殺害)

 夏妃・絵羽・霧江の各部屋で起こったことと、まったく同じと考えてさしつかえないと思います。


★勝手にエクストラ問題★
【EP6】第?の晩 いとこ部屋
〔被害者〕嘉音

 パターン1(のみ):犯人なし(嘉音は最初から存在しなかった)

 機会があるたびにわりあい同じことをなんども書いていますが、嘉音という人物は最初から存在せず、Ep1の最初の登場シーンからすべて、「嘉音が存在する」という描写は全部幻想描写であるという解釈です。

 嘉音は、煉獄の七姉妹やさくたろうやロノウェなどとまったく同じ扱いのキャラクターであり、幻想描写がなされなくなったら消えてしまうという考え方です。ルチーア学園で煉獄の七姉妹が砕け散ったのとほぼ同じ現象が、いとこ部屋で嘉音に起こっている、くらいの受け取り方です。

 例えば「さくたろう」は、真里亞がオリジネーターで、ベアトリーチェがそれを共有していました。さくたろうという幻想を生み出したのは真里亞でしたが、ベアトリーチェもさくたろうという幻想を認めていて、ベアトリーチェはさくたろうとお話ができたのです。

 同様に、「嘉音」は紗音がオリジネーターで、朱志香がそれを共有しているという考え方をします。
「弟のような男の子がいて、自分に助言してくれたらいいな」と思う気持ちが、紗音の中で「嘉音」という幻想キャラクターになった。その幻想キャラクターの存在を朱志香が知り、朱志香も嘉音という存在を認めていて、話ができた。
 そんな感じで見ることにします。

 さて、「いとこ部屋で嘉音が消滅する」、という現象が発生するには、どういう条件があればいいのかな……。


 以下、細部がところどころ合わないのですが、「だいたいこんな感じ」というところを語ります。

 嘉音の存在とは、紗音と朱志香による一種の「お人形遊び」である、といった理解で考えます。

 例えば、「朱志香が嘉音とお話したい」ときには、「紗音が嘉音のロールプレイをする」。
「紗音が嘉音とお話したい」ときには、「朱志香が嘉音のロールプレイをする」。
 そういうお人形さん遊びの関係性があったと仮定してみるわけです。

 このへん、詳しくはこちら→ ep6初期推理1・紗音嘉音問題/八城十八と「ふたつの真実」

 Ep6のフェザリーヌの解説に、
「真里亞がぬいぐるみ遊びへの興味を失えば、さくたろうは死ぬ」
 といった話がありました。

 ということは、この推理に基づけば、
「紗音がお人形遊びへの興味を失えば、嘉音は死ぬ」
 ということになります。これはとりあえずOKとします。「決闘」のシークエンスとも合致しますものね。
 隣部屋で、紗音は、譲治と将来のこととかをいろいろ深刻に話し合った結果、
「あ、やっべ。もう嘉音ごっこでジェシーと疑似恋愛なんかしてる場合じゃねーヨ」
 みたいなことに、ハタと気づいてしまった、くらいのことで良いと思います。
(まあこんな口調でこんなミモフタもない言い方はしないとは思いますけどもー)


 さて、紗音の中の嘉音はこれで死んでくれますが、「朱志香の中の嘉音」はどうなのか。

「朱志香が嘉音とお話したい」ときには、「紗音が嘉音のロールプレイをする」
 という関係性があったとした場合、

 朱志香にとって、紗音は、「嘉音の依り代」である。

 みたいなことが言えそうです。
 だとすると、紗音が「嘉音ごっこでジェシーと疑似恋愛」をやめるということは、
「紗音は、“嘉音の依り代”ではなくなる」
 みたいな言い方ができそうです。

「依り代が壊れたらさくたろうは死んじゃって蘇りませんよ」という話は、Ep4でも、Ep6のフェザリーヌの解説でも、何度も出てきます。

 ですので、例えばもし、紗音が内線電話で隣部屋から電話をかけてきて、
「申し訳ありませんお嬢様。嘉音くん終了のお知らせです」
 みたいなことを言ったら、朱志香の目の前で、ちょうどEp6のあんな感じで、嘉音くんは消滅するかもしれません。

 もちろん、朱志香は自分の心の中だけで、いくらでも嘉音を存在させ続けることは、できるんだとは思います。ベアトリーチェが、「真里亞には見えないさくたろう」をいくらでも作り出せたのと同じように。

 けれども、その嘉音は、「朱志香の想定内のことしか言わない、味気ない嘉音」なのかもしれないですね。
 メタ世界の書斎で、戦人が、自分好みのベアトリーチェを幻想したのはいいけれど、自分が許可したセリフしか言わなくて、だめじゃーんと思って幻滅する。「それはやっぱり私が会いたい嘉音くんじゃないんだよ……」みたいなことなのかもしれない。

 おおざっぱに、そんなようなことを、今考えてみました。



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犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(下)

2010年05月12日 13時42分39秒 | 犯人特定
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(下)
 筆者-初出●Townmemory -(2010/05/02(Sun) 10:52:24)・(2010/05/10(Mon) 20:35:35)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45874,46318&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「サファイア・アキュゼイション」第5回(後半)です。

 前回を先にお読み下さい→ 「犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(上)」


     ☆


●6つの死体移動について

 前回のエントリで、古戸ヱリカは、譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次、蔵臼の6名をみごと殺害することができました。
 が、それだけではまだ足りません。この後、死体が次々に消えていくという現象が発生します。
 古戸ヱリカは、この死体消失現象を発生させます。

 蔵臼の首を切った直後から話をスタートします。

 まずヱリカは、蔵臼の死体をかついで、使われていなさそうな別室に運び、クローゼットの中にでも放り込んでおきます。
 基本的にこのエピソードにおける「死体消失」はすべて、「別室に運んで鍵をかけておく」だけです。あとで屋敷の全部屋が捜索されるわけなのですが、捜索するのはヱリカ本人なのです。
 いや、それどころか、捜索なんかまったくせずに、「全部屋を捜索しときました」と口で言うだけで良いのです。誰かを連れて一緒に家捜しをしたわけじゃないのです。

「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」という赤字については、後述します。今はとりあえず「何か抜け方があるんだな」くらいに思って下さい)

 ヱリカは、蔵臼の死体をなんとしてでも隠さなければなりませんでした。なぜなら、蔵臼の死体を隠蔽することではじめて、夏妃に対して、
「蔵臼は拉致した。返してほしければ……」
 という脅迫が可能になるのです。

 ところが、蔵臼の死体を隠しただけではだめなのです。問題が発生します。

「蔵臼の姿が見えない。蔵臼が殺人犯であり、おじけづいて逃げ出したのだ」
 という主張が、このままだと可能です。

 ヱリカは、この主張が発生しない(通らない)ように仕向けなければなりません。
「いったん発見させた死体を全部、どこかに隠す」というアクションは、そのための手段なのです。

 全部の死体を隠すとどうなるか。

「なんでかわからないが、この殺人犯は死体を隠したがるらしいぞ?」
 ということになる。

 蔵臼逃亡説の印象は急激に消え失せ、「あ、きっと、蔵臼は真っ先に殺されて、死体を運び去られたんだ」という印象がきわめて濃厚になります。

     *

 そういうことですから、ヱリカは、いとこ部屋の4つの死体を消しに行くことにします。

 方法ですが、まず、いとこ部屋の惨状を見て、絵羽が泣き叫んでいる場面から。
 ここにヱリカがおっとり刀で現れ、探偵権限とやらをふりかざして、現場検証を始めます。
 その後、とにかく警察のために、現場を保存しよう。全員が退出して、ドアを施錠しようということになるはずです。

 のちに死体消失が判明する場面で、ヱリカは一同に、
「この部屋はちゃんと施錠して行きましたよね?」
 と確認しています。つまり、いとこ部屋には鍵を掛けたのです。ということは、誰かが現場に残ったりはせず、全員が「せーの」でいとこ部屋から退出したのです。悲嘆にくれる絵羽がひとり現場に残るということもなかった。

 さて、いとこ部屋に鍵をかけ、とりあえず本館に行こうということになって、全員がぞろぞろと移動します。
 ヱリカはさりげなくゲストハウスに残り、いとこ部屋に戻り、マスターキーで鍵をあけて、死体をかついで隣室に運び出します。4人ぶん運びおえたら隣室をロックして、死体消失完了です。
 めんどくさかったら、「いとこ部屋のクローゼットに詰め込んだ」でもかまわないくらいです。
 そんなんじゃすぐに見つかっちゃいそうですね。
 でも見つかっても良いのです。ここでの死体消失の目的は、「この犯人は死体を隠したがる」という印象を作ることなのです。その印象さえ作ることができれば、べつだん、あとで死体が見つかってもかまわない。

 隠蔽作業が終わったら、小走りで本館の客間に追いつきます。「ちょっと気になることがあったので、廊下を調べてました」くらいのことを言えば、全員が納得します。

     *

 いとこ部屋で死体発見と現場検証が行なわれているころ、熊沢と嘉音が、使用人控え室で源次の死体を発見しています。
 右代宮一族の面々が、いとこ部屋から本館客間へと移動してくると、熊沢(と嘉音)によって、源次の死が知らされます。

 ここの描写を見ると、使用人控え室に行って源次の死体を確認した人と、しなかった人がいるようです。
「源次さんまでかよ!?」などといって、留弗夫が客間で検死報告を聞いていますので、留弗夫は使用人控え室に行かなかった。
 いっぽう、検死をした南條はもちろん行きました。ヱリカはもちろん行ったでしょう。
 雰囲気的に、使用人控え室で現場検証をしたのは、最少人数ではヱリカ、南條、熊沢、(嘉音)、くらいじゃないかな。
(源次の死体の現場検証シーンは描かれていません)

 源次殺しの現場検証が終わると、生存者全員が客間に集まることになります。
 このタイミングで、ロノウェが、
「……ヱリカが全員を集めたのは、むしろ我らには好都合です」
 なんてことを言うのです。
 つまり、客間に全員が集まったのは、ヱリカの指示があったからだ、ということになります。

 ヱリカは、使用人控え室で源次の死体を検分して、満足したあと、こんなことを言ったんじゃないかしら。

「とにかく、いったん全員を一カ所に集めましょう。熊沢さん、南條さん、すみませんがみなさんに客間に集まるよう呼びかけていただけませんか?」

 その指示を受けて熊沢と南條(他に数人いてもよろしい)が、集合を呼びかけるために屋敷中に散っていきます。ヱリカは彼らと一緒に使用人控え室を出て、ドアを施錠し、南條たちが小走りに立ち去るのを見届けてから、おもむろにドアを開けて使用人控え室に入り、源次の死体をヨソに移します。
 移す場所は任意の空き部屋。もしくは、使用人控え室にあると思われる押し入れです。

 その作業を終えたら、余裕の顔で客間に現れ、全員が集まったところで、「おや蔵臼さんがいませんね? もう1人くらい死んでそうですよねー」みたいなことを言い出すのです。

     *

 このように、当推理では、ヱリカは殺した後で死体をばんばん移動させています。

 ところが、
「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」というシリーズの赤字があります。
 この赤字があるので、譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次、蔵臼の死体を動かしてはいけないのではないか。そういう疑問が生じます。

「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」
 という、この赤字の文章。
 これは文法的に言ってひじょうに悪文なのです。主従関係のない同格の主語がふたつ入ってる。
 文章として、ほとんど破綻しているといってもいい。
 けれど、フワッと印象を受け取ると、
「譲治が死んだあと、譲治の死体は別の場所に動かされてはいないよ」
 という意味に受け取れてしまいますよね。

 そういう意味だと思わせておいて、実はちがうことを言っている、そんな叙述トリックの可能性があるんじゃないでしょうか。

 たとえば、
「譲治の死後、金蔵の遺体は、一切移動されていない」とか、
(遺体は譲治のことじゃないので、移動可能になる)
「譲治の遺体は、秀吉の死後、一切移動されていない」とか、
(秀吉が死ぬまでは移動可能になる)
「譲治さんは死後、遺体(というもの)を一切、移動なさっていない(「されて」を尊敬語に取る)」とか。
(単に「死んだ人には物を動かすとかできないよ」という意味になる)

 この赤字を「譲治の遺体は一切移動していない!」とシンプルに言うこともできるはずなのです。
 このようにシンプルに言った場合、上記したようなへりくつ的な解釈は一切入り込めなくなります。
 どうしてシンプルに言えなかったのか。
 それは、譲治の遺体は移動したからだ、というお話。

「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」という赤字を言ったのは、戦人側についた煉獄七姉妹です。
 この赤字を言うことによって、
「譲治の遺体は移動した」かもしれないのに、「移動していない」ことにしてしまえますね。

 すなわち、遺体が発見されたとき、譲治たちはまだ生きていたのだよ、という主張が「この場では」通ってしまいます。
 するとどうなるか。
「ゲストハウスにやって来た夏妃が、譲治をいとこ部屋で殺したのだ」というヱリカの推理は破綻します。

 戦人と煉獄七姉妹は、ヱリカの推理を破綻させたいのですから、この赤字の「変な言い回し」は、実に、彼らに都合が良いのです。
 この推理(Townmemoryのこの推理)では、譲治の死体を動かしたのはヱリカです。つまり、「譲治の遺体は死後、移動したことがある」が真実なのですし、そのことをヱリカは知っているのです。

 にもかかわらず、ヱリカが知っている真実は、煉獄七姉妹の言い回しひとつで、真実でないことにされてしまいました。

「右代宮夏妃は犯人ではない」という真実を、真実でないことにしてしまった古戸ヱリカへの反撃として、これほどふさわしい手はないと思えるのです。


 Ep6で古戸ヱリカは、この局面を回想して、こんなコメントをしています。

 ……前回、遺体の確認を疎かにすることで、……とんでもない“魔法”を許した。


 古戸ヱリカはあれを「魔法」だというのですね。
 存在する真実を、ただ大声で叫んだとしても、それは「魔法」とは言えないような気がするのです。

 魔法って何だったかしら。
 魔法って例えば、
 仕掛けのないカップの中から、出るはずのない飴玉を出したり。
 無生物であるさくたろうを、生命体にしてしまったり。
 存在するはずのない悪魔を、存在することにしてしまったり。
 存在しない真実を、存在することにしてしまったり……。

 妥当性はともかく、つなげ方はわりと面白い……と自分では思っていて、おもしろさ優先で採用しているのであります。

     *

> 【EP5】第2の晩? 客室
> 〔被害者〕右代宮秀吉

 パターン1(のみ):古戸ヱリカ(殺害・夏妃のボタン仕込み)


 古戸ヱリカは絵羽、秀吉夫妻の殺害を図ります。

「午後1時にクローゼットに隠れろ」という指示を夏妃に出しておき、夏妃のアリバイを奪い、その間に絵羽と秀吉を殺すことで、夏妃が犯人であるという印象を決定的にするためです。

 手順ですが、
 夏妃は午後1時にクローゼットに入らなければならないので、1時近くになると、ヱリカに対して逆上したふりをし、客間から退出します。

 ヱリカはそのタイミングを捉えて、こんなことを言ったんじゃないかな。

「ちょっと休息を取りませんか。私もちょっと言い過ぎたようです」
「こうやって全員でずっと顔をつきあわせていると、気持ちが煮詰まって、どうしても疑心暗鬼が生まれるものですね」
「いくつか客室を用意してもらって、家族単位で休息することにしてはどうでしょう。皆さん用心のため、しっかりと施錠なさって下さい」


 絵羽夫妻の部屋、留弗夫一家の部屋、ヱリカの部屋、南條の部屋、が用意されます。鍵がそれぞれ配布されます。ここでヱリカは、客室番号を全部チェックしておきます。絵羽夫妻を殺しに行くのに必要だからです。

 さて、部屋番号を聞いたら、ヱリカは先回りをして、秀吉より先にその部屋に潜伏します。そして秀吉、絵羽を殺す……という計画です。
 が、2人の人間を、1人でいっぺんに殺すのはかなり難しいです。

 そこで、「2人同時にではなく、1人ずつ殺す」という算段が必要になります。
 具体的には、絵羽に何か用事を与えておき、遅れて客室にやってくるようにし向けたい。

 なので、ヱリカはあらかじめ、絵羽にこんなことを耳打ちしておくことにしましょう。

「絵羽さん、昨日やっていただいた使用人控え室の封印、あれは大当たりでした」
「もう一回やりましょう」
「手分けして各部屋をもう一回封印することにしません? この1時間で何か起こったら、誰にアリバイがないのか確認することができますよ」


 これで絵羽は、秀吉のいる客室にだいぶ遅れて現れることになります。
 そんなふうにして、絵羽が、夏妃の部屋とか使用人室とかいった、怪しい部屋にせっせとガムテープを貼っているあいだに、ヱリカは秀吉をブッスリと刺し殺します。

 具体的には、バスルームに隠れていて、ふらりと現れ、刺し殺せば良い。
 このとき、ヱリカは厨房から持ち出してきたゴミ袋をかぶることにします。返り血をさけるためです。
 ゴミ袋をかぶった怪人を見た秀吉は、「誰やあんた!」と叫ぶことになります。

     *

 さて、第2の晩は2人死ぬのですから、秀吉に続いて絵羽も殺さなければならないはずですが、そうはなりませんでした。

 絵羽が客室にやってきたタイミングが悪すぎて、大騒ぎになったので、殺す機会を逸した。これで良いのですが、
「ヱリカは、絵羽をあえて殺さずにおくことにした」
 という考えも、魅力的です。

 ヱリカはいとこ部屋で、絵羽が息子を亡くして泣き崩れる様子を見ています。つまり、「この人はこの家でいちばん感情的な人だ、しかも家族を溺愛してる」という観測がなされています。
 だからヱリカは、譲治に続いて秀吉を殺し、絵羽は生かす。

 絵羽はあられもなく泣き叫ぶことになります。すると、絵羽の感情が場の雰囲気を支配することになります。
 場の雰囲気は「絵羽への同情」一色になるはずです。

「絵羽さんがかわいそう」
「この、かわいそうな、やるせない気持ちを消化するために、誰かを罰したい

 そういう感情的土壌を作ったところに、
「犯人はあなたです、夏妃さん」

 これで夏妃犯人説を、さらっと通してしまうことができます。場の全員に「犯人を罰して、溜飲を下げたい」という感情が芽生えたところに、「あいつが犯人だ」と言う。これで論理は吹っ飛んで、感情の雪崩が起こせるのです。

     *

 ところで、描写に従えば、秀吉が殺されたこの部屋のクローゼットに、夏妃がひそんでいたことになります。
 これもヱリカが、「秀吉が殺された部屋に、夏妃がいた」という状況を意図的につくろうとしたのでしょうか?

 ちょっとそれは、考えづらいように思います。

 夏妃はわりあいあわてんぼうさんですから、クローゼットの扉一枚ごしに殺人が行なわれたら、きゃあと叫んで飛び出してきてもおかしくないのです。
 たまたま、そういう状況にはならなかったのですが、そうなっても、全然、おかしくなかった。
 つまり「意図的にそこに夏妃を配置した」のだったら、完全にギャンブルです。リスクが高すぎる。

 もうひとつ。夏妃は客室のクローゼットに入るとき、熟考したあげく、「電話の男の機嫌をそこねるべきではない」ということで、客室のドアにチェーンロックをかけないでおきました。
 もし、夏妃が深く考えずに、いつも自室でそうしているクセが出て、チェーンロックをかけてしまった場合、秀吉は客室に入室できませんので、殺害計画は失敗に終わります。

 そこで論理的帰結としてこうなります。
「ヱリカは、『秀吉を殺す部屋』と、『夏妃を閉じこめる部屋』を、一致させようとは思っていなかった」
 可能性を2つに分け、以下のようになります。

1.「夏妃がクローゼットの中で犯行の様子を聞いていた」という描写は幻想描写である。
(夏妃は「秀吉さんの客室になんか隠れていません」「秀吉さんが殺された状況なんて知りません」と証言するはず。その証言をウソではなく「まったくの本当のこと」と受け取る)

2.「夏妃が秀吉の客室のクローゼットに入ったのは、まったくの偶然だった」
(たまたま、ヱリカが夏妃に対して指定した客室が、秀吉の部屋としてあてがわれてしまった)

 2の場合は、ヱリカの犯行が露見しなかったのは、偶然に偶然が重なった大ラッキーということになります。夏妃より先に、ヱリカが客室に潜伏するのは難しいので、1が有望です。

     *

 殺すところまではこれでOKですが、秀吉の客室は密室だったので、ヱリカは鍵がかかったままここから脱出しなければなりません。

 以下のような形で良いです。

 ヱリカ、窓ガラスをガラガラっと開ける。
 続いて鎧戸をぱんと開ける。
 そこからよいしょっと庭に出る。
 窓ガラスをガラガラっと閉める。
 鎧戸をぱたんと閉める。
 ワイヤー、または針金を使って、鎧戸の掛け金をくいっとかける。

 これで、ドアにはチェーンロックがかかっていますし、鎧戸も鍵がかかるので、密室状態の完成です。

 この一連のシーンを見返すとわかるのですが、「窓」(ガラス窓)に対する言及が、異様に少ないのです。皆無と言い切ってもいいくらい。

 秀吉が用心のために閉めて鍵をかけるのは「鎧戸」だけなのです。その内側にあるはずの窓ガラスを施錠したということは、一切書かれない。
 秀吉の死体が発見されたときも、留弗夫や嘉音は、
「鎧戸が施錠されてる、これは密室だ!」
 とは言うのですが、ガラス窓がどうなのかについては一切言わない。

 不自然なほどガラス窓が言及されないのです。

 そこで「鎧戸って何なのか」というお話をします。

 例外的に、シャッターを指すこともなくはないのですが、辞書的な意味では、鎧戸とはルーバーのことです。
 ルーバーというのは、ナナメ下を向いた細長い板を組み合わせた板戸のことです。
 木の板でできてて、角度の調整が利かないブラインド、みたいなやつ。
 小学校に百葉箱があった方は、それを思い出して下さい。あれルーバーでできてます。

 つまり鎧戸って、光や視線は遮るけれど、風通しはすごくいい板戸です。ほとんど「格子」に近い。ちょいと指先やら糸やらををスキマにつっこむくらいのことは楽勝なのです。
 当然、それで掛け金をひょいと掛けたりするくらいのこともできてしまいます。

 そんな、三文推理小説的な、テグス系の施錠トリックが使われたという判断。

 窓ガラスに対してテグス系トリックを使うのは難しいですが、窓ガラスは開いていて、鎧戸だけが施錠されていたのなら、それに対してテグス系トリックを使うのは簡単。

 そんなふうにして、窓から庭に出て鎧戸を閉めたヱリカは、ビニール袋を植え込みの中に隠し、屋敷の壁ぞいにぐるっと歩いて、玄関から屋敷内に入り、廊下経由で客室に現れます。
 そしてこんなことを言います。

「……そうと決め付けるのは早いぜ。風呂場の天井を外して天井裏に逃げたとか、あるいは鎧戸が実は外からでも閉められるとかな。」
「鎧戸は。…………外からはびくともしませんでした。今、確認してきました。

 えー、なんと。
「鎧戸は外から鍵をかけられるものではない」ということを調べて保証しているのはヱリカさん本人でした。

 すなわち、「実は鎧戸は外から鍵をかけられる」ものであるにも関わらず、ヱリカは「鎧戸は外から鍵をかけられない」ことにしてしまえる立場でした。

 Ep6では、「右代宮邸には、針金の束がある」ことが明示されています。

 最後に、ヱリカはどこかのタイミングで夏妃の服のボタンを入手しておき、これまたどこかのタイミングで秀吉の客室のクローゼットに放り込んでおくことにします。

     *

 以上をもって、「夏妃を犯人に仕立てる計画」は完成。ゲーム盤はここで中断するわけなのですが、もし中断しなかった場合、ヱリカは、このまま連続殺人を続け、島の全員を殺して自分一人が生き残るつもりだった。そういう想像をしています。

 なんでまた、そんなことをする必要があるのか。

 それは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』と島田荘司の『占星術殺人事件』を足した数よりも多い連続殺人記録の歴史的快挙、を、自分の手でなしとげてみたい誘惑にかられたから。

 それについての詳細はこちら→ 「【ヱリカ犯人説】Ep5第二の晩以降の展開は?」


 以上です。


 続き→ 犯行告発ep6・サファイア・アキュゼイション6
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犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(上)

2010年05月10日 20時49分52秒 | 犯人特定
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(上)
 筆者-初出●Townmemory --(2010/05/02(Sun) 10:52:24)・(2010/05/10(Mon) 20:35:35)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45874,46318&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 うみねこ公式掲示板内企画「サファイア・アキュゼイション」への回答を再掲するシリーズ第5回(前半)です。
 Ep5の推理(具体的な犯行手順)をまとめました。

 掲示板に投稿した初出バージョンから、加筆修正しています。
 2回に分けてお送りします。

 Ep1~4の「サファイア・アキュゼイション」をご覧になりたい方はこちら


     ☆


 さて、わたしの答案。『Ep5古戸ヱリカ犯人説』です。全部の殺人を古戸ヱリカが行なったという説です。それに関して、いくつかの説明を先に。

 まず「古戸ヱリカは犯人ではない」という赤字がありますが、わたしは
「まったく真実でないことも、赤字で言うことができる」
 という考えなので、問題なく古戸ヱリカを犯人にできます。
 ただ、赤字を信じたくてたまらない人は、「犯人ではない」という言葉の直前に「美術品泥棒の」「強盗の」「爆窃団の」「オレオレ詐欺の」「万引きの」「ネコババの」「落語の時そばのお代ごまかしの」といった語をおぎなって、とりあえずこれをすりぬけたと思って下さい。

(あ! 3回目の「電話の男」はヱリカだと考えるので、「オレオレ詐欺の犯人」ではあるのかもしれない。正確には「ボクボク詐欺」ですが)

「探偵は犯人でない」も同様のへりくつで抜けます。ちなみにノックスについては「このゲームはノックス十戒には従っていない」とすることで無効化します。「このゲームはノックス十戒に従う」という宣言が、誰からも一度もなされていないことに注目します。

 このゲームはノックス十戒に準じてはいない、しかし、多くのユーザーが、ノックス十戒を基準にして推理をおこなっている。(ノックス十戒という)ありもしないルールを、「ある」と誤認させることができれば、多くのユーザーを真相から遠ざけることができる。そういう叙述トリックの疑いを指摘するものだと思って下さい。

 人狼ゲーム的にいえば、「ノックスが『ヱリカは犯人ではない』と保証している」のは、「ニセ占い師が『囲っている』(狼に白判定を出す)」のにすごく近い。そういう感じ。多くの人が、『うみねこ』を、「占い師の託宣に従って犯人を探すゲーム」と考えているのに対し、わたしは「本物の占い師とニセ占い師を見分けるゲーム」だと認識しているわけです。

     *

> 【EP5】第1の晩 ゲストハウス
> 〔被害者〕右代宮楼座・右代宮朱志香・右代宮譲治・右代宮真里亞

 パターン1(のみ):古戸ヱリカ(殺害・死体隠蔽)

 古戸ヱリカが旅行に行くたびに殺人が起こるそうです。そんな発言を2回しています。これを真に受けます。
 つまり、探偵気取りの古戸ヱリカ嬢は、どこかに旅行に行くたびに、自分で殺人を犯し、誰かに罪をなすりつけるような行動をし、自分で華麗に解決しているのである。そんなミもフタもない人物理解です。
 さあ、本日彼女がやってきたのはおあつらえ向きのいわくありげな洋館。孤島で台風でクローズドサークル。これで事件を起こさないんだったら探偵ごっこなんて最初からしやしない(反語)。

 今回の古戸ヱリカの殺人&探偵プランは、「自分で人を殺して、その罪を夏妃になすりつける」です。

     *

 最初のポイントは、ゲストハウスのラウンジで、ヱリカをまじえて行なわれた碑文談義です。
 朱志香が感情的になって、ヱリカの美しい推理に口を挟んで邪魔してきました。
 ヱリカはものすごくむかついて、よし、朱志香を殺そう、と考えます。

 4日22時47分ごろ。屋敷本館の面々に、「戦人とヱリカが碑文を解いた」という情報が伝わります。
 親たち全員が、黄金の間でインゴットを目撃し、ひともんちゃく始めます。
 ヱリカはそっと楼座に近づき、こんなことを耳打ちしたかもしれません。
「相続に関して、味方してさしあげます。午前1時にゲストハウスにいらして下さい」
 ヱリカの頭脳はすでにお墨付き。しかも碑文を解いた2人のうちの1人ですから、影響力があります。
 これで楼座は指示通り午前1時にゲストハウスに来ます。来させた理由は、楼座を殺して第1の晩の犠牲者にするため(6人という人数合わせのため)です。
 なぜ楼座に耳打ちしたのか。親世代のうち、彼女だけは絶対に「夫にこのことを相談する」ことがないからです。「ヱリカに呼ばれてゲストハウスに行った」ことが他人にもれてはまずいので、ここは楼座を選択するほかありません。

 また、ヱリカはどこかのタイミングで絵羽をつかまえ、
「源次さんが何か怪しい動きをするかもしれないので、彼が使用人控え室に引き取ったらドアを封印して下さい」
 と指示しておきます。

 さて、楼座。
 楼座が午前1時に親族会議を中座してゲストハウスに向かうためには、親族会議が小休止されねばなりません。
 よって、楼座は1時になると、「ちょっと休憩しない? お化粧だって直したいし」と言い出すことになるのです。自然ななりゆきとして。

 絵羽が源次の使用人控え室を封印したのは、このタイミングです。ぴったり1時。
 もし、楼座が午前1時に「ちょっと休憩」を言い出さなかったら、絵羽が深夜何時に使用人控え室を封印するのかは、ちょっとわからなかったはず。
 逆に言えば、ヱリカは、「午前1時に来て下さい」と楼座に指示しておくことで、使用人控え室が封印されるタイミングを午前1時と指定することができたのです。

 午前1時に楼座がゲストハウスに来ることをきっかけに、ラウンジに人が集まり、それ以降ゲストハウスに忍びこむことができなくなる。
 午前1時に使用人控え室が封印されることで、それ以降源次を殺すことが不可能になる。

 これによって、「犯行可能だったのは午前1時までだ」という論理が発生し、その時間帯にアリバイのない夏妃が疑われていくわけなのです。

 たまたま揃った「午前1時」というタイミング。これを偶然と捉えるよりは、
「何者かがそうなるように人の動きを操った」
 と見たいところ。
 そして、それが可能なのは、古戸ヱリカだけです。

     *

 ところで、ヱリカはEp4以前には存在しなかったので、Ep1~4の犯人ではありません(と考えます)。
 ということは、Ep1~4の犯行を行なった犯人が、ヱリカとは別に、この島にいてくれなければなりません。
 この「本来の犯人」(ベアトリーチェの中身)を、朱志香だということにします。
(これについての詳細は、ここから「犯人特定」の欄をご覧下さい)

 夏妃に電話をかけてきた「19年前の男」の正体を、「ボイスチェンジャーで声を変えた朱志香」ということにします。
(ただし、3回ある電話のうち2回目まで)
 朱志香は、日付の変わる午前0時前後に、夏妃に電話をかけます。「夏妃は秋が好き」という情報は、紗音から得ることができます。このネタで夏妃をさんざん脅し、「朝まで部屋から出るな」という命令を聞かせます。

 この命令の真意は、第一には、「頭痛持ちの母さんを、ろくでもない親族会議からエスケープさせてあげるため」。
 そして第二には、「親族会議の人数を7人から6人に減らし、第一の晩の6人という人数に合わせるため」です。
 すなわち、「夏妃を除いた、蔵臼、絵羽、秀吉、留弗夫、霧江、楼座の6人を第一の晩で殺そう」というプランが朱志香の中にはあった、と考えるのです。

 ちなみに、わたしは「朱志香は6本めのマスターキーを持っている」という説をとっていますので、余裕で秋カードを夏妃の部屋に仕込むことができます。これにさしさわりを感じる方は、源次からマスターキーを借りたことにするか、嘉音が存在しないことにして、彼のぶんのマスターキーを朱志香が持っていることにして下さい。

 さて、そんなふうに電話とボイスチェンジャーでスゴんでいる朱志香ちゃんの様子を、「火サス女」古戸ヱリカ嬢が家政婦よろしくじっと冷静に見ていたのです、きっと。
 何でじっと見ていたのかといえば、「むかつくからとりあえず1人めは朱志香を殺そう」と考えていたからです。
 ヱリカはこの通話を聞いて、
「あ、うまく使えば『夏妃だけアリバイがない』状況が作れるかも」
 と思いつきます。

 当初の計画では、ごく単純に、郷田か熊沢を犯人に仕立てる計画だったのかもしれません。この2人のアリバイを保証しているのはヱリカが主張しているガムテープの封印なので、この封印を「しなかった」ことにすれば、2人のアリバイは簡単に奪えるのです。

 また、「熊沢の部屋のドアが本当に封印されていたかどうかは疑わしい」というポイントも押さえたいところです。熊沢は殺人が発覚するより前に、早起きして厨房に現れています。ドアを開けたら封印は破れます。熊沢は窓から出たのでしょうか。窓も封印されています。
 つまり、「事件発覚直後に確認したところ、熊沢の部屋の封印は健在であった」というヱリカの証言は破綻しています。そもそも熊沢のドアに封印はなかったのでは? それは熊沢を犯人に仕立てるためだったのでは? そんな想像もできますね。

     *

 朱志香の殺し方はどこでどんな形でもかまいません。時間は午前0時ちょうどくらいです。
 例えば、ヱリカは朱志香に、
「ちょっと誤解を解きたいので、2人でお話しません?」
 などとにっこり笑い、別室に誘い、そこで首をかき切ればよろしい。ほかの形でもべつだんかまいません。朱志香の死体の所持品検査をして、ポーチの中から魔女の杭を入手します。また、わたしの説では、ここでマスターキーを入手できます。所持品の中に杭がなかったとしても、マスターキーさえ手に入れば、朱志香の私室を家宅捜索することで魔女の杭は入手できます。
(どのみちマスターキーは源次殺害のときに手に入ります)
 これが秀吉殺害に使用されます。また、ボイスチェンジャーもここで入手しておきます。

 続いていとこ部屋に侵入し、譲治と真里亞の首を刃物でざっくりとかき切ります。Ep6で彼女が言っていたように、返り血を避けるためにビニール袋をかぶったかもしれません。返り血を浴びてもいいように水着に着替えた、これでも良いです。
 朱志香の死体を、いとこ部屋のベッドに運んでおきます。

「朱志香殺し」と「譲治・真里亞殺し」は、前後してもかまいません。譲治・真里亞殺しを「午前0時より前」とするほうがやりやすいかもしれませんね。0時以前に犯行がなかったことを保証しているのは「トランプしてました」というヱリカの証言だけです。わざとイヤらしいことを言って朱志香だけ追い出してしまえば良いのです。
 その場合、このタイミングで魔法陣が描かれます。

 凶器についてですが、これもEp6と同様に、ゲストハウスの厨房から包丁を持ち出せば良いのですし、古戸ヱリカはマリンスポーツをやっている人ですので、ダイバーナイフくらいは持っている可能性もあります。

 以上のことを手早く行ないます。その直後から、ヱリカは南條と一緒に、1時まで書庫に籠もります。
 これにより、「ヱリカが目を光らせていない」状況が約1時間発生し、「午前0時から1時まで誰でもゲストハウスに侵入可能だった」という条件ができあがります。


 そして午前1時。
 楼座がゲストハウスにやって来ます。
 ヱリカはこれを殺害して、死体をいとこ部屋のベッドに放り出します。

 魔法陣を描くとすれば、このタイミングかなって思います。真里亞のノートを見て描き写せば良いのです。
 その後、彼女はラウンジに戻って、3時まで南條、郷田のアリバイを確保します。

 ヱリカを犯人とする場合、「午前3時以降に、いとこ部屋で眠っている4人を切り殺す」だけで、犯行じたいは成立するのですが(聞き耳を立てていたとウソをつけば良い)、今のところ、その説は採っていません。
 いとこ部屋の殺人を、すべて午前1時ごろまでに行なわれたとしている理由(午前3時以降ではない理由)は、真里亞のベッドに、楼座が昼の服を着たまま横たわっているからです。
 楼座が殺されたのを、これよりも後のタイミングだとする場合、
「疲れ切った楼座は、真里亞の隣でそのままうっかり眠ってしまった」
(眠っているところを首を切られた)
 という状況が想定されますが、楼座さんみたいな人が、いくら疲れているからって、自分の客室に戻らず、服も脱がずに眠るというのはちょっと考えづらいのです。
(ふつう、どんなに疲れていたって服は脱いで寝る。疲れたから服を脱ぎたいというほうが自然だと思います。毎回スーツのまま寝起きしちゃってるアニメのいとこ組の描写はちょっとおかしいよね)

 でも、3時以降説をとらない場合、いろいろ犯行がめんどうなので、いっそ3時以降に戦人がぐーすか眠りこけている横で次々と殺人が行なわれたことにしちゃっても良いかなって気もします。どっちでも良い、どっちでもありうる。

     *

 さて、午前3時。
 戦人が屋敷からいとこ部屋に戻ってきます。
 これは犯人ヱリカにとっては想定外の状況だったかもしれない。戦人は、黄金発見と後継者争いの中心人物なのですから、「あの親族会議という名の茶番に、夜が明けるまでずっとつきあわされる」可能性のほうがだんぜん高いのです。
 ヱリカの想定としては、
「朝、やっと親族会議が終わって戦人がいとこ部屋に戻ってくると、4人が死んでいた!」
 という死体発見が行なわれるはずだったのではないか。

 ところが戦人の「もう寝てぇ」と、霧江の「戦人くんが退席できるようにうまく話してあげるわ」のコンボで、想定外に早い午前3時のタイミングで戦人が帰ってきてしまった。
 午前3時に4人の死体が発見されるのはすこぶるまずいのです。なぜならまだ親族会議は継続中で、ヱリカはまだ蔵臼を殺して失踪させてはいないからです。このタイミングで事件が発覚したら、機会は完全に失われてしまいます。

 蔵臼を殺して死体を隠す(蔵臼が行方不明になる)ことにより、夏妃への、
「蔵臼は預かった、返してほしければ言うことを聞け、ついてはこれこれの時間にクローゼットへ隠れて云々」
 という脅迫が成り立つのですから、蔵臼を殺すことができなかったら、この計画(夏妃からアリバイを奪い、夏妃犯人説を成立させる)は破綻してしまいます。
(つまり、「クローゼットに隠れろ」という電話は、ボイスチェンジャーを使用したヱリカによるものだという推理です)
 おまけに連続殺人はたった4人で終了。「従来のミステリ小説にもなかった過去最大級の殺人数」が誇れない。碑文見立てでもないので美しくもない。

 しかし。意外や意外。
 ビックリなことに、戦人はなんと、電気も点けず死体にも気づかず、そのままベッドに倒れ込んでぐーすか眠ってしまったのです。これはビックリ。まじでビックリ。ヱリカ的にはすごいラッキー。
 でも、ふとしたことで戦人が目をさまさないとも限らない。
 ヱリカはさぞかし、ヒヤヒヤしながら、壁に耳をぴったりつけて隣の様子をうかがっていたことでしょう。

 しばらく、かなり長い間、そうして寝息を聞いていたかもしれない。
 いとこ部屋。死んでる人が4人と、死んだように眠っている人が1人いるだけ。「何も不審なことは起こらない」。

 なので、ヱリカはようやく安心して、源次を殺しに屋敷本館へ向かいます。

     *

> 【EP5】第1の晩 使用人控え室
> 〔被害者〕呂ノ上源次

 パターン1(のみ):古戸ヱリカ(殺害・死体隠蔽)

 なぜ、古戸ヱリカはわざわざ屋敷にいる源次を殺しに向かうのか。
(ゲストハウス内でもう1人殺したほうがラクではないか。熊沢や郷田を殺すのは簡単だった)

 ひとつめの理由は、
「マスターキーを1本紛失させるため」
(誰が犯人でも犯行が可能な状況をつくる。マスターキーを紛失させない場合、蔵臼・秀吉殺しが可能なのは使用人だけになってしまう)
 もうひとつは、
「自分がマスターキーを1本手に入れ、蔵臼・秀吉殺しのときに利用するため」
 です。

「全使用人が1本ずつマスターキーを持っている」という、右代宮邸の鍵管理体制は異常なんです。ふつうありえない。
 ですから、熊沢や郷田はマスターキーを持っているのですが、「古戸ヱリカはそれを知りようがないし想像もしない」のです。熊沢や郷田を殺してもキーは手に入らない、とヱリカは思いこむ。

 マスターキーを1本手に入れたい古戸ヱリカが想像するのは、
「執事はマスターキーを持っている可能性が高い」

 そこで、どこかのタイミングで源次をつかまえ、世間話として、
「立派なお屋敷ですね。これだけ部屋があると、鍵の管理もさぞかし大変でしょう」
 といった話題を振れば、源次がマスターキーを持っていることは聞き出せそうです。


 源次殺害方法ですが、些細な違いが2パターンあって、朱志香の死体から6本めのマスターキーを入手できた場合と、できなかった場合とで、ちょっと処理が異なります。

 すでに朱志香からマスターキーが入手できてしまった場合。
(この場合でも、「マスターキーを1本紛失させる」ために、源次殺害は必要です)
 これは、玄関の鍵をマスターキーで開け、使用人控え室の鍵もかかっていればマスターキーで開けて、寝入った源次の首をすぱっと切ればOKです。

 マスターキーを入手できなかった場合。これは若干面倒でリスクがあります。
 使用人控え室の窓を、庭側からコンコンと叩き、源次を起こし、
「夜分すみませんが、黄金関連で内密にご相談したいことがあります。とりあえずこの窓から中に入らせていただけません?」
 もしくは、内線電話を使用してもかまいません。同様に、極秘で話したいことがあるので鍵を開けてくれないかと言えば良い。

 どっちかの侵入方法を使って源次を殺し、部屋を探してマスターキーを手に入れます。

 源次の首を切ったあとは、窓をきちんと施錠し、ドアから使用人控え室を退室します。
 このとき、絵羽がほどこしたガムテープの封印が破れます。
 でも、ヱリカは封印の割り印を書く能力があるのですから、破れた封印をぺっと剥がして、新しいガムテープで新しい封印をつくり、ぺたっと貼り直しておけばよろしい。

 屋敷の玄関を出て、元通りにマスターキーで施錠をし、ゲストハウスの部屋に戻ります。早朝におこなわなければならない蔵臼殺しのために仮眠をとるわけなのですが、移動が面倒くさかったら源次の死体といっしょに使用人控え室で寝たってかまいません。移動中に誰かに目撃されるリスクが減ります。

     *

> 【EP5】第1の晩 ???
> 〔被害者〕右代宮蔵臼

 パターン1(のみ):古戸ヱリカ(殺害・死体隠蔽)

 ヱリカは、源次(もしくは朱志香)から、マスターキーを入手することができます。

 朝5時とか6時とか、そんな時間帯を想定します。ヱリカはマスターキーを使って屋敷の玄関から中に入り、マスターキーを使って蔵臼の私室に押し入ります。
 そこには、親族会議が終わってくたくたになり、やっと仮眠をとりはじめた蔵臼がいます。
 その蔵臼にゴミ袋でもひっかぶせて、グルグル巻きにし、ウォークマンのイヤホンでも耳につっこんでガムテープでふさいで大音量を出しておきます。ウォークマン、朱志香が持ってそうです。蔵臼の私室にオーディオセットがあれば、それとヘッドホンの組み合わせでも良いです。そういえばEp5ではオーディオセットの存在が示唆されましたね。

 蔵臼の部屋から夏妃に内線電話をかけます。このとき、朱志香の死体から巻き上げたボイスチェンジャーを使用します。ラムダデルタが「声くらい、誰だって変えられるわよぅ」なんて得意がってるのは変声機の存在の示唆だろう、と都合良く考えます。

 蔵臼のわめき声を聞かせ、「夫を返して欲しかったら指定の時間に指定のクローゼットに閉じこもれ」と夏妃に命令します。
 電話をきったら、蔵臼の首も切ります。


 次の投稿に続きます。

 続き→ 犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(下)
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犯行告発ep4・サファイア・アキュゼイション4

2009年07月30日 02時58分27秒 | 犯人特定
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


犯行告発ep4・サファイア・アキュゼイション4
 筆者-初出●Townmemory -(2009/07/24(Fri) 00:27:17)・(2009/07/30(Thu) 02:07:10)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=29497&no=0 (ミラー
 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=29865&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「うみねこのなく頃に」公式掲示板にて、「サファイア・アキュゼイション」(蒼き告発)シリーズという企画が行われています。

 これは、各エピソードの各殺人現場で、いったい誰が殺人をし、誰がその共犯者なのか、考えうるパターンを最大3個まで挙げて、その結果を集計し、
「いったい誰がどのくらい怪しまれているのか」
 を、数値化してみよう、という企画です。

 わたしが提出した答えを、以下に再掲します。今回はep4です。

 犯行告発ep1・サファイア・アキュゼイション1
 犯行告発ep2・サファイア・アキュゼイション2
 犯行告発ep3・サファイア・アキュゼイション3

 2回に分けて集計されたものを、ひとつの記事としてまとめます。
 引用部(青字)は、出題者・藤井ねいのさんの書き込み内からの出題部です。

 以下が本文です。


     ☆


 アキュゼイションに回答します。
 が、長いです。
 何でいつもこう長いかというと、すべての犯行を、物語として、ひとつの流れの中に位置づけたいという欲求があるからです。
 それと、もうひとつ。「考えた結論」が重要なのではなく、「どのように考えたのか、その方法」つまり、「戦い方」を示すことに意味があると考えるからです。推理の結果ではなく、推理方法がコンテンツです。


>【EP4】第1の晩 食堂
>〔被害者〕右代宮夏妃・右代宮秀吉・右代宮絵羽・右代宮留弗夫・右代宮楼座・呂ノ上源次


 パターン1(のみ):朱志香(殺害)

 いつもだと真里亞は薔薇庭園でベアトリーチェに会うのですが、ep4では、金蔵に会ったと言っています(でしたよね?)。
 これは、いつもはベアトリーチェというキャラをロールプレイしている中の人(朱志香)が、今回は金蔵をロールプレイするよというサインと見ます。
 つまりこのエピソードで金蔵として活動している人は朱志香だという考えです。

 親族会議の席に、「金蔵様のおなりです」みたいな感じで、源次に露払いされて登場したのは、実際には朱志香という考えです。
 朱志香は全話共通で、金蔵から家督と財産のすべてを継承している。そういう理解で物語を考えることにします。

 朱志香は、何らかの形で、その場にいる全員に家督継承を認めさせたあと、
「私(朱志香)の後継者を決めておこう。それは譲治・戦人・真里亞の中から選ぼう」
 というようなことを提案します。親チームはこれに全員が乗っかります。自分ちの子供が選ばれれば、事実上、財産を自分が管理できるからです。

 その後継者テストの内容が、
「金蔵が一家を皆殺しにしようとしている。すでに何人も殺された。この状況を信じさせた後に『自分・愛する者・それ以外のうちひとつを見捨てるとしたらどれか』という質問をし、答案を検討する」
 というものだった……というのが、ep4に関する、(わたしの)基本的なアイデアです。

 さてそれをふまえて第1の晩の犯行。被害者を見ると、良い感じに、4家族ぜんぶの構成員が最低ひとり以上含まれておりますね。子供チームをまんべんなく動揺させることができそうです。
 朱志香は「とりあえず6人ほど惨殺されたことにしよう」ということで、この6人を選んで、死んだフリをさせます。残りのメンバーは「さらわれた」ということで、別室に移っていただく。
 死んだフリチームの6人は、さらわれるチームが退去したあと、本当に殺されます。


 殺害方法なのですが、毒殺か射殺したあと頭部を半壊させる……これでOKなのですが、個人的趣味により小型爆弾説をとることにします。
(前にもちょっと書きましたけれど)ラテックスか何かでできた、頭部が半壊しているように見える特殊メイクを6人にかぶらせる。そのメイクには少量の爆発物と信管が内蔵されており、遠隔スイッチを押したら、メイクは爆発で消失したうえ、本当に頭部半壊死体ができあがる。

 この手法のメリットは、朱志香がいちいち殺して死体加工しなくてすむ……それ以上に、「実の親や叔父さん叔母さんたちの絶命の瞬間を見なくて済む」点にあります。

 もうひとつ。ep1の第6~8の晩も、あの被害者3人がグルなら、これと全く同じ手法がとれます。犯人は書斎の中にいながら、3人を殺すことができます。


>【EP4】第2の晩 朱志香の自室・東屋
>〔被害者〕右代宮朱志香・右代宮譲治


 パターン1(のみ):朱志香(殺害・自殺)

 譲治については、朱志香が拳銃で眉間をズバン、でOKだと思います。彼女は消音器つきの自動拳銃を隠し持っているという考えです。

 戦人を除くすべての殺人が終了して、残りは彼だけになったタイミングで、ネクタイとジャケットの、いわゆる「ブレザーベアト」の扮装をして、嵐のベランダに姿を現します。
 で、例の三択クイズを出して、戦人の解答に失望します。

 ep4の朱志香の特殊な動機として、このクイズを出したかったんじゃないかなと思います。これって、
「おまえの愛はどこにあり、どんな種類のものであり、どっちの方向を向いているのだ?」
 ということを問うものだと思うのです。
 本来的には、誰かが碑文の謎を解き、みんなで九羽鳥庵にたどり着き、そこで、「ああ金蔵翁はこんなにひとりの女を愛していたのか」ということを知ったとき、みんなの心の中におのずと問いかけられるものだったんじゃないのかな、と思うのですが、3ゲームやってきて誰もそういうことを考えてくれないので、業をにやして、もう直接みんなに質問することにした。そんなイメージで見ています。

 さて、戦人の答えに失望したブレザー朱志香は、戦人を遠い礼拝堂に向かわせ、それで稼いだ時間で自室に戻り、私服に着替え、電話で予告しておいた通り、少量のプラスチック爆弾をこめかみに押し当て、信管をつきさし、自ら頭を砕いて死亡。


 余談になりますけど、三択クイズの真里亞の解答は「どれも選ばない。そのことにより全員が悪魔に殺される」だったんじゃないかな、と推測。
 大きな目で見れば、それは、誰も死んでいないのと同じになる。
 ……という考え方がこの物語にはあると思うのです。


>【EP4】第4~8の晩
>〔被害者〕嘉音・紗音・南条輝正・右代宮蔵臼・右代宮霧江


 パターン1(のみ):朱志香(殺害)

 状況がうまく再構成できていないんですが、全部朱志香さんが始末なさったということで、よろしいと思います。
 霧江あたりが、何かコレおかしいなと気付いて、逃げだし、そこをまとめて殺されたというくらいの形で良いと思います。
 嘉音は朱志香の仮想人格(だという推理)なので、ひっこめるだけでいなくなります。

 霧江の最後の電話は、そこに朱志香も同室していたと見ます。消音器つきの拳銃で、足やら腕やらをプスプスやられながら、脅されて、悪魔が本当にいるとかいうことを言わされていたのだという考えです。鍵穴からどうのというのも、脅しで言い含められた虚構だと思います。

 銃器にくわしそうな知り合いにきいてみたところ、威力の弱い22口径あたりの拳銃なら(コルトウッズマン?)、ちょうどそういうイメージの威力なんじゃないかということでした。


-------------------


 アキュゼイションへの回答です。


>【EP4】園芸倉庫
>〔被害者〕郷田俊朗・熊沢ちよ


 パターン1(のみ):朱志香(殺害)

 郷田、熊沢は、前回で回答しました「大人がよってたかって子供チームをびびらすドッキリ作戦」の共犯者と見ます。
 主な役割は、血相を変えてゲストハウスに飛び込み、「金蔵が魔法で6人を殺害した」と報告に行くことです。その後、園芸倉庫に閉じこめられることも、シナリオとして言い含められていたと考えます。

 彼らには、もうひとつ指示されている行動があって、それは、
「子供たちが園芸倉庫を開けに来た場合、首をくくって死んでいるふりをせよ」
 というものだった、と考えます。
 郷田のTIPSに、
「彼らは自らロープに首をかけた。たまには面白い経験だった」
 と書いてありますが、この推理では、この記述をそのまま真に受けます。

 本来なら、たまの面白い経験で済むはずだったのですが、首謀者の朱志香が現れ、
「ちょっとリハーサルしてみろよ」
 とでも言ったんじゃないかしら、と思います。
 こんな感じでしょうかお嬢様。といって、わっかに首を通す2人を確認したところで、朱志香は拳銃を取り出し、2発。

 園芸倉庫のタグのついたニセ鍵を郷田のポケットに入れ、シャッターをおろして施錠。


>【EP4】第9の晩
>〔被害者〕右代宮真里亞・右代宮戦人


 パターン1(のみ):真里亞(服毒自殺)、朱志香(自殺教唆、爆弾起爆)

 真里亞は「毒をのんで、自殺せよ」という指示をうけて、素直にそれに従った……と考えます。
 もちろん真里亞は、朱志香のやっていることも、その奇妙な理念や論理もぜんぶ知っていて、すすんで協力しているのだ、と見るわけです。

 それは黄金郷へ行くための手続き。黄金郷では願いがかなう。エンドロールが言うように、「真里亞は失った母の愛を」手に入れます。
 真里亞が死ねば、「ママが私を愛してくれない」という事実を観測する自分がいなくなり、「ママは私を愛してくれている」という可能性を手に入れることができます。

 朱志香としては、どこで死んでもらっても良かったと思うのですが、きっと真里亞が、「ママの隣で眠りたい」と言ったのじゃないかな。
 彼女は自分で客間まで行って、そこで毒を受け取り、それを飲み、ママの隣に自分で横たわって胸の上で手を組んだのだろう……という想像です。

 それを見届けてから、朱志香はコップなどを片付けて、その場を施錠したのでしょう。この直後、彼女はベランダに出て、嵐に向かって絶叫することになります。


 戦人の死因は、いつも通り、深夜24時の爆弾です。朱志香の自殺後、時限装置によって起爆したと見ます。
 現場消滅、証拠隠滅によって、六軒島連続殺人は無限の解釈が可能になるわけで、つまりこれが無限の魔法の正体と考えています(これが多分ルールY)。
 よって、「わたしはだぁれ」の答えは、大づかみな意味で、「無限の魔女ベアトリーチェ」とも言えます。(ぎりぎりで思い直してひっこめた片腕は「黄金」のほうだろう)


>【EP4】1998年 六軒島
>〔被害者〕須磨寺霞・黒服たち・右代宮縁寿


 パターン1(のみ):天草十三(霞と黒服を射殺)、縁寿(飛び降り自殺)

 霞と黒服がバタバタと死んでいったのは、天草十三による長距離狙撃のため。特にひねらなくてもこれで良いと思います。
 その後天草が縁寿を殺したという説があって、魅力を感じますが、ここでは別の考え方をしたいと思います。1998年の六軒島に現れるエヴァ・ベアトリーチェや絵羽の姿は、「六軒島の因縁」や「ベアトリーチェの呪い」の擬人化で、縁寿はそれを打ち破ったのだという比喩表現じゃないかな。

 六軒島から帰還したあと、縁寿はビルの上から自分で飛び降りた、という考えのほうが、ドラマ的に整合させやすいので、そちらを採ります。
「魔法を理解した縁寿が、可能性の海の中に自分自身を還元した」
 という理解です。
 死ねば、少なくとも「お兄ちゃんが帰ってこない」という確定的事実をリジェクトすることができる。可能性の海の中で、再会できるみこみはゼロではない。

 ベルンカステルが縁寿をだまして飛び降りをさせた、というよりは、縁寿は自ら納得ずくで飛び降りた、という理解をしてあげたいのです。

 そういう、おそるべき決断ができること、そういう人のことを「魔女」と呼ぶ。そんな解釈も、できなくはないかな。
 わたしのこの推理だと、ep4というのは、3人の魔女が、それぞれの願いを抱いて自殺するお話……そういうまとめかたもできそうです。何だか悲しくなってきちゃった。


●追記(090730)
 1998年六軒島のシーンを読み返してみたのですが、絵羽おばさんの姿で登場したのは天草十三、と考えたほうがやっぱり整合しそうです。ということで、その点のみ、考えを変えました。
 でも、銃の暴発は実際に起こって、天草十三は死亡もしくは重傷を負い、縁寿は生存した。縁寿はその後自分の意志で自殺。この流れは保持しておきたいと思います。



■続き→ 犯行告発ep5・サファイア・アキュゼイション5(上)


■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


■関連記事
●犯人特定
「朱志香=ベアトリーチェ」説・総論
 朱志香説総論その2・家具の正体と黄金郷の正体
 サソリのお守りが効いた理由
 ep4は親チームのドッキリではないか?
 魔女が鏡に弱い理由
 留弗夫「俺は殺される」と「07151129」
 「魔女の手紙」の取り出し方

●盤面解析
 駒の動きその1・南條(大爆発説)
 駒の動きその2・戦人、真里亞、嘉音
 ルールXYZを指さそう
 駒の動きその3・銃(とわたしはだあれ)
 駒の動きその4・盤面(I)
 駒の動きその5・盤面(II)
 駒の動きその6・盤面(III

 チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷
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犯行告発ep3・サファイア・アキュゼイション3

2009年07月18日 23時59分49秒 | 犯人特定
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


犯行告発ep3・サファイア・アキュゼイション3
 筆者-初出●Townmemory -(2009/07/09(Thu) 07:25:16)・(2009/07/15(Wed) 20:46:51)

 http://naderika.com/Cgi/umi_log_cbbs/umi_logcbbs.cgi?mode=red2&namber=28501&no=3 (ミラー
 http://naderika.com/Cgi/umi_log_cbbs/umi_logcbbs.cgi?mode=red2&namber=28924&no=3 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「うみねこのなく頃に」公式掲示板にて、「サファイア・アキュゼイション」(蒼き告発)シリーズという企画が行われています。

 これは、各エピソードの各殺人現場で、いったい誰が殺人をし、誰がその共犯者なのか、考えうるパターンを最大3個まで挙げて、その結果を集計し、
「いったい誰がどのくらい怪しまれているのか」
 を、数値化してみよう、という企画です。

 わたしが提出した答えを、以下に再掲します。今回はep3です。

 2回に分けて集計されたものを、ひとつの記事としてまとめます。
 引用部(青字)は、出題者・藤井ねいのさんの書き込み内からの出題部です。

 犯行告発ep1・サファイア・アキュゼイション1
 犯行告発ep2・サファイア・アキュゼイション2

 以下が本文です。


     ☆


 サファイア・アキュゼイションに回答します。ところでep5から『うみねこのなく頃に散』というタイトルになるそうですね。ひょっとして「散る」=Chill にかけているのかしら、と思いました。ゾッとする、悪寒がするというくらいの意味の英単語です。『The Chill』という有名なミステリー小説もありますね。そんな独り言でした。歌丸です。


>【EP3】第1の晩 連鎖密室
>〔被害者〕右代宮金蔵・呂ノ上源次・紗音・嘉音・郷田俊朗・熊沢ちよ


 パターン1:朱志香(殺害・その他全ての工作)、南條(検死で虚偽)
 パターン2:朱志香(殺害)、源次(紗音殺害・遺体運搬・魔法陣など)、南條(検死で虚偽)


 パターンの差は、朱志香が全部やったか、源次に手伝わせておいて最後に源次を殺したか、その違いです。
 例によって嘉音は最初からいない人です。基本的に南條は、嘉音の不在を隠蔽するための駒と見ます。
 源次をからめるパターンでは、幻想描写どおり、紗音を源次が殺した(後ろから刺したとか)と見るのが、きれいかなと思います。その場合、源次は密室内で死んだふりをし、南條がウソの死亡確認をする、というプランが言い含められていたと考えます。パターン2が本命です。

 密室構成方法は、えー、何と言いますか、6本めのマスターキーです。ああ、なんという六鍵島……。

 さて、この作為たっぷりの連鎖密室。作中でも指摘されている通り、素直に考えれば使用人チームのドッキリです。使用人たちが死んだふりをしているのだ、と考えるのが合理的です。つまり南條医師は確実にウソをついている、と、生存者は判断します。
 この状況で、もし、「本当に死体が出てきたら」つまり、ただのおどかしではなく本当の殺人事件だと生存者が認識したら、南條医師はドッキリの共犯者ではなく殺人の共犯者となります。
 生存者がそれに気づいた時点で、南條医師は粛正されるか、良くてもゲストハウスから追放されます。
 犯人的には、籠城した生存者の中から、確実に一人を分離して仕留められます。もし、生存者のうち何人かが、一緒にゲストハウスから出てくれれば(証拠を見つけたいとか、問い詰めたいとかの理由で)ついでにそいつらも始末できます。

 このこと自体が、「頭のいい奴ほどひっかかるトリック」で、良いのではないかな、と見ました。詳しくは後述。


>【EP3】第2の晩 バラ園
>〔被害者〕右代宮楼座・右代宮真理亞


 パターン1(のみ):絵羽(殺害)

 前にも書きましたが、もう一度。「駒の動きその6・盤面(III)」に、より詳しく書かれています)

 この殺人は、かなりの確率でイレギュラーです。
 犯人は銃を持っていると推定されるのに、使用していない(格闘で殺してる)。
 楼座が持っていた銃を、没収していない。
 実際、この後の第4~6の晩では銃を没収している。今後の犯行のために、銃は少ない方が良いはず。
 よって、楼座と真里亞を殺したのは、この計画殺人の本来の犯人ではない。
 手にしていたその銃で殺したら、残弾数から犯行がばれてしまう人間で、まだ本来の殺人犯が潜伏しているのだから、自分と家族を守るために銃は一丁でも多くその場に確保しておきたい人間。
 それだけの判断がとっさにでき、身体的に頑強で、黄金をめぐって楼座とトラブルがあり、吸い殻の件でアリバイがなく、最後の最後で戦人に問い詰められて自分は殺人者であると白状した人、つまり絵羽さんがここは殺したのだと考えました。


>【EP3】第4~6の晩 玄関ホール
>〔被害者〕右代宮秀吉・右代宮留弗夫・右代宮霧江


 パターン1(のみ):朱志香(殺害)

 さて、ここから、第1の晩の続き。
 南條は犯人の共犯者である、と見ています。ついでに、源次、熊沢もそうです。
 生き残ってる南條は、源次と熊沢が殺されたことをどう思うのか。
 犯人(朱志香)は、自分のことは殺さないという約束だったけれど、同じ約束の源次と熊沢は殺されてしまった。つまり、当初の計画なんて守る気はぜんぜんない。
 嘉音についての偽証はすでに終えた以上、犯人にとって、南條を生かしておく必然性はまったくない。むしろ、真相をばらしてしまうリスクのほうが高いはずだ。
 つまり……自分はもうすぐ殺される……。

 もちろん、犯人もその心理を把握していますし、さっさと南條を始末するつもりでいます。第1の晩の、六連鎖密室そのものが、南條を始末するための布石だったのです(と、見ました)。

 ところが、イレギュラーが起こりました。
 絵羽が、楼座を勝手に殺してしまった。
 それだけならまだいいですが、絵羽のアリバイを証言するはずの秀吉が、うっかり部屋でタバコを吸ってしまった。絵羽がそこにいたら、タバコを吸うはずがない。よって、絵羽にアリバイはない。それどころかアリバイ工作をしている。
 霧江がそれに気づいてしまった。
 霧江は、「楼座と真里亞を殺したのは絵羽で、秀吉は共犯者だ」と気づく。
 ところが、賢い霧江にも限界があって、
「実際に死体が出た以上、これは本当の殺人事件だ」
「つまり、使用人チームのドッキリではない」
「ということは南條を問い詰めるどころではない(それは後回しで良い)」
「まずは絵羽夫妻を分離させて、一人ずつ問い詰めるべき。場合によっては始末すべき」
 という思考を展開してしまった。
 本来なら、犯人の思惑では、霧江が南條を本館に誘い、そこで内紛が起こってほしかった。と思うのです。
 しかし、このことで、3人の人物をゲストハウスから孤立させることはできたので、結果オーライで3人分殺すことにした。と思います。

 さて、霧江。
 厨房で食料を確保し、台車に乗せたところで、軽いトラップを仕掛けます。
「私が銃を持つので、秀吉さんが台車を押してほしい」
 何と秀吉、こころよくOKします。
 霧江、ガクゼンとします。
 しまった、これは私のミスだ。秀吉は犯人一味ではない。少なくとも何も知らされていない。
 そうでなければ、こんな状況でたやすく銃を手放すわけない。
 このミスによって、私たち3人は本館に孤立した。
 そこからは、裏口の封鎖を確認、待ち伏せられたことを直感。散開して突破、の流れが描写通りとみます。

 そして場面変わって玄関ホール。犯人こと朱志香。
 彼女は、「銃を持った霧江」と、「銃を持った留弗夫」を確認します。
 その状況が発生するのは、留弗夫夫妻が秀吉を粛正した場合だけです。普通に考えるなら。
 だから秀吉はすでに死んでいると判断します。
 ところが、霧江と留弗夫をうまく殺したあと、死んでいるべき秀吉が現れます。
 そして、
「なんてことしたんや!」
 といって、朱志香をひっぱたきました。このシーン、絵羽でなくても、相手が目下の存在ならば成立します。
 ここでさらなるイレギュラーに戸惑いつつ朱志香は秀吉を殺害し、
「油断した、まだ生きていたなんて……」
 のコメントにつながります。


 以上でございます。例によって、ドラマチックなほうへほうへと意図的に自分を誘導していく推理でした。


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 回答します。よろしくお願いします。


>【EP3】第7・8の晩 東屋
>〔被害者〕右代宮蔵臼・右代宮夏妃


 パターン1のみ:絵羽(殺害、死体遺棄)、朱志香(杭打ち)

 これは、第2の晩と同じ状況と見て良い。と思われます。
 銃を使わず、絞殺(格闘的手法)で殺害されている。そして場の銃が没収されていない(その描写がない)。
 この殺し方をするのは絵羽だ、と結論しました(第2の晩のときに)ので、それにならいます。

 殺害理由は、秀吉を殺したのは蔵臼夫妻だ、と絵羽が確信したから。
 消去法で考えたら、「蔵臼夫妻は怪しい」という結論には自然にたどり着きますが、きっかけとして、
「絵羽は一生、自分(蔵臼)を憎むだろう」
 というような蔵臼のセリフ、これを絵羽本人が聞いたからかもしれないです。
(自分は秀吉を殺した。それを知ったら)絵羽は一生、自分を憎むだろう」
 という意味に解釈したとしたら、反射的な殺意が芽生えるかもしれない。

 絵羽の立場なら、死体遺棄は難しくない。ドアのバリケードをどけ、内鍵をあけ、死体を運び出し、ゲストハウスに戻り、内鍵をしめ、バリケードをもとに戻す。これでOKです。
 絵羽がふたりの死体を運び出す様子を、たぶん、朱志香が見ていたと思います。タイミングはちょうど、譲治を殺してきて、帰ってくる途中だったと考えます。
 絵羽がいなくなるのを見計らって、杭を打ち、「ベアトリーチェがやった」(つまり自分がやった)ことにしてしまいます。


>【EP3】第9の晩
>〔被害者〕右代宮譲治・南條輝正・右代宮戦人


 パターン1のみ:朱志香(南條殺害、譲治殺害、謎の数字書く)、絵羽(戦人殺害)

 まず譲治の殺害について。
「チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷」に、より詳しく書かれています。そちらもご参照下さい)

 朱志香犯人説を採る場合、朱志香という人は、とても情緒的な、とても優しい殺人者です。
 たとえば、紗音を失って悲嘆にくれている譲治が、
「もういちど紗音に会いたい、そのためならどんな代償でも支払おう。一生をかけて魔術を研究してもいい」
 とまで言ったとしたら、感じ入って、紗音を生き返らせてやろう、再び会わせてあげようと考えたりする。

 ベアトリーチェの「無限の魔法」の正体は、「シュレディンガーの猫箱」である。この考え方はかなり浸透していると思います。
 箱の中の猫は、生きているか死んでいるか、わからない。蓋をしめた状態では、ふたつの可能性が同時に存在している。生きているか死んでいるかが確定するのは、蓋を開けて観測した瞬間だ。だそうです。

 さて。「シュレディンガーの猫箱」の猫が、もし蓋を開けたとき死んでいたとしたら、その死因はなんでしょう。
 二分の一の確率で噴射される毒ガスのせい?
 そうなのですが、こう考えたらどうでしょう。
「蓋を開けて、中身を観測し、生か死かを確定させてしまったから」
 蓋を開けるまでは、生きてる可能性も50%あったわけです。その可能性を奪ったものが猫殺しの犯人です。だから犯人は観測者で、死因は「観測」です。

 だとすると、紗音の死因は何でしょう。
 なぜ紗音が死んでいるかというと、「紗音は死んでしまった」と「観測」されたからです。そんなものを観測しちゃった人がいるからです。
 ということは、「紗音の死が観測された」という事実が消滅すれば、紗音が死んだという事実も消滅し、紗音は生き返ったことになります。

 では、話は簡単で。
 譲治が「紗音は死んでしまった」と観測するから、譲治にとって紗音は死んでいるわけで、譲治がそんな観測をしなくなれば、紗音も死んでないことになります。
 ぶっちゃけ譲治が死ねば良い。
 譲治が死ねば、「紗音は死んでしまった」と観測する譲治がいなくなる(紗音を絶対に観測できなくなる)わけです。「紗音が死んだ」という観測事実が消滅するので、譲治にとっては、紗音は生きてる(かもしれない)ことになります。
 あとは、「さくたろうは生きて、喋れて、ここにいる」と同じメカニズムで、
「譲治と紗音は再会し、2人で永遠に幸せでありつづけるのだ」
 と、信じてやれば良い。これで、紗音を生き返らせ、譲治と再会させてあげたことになります。

「黄金郷では死者の魂がよみがえる」そうですから、譲治と紗音が横たわる客間は黄金郷です。
 黄金郷の扉には、黄金郷の鍵がささっているべきなので、財宝を納めた金庫の鍵、つまり「07151129」が扉に書かれます。ハピバースデイ。

●補足(090719)
 ハピバースデイ:この記事の初出投稿日が、ちょうど7月15日=戦人の誕生日でした。



 さて、絵羽。
 彼女は、自分が殺した蔵臼夫妻の死体に、杭が打ってあるのを発見します。
 つまり、蔵臼夫妻は秀吉殺しの真犯人じゃなかった。
 まだここには連続殺人犯がひそんでる。そのことを自覚します。
 それであわてて譲治の安否を確かめようとし、彼の死を確認しました。そして朱志香が失明し、南條の死体が発見されます。

 この時点で、「狼と羊のパズル」が発生します。

1.自分は南條を殺していない。
2.失明した朱志香に南條を殺せたはずがない。
3.よって消去法により、南條を殺したのは戦人である。
4.ということは秀吉や譲治を殺した連続殺人犯も戦人だ!

 以上の論理で、絵羽は戦人を殺害したと考えられます。


 最後に、朱志香について。
 絵羽ともみあって失明してしまったことで、彼女は、南條を押さえていたプレッシャーを発揮できなくなります。
 南條は朱志香の共犯者ですが、同じく共犯者の源次たちが朱志香に殺されているわけで、自分の身も危ないと感じている。このタイミングで、朱志香を告発し、身の安全を図ろうとする可能性がある。実際、それをほのめかしたかもしれません。
 そこで朱志香は、南條の肩をガッとつかんでグッと銃を押し当て、バーン。
 目のぐあいを診察していて、対面にいたのなら、そのくらいは可能だと思われます。


>【EP3】第10の晩
>〔被害者〕右代宮朱志香


 パターン1のみ:朱志香(起爆)

 絵羽は、死ぬ間際の戦人のリアクションから、ひょっとして真の殺人者は戦人じゃないかもしれない、という可能性を考えます。本命は、朱志香かもしれない。もちろん、未知の人物かもしれない。
 身の安全を図るために、九羽鳥庵に隠れることを思いつきます。九羽鳥庵を知っているのは自分だけのはずだからです。

 朱志香は、残った絵羽を何としてでも始末したいのですが、目が見えない状況では、戦っても勝ち目がありません。
 そこで、あらかじめ設置しておいた屋敷消滅爆弾で、自分ごと絵羽を吹き飛ばす手に出ます。
 しかし彼女は、絵羽が碑文を解いて九羽鳥庵へ逃げ込めることなんて知らなかった。だから結果的に、第10の晩で死んだのは朱志香だけ。絵羽は生還しました。


 長くなっちゃいました。すいません。


 続き→ 犯行告発ep4・サファイア・アキュゼイション4



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


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 魔女が鏡に弱い理由
 留弗夫「俺は殺される」と「07151129」
 「魔女の手紙」の取り出し方

●盤面解析
 駒の動きその1・南條(大爆発説)
 駒の動きその2・戦人、真里亞、嘉音
 ルールXYZを指さそう
 駒の動きその3・銃(とわたしはだあれ)
 駒の動きその4・盤面(I)
 駒の動きその5・盤面(II)
 駒の動きその6・盤面(III

 チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷
コメント (4)
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