さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

Ep6紗音による救出は「ベアトを殺す一手」ではない

2011年07月16日 17時21分16秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


Ep6紗音による救出は「ベアトを殺す一手」ではない
 筆者-初出●Townmemory -(2011/07/16(Sat) 17:19:07)

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 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)

 探偵視点は誤認ができる
 まぼろしと本当の振幅(続・探偵視点は誤認ができる)


     ☆


「Ep6紗音による救出は『ベアトを殺す一手』ではない」

 というタイトルです。ベアトの心臓の話です。

 長いタイトルですが、表題のとおりの内容をこれから書きます。ささいな内容ではありますが、なんとなく意識の端にひっかかってたので、ちょっとだけ詳しく書いてみます。


●状況説明

 Ep6で戦人が、「ロジックエラーの密室」閉じこめられました。窓から出ちゃダメ。ドアから出るときは、チェーンがかかった状態で外に出なきゃいけない。でも外からはチェーンはかけられない。
 さあ、ここから出てみろ。
 戦人はそう言われて、困り果ててしまいました。

 戦人が思いついた手は、「誰か別の人に、部屋に入ってもらう」というものでした。
 チェーンロック開ける。
 戦人が部屋の外に出る。
 誰かが部屋に入る。
 その誰かがチェーンロックをかける。

 これで、戦人は部屋の外にいて、ドアのチェーンはかかっています。脱出できました!
 いや、脱出できたと思いました。

 ところが。

 六軒島にいる人が、誰ひとり、戦人の部屋に駆けつけられないという状況ができてしまいました。
 いとこ部屋と隣部屋に、ほとんどの人々は閉じこもっています。
 この2部屋は、窓とドアに封印がなされたため、開けることができません。よって、ここから人が出てきて戦人のかわりにチェーンを掛けることができません。
 2部屋以外の場所に、5人の人物がいます。戦人は、この5人の誰かに助けに来てもらおうとしました。
 ところが、この5名様は、ヱリカに殺されてしまいました。
 死んだ人間は、戦人を救出しに来ることはできません。

 それ以外に、味方はいません。

 誰かが代わりに部屋に入ってくれないと、戦人は外に出られません。
 なのに、誰も部屋に来ることができないのです。11人が「閉じこめ」られていることと、残りの5人が「死んで」いることによって。


●変更された条件

 さて、これがロジックエラーの密室でした。
 誰かが助けに来てくれないといけないのに、誰も助けに来られない。

 このコンフリクトに風穴を開けたのが、ガァプでした。
 彼女はこんなことを指摘したのです。

「いとこ部屋と隣部屋は封印がなされているが、封印を破れば出てこられるのである」
「そして、封印は健在であることが確認されたのは扉だけ。隣部屋の窓の封印が健在かどうかは確認されていない
「だから隣部屋の窓から誰かが出て、戦人の代わりにチェーンを掛けにいくことができる」
(ちょっとはしょりました)

 隣部屋には、秀吉、譲治、紗音、熊沢、南條の5名がいますから、このうち誰かが窓から飛び出して戦人のところに駆けつければ良いわけです。
 これで戦人は密室から脱出できる……

 と思ったら、ドラノールたちはこんな反則技を使ってきました。

「謹啓、謹んで申し上げる。ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じるものと知り給え。

 隣部屋の窓は開いてた可能性がある。でも、そこから人が出たという推理を使っちゃダメ。
 ひどい話です。


●紗音と隣部屋を使った解法

 この密室を、ベアトリーチェが解きました。
 ベアトリーチェは問題を解いたうえで、ヱリカに逆質問をかけます。

「いとこ部屋にいる嘉音が戦人を救出したのだ。いとこ部屋から嘉音を脱出させる方法を答えてみよ」

 いとこ部屋というのは、窓もドアも封印が健在なので、そこから外に出られないという設定です。
 ヱリカはこの問題に解答することができません。ヱリカは魔女に敗北するわけです。


 さて。
 おおかたの読者が想定している、この謎への解答は、こうでしょう。

「嘉音はじつは存在せず、彼は実体としては紗音である
「つまり紗音は嘉音本人である」
「紗音は隣部屋にいるので、窓から脱出することができる」
(隣部屋の窓を使ってはならないという条件は、のちにドラノールが撤回しました)
「紗音は戦人と入れ替わりに客室に入り、チェーンを掛けることができる」
「紗音のこの行動を『嘉音が行なった』と表現することは可能である」

 こまかい異同はあるでしょうが、だいたいこんな感じの答えが模範解答として流通しているはずです。
 紗音と嘉音は、2人組のように描かれているけれども、じっさいには体はひとつしかありませんよ、という、一種の「疑惑への解答」になってるんだろう、そういう解釈の仕方ですね。

 これできれいに解けるわけですから、これで良いわけです。
(わたしは別の解を持っていますが、それはちょっと脇に置いておきます。ご興味があれば、こちらへ。「ep6初期推理3・密室解法/戦人は単騎で脱出できる」「ep6初期推理4・戦人脱出その2/金文字/一なるトリック」

 これで良いわけなのですが、細かいところで、ひとつだけ、注意を喚起したいことがあります。それが、

「この答えは、『ベアトを殺す一手』ではない」

 ということなのです。


●隣部屋の窓は使えない。にもかかわらず

「ベアトを殺す一手」って何なのかというのを、先に説明しておきます。フェザリーヌが存在をほのめかした「この密室を解く究極の方法」みたいなものです。「ベアトの心臓」という言い方で覚えている人も多いかもしれません。
 この手を使えば、密室は解ける。でも、それは同時にベアトの心臓をさらすことになるので、物語は終わっちゃうだろう。そんな世界の終わりじみた密室解法があるんだ、ということをフェザリーヌは言うのです。

 時間を少し巻き戻して……。

「隣部屋の窓が開いてるじゃないの」というガァプの攻撃に対して、
「ロジックエラー時に隣部屋の窓の封印が暴かれていたことを理由とする青き真実の使用を禁じる」
 と天界チームが言い出したところに話を戻します。

 隣部屋の窓は開けることができる。でも、そこから人が出たという推理をしてはいけない
 そういうことになっちまいました。

 別の時空でそれを傍聴していた縁寿はフンガイします。「卑怯じゃないの!」とかいって、例のあの顔でかんしゃくを起こします。
 そして彼女はフェザリーヌにやつあたりします。「アンタ、どうせ答えがわかってて、余裕の顔してるんでしょ?」と。

 ところが、フェザリーヌは意外な返事をします。

「………すまぬな、人の子よ。……私も、これには困った。」
(略)
「私も、隣部屋の窓がまだ開いていることは気付いていた…。……しかしながら、それを反論に使えぬと封じられるとは、想像もしなかった…。」
(略)
「……ふむ。……だから私も困ってしまった。……このおかしな封印宣言のせいで、2つの部屋は再び密室に戻ったも同然になってしまった。……恐らくだが、」
(略)
「……………答えは、ない。」
(略)
「隣部屋の窓以外に、出口はない。……にもかかわらず、隣部屋の窓を推理に組み込むことが許されぬ。…………この密室を解く答えは、恐らく、ない。」

 なんと、フェザリーヌは、
「隣部屋の窓が使えないのなら、私にもこの密室は解けません」
 そんなことを言い出すのです。

 この密室は、フェザリーヌにも解けない。
 だから、おそらく答えはない。
 答えがないのに、プレイヤーは答えないといけないのだから、プレイヤーの負けである。

 フェザリーヌはそんな判断をくだしちゃいました。

 が。
 そこでハタと、彼女は1つだけ手を思いつきます。

「……………………。……いや、一手、あるにはある。……しかしその手は、………二度と使えぬ手だ。……そしてそれは、…ベアトの心臓の一部でもある。」
(略)
 ………そうか。
 ……この長き物語も、……いよいよ幕を下ろす時が来たのか…。
 その謎を明かすことは、……いよいよ、………ベアトを殺す、ということだ。

 フェザリーヌが思いついた「その一手」は、ベアトの心臓をさらすものであり、それを使ったら最後、物語に幕が下りてしまう。
 そういう最後の必殺技だ、と彼女は述べます。


 もう、いいたいことはおわかりだと思います。


 話の流れをまとめると、こうなります。

隣部屋の窓が使えないのなら、この密室は解けない」
「あ、ちょっと待てよ」
「隣部屋の窓を使わなくても、密室を解く方法を、ひとつ思いついた
「でもそれは『ベアトの心臓』そのものであって、ベアトを殺すもの、物語に幕を下ろすものであるのだぞ……」

 さらにまとめると、こうなります。

「隣部屋の窓を使わずに密室を解くための、唯一の方法は、ベアトの心臓をさらすことであり、物語に幕を下ろすものである」

 順ぐりに会話を追っていくと、そういう意味になりますね。


 ということは。
「隣部屋の窓から、紗音が飛びだして、戦人を救出に向かった」
 という推理は、「ベアトの心臓」ではありません。

 なぜなら、隣部屋の窓が使われているからです。「隣部屋の窓を使わずに密室を解く方法なんてない……あ、一個あったけど、それはベアトの心臓だもん」というのが、この話の流れだからです。隣部屋の窓を使った解法は、ベアトを殺す一手では、ありえません。

 だいたい、「紗音と嘉音は2人いるように見えるけど、実際には1人の人間でした」というのは、ベアトの謎において、かなりの大ゴマではありますが、心臓というほどではなさそうですよ。
 だって、それだけでは解けない謎がいっぱいあります。そのことひとつわかったからって、「物語が終わり」というほどではないでしょう。


 というわけで、「ロジックエラーの密室」の解法は、紗音が助けに来るというアイデア以外に、フェザリーヌが思いついたもう一つがあります。
 それは、ベアトの心臓に直結していて、それが明かされたらベアトは死んで物語は終わりだ、というくらいのものです。

 それは何でしょう。

 この「それは何でしょう」こそが、今回このエントリで得ることのできる最大の発見です。
 なぜなら、「ベアトの心臓とは、紗音と嘉音が実際には1人だったってことだ」と思っている人には、「フェザリーヌの思いついたベアトの心臓って何だろう」という問題設定は発生しないからです。


●ちなみに

 以上が今回の本論です。以下は、よだんです。

 ここから先はよだんですから、「最後に書いてあるからここはきっと大事なことなんだ」と思ってはいけません。思わないで下さい。
(以前書いたことあるのと同じことをくりかえして書くだけですからね)


 わたしは前述のとおり、紗音や隣部屋の窓を使わないで解ける、別の密室解法を、大きく分けて2つほど、持っています。

 ひとつは、「戦人が1人で脱出する方法」。
 もうひとつは、「謎そのものを存在できなくさせる方法」です。

 前者はたぶん、「雛ベアトリーチェが思いついた脱出法」と同一だろう、とわたしは思っています。
 だって、雛ベアトが密室の解き方を思いついたとき、「隣部屋の窓を使ってはならない」という条件は、まだキャンセルされていませんでした。ですから、雛ベアトが思いついた解き方は、隣部屋の窓を使わないものでなければならない(と思う)のです。

 そして、後者のほう、「謎そのものを存在できなくさせる方法」のほうが、「ベアトの心臓」です。
 わたしが思うに、たぶん。

「戦人が1人で脱出する方法」については、先に挙げたふたつのリンク、
 「ep6初期推理3・密室解法/戦人は単騎で脱出できる」
 「ep6初期推理4・戦人脱出その2/金文字/一なるトリック」
 ここに書いてあります。

 ベアトの心臓のほう……「謎そのものを存在できなくさせる方法」のほうですが、これは一言で説明できるので、ここで説明します。簡単です。いつもわたしが言ってるやつです。

「赤い字は、真実じゃないことを言ってるときがある」

 これを青い字なんかでポロッと言えば、それだけで「窓から出られない」とか「チェーンが外れた状態でドアから出てはいけない」とかいう、赤い字で言われた条件が消えてなくなります。つまり、密室の謎そのものがなくなります。密室そのものがなくなるのですから、戦人は外に出られます。

 この作品……『うみねこ』の殺人関連の謎は、すべて「赤い字による条件設定」で成り立っているのですから、赤い字が虚構を語っているのなら、すべての殺人に謎はなくなります。
 そんなことになったら、もう謎なんて作れませんから、この物語は幕を閉じます。
 そんなことになったら、ベアトは魔女ではいられませんから、ベアトは滅びます。

 ベアトが魔女でいられるのは、赤い字があるからですから、赤い字はベアトの心臓です。

 Ep8のラストで、縁寿が赤い字を真実とは認めないことによって、赤字で死が宣告された人々が平然と生きていられる、という展開が出ました。「赤い字は、真実じゃないことを言ってるときがある」。

 その認識が提示された直後に、ベアトは死にました。
 そして、物語は幕を閉じました。

 すべては、フェザリーヌの言った通りになったわけです。


■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■
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まぼろしと本当の振幅(続・探偵視点は誤認ができる)

2011年07月12日 01時13分54秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


まぼろしと本当の振幅(続・探偵視点は誤認ができる)
 筆者-初出●Townmemory -(2011/07/12(Tue) 01:10:56)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=64096&no=0 (ミラー


●最近の更新
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
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 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)

 探偵視点は誤認ができる


     ☆


 ちょっとだけ、前回「探偵視点は誤認ができる」の補遺的なことを書きます。

 竜騎士07さんの……07th expansionの物語には、前作から一貫したモチーフみたいなものがあって、ひぐらしもうみねこも「まぼろしをめぐる物語」なのですね。

 たとえば……

 ひたひたと後ろをついてくる足音は、まぼろしにすぎなかったのか。本当にあったのか。
 雛見沢にひそむという鬼は、まぼろしだったのか、本当にいたのか。
 入江診療所にひそむ怪組織は、まぼろしなのか、本当にあったのか。
 人に寄生する怪生物は、まぼろしなのか、本当にあるのか。

 それらは、はっきりと「どっちか片方です」とは言えないようになっています。ある意味ではまぼろしであるし、ある意味では本当であるし。
 そして例えば。

 真里亜が会ったという魔女は、本当にいるのか、まぼろしにすぎないのか。
 縁寿が語り合ったさくたろうは、本当にしゃべれるのか、まぼろしにすぎないのか。
 小此木が「家族思い」だと語った絵羽の本質は、本当にそうだったのか、まぼろしにすぎないのか。
 右代宮家は心ない金持ちだという世間の評価は、本当なのか、まぼろしにすぎないのか。

 それもまた、どっちとも言えない。簡単に「こっち」とは決められない。ある意味では実体であるし、ある意味ではまぼろしである。

 人はときとして、ありもしないまぼろしを、本当にあるものだと思いたいし、その逆に、実際に存在する辛い現実を、ありはしないまぼろしだと思いたい。
 その「人の心の振幅」のはざまに、物語を編み出してゆくのが、竜騎士07さんの得意とするスタイルです。

 そうした「本当かもしれないしまぼろしかもしれない」の物語は、最後Ep8でこんな所まで行き着きます。すなわち……。

 真実を語るという赤い字は、本当に真実を語るのか、まぼろしにすぎないのか。

 わたしたちがそれをどちらか片方に選ぶとき……。
 これまで登場人物たちにつきつけられていた「それは本当だったのか、まぼろしだったのか」という「心の振幅」は、そのまま、わたしたちにとっての振幅として迫ってくる。

 この物語は、まぼろし(幻想)に対して、それは本当にただのまぼろしなのか、何か本当のことが含まれているんじゃないのかと思う物語。または、本当だと信じていたものに対して、それはひょっとしてまぼろしだったのではないのかと思う物語です。
 その振幅そのものが、ドラマなのであって、そのドラマはわたしたちの中に起こっているのです。

 ですから、前回挙げた「探偵視点」というもの。たとえばこれも、一種のまぼろしといえます。

 本来の意味をとれば、探偵の視点であっても誤認はできるはずです。しかし、「探偵の視点は誤認ができないはずだ」というまぼろしが生まれた。

「探偵視点は誤認ができない」というのは、本当にそうかもしれないし、そんなドグマはただのまぼろしかもしれない。

 わたしが美しいと思うのは……。
 あっちかもしれないし、こっちかもしれない、メーターの針が左右に振れるような、その振幅です。わたしはその揺れ幅が美しいと思うのです。
 その振幅の幅があるなかで、ある人間が、どっちを選ぶのか。それが、人の心というものの価値だと思うのです。だから、多くの人が、「探偵視点に誤認はない」で決め打ちしていて、その反対の可能性を最初からないもののようにみなしているのが、とても、もやもやしていました。

「二者択一をする時、最初から対象が一つしかないと思い込んでいたら、別のものを選んだということにさえ気が付かないでしょう」

(北村薫「胡桃の中の鳥」)

 まぼろしかもしれないもの。それをあえて「信じる」という方向に心の針を揺らすから、それがドラマなのであって、最初から確定でそっちしかないというのは、わたしにはとても物足りない。動かない針がそのまま止まっているのを見たいのではなく、正反対に振れることもできる針が、ある一方向に大きく振れて止まるところを見たい。そこに価値があるのです。それが価値です。

 この「振幅」を意図的に、しかも執拗に作り続けるところが、竜騎士07さんという人の価値です。そのように私は思うわけです。

 Ep5では、「探偵であっても見間違いをする」と人物に言わせる。
 その直後のEp6では、「探偵は見間違いを起こさない」かのような記述を連ねる。
 それは、トリックであると同時に、半ば意図的に「大きな振幅」を作っていると思うのです。その揺れ幅のどの位置に、あなたは身を置くのか。それが「読者のドラマ」であって、それを誘発しようとしている。

 あるものごとが、幻であるか、ないか。

 わたしは、「存在しないルールが、存在するかのように描かれ、読者を誤誘導している」という考えを、かなり強く抱いています。
 存在しない悪魔が、存在するかのように描かれる。悪魔は本当にいたのか、まぼろしにすぎなかったのか。
 それと同じことです。そのルールは、本当に存在するのか。まぼろしにすぎないのか。

 悪魔が存在するかしないかは、登場人物たちにとっては命にかかわる一大事ですが、わたしたち読者にはあまり関係ありません。だから、わたしたちの気持ちはそんなに振幅しません。

 しかし、あるルールが存在するかしないかは、わたしたちには一大事です。なぜなら、わたしたちが思考していい範囲をそのルールがワクでくくってしまうからです。これこそが、悪魔よりもわたしたちをおびやかす問題です。

 そのルールが、本当にあるのか、まぼろしにすぎないのか。

 それは、わたしたち読者の問題としてつきつけられている。それはメーターを左右に振幅させる「わたしたちのドラマ」の核であるはずです。
 そのようなことを思って、

「真実を語る赤字というルールは、本当にあるのか、まぼろしにすぎないのか」
「ノックス十戒というルールは、本当にあるのか、まぼろしにすぎないのか」
「探偵権限というルールは、本当にあるのか、まぼろしにすぎないのか」

 そういう問題設定をして……その結果、全部が「それはまぼろしだ」というほうにメーターを振っているわけです。他のたいていの人が、「本当にある」というほうに振っていますから(というか、たいていの人は、メーターを意識せず、固定針だと思っていると思いますから)、かなり大きな振幅なわけで、これはドラマチックですよ。
(ドラマチックだからという理由でそっちを選んでるわけでもないですが)

 雛見沢の鬼は、本当にいたのか、まぼろしにすぎなかったのか。
 六軒島の魔女は、本当にいたのか、まぼろしにすぎなかったのか。
 わたしたちが「ある」と思いこんださまざまなものは、本当にあったのか、まぼろしにすぎなかったのか。

 その振幅の行き着くところに、この物語は「飴玉が消える魔法は、本当にあるのか、まぼろしにすぎないのか」という選択肢を用意して、わたしたちに選ばせます。


 これが、最初から1つしか扉がなくて、クリックを待つだけだったら、何のドラマもない。
 対照的な2つがある中で、1つを選ぶから、あなたの心の中に発生したものはドラマなのです。

 どうぞ皆様、ドラマを尊ばれますように。最初から1つしかなくて選ぶ必要がないという状態をお喜びになりませんように。


     *


 よだん。

(よだんですから、それほど重要な話ではありません。上に書いたことがだいじなことだと思って下さい。おしなべて日本人は、最後に書かれていることがいちばんだいじなことだと思いこむくせがあります。議論などでも、最後に発言されたことがいちばん有力なことだと思うような傾向があるので、最後の発言者になろうとして延々と言い返しが起こって議論が終わらない、という現象が散見されます)

「ひぐらし」は、物語を支配する3つのルールを解析できるか、というのが読者の勝利条件でした。
 3つのルールがわかれば、お話の中で実際に起こっていることが理解できる、という仕組みになっていました。

「うみねこ」は、その「ひぐらし」の次の作品です。
 ひぐらしを読んで、解いた人が、うみねこを読むことになります。うみねこには、ひぐらしを読んだ人でもひっかかってくれるようなトリックがなければなりません。

 作者インタビューに、こういう話がありました。

□竜:そうですね。そう考えると、むしろ「ひぐらし」をプレイしている人のほうが「うみねこ」をプレイするのは辛いかもしれません。予備情報がない人たちのほうが強いかもしれない(笑)。迂闊に「ひぐらし」をプレイしてしまっていると、斜な観方が身についちゃっているので、逆に「うみねこ」の罠にかかるかもしれません。
【コラム・ネタ・お知らせetc】竜騎士07先生「うみねこのなく頃に」インタビュー - アキバblog

 さて。「ひぐらし」を読んだ人は、「お話の中からルールを抽出しよう。そのルールに基づけば何が起こっているかわかるはずだ」というアプローチを確実に持っています。彼ら彼女らは「うみねこ」を読むときにもそれを使ってきます。そうやって前作を解いたわけですし、その成功体験がありますからね。
 作者はそういうアプローチを持った大勢の読者をひっかけなければなりません。インタビューによれば、「ひぐらし」を読んでる人ほどひっかかるような罠になってるようです。

 そんなのどうすればいいのか。

 思いつきさえすれば、簡単なことです。

 あるアプローチを共通して持っている集団をまとめてひっかけるには、そのアプローチを逆用すればよい。

 ルールを抽出することでお話を読み解こう、というアプローチを持った集団をひっかけるのにいちばん良い手は、「実際には存在しないまぼろしのルールを、あると思いこませてやればよい」です。


■関連→ Ep6紗音による救出は「ベアトを殺す一手」ではない


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探偵視点は誤認ができる

2011年07月10日 08時10分38秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


探偵視点は誤認ができる
 筆者-初出●Townmemory -(2011/07/10(Sun) 08:07:22)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=64047&no=0 (ミラー


●最近の更新
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep1
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep2
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep3
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(上)
 朱志香=ベアトリーチェの物語・Ep4(下)


     ☆


 あと1コだけ、きちんと書いておきたい大きなお題がひとつあって、それを書いたら店じまいかな、と思っていたのですが、そのまえに細かい話題を2つほど見つけてしまったので、そのうちの1つを片付けておきます。
(だいたいいつも、「あれを書いたら終わりかな」と思うとポロッとお題が出てくることの繰り返しですが)

「探偵視点は誤認ができる」
 ……という題で一席。


     ☆


 わたしは、「ノックス」「探偵視点」「探偵権限」というのは、作中の特定の人物が「そういうものがある」と主張しただけのことであって、実際にはこのゲームにそんなルールはない、という立場です。
(ついでに言えば、「赤字」というのも、作中のベアトリーチェという特定の人物が「そういうルールがある」と提案しただけのことで、実際には真実性とは関係ないという立場です)

(詳しくは、目次から「●Ep5推理」の項をどうぞ)

 ところで、多くの人が、
「探偵視点というものがあり、戦人は探偵である」
 と考えているようです。
 そこからなにか議論を延長して、

「戦人が直接見たものについては、間違いや幻想はない」

 というルールを独自に設定して、その範囲内で推理を進めているようです。


 前述のとおり、わたしは「探偵視点」という非現実的な視点が存在するとはそもそも思ってはいないので(そんなの魔法と変わりませんからね)、戦人はろくでもないまぼろしをいっぱい見ている(見たように作中で描かれている)と思ってるわけです(たとえば嘉音の姿とかね)。

 が、かりに「探偵視点」という非現実的な視点が存在する、と思ってみることにしましょう。

「探偵視点」というルールが仮に存在するとして。
 戦人がその「探偵」であるとして。

 それでも、やはり、戦人はありもしないもの、まぼろしをいくらでも見ることができます。
 探偵視点があっても、見間違いや幻想を見ることはできます。


 そもそも「探偵視点」という用語は、作中には出てきません。ユーザーの中から発生してきた独自概念です。
 いわば、「共同幻想」に近いかな。
 探偵視点は幻想を見ませんよ、なんていうことを主張している作中の人物はいないのです。まずはそんなお話から。


●風雨になびくシートを見間違える

 探偵視点というものが仮に存在するとして、戦人がその探偵であったとしても、戦人は見間違いを起こします。

 なぜそう言えるのか。
 ドラノールがそう主張しているからです。

 そもそも、なんで「探偵視点」という概念が発生してきたかといえば、Ep5の幻想法廷で、「戦人の見たもの」の真偽が問題になったからです。

 その幻想法廷で、ドラノールは以下のように主張しています。ちなみにEp5のドラノールは「戦人は探偵役である(だから、犯人であってはおかしい)」と主張している人です。

それは風雨になびくシートか何かを、あなたが誤認しただけの可能性がありマス。ノックス第9条を示す伏線とはなり得まセン…!!
 誤認は全ての観測者に許された権利デス!!

(Episode5)


 戦人を探偵役であると主張するドラノールが、「誤認は全ての観測者に許された権利」であるから「戦人が誤認しただけの可能性がある」と言っています。
 戦人が風雨のなかで見た金蔵は、風になびくシートを戦人が見間違えただけだ、と主張しているのですね。

 つまり、ドラノールですら「探偵の目も見間違えを起こす」と認めているわけです。


●幻想法廷の幻惑

 どうしてこれが、「探偵の目は見間違いを起こさない」と受け取られたのか。

 じつは、幻想法廷のやりとりは、ざっくり見ていっただけではそう受け取られてもしかたないように書かれているのです。たぶん意図的です。初読では、わたしも、読み違えました。

 以下、細かく見ていきましょう。


 舞台は幻想法廷終盤。
 以下の3つの主張が通った状況です。

1.「戦人が犯人である」
2.「いとこ部屋で死体が発見されたとき、(死んだと思われていた)いとこたちはまだ生きていた」
3.「金蔵はすでに死亡している」


 この3つの主張が通ったことで、戦人が主張する「戦人犯人説」は成立し、ラムダデルタによって「真実認定」されました。特に最後のひとつは赤と金の文字両方で認定されたため、法廷では確定情報として扱われます。
 ヱリカの「夏妃犯人説」は、夏妃しか犯行ができる者がいなかったという前提に基づくので、ヱリカ説はハタンします。
(戦人にも犯行ができた・いとこたちが生きていたのなら犯行ができた・金蔵は死んでいるので夏妃の手伝いができない)

 ここでドラノールが最後のあがきをするわけです。どれかの条件を打ち破ることができれば、ヱリカの「夏妃犯人説」を再び甦らせることができます。

 そこで、まず以下のように切り込みます。


●第1の攻防

されどあなたは、いとこ部屋にて、誤認不可能な遺体を確認されておりマス…!
 それが虚偽であったと仰るのデスカ?!
 …ノックス第7条、探偵が犯人であることを禁ズ!!
 探偵は客観視点を義務付けられていマス。あなたの推理はこの義務に違反デス!!」

 幻想法廷では、「3.金蔵はすでに死亡している」を否定できる状況にありません。よってドラノールは、1か2を否定しようとします。ドラノールはまず2から攻め込みました。

「探偵は客観視点を義務付けられていマス」とありますから、これのせいで、「探偵の視点は客観的なのだ」という解釈に一見ひっぱられます。
 けれども。その義務づけの根拠は「ノックス第7条、探偵が犯人であることを禁ズ」であると書いてあります。

(ここで「客観視点を義務付け」を赤字で言えなかったのもひとつのポイント。「客観」という言葉が以降のキーワードになっていきます。「客観」の意味に幅があるので赤で言えないのです。後述)

 ここでドラノールが言っていることをまとめます。

「いとこ部屋で遺体を発見したというのは、戦人のウソだったのか? ノックス7条により、探偵が犯人であってはならないのですよ。(よって、ウソであってはならないのです。つまり、いとこ部屋の遺体はその時点で遺体でした)」

 こういう意味になりますね。

「探偵戦人は犯人であってはならないので、『いとこ部屋で遺体を発見した』というウソをついてはならない」

 ドラノールはそう言っているわけです。

 生きている人が寝転がっているのを、「ああ、これは間違いなく死体だ」と意図的に言い張ったとしたら、それは犯人を利する行為です(それ以外の意図なんてありえませんからね)。それはほとんど、犯人の仲間、つまり犯人であるというのとほとんど同じ意味になってしまう。

 だからドラノールは、「ノックス第7条、探偵が犯人であることを禁ズ」を敷延して、

「探偵は意図的な嘘をつくことで犯人を利してはならない」(それは探偵が犯人であるというのと同義だから)

 という主張を行なったのです。「探偵は客観視点を義務付けられている」というのは、間違ったものを見ないという意味ではなく、ここでの客観視点とは「見なかったものを見たと言ったり、見たものを見なかったと言ってはならない」というくらいの意味です。

・戦人は探偵である。
・探偵は意図的な嘘をつくことで犯人を利してはならない。
・よって、いとこ部屋で生きているいとこたちを『死体だ』と言ってはならない。
・言ってはならない以上、『死体だ』と呼ばれたものは確実に死体でなければならない。
・よって、いとこ部屋で発見された人体は、その時点で確実に死体だったのである。

 この論理により、戦人の「2」の論点をしりぞけようというのが、ドラノールの意図でした。同時に、「戦人が探偵である」という論点を主張することで、「戦人が犯人である」という主張をしりぞけることにもつながりました。


 これに対する戦人の反論はこうです。

探偵は古戸ヱリカだぜ、今回の俺は探偵じゃない!!
 そしてノックス第9条、観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される…!!

 戦人はもちろん、「今回の俺は探偵ではない。だから犯人を利するようなウソをついてもかまわない」と応じます。
 探偵ではないから犯人になれる。そして俺はウソをついて探偵をだました犯人だ、というわけです。


●第2の攻防

 ここで論点は「戦人は探偵なのかそうではないのか」というポイントに集約されます。
 ドラノールはこう切り込みます。

ノックス第8条、提示されない手掛かりでの解決を禁ズ!
 これまでのあなたは探偵デシタ!
 そのあなたが今回は探偵でなく、私見を交える観測者であったことは示されていたのデスカ!!
 それがない限り、あなたには主観を偽る権利はありマセンッ!!

 今回に限って、戦人が探偵でないと主張するためには、「今回の戦人は探偵じゃない」ということを示す伏線がなければならない。それを提示できないのなら戦人は今回も探偵だ。
 ドラノールはそう主張しています。

「主観を偽る権利」(はアリマセン)
 という記述が、ここでのポイントです。2種類の解釈があります。

「A.偽りのものを、主観的に見てしまう権利」
「B.主観的に見たものを、偽って語る権利」


 Aの受け取り方をした場合、「探偵視点は偽りを見ない」という解釈が発生してしまいます。が、Bの受け取り方が正しいことは、すでに述べたとおり、またこのあとにも念押しのように出てきます。
 でも、この段階では、どういう解釈が正しいのかはいまいちわからないまま、いわば両論併記状態で話が進みます。

 Aの解釈でも通るような言い方があえてなされていることで、議論が新たな方向に進みます。

 ドラノールの斬り込みに対し、戦人はこう対応します。

俺は今回のゲームで!
 碑文の謎の仕掛けを解いた時。祖父さまを目撃している。……すでに赤で示されている通り、祖父さまは存在しない。その目撃は不可能だ!
 よって俺の視点に客観性がないことはすでに示されているッ!!

 存在しないことがすでに確定している金蔵を、戦人はEp5の作中で見たと主張しています。だから戦人の視点には客観性がないし、客観性がない以上、戦人は探偵ではない、というのが戦人の主張です。

 ここでのポイントは「客観性」です。
 このセリフだけ取り出すと、ふつうに読めば、「戦人の目はぜんぜん客観的ではないので、ありえないものを見たりする」という意味にしか取れません。
 そして、そのように受け取ったとき、「ありえないものを見たりしない客観的な視点としての探偵視点」というものがあぶりだされてきます。
 探偵でないからありえないものを見るけど、探偵だったらありえないものなんて見ないのだ。
 そういう敷延がおこなわれた結果、「間違いを見ない探偵視点」というドグマが読者の中に発生してしまうわけです。

 このように解釈するのは、はっきりいって、無理ないことです。
 じっさいドラノールも、次の反論で、この解釈に基づいて切り込んできます。

 けれども、戦人がそういう意味で「客観性」と言ったのでないことは、すぐに明らかになります。


●第3の攻防

 ドラノールは、戦人の切り返しを、「探偵の視点は見間違いを起こさないはず」という意味だと思いこみました。
 そこで、こう切り込みました。重要な発言です。

それは風雨になびくシートか何かを、あなたが誤認しただけの可能性がありマス。ノックス第9条を示す伏線とはなり得まセン…!!
 誤認は全ての観測者に許された権利デス!!

 そう。前述の通り。探偵であっても、何かを見間違えることはできるのです。見間違えたものを、見間違えたままに語ったとしても、それは「ウソ」ではありませんから、「犯人を意図的に利する行為」とはいえない。よって、7条「探偵が犯人であることを禁ず」には抵触しない。

 むしろ彼女は、「誤認は全ての観測者に許された権利デス!!」と、素敵なことをおっしゃる。全ての観測者に、まさか探偵だけが含まれないということはないでしょう。

 ドラノールは多分、「戦人がルール(論点)を勘違いしている」と考えました。「探偵だったら見間違いは起こさないはずなのに、俺は見間違いを起こしてるだろ?」という主張だと、ドラノールは思ってしまった。
 探偵でも、誤認することはできる。だから戦人の反論はそもそも無効だ。
 ドラノールはそういう切り返しをしたわけです。

「探偵だったら見間違いは起こさないはずなのに、俺は見間違いを起こしてるだろ?」
 というのは、ほとんどの読者が、そう読んでいただろうという、そういう解釈です。それに対して「探偵だって見間違いは起こして良いですよ。あなたの解釈は間違いですよ」と、きちんと切り返してくれているのがドラノールなのです。
 この時点で、「探偵だったら見間違いは起こさない」という解釈は捨てられるべき。少なくとも、大いに疑問を持って扱われるべきだというのが、わたしの考えです。


 それに対して、戦人が切り返します。

第4のゲームにてベアトが示した赤き真実!!
 全ての人物は右代宮金蔵を見間違わないッ!

(略)
 つまり、この島では、祖父さまのふりはもちろん、祖父さまに見間違うような一切の現象は、“絶対に通用しないのだ”。
(略)
 この物語の全ての人物は、“何かを祖父さまに見間違えてしまう”ことは、絶対にないと保証されているわけだ…!
 にもかかわらず、祖父さまを見たと主張するなら、それは“虚偽”になる。

 戦人は勘違いなどではなく、正しい意味で「俺の視点に客観性がない」と言っていたことが、ここで明らかになります。

 金蔵は死んでいます。
 全ての人物は金蔵を見間違いません。

 よって、いないはずの金蔵を「見た」と言い出す者がいたら、そいつのその主張は「意図的なウソ」です。
「意図的なウソ」は、犯人を利する行為です。
 具体的には、「金蔵が犯人に協力してトリックを仕掛けた」といった虚構の主張が可能になることで、真実が隠されてしまいます。じっさいに、ヱリカがそのような虚構の主張をしているのですから、このウソが「犯人を利する行為」であることは明らかです。

 意図的にウソをつくことで、犯人を利する者は、犯人と変わらない。
 探偵は犯人であってはならない。
 よって、意図的にウソをついた戦人は犯人であるため、探偵ではない。

 探偵ではない戦人は、殺人を犯した犯人そのものであることができる。
 犯人である戦人は、いとこ部屋のいとこたちを「死んでいる」とウソをつくことができる。
 よって、いとこたちが死んでいることによって「夏妃しか犯行できなかった」とする、ヱリカの論理はハタンする。

 これが戦人のチェックメイトです。すなわち、議論は徹頭徹尾「戦人が意図的なウソをついたかどうか」であって、「戦人が誤認をしない特殊視点を持っているか」ではないのです。


 ドラノールが、重要なポイントを的確にまとめてくれています。

「……金蔵を見たと主張された時点で、誤認識ではなく、意図的。……即ち、観測の客観性が否定されていることの証、…というわけデスカ……。」
 無意識に“見間違えること”は、ゲーム上、許されていない。
 しかし、意識的に、見てもいないモノを“見たと騙ること”は出来る…!!
 そしてそれは、公正な観測を義務付けられた“探偵”には許されない行為……。

 ここで「客観性」という言葉を使っているのが、ドラノールの説明のすぐれたところです。
 先の攻防で、戦人が「俺の視点に客観性がない」と言ったとき、それはふつうに解釈すれば、「戦人の目はぜんぜん客観的ではない、ありえないものを見たりする目だ」という意味に読めました。

 でも、そういう意味ではないんだよ、とドラノールははっきり念押ししてくれています。
「金蔵を見たと主張された時点で、誤認識ではなく、意図的。……即ち、観測の客観性が否定されていることの証」
 とあります。
「見間違いじゃなく、意図的なウソをついている。イコール観測の客観性がない」
 という意味です。

「(ここでの)客観性のなさとは、意図的なウソをついていることである」

 ドラノールの言葉によって、この議論における「客観性」ということばの中身が確定します。
 意図的なウソをつくことにより、他の人が同じものを見た場合との一致がない、=客観性がない。

「観測の客観性」とは、正しいものしか見ないという意味では*なく*見たと思ったものをウソをつかずに述べることである。
 もし、見たものに対してウソを述べた場合、それは「観測の客観性がない」ということになる。

 この議論における「観測の客観性」とは、
「観測したこと(を述べたとき、その発言)の客観性」
 のことです。
 戦人が「俺の視点に客観性がない」と言うとき、それは、
「俺の視点(を述べたとき、その発言)に客観性(他の人が同じものを見た場合との一致)がない」
 という意味です。議論を読んでいけば、どうしても、そういう意味です。

 ドラノールの発言はそういうまとめになっています。


 これは、通常使われる「客観性」ということばの意味とは、かなり違います。

 客観性ということばを、通常の意味だと思って、疑問を持たずにそのまま読んだら、「探偵視点は客観的である」という解釈がつるりと通ってしまいます。

 でも、会話のやりとりを丁寧に読んでいったら、「客観性」が通常とは違う意味で使われているということは、わたしには明らかだと思えるのです。


●なぜ「探偵視点に誤認はない」と思いこまれたのか

 さて。以上のように読み込んでゆけば、「探偵であっても見間違いは起こす」ということは、(すくなくともドラノールの認識を元にすれば)明らかです。

 でも、多くの人が、そうは思っていません。
 なぜか。

 もちろん、「探偵は見間違いを起こさない」というふうに思って欲しい人がいて、そう受け取れるようにわざと書いたからです。
 そういうふうに思わせることができれば、多くの人を、真相から遠ざけることができますからね。
 さらにいえば、多くの人が「魔法という超常の力はない」と思っているのに、「決して見間違いを起こさないという超常の視点はある」と思っている、そのことに疑問を持たないのかという一種の批評としての意図があるだろうと思います。

 このEp5の時点では、まだ「探偵の視点とかって、どうなの?」と疑問符で受け取っていた人は多かったように感じるのですが、Ep6でそういう声は聞かれなくなってきました。
 それはもう、Ep6では、まるで探偵視点は誤認を起こさないかのような記述が満載でしたからね。「探偵権限があったら生死を見誤ったりしないのに」とかですね。
 しかし、Ep5の法廷の流れをきちんと読めていれば、
「でもそれホントなの?」
 と疑問をさしはさんでゆけるはずなのです。「探偵権限があっても、風にはためくシートを金蔵と見間違えたりするんじゃないの?」とね。

 人をひっかけるときの基本は、まず間違った方向に矢印をさしておいて、小さな誤認を与え、その誤認を追認するような状況をいっぱい積み重ねることです。
 最初に、間違った道を進ませる。旅人は最初は「あれ、こっちで良かったのかな?」と思って落ち着かない。
 その旅人に、「こっちで正しかったんですよ!」と思えるような情報をいっぱい与えていく。すると、「確かにこっちで正しいんだよ」と自分で自分を納得させるように心理がはたらくわけです。
 人をだますときの極意は、だまされる相手本人の心理を誘導して、自分自身をだまさせることです。

 だいたい、ヱリカちゃん本人が、探偵権限の本質を見誤ってるかもしれないのですしね。なにしろ「誤認は全ての観測者に許された権利」だそうです。


■補遺→ まぼろしと本当の振幅(続・探偵視点は誤認ができる)

■関連→ Ep6紗音による救出は「ベアトを殺す一手」ではない

■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■
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【過去投稿サルベージ】ミステリはベルンを殺せない/明日夢自殺の可能性

2010年12月07日 11時47分50秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


※コミックマーケットで頒布される同人誌についてはこちらへ。リンク→ 【告知】ネットのうみねこファンが寄稿する同人誌が出ます


●再掲にあたっての筆者注

 このブログは、「うみねこ公式掲示板」に投稿した記事の再掲をメインコンテンツにしていますが、掲示板に投稿したものの、ブログには採録しなかった文章がいくつかあります。
 それらの多くは、ブログに保存するまでもないなと(当時)思えたものや、あるいは特定の人に向けたリプライ記事で、文脈がないと理解しにくいものです。

 そういうものの中から、いくつか閲覧の意義がありそうなものを拾ってきて掲示することにします。

 世間話のパートなど、ノイズになりそうな部分をカットし、文脈が必要なものは注釈を書き加えます。今回は2記事拾ってきました。



  ×  ×  ×



■ミステリはベルンを殺せない/明日夢自殺の可能性
 筆者-初出●Townmemory -(2010/10/29(Fri) 20:45:37)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=55301&no=0 (ミラー
 Ep7当時に執筆されました]

●再掲にあたっての筆者注
 Ep7発表後の記事です。
Ep7をほどく(6)・ベルンの動機、読者の動機」「Ep7をほどく(11)・そしてアンチミステリーへ」の関連記事です。内容について質問があったため、これに補足したものです。

 以下が本文です。

     ☆

 こんにちは。さしあたり、ふたつ話題にリプライしますね。

 ウィルがベルンカステルのミステリーをファンタジーに変えられなかった理由は、ウィル本人がミステリーの中にいる人だからです。とわたしは見ています。

 彼の必殺技(と推定される)ヴァン・ダイン20則って、「ミステリーを成立させるための」「ミステリー内部の」取り決めごとですものね。

 ベルンはミステリーの人(と、おぼしいの)ですから、ベルンの真相はミステリーとしてちゃんと成立しているのだろうと推測されるのですね。

「ヴァン・ダイン20則を武器にして戦う」ということは、
「おまえの推理は(規則に違反しているから)ミステリーとして成立していないぞ!」
(つまり個人的なファンタジーにすぎないぞ!)
 という戦い方なのだろうと推測されます。

 この戦い方は、ベルンが、
「それについては、これこれこうだから、20則に違反していないわ」
(つまり、ファンタジーなどではなく、整合したミステリーなのよ)
 というふうに、全部説明することができれば、完全に迎撃することができます。
 おそらく、ベルンは全部のくさびを迎撃することができたんでしょう。だから、ウィルの駒をベルンがころんと倒して、ゲームエンドになった。
 という解釈です。

 たぶん、ベルンの真相は、ミステリーとして高いレベルで成立しているので、ミステリー内のモノサシを使ってハタンさせるのは難しいのでしょうね。

 Ep5で、ヱリカのミステリーを戦人がハタンさせることに成功していますが、このときの戦人は、
「魔術師になって、自分で赤字を使えるようになり、その赤字を使って推理をハタンさせる」
(根拠や証拠を提示する必要がない、という特権を手に入れる)
 という方法を使いました。

 根拠や証拠を出す必要もなく、何が真実かを口で言うことができるなんて、そんなのミステリーじゃありません。魔法です。魔術師になるだなんてファンタジーです。
 ヱリカのミステリーを打ち破ったとき、戦人はファンタジーの人だった。つまりファンタジーはミステリーを打ち破れるらしい……という実績があります。

 どうもですね、ミステリーでミステリーを殺すのは難しいっぽいです。

 ミステリーの外にあるもの、「ミステリーじゃないもの」を武器にしたとき、ミステリーを殺せるのかもしれない、です。

 では、ベルンのミステリーを倒せる武器とは何なのか……。
 というのが、当シリーズのラストに出てきます。めげなかったら最後まで読んでみて下さい。


 もうひとつ。どうして留弗夫は霧江と即座に入籍したのか。戦人が激怒するのはあたりまえじゃないかというお話について。
 じつは、これに関連する話題を「Ep7をほどく」シリーズのラストのエントリにいったん書いたんです。
 が、文字数の都合でカットしちゃいました。
(ブログの文字数制限が一万字なので、それに納めるのが目標なんですね。このブロックを切ったらちょうど一万字くらいでした)

 たいした話でもないんで、そのままお蔵入りにしようと思っていたのですが、良い機会なので掘り起こしてきました。以下に掲示するのがそれです。
 こんな感じでよろしいでしょうか。


●明日夢は自殺かもしれない?

「九羽鳥庵ベアトから生まれた戦人」を想定する場合に限る話なんですが、ひょっとして明日夢は自殺した可能性があるんじゃないかな。

「明日夢は俺が殺したのか、いつから殺していたんだろう」
 みたいな留弗夫のセリフ(Ep7)をきいたときに、あ、と思ったんですが。

 留弗夫は明日夢の喪があけるのを待たずに、霧江と籍を入れます。喪があけるのを待ってから籍を入れれば、対外的にもまずくないし、戦人と関係がこじれきることもなかったのにね。どうしてそれができなかったんだろう。
 縁寿のことを思ったからかな……。

 想像上の話ですが、
 留弗夫にはひょっとして、「たとえ一時のことであっても、子供を非嫡出子の状態にしたくない」という信念みたいなものがあったのかもしれない。

 もしくは、縁寿が非嫡出子になった場合、母の籍に入って「須磨寺縁寿」になりますね。
 須磨寺家に何か大問題があって、「どうしても縁寿を須磨寺籍に入れたくなかった」みたいな事情があるのかもしれません。

 そのどちらでも、それ以外でもいいのですが、とにかく、そういうやむにやまれぬ事情があったと仮定します。

 軽くおさらいですが、この話の前提は、
「金蔵の隠し子が崖から落ちて一命をとりとめ、留弗夫に預けられる。留弗夫はこの子を金蔵への人質にしようと思って、赤ちゃんを育てる。それがのちの戦人。明日夢は赤ちゃんの母親役をつとめる条件ではじめて留弗夫と結婚できた」
 みたいな話です。

 明日夢の心のなかに不安はありながら、それなりに楽しい家庭を、留弗夫・明日夢・戦人で築いていた。
 戦人は留弗夫に似てやんちゃだ。
 そして留弗夫の望み通り、優しい母親になつききっている。この状態を作らねばならないので、留弗夫は冷たい霧江を母役に選べなかったのです。

 そんなある日、明日夢は知ってしまう。留弗夫が霧江と浮気していて、子供まで出来てしまったことを。
 明日夢は、留弗夫を恨む。そして、復讐したいと思う。
 だから、自ら死ぬ。

「夫が浮気したから、それで世をはかなんで、妻が自殺した」
 ……というようなストーリーラインにしか見えないカタチを、明日夢は意図的につくるわけです。

 留弗夫は先に仮定したような「何かの事情」で、即座に霧江と籍を入れる。その「何かの事情」を明日夢はあらかじめ知っていた。
 そうなったら、母親っ子で一本気な戦人は、「母さんのこと全然愛してなかったんだな! ずっと裏切ってたんだな!」と激怒して、留弗夫との関係を著しく悪化させるはず。明日夢はそれを読んでいた、と考えるのです。

 何しろ、それが原因で母が自殺しているのに、留弗夫はそれを悔やむそぶりをまったく見せず、むしろこれは好機とばかりに愛人と籍を入れ直すわけですからね。
 これは息子が激怒しなかったらそっちのほうがおかしい。

「お父さんと何かあったら、母方の実家に逃げ込みなさい」

 とでも、あらかじめそそのかしておけば完璧かもしれません。

 そんな状態になったら、留弗夫は、「戦人をたてに、金蔵を操る」なんてどころの話じゃなくなります。つまり明日夢を巻き込むことで成り立っていた留弗夫のもくろみは、明日夢を裏切ったせいでご破算になるのです。
「これも私を裏切ったからよ」
 という命がけの復讐だったのかも……。というようなことを考えると、これはもう「留弗夫が明日夢を殺した」が文句なく成立です。

 ということを考えていたんですが、前提が成り立たなかったら成り立たない話です。ご参考までに。



  ×  ×  ×



■後期クイーンは全知の神を殺す
 筆者-初出●Townmemory -(2009/07/04(Sat) 17:39:06)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=28146&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]

●再掲にあたっての筆者注
 Ep4当時のかなり古い記事です。赤字関連ですので覚悟して下さい。
 赤字が真実であるのなら、赤字を言おうとした戦人を言葉に詰まらせた「全知者」がいることになり、そのような存在はすでにしてファンタジーではないか、それとも竜騎士さんを全知の神として割り切って考えるべきなのか。という議論へのリプライです。基本的に賛成しつつ自分の考えをのべたものです。

 末尾の「独り言」は、「ベアトリーチェが宣言する赤字は、客観的なものである」という主張とそれに対する疑問が周囲で議論されていたので、それについての小さな言及です。

 以下が本文です。

     ☆

 作者は全知の神である、という考え方は、素朴かつ伝統的なものですから、ファンタジー設定をつきつめなくても、素のままで主張できるようにも思えます。

 でもですねぇ……。わたし視点からですとねぇ……。

 作者が「これが真実です」と提示する。
 それが真実として通用するかどうかは、わたし(ユーザー)が合意するかどうかによる。

 結局、
 ベアトリーチェの主張を、戦人が認めるかどうか、という話が、
 作者の主張を、わたしが認めるかどうか、というふうに、
 レイヤーが移動するだけで、中身おんなじなんですよね……。

 この作品、何を考えてもここに行き着くんですが、
 やっぱ「後期クイーン問題」だと思うんです。
(ここでの後期クイーン問題は、竜騎士07さんが使っている定義に準じます)

 エラリィ・クイーンは、読者への挑戦状と称して、「推理に必要な手がかりはすべて提示された」と宣言します。
 作者が全知の神ならば、この宣言に疑う余地はありません。
 ということは、未知の証拠Xを、想定する必要はない。
 ということは、「後期クイーン問題」は、問題として検討されることができません。
「推理に必要な手がかりはすべて提示された」という神の赤字に「合意しない」人がいるところから、「後期クイーン問題」は発生しているのです。
 探偵エラリィは作者エラリィから後期クイーンされるかもしれない。作者エラリィは未来の作者エラリィから後期クイーンを食らうかもしれない。
 この条件は竜騎士07さんもまったく同じです。というか、自分もこの条件下にあると、ご本人が宣言してらっしゃいます。
 ちょっとこの条件で、作者を「全知の神」「疑う余地のない存在」と見なすのは難しいですね。

 結局、わたしたちがやっているのは、「赤字が真実でないことを証明する未知の証拠X」が存在するかどうかの検討で、その証拠Xが存在しないという保証は、作者にすら不可能なのです。
 しかしもちろんその逆も言えてしまうわけで、なんというか、ときどきむなしいです。


 ところで、以下、何の文脈とも一切関係ない独り言を言います。
 マスターキーが5本しかないという現実は、ベアトリーチェが目で見て、脳で理解して、口で言及した段階で、彼女の主観的知覚、主観的認識、主観的言及となる。魔女も、神すらも含めた、われわれ意識を有するすべての存在は、主観を通さずに実現象をとらえることは決して出来ない。



  ×  ×  ×



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【過去投稿サルベージ】バッドウィッチ・ローザに花束を

2010年12月03日 10時07分47秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


●再掲にあたっての筆者注

 このブログは、「うみねこ公式掲示板」に投稿した記事の再掲をメインコンテンツにしていますが、掲示板に投稿したものの、ブログには採録しなかった文章がいくつかあります。
 それらの多くは、ブログに保存するまでもないなと(当時)思えたものや、あるいは特定の人に向けたリプライ記事で、文脈がないと理解しにくいものです。

 そういうものの中から、いくつか閲覧の意義がありそうなものを拾ってきて掲示することにします。

 世間話のパートなど、ノイズになりそうな部分をカットし、文脈が必要なものは注釈を書き加えます。今回は楼座関連の記事を2つほど拾ってきました。



  ×  ×  ×



■楼座さんと霧江さんの対比
 筆者-初出●Townmemory -(2010/04/28(Wed) 04:45:29)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45616&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]

●再掲にあたっての筆者注
 Ep6当時の記事です。
「右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル」「補遺・右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル」の関連エントリです。
 これを読んだ方が、「霧江が真里亞に優しいのは、右代宮家に入ってから日が浅いので、そのぶん感性が一般的だからではないか」とご意見をくださいました。それに対するリプライです。

 以下、本文です。

     ☆

 こんにちは。話に混ざれそうなところだけ、いくつか触れますね。

「霧江が優しいのは多分一般的な感性を残しているから」というお話ですが、わたしは、「9歳にもなって魔女とか魔法とか本気で信じているのは、おかしくて恥ずかしい」という楼座の感覚のほうが、一般的だと思います。

「いい年してアニメだか漫画だかに夢中になって」という見方のほうが、わたしたちのいまの時代でも、まだ一般的だと思います。(だいぶん、そのへんは許容されてきていますけれどね)それに近いお話なのかもしれない。
 伝聞した話ですけれど、今から二十数年前の1986年のころは、「いい年をしてアニメを見ている」といったことが、まだ充分にうしろめたかった時代だと思います。
 都会か田舎かにもよるのでしょうが、そういうのは、ハタから見れば充分に「異常」といえたのかもしれない。今とくらべて、まだ世間の雰囲気は画一的で、多様性の許容度はきっと低かったような気がします。そういう雰囲気を加味すると、楼座の感覚のほうがわりあい標準的で、(この推理での)霧江はちょっと異様に理解がある人っていう感じになると思います。

 あー、そういう社会的な雰囲気の中で、それでも「ありえない趣味」に没頭する人(と、はみだした人間を叩く人々)というのは、充分に
「魔女と魔女狩り」
 の見立てができちゃいますね。

 邪推的なところに入ってきますけれど、竜騎士07さんはアニメ、漫画、ゲームといった、明らかなサブカルオタクジャンルから出てきた人で、ひょっとしたら子供のころから、そういう非・一般的な、真里亞的な立場に立ってきた人なのかしら。

 だから、「はみだした人間への、根本的な優しさ」が、作品にいっぱい入っている……。
 みたいなことを言い出すと、ちょっと微妙なことになってきますね。うーん。


 その他のことについては、わかりかねました。ごめんなさい。



  ×  ×  ×



■バッドウィッチ・ローザに花束を
 筆者-初出●Townmemory (2009/12/03(Thu) 02:40:28)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=36534&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]

●再掲にあたっての筆者注
 これはEp5当時の記事です。
「【カケラ紡ぎ】六軒島の惨劇を起こさない方法」の関連エントリとなります。その記事の内容に関して「それは楼座・真里亞母子間の根本的な問題解決にならないのではないか」という指摘があり、そのやりとりの中から出てきた、「わたしの楼座観」です。

 現実的にいえば、楼座と真里亞のような母娘の問題を解決する方法は、ありません。できるのは、時間が経つのを待つことだけです。真里亞が大きくなり、強くなり、楼座に依存しなくても生きていけるようになる(精神的にも)ようになるのを待つ以外に、具体的方法はありません。真里亞が、楼座の愛を必要とせずに生きていけるようになるしかないのです。
 あの歳になってから、楼座が精神的に成長することは見込めないのです。だから真里亞が成長するしかないのです。彼女にはきつい話なのですが。(パーカーの『初秋』の名台詞みたいですね)

 以下が本文です。

     ☆

 以下、ついでに連想ゲーム的に、楼座さん観のことをおもいついたので、独り言的に少し。

 楼座と真里亞のあいだにある問題は、この物語はフィクションですから作品中では理想的な解決が描かれるかもしれませんが(Ep2はそれに近いですが)、現実に即していえば、根本的な解決はないというのがわたしの見方です。
 あれはわたしは、ボタンのかけちがいというレベルのものとは見ないな。
 楼座さんは、「真里亞のママ」であると同時に、「しあわせになりたいひとりの女の子」という側面もあります。
「真里亞のママ」のときは、真里亞をいたわり、やさしくしますが、「しあわせになりたい女の子」のときには、真里亞をじゃけんにし、ほとんど憎みます。それが交互にあらわれるのが楼座という人で、一方のメーターが限界まで振れると他方にスイッチする。わたしはそんな感じでみています。

 でも、楼座にふたつの面があるとしても、真里亞にとっては楼座は「真里亞のママ」であるだけです。真里亞がもとめているのは、楼座に「真里亞のママ」の側面だけの人になってもらいたいということです。
 それは楼座には無理だ、というのが、わたしの見方です。自分自身を構成するものの半分をあきらめろ、というのにひとしいですからね。

 楼座が、愛されたい、優しくされたい、幸せになりたいと脅迫的なまでに思うのは、幼少期からの環境に起因することで、それは、ちょっと考え方が変わった、ものの見方が新しくなった、という程度では、改善されないんじゃないかな、という気がしています。

 よくある言い方だけれど、楼座さんは自分が愛されて育った、いたわられ守られて育ったという実感がないんだと思います。だから、子供を持った今でも、それを求めつづける貪欲さを止められないし、真里亞にそれをうまく与えることもできない。

 真里亞を愛してないわけじゃないんだけれど、それはそれとして、自分だって誰かに深く愛されたいし、しあわせになりたい。そのためには、現実的に真里亞はじゃまになってしまう。そんなコンフリクトを内包しているのが楼座さんで、極論すれば、最終的な処方箋は、「楼座が、真里亞ひとりから受ける愛で満足して、その他の愛の願望は段階的にあきらめていく」というかたちになっていかざるをえないと思います。極論すればね。

 でも、それは、楼座さんがかわいそうかな。と、ちょっと思います。

 楼座さんに罪がある、とは、わたしは思っていなくて、彼女は真里亞の母であるまえに、不完全なひとりの人間なんだという、ごくあたりまえのことでしかないと思います。それを罪に問うのなら、人間全員が罪人だと思う。楼座さんが自分の不完全さとうまくつきあっていけるようになるといいな、とわたしは願っていますけれど、それは楼座さんが自分で自分を動かすしかなくて、その能力は外から誰かが与えられません……。

 そういうフィーリングです。

 そういえば、ニコニコ動画で、戦人が楼座と結婚して真里亞のパパになるというすごいギャグテイストのオリスクをみました。ものすごく笑ったけれど、あれは幸せのカケラ紡ぎとしては、わたしはかなり本気で素晴らしいと思いました。そういうカケラを紡いでもぜんぜん良い。あれはどれだったかなあ。



  ×  ×  ×



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【過去投稿サルベージ】メタメタ世界存在予言・その他

2010年11月30日 07時23分06秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


●再掲にあたっての筆者注

 このブログは、「うみねこ公式掲示板」に投稿した記事の再掲をメインコンテンツにしていますが、掲示板に投稿したものの、ブログには採録しなかった文章がいくつかあります。
 それらの多くは、ブログに保存するまでもないなと(当時)思えたものや、あるいは特定の人に向けたリプライ記事で、文脈がないと理解しにくいものです。

 そういうものの中から、いくつか閲覧の意義がありそうなものを拾ってきて掲示することにします。

 世間話のパートなど、ノイズになりそうな部分をカットし、文脈が必要なものは注釈を書き加えます。今回は3記事ほど拾ってきました。



  ×  ×  ×



■メタ世界の上にさらにメタ世界があるのか
 筆者-初出●Townmemory -(2010/04/01(Thu) 00:58:23)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=44189&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]

●再掲にあたっての筆者注
 Ep6当時の推理です。
 スレッド「皆さまの推理等、集計させてください!」内の企画への回答でした。引用符がついた部分が設問です。「設問部に書かれている推理に対して、妥当性を感じるかどうか、印象をパーセンテージで回答し、その理由をのべよ」といった企画でした。
 つまり、「メタ世界の上にメタメタ世界があるとあなたは思いますか?」という質問に答えたものだと思って下さい。わたしは「ある。支持率99%」と回答しています。

(「読者」のレイヤーは、この設問ではメタメタ世界として扱わない、という条件がありました。ですので「わたしたちが事実上そうだよね」という回答はしていません)


 以下が本文です。

     ☆

>推理14「メタ世界(戦人とベアトがゲームをしている世界)の上部に、更なるメタ世界が存在する」(水渦)

【支持率】 99% (1~99%で回答)
【主な理由】 (あれば簡潔に)

 ・この設問に回答することがこの投稿の目的なのです。ちなみに申し訳ないですが、「あれば簡潔に」の指示はさらっとスルーします(簡潔な記述が不可能です)。以下の文面、結果発表に反映されていなくてもかまいません。

 戦人とベアトのメタ世界のもうひとつ上に、さらに上位のメタ世界はあると思います。
 それは、「ラムダデルタとベルンカステルが所属する世界」です。
 わたしはそう見なしています。以下、説明。

 材料となるのは、Ep4です。
 メタ世界でグレーテルと名乗っていた縁寿が、真里亞と楼座のやりとりを見かねて席を外すシーンがありました。
 そこにマモンが現れて話をするのです。
 そのとき急に、マモンの時間が停止し、周囲の埃までもが宙で停止し、ラムダデルタが出現するのでした。このときマモンと背景画は退色して、まるでモノクロームのようになっていました。

 さて、この「モノクロ化+時間停止」という独特の描写。
 アニメーション版『うみねこ』における、メタ世界の描写に酷似しています。
 アニメでは、メタ戦人とメタベアトは、赤字でやりとりをするとき、下位世界の時間を止めて、モノクロ化し、そこを我が物顔で歩き回りながら舌戦をくりひろげるのです。

 さて、グレーテルとマモンが語り合っていた場所は、明らかに「メタ世界」の階層に属します。
 その「メタ世界」をモノクロ化+時間停止できるのですから、メタ世界より更に上位の「上位メタ世界」が存在する。その「上位メタ世界」が現出しているとき、メタ世界の時間は停止する。そういう解釈は自然に通りそうなのです。
 だから、理論的には、
「ラムダデルタは、メタベアトやメタ戦人の時間を止め、モノクロ化することが可能」
 だと思います。


 もうひとつ、似た場所から似た例を挙げます。
 縁寿=エンジェ・ベアトリーチェは、ベルンカステルが置いた「魔女の駒」であるとされますね。
「駒を置ける場所」
 とは、どこでしょうか。
 それは「ゲーム盤」ではないのか、という単純な論理です。

 Ep4までの描写では、ベルンカステルはメタ戦人の勝利に賭けており、勝利を導くためにメタ戦人に干渉していました。
 ラムダデルタは引き分けに賭けており、そういう結果を導くためにメタベアトに干渉していました。

 これを、ごく単純に、
「ベルンカステルは、メタ戦人という駒を指している」
「ラムダデルタは、メタベアトという駒を指している」
 と見ることは、十分可能であると考えます。

 だから図式化するとこんな感じ。


■上■ラムダデルタとベルンカステルの世界(メタメタ世界)
 ・現状、最上位階層。
 ・最上位プレイヤーが属する世界。

  ↓  ↓

■中■メタベアトとメタ戦人の世界(メタ世界)
 ・この階層は「ラムダデルタとベルンカステルのゲーム」のゲーム盤。
 ・メタベアト&メタ戦人は、ベルンとラムダが操る駒。
 ・と同時に、メタベアト&メタ戦人は下位ゲーム盤のプレイヤーでもある。

  ↓  ↓

■下■六軒島世界(下位世界)
 ・この階層は「メタベアトとメタ戦人のゲーム」のゲーム盤。



  ×  ×  ×



■竜騎士用語の「ルール」には2つの意味がある
 筆者-初出●Townmemory -(2010/05/02(Sun) 10:52:24)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45874&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]

●再掲にあたっての筆者注
 Ep6当時の記事です。
「サファイア・アキュゼイションEp5」への回答に書きつけた、とある指摘です。アキュゼイションの回答をブログに再掲する際、やむをえずカットしました。gooブログは1記事1万文字までという制限があり、内容を1万字におさめるために、まとまった文章量を削除する必要がありました。

 以下が本文です。

     ☆

 ちなみに余談的指摘。竜騎士07さんが使う「ルール」という言葉は、ときどき一般的な意味とは違うことがあります。

 典型的なのは「ルールZを打ち破る!」みたいな言い回しのときの「ルール」。

 これは、ルールという語の一般的な用法ではありません。
 ふつう、ルールというのは、
「みんなでつとめて守るべきもの」
 であって、
「みんなでがんばって打ち破るべきもの」
 ではありません。竜騎士07さんは「打ち破るべきもの」を「ルール」と呼ぶことがあるのです。この「ルール」は、言い換えたら「現象」くらいの意味合いだよね。
 もちろん、竜騎士07さんは「守られるべき決まり」という意味で「ルール」という語を使うこともあります。この2つの意味を、両方とも「ルール」という同じ単語で表現するせいで、混乱が作り出されています。


 そんなわけで、「赤字」とか「ノックス」とかいったルールを、守るのではなく「打ち破って」みているわけなのでした。

(新規の方も多いので、以前書き込んだことのある内容もつとめて繰り返し書くようにしています。くどいよと思った方すみません)



  ×  ×  ×



■与条件という陥穽/愛というキーワード
 筆者-初出●Townmemory -(2010/03/15(Mon) 13:02:52)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=42477&no=0 (ミラー

●再掲にあたっての筆者注
 Ep6当時の記事です。
 ある方へのリプライ(お返事の書込み)です。いくつか重要な内容が含まれているような気がしたので、取り上げます。
「愛がうんぬん」というリプライは、「愛というキーワードがうみねこには頻出しすぎて違和感がある」という文脈に対する、わたしの見解です。

 以下が本文です。

     ☆

 こんにちは。あまり大声でいうと、また物議をかもしてしまいますが、「与えられた条件内でものごとを考える人」と、「与条件を疑い、自分で条件設定をつくりだすことができる人」がいるのです。自分で責任を負うことになってもいいから、常に後者でありたいというのが、わたしの理想です。これは一般論ですけどね。
 赤字を疑い、ひとつひとつに対して嘘かホントかを検討する人は、「たまたま偶然にも、すべての赤字が嘘でなかった」場合も当然、検討しているのです。つまり、赤字の真実性を疑っている人は、そうでない人よりも、より可能性を広くとっているのです。これまで何人かの人がわたしに「もっと可能性を狭くとるべきだ」と忠告してくださっていて、中には「そんな広い可能性を検討している人の仮説なんかに読む価値はない」と断言する方もいました。不思議な現象だなと思います。いろんな可能性を検討する人がいたほうが、弾幕は広くなるのにね。

 ヱリカさんについては、「もうちょっと補助線を引けば、共感可能な人格として受け取れるんじゃないか?」という感じがEp6以降ずっとあったので、それをやってみました。もうちょっと別の、もっとうまい補助線の引き方もあるような気がします。これを参考に、どなたかこころみてくださらないかしら。

 サファイア・アキュゼイションは、わたしは好きな設問形式です。問い方が具体的、物理的であるのと、個々の謎だけを問うのではなく流れをつくらないとうまい回答にならないところが良いと思います。こんど開催されたらやってみて下さい。


「愛」というキーワードについてですが、極論すれば、人間の感情を扱ったすべての物語は、愛というキーワードでくくれてしまうのです。憎悪も悲しみも、無感情すらも愛で説明可能です。だから例えば、トヨタ・ヴィッツに乗ってる人は車選びによって自己主張する気がないだろう、というのと同じで、キーワードとしての「愛」は、事実上何も言っていないのに等しいと思います。あまり気にする必要ないんじゃないかな、というのがわたしの感触です。わたしは「愛」をカギにして謎をひもとこうと思ったことないです。あんまり、そこを出発点に考える必要もないかなー、って気もするんですが、どうでしょう?


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【余談】源氏物語とうみねこのなく頃に

2010年05月24日 22時30分32秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


【余談】源氏物語とうみねこのなく頃に
 筆者-初出●Townmemory -(2010/05/24(Mon) 22:26:07)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=46960&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]


     ☆


 最初にいっておきますが、これは推理でも何でもなくて、「トンデモ本の世界」に取り上げられるような……ふたつの物のちょっとした共通点を大げさに取り上げて、そのはざまにありもしない幻想を見てしまうような、そんなお話ですので、そのつもりで読んで下さい。(なんだ、いつもやってることじゃないか)

 あと、わたしが自分の推理に都合のいいこともあつかましく述べますので、それも覚悟して下さい。(それもまあいつもやっていることだ)


 最近、ちょっと源氏物語を読んでいまして……といっても原文じゃないですよあんなむづかしい古文読めたものじゃないです。ガイドブックを拾い読んだり青空文庫で興味のあるところだけ現代語訳を読んだりしておりました。

 それで、
「『うみねこのなく頃に』は、源氏物語を意識して作られている部分があるのではないか」
 という仮説がハタと思い浮かんだと思って下さい。


 例えば。

 平安朝のお公家さんは、自分の娘を天皇と結婚させて、権力をにぎるのが常套手段でした。というふうにがっこうでならいました。

 源氏の君もそれをやります。3回それをやろうとして、1回失敗するので、2人ほど天皇(皇太子)のハーレムに送り込んだことになる。2人。

 ところが源氏には娘は1人しかいません。どうしたかというと、よその娘をいったん自分の養女にして、それから帝の後宮に入れる。
「天下御免の源氏さまの娘だぞ、文句ありますか」
 というわけです。

 金蔵が似たようなことをやろうとした形跡がありますね。
 どこかから赤ちゃんを連れてきて、蔵臼と夏妃に養子に取らせようとした。これって、
「いずれこの赤ちゃんに家督を継がせる」
 という意図があったんじゃないかな。
「どこの誰から生まれたにしろ、今は右代宮家直系の蔵臼の子だ、文句があるのかーっ!」
 な感じでは、と。


 えーさて、源氏の君は、よその娘を養女に迎える際、奥さんに「あなたが親代わりになってね、よろしく」という意味のことを、遠回しに頼んでいます。奥さんというのはあの紫の上です。
 源氏の養女になるってことは、奥さんの養女になるってことですから、当然筋を通す。

 ようするに、夏妃という人は「紫の上ポジション」なんじゃないかということをほのめかしていると思って下さい。

 そうして、源氏と紫の上の養女に(形式上)なった姫君は、帝の後宮にあがって、のちにこう呼ばれることになるのです。「秋好中宮」と。
 なんでそんなふうに呼ばれるようになったかというと、この姫君、「季節はどれが好きですか?」と聞かれて、
「わたしは秋が好きです」
 と答えたからなんです。
 秋が好き……。


 源氏の君は、秋好中宮がうまくいったので、もっかいおんなじことをやろうとします。こんどの姫君は、源氏の実の娘です。

 が、この姫君のお母さんは明石さんといって、身分が低いのです。お母さんの身分が低いと、後宮でも身分が低くなってしまう。
 そこで源氏は、この姫君を、紫の上の養女にして、「紫の上の娘です」ということにして後宮に上げるのですね。紫の上は王族の血を引いていますから、たいへん格式が高いのです。

 ところで、
「19年前の赤ん坊は、九羽鳥庵ベアトリーチェと金蔵のあいだにできた子ではないか」
 という推理をとっている人って、けっこういるような印象なんですが、どうでしょうか。

 この場合、九羽鳥庵ベアトリーチェは愛人ですから身分が低い。愛人が生んだ子を、右代宮家の序列の高位に置くことはできません。
 そこで夏妃と蔵臼に養子に取らせる……。うーん。


 夏妃が「紫の上ポジション」だという話をしましたが、紫の上といえば、源氏がどこかから無理矢理さらってきて、幼女のころから「最強ヒロイン」としての英才教育を与えたうえで、大きくなってから奥さんにしちゃった人として有名です。(そんなことで有名にするのもどうかと思うが)

 源氏がなんでそんなに紫の上を気に入ったかというと、初恋の人にそっくりだからなんですね。
 というか、初恋の人の姪っ子なんですね。

 さて、夏妃という人は、金蔵が必死の経済戦争を起こして、旧家からかっさらってきたお姫様でした。
 このへんからどうも牽強付会になってくるんですが、わたしは、
「夏妃さんは最初のベアトリーチェの(金蔵に黄金を与えた女性の)姪っ子か何かじゃないのか?」
(ファーストベアトリーチェは、夏妃と同じ「古い神官の家」の出身なんじゃないのか?)
 という推理を持っているんです。
 → 「朱志香の喘息・鎮守の祠と鏡・ep5死体移動」

 うーん、どうなんだろう。
 このへんは、かなり特異な前提をとらないと成立しない符合なので、むずかしいところ。


 源氏の君の初恋の人は藤壺さんといいますが、この人は源氏のお父さんの後妻です。つまり義理の母。
 源氏はこの義理の母親と関係しちゃって、子供ができてしまい、その子供はお父さんの子として育てられて、のちに帝になってしまわれます。

 つまりこの帝には「いったい誰から生まれたのか」という「出生の秘密」があるわけで。
 えーとたしか、『うみねこ』にも、「いったい誰から生まれたのか」という「出生の秘密」を抱えた戦人というキャラクターがいたような。
 どなただったか、「戦人は留弗夫と九羽鳥庵ベアトの子じゃないか?」という推理をされてたと思うんですが、それなどはかなりぴったりした符合を見せますね。


 霧江は「正妻に対する嫉妬のあまり、呪い殺さんばかりの憎悪をいだく」というキャラクターですが、これなどはかなり六条御息所さんを連想させます。というか、霧江さんも六条さんも「実際に正妻を呪殺することに成功する」のですね。

 去ってしまった男を待ち続けて、金銭的な問題にあえぎ続ける、というところで、楼座と末摘花を符合させてみてもいいですが、これはちょっとさすがに苦しいですね。


 まそんなところでして、
『うみねこ』は、「そして誰もいなくなった」だとかのモトネタがいろいろ指摘されていて、それを探すのもひとつの楽しみなのですが、こういう意外な方向から符合を探してみるのも「いとをかし」かもしれぬ、といったよたばなしでありました。





 あー、そういえば「源次」(源氏)という人がいた。ここまで書いてきて今気づいたー。



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容疑検討エメラルド・ジャッジメントEP5

2009年12月14日 00時11分17秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


容疑検討エメラルド・ジャッジメントEP5
 筆者-初出●Townmemory -(2009/10/27(Tue) 02:09:58)・(2009/11/01(Sun) 10:20:28) ・(2009/11/11(Wed) 19:44:16)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=34813,35022,35442&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注

 うみねこ公式掲示板の企画のひとつに「エメラルド・ジャッジメント」があります。

 これは各epの登場人物の「怪しさ」を1~9個の☆の数で表し、それを集計することで、
「公式掲示板では、誰が怪しまれていて、誰が怪しまれていないのか」
 を数値化してみようという試みです。

 ep5の事件に関する、わたしの答案を、ここに再掲します。
 ですが、「誰が怪しいか」よりも、「余談」のほうに注目してもらいたいと思います。
「各キャラについて、指摘しておきたい雑多なこと」を、いろいろと書き加えてあります。われながら、ところどころイイことが書いてあります。どっちかというと、そっちが読んでもらいたいことです。誰が犯人、とかは、すでにこのブログでは完全に既出ですしね。

 なお、項目と、☆数の目安は以下のようになっています。
☆ :疑えるとは思わない
☆☆☆☆☆ :可能性は五分五分だと思う
☆☆☆☆☆☆☆☆☆ :容疑濃厚、真っ黒!
【実行犯】実際に手をかけて殺人を犯す等、犯行を行った可能性
【計画者】実際に手を下していなくても、惨劇を意図的に引き起こす要因となった可能性
【その他】上記以外に怪しまれる要素(そのつもりがないのに惨劇の引き金を引いた、重大な情報を握りつぶしている等)を持っている可能性

(藤井ねいのさんによる出題文)
 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=34333&no=0

 掲示板に投稿した3つの書き込みをひとつにまとめてお送りします。
 初出中の世間話をカットしました。
 以下が本文です。


     ☆


 エメラルドへの初回答です。集計結果に多様性をもたらすことを目的として。
 わたし的に、集計結果を読むのが一番楽しいのが、エメラルドジャッジメントです。すぱっと数字で出るところが良いですよねー。シロクロはっきりして好きです。

 基本的に、そろそろお馴染みになった(かどうか)古戸ヱリカ犯人説をとります。狂言説は現状、採用していません。
 データは見ずに印象だけでものを言いますが、いずれかの形で狂言を想定する人が、やっぱりすごく多いような感じがしますね。
 これって、大勢のユーザーが、協力して、「譲治や朱志香を生き返らせる反魂の大儀式魔法」を行っているようなものだな、と、ふと思いました。死んだように描かれたけれども、ユーザー全員で口裏を合わせて、死んでなかったことにしてしまおうという……。それって「うみねこ」的で、素敵だなと思いました。そこに参加してしまいたい、という気分も、あるにはあるんだけれども……。


> 〔おまけ企画第14弾〕~登場人物の容疑等数値化計画~
> エメラルド・ジャッジメント(EP5)
> 【第1回】対象者:第1の晩

A:右代宮楼座
【実行犯】
【計画者】
【その他】☆☆☆☆

・その他の☆4は、「午前一時にゲストハウスに来るよう、古戸ヱリカに呼び出された」と考えていることから。
・つまり「午前一時という(推理上重要な)タイミング」を確定させるための時報として、利用されているという考え。


B:右代宮朱志香
【実行犯】
【計画者】☆☆☆☆★
【その他】☆☆☆☆★☆☆☆

・何も実行していない。
・しかし右代宮家を皆殺しにする計画は持っており、実行に移そうとはしていた(ep1~4の犯人であるという考え)。よって計画者☆5。
・3回、夏妃宛ての電話があるが、1回目と2回目の電話の男は朱志香だという考え。殺人計画の一端。ただし実行前にヱリカに殺されてしまい不履行に。


C:右代宮譲治
【実行犯】
【計画者】
【その他】

・真っ白。純粋な被害者。


D:右代宮真里亞
【実行犯】
【計画者】
【その他】☆☆☆☆

・彼女のノートから、いとこ部屋の魔法陣が引き写されたと見るため、その他☆4。


E:右代宮蔵臼
【実行犯】
【計画者】
【その他】

・純粋な被害者だと見る。


F:呂ノ上源次
【実行犯】
【計画者】
【その他】☆☆☆☆★

・朱志香の計画の協力者なのでその他☆5。朱志香からの電話を「外線だ」と偽って夏妃に取り次ぐなど。


     ☆


 エメラルド・ジャッジメントに回答します。
「弁護」という素敵なキーワードにひっぱられて、変なスイッチが入りましたよ。よろしくお願いします。

> 〔おまけ企画第14弾〕~登場人物の容疑等数値化計画~
> エメラルド・ジャッジメント(EP5)
> 【第2回】対象者:第2の晩・親族

A:右代宮秀吉
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕特になし。
〔弁護〕これはどこかに書こうと思っていた。秀吉が「死んだふり」をした可能性は低い。
 なぜなら絵羽、霧江らが全員一致で「秀吉の死体を客間に運ぶ」ことにしたから。
 それはすなわち、「夏妃の前でずっと死体のふりをし続けなければならない」ということ。太った人ほど息を殺すのは難しい。
 秀吉が死んだふりの場合、共犯者たちは「死体を犯行現場に置いておく」ことを選ぶはず。よって「本当に死んでいた」と考えるのが自然。


B:右代宮夏妃
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕特になし。
〔弁護〕夏妃は秀吉が殺害された現場に居あわせていない、夏妃のクロゼットと秀吉の殺害現場はべつべつの客室である、と見る。
(物音を聞いたのは幻想描写、あるいは木造の壁越しのことではないか?)


C:右代宮絵羽
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕特になし。
〔弁護〕譲治、秀吉の死体を見たときの取り乱し方を演技だとは思わない。死亡狂言だとしたら、夏妃に暴力まで振るうとは考えづらい。
(自分が騙してる側なのに相手を殴る蹴るまでするのはさすがに身勝手すぎる)


D:右代宮留弗夫
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕特になし。
〔弁護〕少なくとも、秀吉の死に関して狂言はないと見る(秀吉の項参照)。


E:右代宮霧江
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕特になし。
〔弁護〕少なくとも、秀吉の死に関して狂言はないと見る(秀吉の項参照)。


F:右代宮戦人
【実行犯】
【計画者】
【その他】☆☆☆☆★

〔疑惑〕「本物の」19年前の赤ん坊だが、本人はそのことを知らないと見る。だが、朱志香はそのこと(彼が19年前の赤ん坊であること)を知っている、と見る。
 Ep5では、戦人は朱志香に「久しぶりに六軒島に行く」という電話をかけていた。朱志香はこの電話がきっかけで、「19年前の赤ん坊が復讐のために島にやって来る」というシナリオを思いついた。
 ……という可能性を考えてその他☆5(悲劇のトリガーとして)。
 そのシナリオは、夏妃をおどして親族会議を欠席させ、夏妃以外の親チーム6人をまとめて「第一の晩」とするためのもの(朱志香犯人説)。

〔弁護〕いとこ部屋での殺人が狂言であった場合、戦人も狂言のグルであると考えるのが自然。でないと譲治たちは午前3時から戦人が起床するタイミングまで、ひたすら死んだふりをし続けなければならない。
 譲治、朱志香が「死んだふり」という悪趣味な狂言に同意しているのだとしたら、戦人を味方に引き込まないはずがない。
 常識人の譲治すらも納得させた「狂言をしなければならない理由」を提示すれば、戦人が同意しないはずがないからだ。
 戦人がグルなら、3時以降に首筋の特殊メイクをしたり、「朝何時に決行しよう」と打ち合わせたり、その時間まで仮眠を取ったり、お互いを起こし合って「さあ、今から狂言スタートだ」といったことが可能。
 しかし、(もし仮に)ヱリカの証言を信じるなら、午前3時から朝まで、ヱリカが聞き耳を立てていた。つまり、そういった打ち合わせや、ゴソゴソと動き回ってメイクをすることなどは、一切なかったことになる。
 つまり戦人たちは、細かい打ち合わせや仮眠や、午前3時以降のメイクが可能であったにもかかわらず、それをせず、すべての準備を午前3時以前に済ませて、午前3時から朝までの数時間、ひたすらひと言も発さずにじっと死んだふりをしていたということになる。これは不自然。
 この不自然を解消するためには、最低限でも、「狂言があったとして、戦人は狂言のことを知らなかった(ほんとの死体だと思った・譲治たちは戦人を騙そうとした)」という条件が必要となる。
(もしくは、ヱリカは聞き耳など立てていなかった、という条件でも良いが)
 以上の論証により、戦人の狂言参加は著しく可能性が低い、と主張する。
 しかし、より自然な条件は、「死体は本当の死体だった」というものだと考える。


     ☆


> 〔おまけ企画第14弾〕~登場人物の容疑等数値化計画~
> エメラルド・ジャッジメント(EP5)
> 【第3回】対象者:金蔵・親族以外の生存者

A:右代宮金蔵
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕Ep5特有の疑惑は別段なし。
 以下シリーズ全体としての印象を語ります。作品としての『うみねこ』が書かれるにあたって、モトネタのひとつになっていると思われるある古典的ミステリーでは、金蔵ポジションの人(序盤で死亡)が殺人計画を持っており、それを別人が受け継いでいるという真相でした。それに倣えば、計画者の疑惑ポイントを加算しても良いのですが、そこまで(先行作と)同じにはまさかしないだろうというメタ推理をしました。

〔弁護〕死んでいる人間が何かを実行することはできない。計画を残して、誰かがそれを受け継いでいるという印象も正直受けない。
 以下全体を通しての一般論。金蔵の魔法理論と、ベアトリーチェの魔法理論は、内容がぜんぜん違う、という印象です。ここでの魔法とは「求めるものを手に入れる方法論」くらいのことです。その方法論をファンタジックに色づけしたものを、この作品では「魔法」と呼んでいます(蔵臼のビジネスのことを「錬金術」と呼んだりするのが好例)。
 金蔵の計画を誰かが踏襲しているのだったら、もうすこしギャンブルっぽいテイストが各事件にあってもいいかなって感じがします。


B:紗音
【実行犯】
【計画者】
【その他】☆☆☆☆★

〔疑惑〕「夏妃は秋が好き」という情報を、世間話のレベルで朱志香に告げた。朱志香はその情報を利用して、夏妃を脅迫する材料(秋カード)とした。結果的に善意が悪用されたということでその他に☆をカウント。
〔弁護〕とくべつ、疑わしい動きは見られない。


C:嘉音
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕〔弁護〕嘉音は実際には存在しない、架空の人物と見ているため、いっさいの行動、計画を行うことはできないと考える。
 嘉音が存在しないのであれば、嘉音が使用人控え室に帰ってくるかもしれないのにもかかわらず、絵羽が控え室を封印した(嘉音が開けてしまえば封印は台無しになり、源次のアリバイも消失する)ことが説明できる。つまり嘉音は存在しないので、彼が控え室に休みに来る(ドアを開ける)可能性はないという考え。

 以下シリーズ全体の話。嘉音が物体に対して物理的な影響を及ぼすとき、かならず別の人が同席しているという点に注目する。肥料袋は戦人が運んだ。ep1の絵羽夫妻客室を開けるときには熊沢がいた。ボイラー室も同様。ep2で魔女の貴賓室を解錠したのは朱志香。ep5で使用人控え室を開けたときにも熊沢がいた。よってこれらの場面は、嘉音がいなくても、同席者が物を運ぶなりドアを開けるなりすれば現象が成立する。嘉音が一人で物理的な操作をする場面って、ないのではないか?(そのことが伏線ではないか?) ep2で紗音がひとりでバツ掃除をさせられているときにも、彼は掃除を手伝いはしないのでした。ep1の「僕だって……」は、「僕だって、実在の人間だったら、物くらい運べるのに」だったりして……。


D:熊沢ちよ
【実行犯】
【計画者】
【その他】☆☆☆☆★☆☆

〔疑惑〕19年前の崖の事件の日、夏妃のそばに控えていた「壮年の使用人」が熊沢である可能性。
 その場合、助かった赤ん坊を「死んだ」と偽るためには、熊沢の関与が必須。そしてそのことがめぐりめぐって19年後に、夏妃のアリバイを奪うことになる。


E:郷田俊朗
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔疑惑〕なし。
〔弁護〕EP5だけでなく、すべてのエピソードにおいて白と見る。
 以下余談。いとこ部屋の惨劇を狂言とする場合、別室に隠れた楼座や譲治たちに食事を供給する必要があり、郷田の関与はほぼ必須と考えられる。しかし郷田は夏妃に恩義を感じている人物であるので、夏妃を陥れる陰謀に荷担するというシナリオには違和感がある。狂言説を成立させるとき、ここの解釈は何らかの形で欲しいところ(食料を島外から準備してきていた、とかね。その場合かなり計画的ですね)。


F:南條輝正
【実行犯】
【計画者】
【その他】

〔弁護〕朱志香の共犯者と考えているけれども、今回朱志香が早期に死亡したため、不審な動きはしなかったと考える。
 EP5の死体は、すべて発見時に死体だった、という推理を採っているので、検死の虚偽もなし。
 狂言があり、それに参加しており、死んでない人を死んだと偽った、それは夏妃を陥れるためであった……というシナリオの場合、金蔵の書斎で、金蔵生存説にのっとった発言を必死でしていた南條の姿に違和感が生じる。


G:古戸ヱリカ
【実行犯】☆☆☆☆★☆☆☆☆
【計画者】☆☆☆☆★☆☆☆☆
【その他】☆☆☆☆★☆☆☆☆

〔疑惑〕EP5唯一の犯人として告発する。
 EP5において、親族会議「以外」の、すべての人物のアリバイが、ヱリカたったひとりの証言によって保証されていることに注目する。ヱリカは、ほとんどの人物のアリバイを、恣意的に作ることができ、また奪うことができた。彼女は、自分で殺人を犯したうえで、特定の他人にその罪をなすりつけることが可能。
 また、「自分が旅行すると、かならず殺人事件が起こる」という趣旨の発言を2回にわたって行っていることに注目する。そんなことがありえるのはフィクション内だけのことであり、現実的な解釈としては、「ヱリカ本人が殺人を犯しており、自分で探偵役となって別の人間を告発している」という発想を自然としたい。



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【お題回答】関東大震災/アニメ版の情報量

2009年11月25日 04時34分39秒 | その他の推理
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■

 Ep5当時に執筆されました]

     ☆

「次回は推理が載っているはずです」と宣言しましたけれど、いまいち推理として成立しきらない、半エッセイ的なものをお送りします。
「雑多な想像」シリーズです。自分の真相推理として本気で採用しないかもしれないけれど、いろいろ想像して可能性をさぐっていく。そういう軽いエントリです。

 以前、コメント欄で、これについて考えて欲しいという「お題」をいただいていましたので、今回はそれにお答えしてみようという趣旨です。あの、例によって、たいした内容ではないので、あまり期待しないで下さい。


●右代宮邸本館は新築なのか?

 過去のエントリで、さりげなく「推理のお題」を募集したところ、
「関東大震災とうみねこは何か関係ないか?」
 という出題をいただきました。

 それで思いついたのが、右代宮のお屋敷、本館のこと。

 あのお屋敷って、金蔵が新築したものだったのかなあ? という疑問を、ちょっと持っていたのです。
 ひょっとして、歴史的な西洋建築を買ってきて、移築した可能性があるんじゃないかなあ、というお話です。

 移築というのは、ひょっとしてなじみのない方もいるかもしれませんが、ある場所に建っている建物を、分解して、別の場所にはこび、また組み立てる。ようするに建物を運んでいって別の場所にどかっと置く。そんなことです。
 フランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルは、もとはもちろん東京にあったわけですが、いまは確か、愛知県の山奥にあるそうです。

 そこで。
 たとえば、
「関東大震災を耐え抜き、東京大空襲をも生き延びた歴史建築」
 というのが、どこかにあったとしたら、それは「奇跡的な確率で生存した建築」といえるのではないだろうか。
 そういう建物は、金蔵のルーレット理論……「確率の魔法」の理論からすると、とても「魔術的価値が高い」と言えそうなんじゃないだろうか。
 金蔵翁のキャラクター的に、そういう建物を彼は欲しがりそうな感じがするのです。金蔵翁は、「関東大震災を生き延びた」ことによって家督を継ぎ(本家は震災で全滅)、「戦中戦後をうまく立ち回った」ことで富を得た人物です。そのふたつのイベントをうまく生き延びたことは、彼が「確率魔術の権化」になっていく重要な要素のような気がします。
 そういう彼が、「確率魔術の要塞」としての「右代宮邸」に住んでいたら、魔術論としては完璧っぽいのです。

 かりにこの想像をOKだとすると、何が変わってくるか。
 それは、
「右代宮のお屋敷本館に、隠し通路が存在する可能性が著しく下がる」
 ということです。
 そうですよね、だって、もとの持ち主がこの建物を建てさせたときに、すでに隠し通路があってくれないと、あとから作り足すのは、不可能ではないけどちょっと難しい。

 床下方向に降りる隠し通路はなんとか作れそうな感じもしますが、壁の一角がギーッと開くようなタイプの通路はほとんど無理でしょう。
 この移築説をとると、3階にある金蔵書斎に隠し通路を想定するのは、ほとんど無理になってしまうかな。
 玄関ホールのベアトリーチェの肖像画の裏に隠し扉がある、というような想像も、難しくなってしまいます。


 これは、自分的に、けっこう困った推理です。

 というのは、わたしは古い建物が好きなので、右代宮邸は歴史的建築であってほしいのです。ロマンがみたされて、嬉しくなります。

 けど、隠し通路は存在してほしいのです。隠し通路はロマンです。わたしはカリオストロの城が大好きなのです。ラピュタや千尋よりずっとずっと好きだ。
 現状、わたしの推理では、金蔵の書斎に隠し通路なんか、まったく存在しなくてかまわないのです。
 でも、必要全然ないけれど、あってくれたらとても嬉しいのです。玄関ホールの、ベアトの肖像画か大時計の裏に隠し通路があってくれたら、いわくありげな大富豪の豪邸のギミックとして、ベタに嬉しくなりませんか。


 こういうとき、わたしのとる態度はきまっていて、
「べつにどっちを採るでもなく、ぼんやりと放置しておく」
 です。べつに決めなくて良い。右代宮邸は歴史的建築かもしれないし、隠し通路はあるかもしれない。おいしいところだけいただいておく。それが、「想像という能力」のゆたかなつかいかただとわたしは思っています。

 でも、「金蔵の書斎に隠し通路は存在しない」と決め打ちしたい方は、よかったら根拠のひとつとして取り入れてみてください。この手のアクロバチックな推理展開は実は好みです。


 もうひとつ、同じ方から、ep2で譲治と紗音がデートした沖縄の水族館は当時まだなかったのでは……というお題もいただきましたが、「あれは美ら海水族館によく似ているが、美ら海水族館ではない」か、「ep2の世界は、1986年当時にすでに美ら海水族館新館が存在するという平行世界だ」ということで良いかなという気がします。

 わりと有名な話で、「村上春樹の小説はVWビートルにラジエーターがある平行世界だ」というのがありますけど、それとおなじ。
 楼座少女時代の「パンダ問題」(当時パンダは来日していない)も、これとおなじだと思って良いと思います。

 でも、旧館でよければ、我々の世界でも、1986年にあの水族館は存在しますね。



●アニメ版で省略されている描写はノイズなのか?

 アニメ版はネット配信で見ていますが、良く出来ている。わたしの評価は高いです。

 もちろん、いくつか「うっ」と思う部分がないではないけれど、そもそも『うみねこ』はさまざまな点で映像化がむずかしいと思えるわけで、その中でよくやっている。きちんとエッセンスはとらえて、劇としての流れをつくっています。

 このアニメは、尺との戦いですね。2クール(26話)でep4までを消化する、というのは、動かせない絶対条件だったのでしょう。
『うみねこ』が仮にep8まであるとすれば、第二シーズンをやって、全4クール52話。これはパッケージDVDとしては最大限の尺です。これ以上長くは、できません。

 たとえば、2クール26話で、ep2までを消化する、という余裕のある尺だったとする。これならかなり原作の描写を拾えます。全部入るかもしれませんね。でも、そんなロングシリーズのDVD、誰も買いつづけてくれませんよ。
 それにたぶん、そこまで展開が鈍重だと、テレビ放映の時点で視聴者があきます。テレビは基本的にテンポよく、次から次へと事件が起こらなければならない。毎回次々に事件が起きて、ひとつひとつの問題をじっくり考えるひまがないという、いまの形は、テレビ番組のつくりとしては正しいのです。
 現状、1エピソードに6~7話数を使っていることじたいが、すでにしてもう長いともいえます。たしか『金田一少年』は、4話で1エピソードくらいでしたっけ?

 そのように、総尺に大きな制限がある以上、原作にあった描写がいくつか落ちていくのは、やむをえないことといえます。


 さて。
「原作にはあるのにアニメ版では省略されている描写は、うみねこの本質には大きくは関係しない」のではないか。そんなお題をコメントでいただきました。

 正直、真正面から取り上げたくない話題でした。というのは、わたしの推理上、かなり重要な情報が、アニメ版では落ちているのですよね……。

 具体的にどの描写かというと、それはep2です。
 郷田の名ゼリフ、「この郷田を信じろとは申しません、紗音さんを信じていただくわけには参りませんか」。
 これがカットされておりまして、かなりショックでした。
 犯人=朱志香は、この郷田のセリフをきいて、残りの殺人のターゲットを変更したんだ、という推理をとっているのです。使用人室で、本来は郷田と紗音を殺す計画だったけれど、この「愛にあふれたセリフ」をきいて、殺しにくくなった。それで後まわしにすることにした。とりあえず熊沢と南條を殺した。そういう流れを想定していたのです。

 参考→犯行告発ep2・サファイア・アキュゼイション2

 さて、自分の推理上重要な、そんな描写がアニメ版ではカットされていた。
 つまり、この描写は重要なものではない。
 よって、この描写を重視することで成り立つ推理は外れている……。

 というような考え方をわたしがしているかというと、していません。いぜんとして、「郷田発言に触発されて、犯人は殺害計画を変えた」という推理を支持したままでいるのです。
 根拠になる描写が、アニメでカットされていたからって、別にいいじゃないっていう感じ。
 みもふたもなくいうと、こう。「アニメは、推理上重要な情報が落ちている場合がある」。
 たぶん、それは劇としての成立感を上げるため。

 そもそも、原作のゲームじたいが、「推理が可能であることを保証しない」と宣言している作品なのでした。そのアニメ化もまた、そうであることは、必然なのです。
 そういえば『最終考察うみねこのなく頃に』に掲載されたインタビューで、竜騎士07さんは、「アニメで推理の楽しさは味わえるのか」という質問にYesと答えていますが、「アニメでゲームと同等の結論に到達できるのか」ということは、保証していないのです。でも、前者の質問って、なんとなく、アニメでも推理が可能だというような印象にきこえますよね。竜騎士07さんという人は、この手の印象操作をこのんで使う人だと感じています。

 閑話休題。もしくは、こういう言い方でもいいかな。
「アニメの情報でも、だいたいの真相は言いあてることができる。けれど、より深く、完全な整合を得るためにはゲームの情報が必要」
 まあ、当然ですよね。情報量が違うのだもの。

 たとえば。わたしは基本的に、朱志香犯人説をとなえているわけですけれど、たぶん、アニメの情報だけで、「朱志香が犯人だ」という推理には、じゅうぶん到達できると思います。
 たぶん、動機の推理も可能じゃないかな。
 でも、「このエピソードのこの局面で、朱志香はこう思ったからこういう行動をとったのだ」という細かい推理までは、とても無理です。

 でも、それで良い。アニメは「犯人を指名できて、動機もだいたい感じ取れる」というくらいの落としどころをめざしてつくられてるんじゃないかな。そんなくらいの、受け取り方をしています。
 そこまで推理ができるのなら、「アニメで推理は可能」と言って、さしつかえないと思いますよ。


 アニメ版は、ゲーム内の情報が、いくつもカットされている。カットされたのは重要な情報でないからだ。というアプローチのしかたは、したくなる気持ちはわかるけれど、なんというか楽しくないような気がします。あまりそういう方向に考えを向けない、というのが、いちばん良いんじゃないかな……。そのアプローチは、推理小説を読んでいて、
「この厚みの段階で明かされる真相はほんとうの真相じゃないな」
 と考えるのに、少し近いような気がします。



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他の人の素晴らしい仮説・「戦人不在説」

2009年06月29日 16時47分32秒 | その他の推理
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     ☆


 わたしは、他の人の仮説につっこみを入れてリザインさせるよりは、
「いろんな仮説から生まれたカケラ世界を覗き込んで、その多様性を楽しみたい」
 という立場です。

 最近、公式掲示板で葉月みんとさんという方がまとめられた「戦人不在説」がとても素晴らしかったので、ご紹介します。発想の切れ味が鋭く、そこから生まれた世界観が魅力的だと感じました。

 ●「戦人不在説」
 提唱者・葉月みんとさん
 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=27800&no=0 (ミラー


     ☆

 事件の日に六軒島にいた戦人は、「2人めの戦人」だ、という発想は、わたしにはなくて、驚きを持って読みました。
 犯人(もしくはベアトリーチェ)は、2人いる戦人をごっちゃにしているだろう、戦人が2人揃わないと、謎は解かれないだろうという仮説をわたしは持っているのですが、このアイデアを導入すれば、「2人めの戦人」を無理なく盤上に上げることができます。
 少し考えてみて、もしかしたら、このアイデアを、わたしも導入させてもらうかもしれません。
 参照→ http://blog.goo.ne.jp/grandmasterkey/e/8529ce3cd5c8919a6407b3135b966784

 それにしてもこのメタ世界解釈はきれいだなあ……。



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