さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

補遺・右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル

2010年04月28日 05時00分27秒 | 背景考察
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


補遺・右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル
 筆者-初出●Townmemory -(2010/04/28(Wed) 04:53:38)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45617&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]


     ☆


「右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル」の補遺です。


 Ep2はやけに気になるところが多いエピソードで、霧江がらみでもいくつかひっかかりを感じます。
 くどいかもしれないが、どうしても重視せざるをえないのが、やはりこの発言。

「…………女の子には女の子の世界があったことを、私たちはたまに忘れるわ。時には尊重してあげないとね。」
「……そうね。…お気遣いをありがとう、霧江姉さん。」
(Episode2)


 以前わたしは、この発言を起点にして、「Ep2における霧江とブレザーベアトの対決」について検討したこともあります。が、今回はそれとは少しずれた話。


 この「女の子の世界を尊重」発言のあと。
 少し時間をおいて、霧江と楼座が2人きりで話をするシーンがあります。

 楼座は、「うちの子はまだ一人で服もたためない」と愚痴をこぼし、
 霧江は、「でも私には、真里亞ちゃんが大きく成長しているのがわかるわ」と言う。
 そして少し、母親同士の育児関係の世間話があって、

「うぅん、気にしてません。…こちらこそごめんなさい。私たち、互いに娘を持つ母親同士なんだから、もっと交流しなきゃいけないのに。いっつも会えば変な話ばかりで…。」
「……この屋敷の空気のせいよ。ここの空気を嗅ぐと、いっつも私たちはギスギスしあってるもの。……楼座さんとは、親族会議じゃない席で、一度ゆっくりお茶でも飲みたいわ。銀座に行き付けの素敵な喫茶店があるの。ぜひ今度招待させて。」
「ありがとう、霧江さん。その時はぜひ…。」


 と、このようなやりとりでシーンがしめくくられます。

 そういえば、Ep6では、楼座はこんなことも言っていました。

「霧江さんの話が出たから言うけど。………彼女の話は、私にとって、希望、……夢なの。」
 男を寝取られても、彼女は18年間、辛抱強く待った。
 自暴自棄にならず、それでもなお留弗夫の側で支え、じっと伏して奇跡を待ったのだ……。


 どうも楼座は、霧江に対して興味を持っており、機会があれば霧江の話を聞きたいと思っているっぽいのです。
 母としての霧江にも、女としての霧江にも興味があって、できればそれを自分の参考にしたいという気持ちがありそうだ。
 そして霧江にも、楼座とはきちんと話をして、交流を持ちたいという意志があるみたいなのです。

 互いにそういう意識はあるのだけれど、たまたま、これまでそういう機会はなかった。


 さて。
「そういう機会」が、もしあったとしたらどうなっていただろう。そういう「カケラ紡ぎ」をしてみたいわけです。

 もしもこの2人に、「銀座の喫茶レオポルドで、定期的に会って話をする」という関係性が生じていたら、どうなっていたか。

 楼座が抱えている大きな問題のひとつは「育児」です。楼座は、気持ち悪いことにばかり夢中になっている発達障害じみた一人娘のことを、当然、霧江に相談することになる。「うちの真里亞、これこれこうなんだけど、大丈夫かしら。どうしたら治るのかしら」。

 そこで霧江は、こう答えることになりそうなのです。

「…………女の子には女の子の世界があったことを、私たちはたまに忘れるわ。時には尊重してあげないとね。」

 前回も取り上げましたが、霧江という人は、
「内面に、空想の別世界を持っている」ことと、「人間の成長」とは無関係だ
(夢みたいなことにむちゅうになっているからといって、「成長が遅い」「成熟していない」ということにはならない)
 という考え方を持っているらしい、と推測できるのです。

 霧江は、
「大丈夫、それは心配する必要のないことだから、長い目で見守っていておあげなさいよ」
 というアドバイスをする可能性が、高いように思われます。

 そういうアドバイスを、立ち話的にちょっとするのではなくて、腰を落ち着けて、ゆっくりと、いくつかの具体例を混ぜたりして、楼座が納得できるような言い方で、順序だてて話す。

 楼座は例えば、「あの子、ぬいぐるみや陶人形と本気でお話しているのよ、気持ち悪いわ」なんて話をする。
 霧江は例えば、「ああ、それは発達的に重要なプロセスだから、阻害しないほうがいいわ」みたいなことを言うのかもしれない。

 相談相手がいるというだけでも、ずいぶん気持ちは違うものです。
 それが理知的で異様な説得力のある霧江なら、なおさら。

 霧江の話に納得して、楼座は、
「気持ち悪いけれど、もう少し、長い目で様子を見て見よう」
 という余裕を持つかもしれない。

 そうなった場合……。
 つごうのいい想像をすると、
 そうなった場合、楼座はさくたろうの首をひきちぎらないんじゃないだろうか。


 わたしは前に、
「さくたろう殺しが発生しない場合、六軒島連続殺人事件も発生しない」
 という推理を検討したことがあります。
 → 「【カケラ紡ぎ】六軒島の惨劇を起こさない方法」

 そのときには、
「もし戦人が家出をしない世界があったら、“戦人が縁寿と真里亞のめんどうを見る”というオプションが可能となるため、真里亞が一人で留守番する状況が発生せず、さくたろう殺しも発生しない」
 といった可能性をさぐりました。

「楼座と霧江との間に、育児相談をしあう関係が生じたら、さくたろう殺しは発生しない」
 というのも、これもかなり有望そうな気がしてきたのです。



 それにしても、楼座と霧江はあるていどお互いに興味を持ちあっているみたいなのに、どうしてこのような「2人の育児相談」の関係性が、これまで発生しなかったのでしょうね。

 ひとつには、楼座に「子供の恥を、あまりさらしたくない」という気持ちがあって、なかなか踏み込めなかった。そういうのはあるでしょうね。理解できる感覚です。

 それとは別に、ちょっと恣意的なことをいうと、
「霧江は、とてもとても忙しく、他人ちの子にかまけているどころではなかった」

 霧江には6歳の縁寿という娘がいるわけで、自分のところの育児ですでにして大変です。まだ目を離しづらい年齢だ。
 霧江は仕事も持っています。さすがに今はフルタイムではないでしょうが、「留弗夫のビジネスパートナー」とまで言われる存在であるわけで、仕事を全休できるともあまり思えない。

 おまけに、夫の先妻の息子は絶賛反抗期中だ。なんと、ほとんど脅迫的な意図で家出をするという腰の据わった反抗ぶり。
 しかもその継子の反抗理由の焦点にいるのがほかならぬ霧江本人。
 これはもう、一家の大問題。
 人さまのおうちのことに口をはさめるような立場では、霧江はぜんぜんない。もうちょっと余裕があれば、
「楼座さん、娘を持つ母親どうしで、ちょっとお茶でもしません?」
 なんて誘うこともできたかもしれないけれど、実際の霧江は楼座の育児相談どころじゃない。

 ……というように話を持っていくと、「戦人が家出をしない世界があったら」という仮定をとる「六軒島の惨劇を起こさない方法」との合流をはかることができるわけなのですが、それはちょっと、恣意的に話をとりすぎな気もするので、ここまでで控えておきます。


■Twitter http://twitter.com/TowMemo


■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


■関連記事
 霧江が会ったベアトは誰/マルフク寝具店にあったもの
 【カケラ紡ぎ】六軒島の惨劇を起こさない方法
 右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル
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右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル

2010年04月26日 01時51分37秒 | 背景考察
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル
 筆者-初出●Townmemory -(2010/04/26(Mon) 01:47:23)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=45534&no=0 (ミラー
 Ep6当時に執筆されました]


     ☆


 Ep4の「霧江からの電話」がずっと気になっていました。

「悪魔」に追いかけられた霧江がどこかの部屋に閉じこもって戦人に電話をかける。鍵穴からはシエスタの黄金矢が飛び込んでくる。自分はもうすぐ死ぬ。
 そういう状況下で霧江は、

「もし悪魔に遭遇したら、その正体を疑う必要はない。そういうものだと理解して欲しい」

 という趣旨のことを戦人に訴えます。
 まさかの悪魔全肯定発言。

 わたしはこれを素直に、
「悪魔や魔女を信じさせたい“犯人”がいて、そいつに銃で脅され、“悪魔を信じろ”といった内容を『言わされている』」
 という受け取り方をしました。

 が。

 右代宮霧江という人は、さまざまな場面で描かれている通り、スーパースペシャル才女です。度胸だってすわっている。
 そういう右代宮霧江が、脅されて命があぶないからといって、何の芸もなく、強要された通りのことを言うだろうかというのが疑問でありました。

 例えば、もしも、
「いっけん、強要された通りのことを言っているようだけれど、ある法則に従って読み解くと、別のメッセージが伝わるような言い方をしている」(しかし戦人はそこには気づけなかった)
 といった「仕掛け」がしくまれていたら、これはいかにも、霧江らしい。

 そういう仕掛けはないのかと思って、気が向くたびに暗号解読的に読み解いてみたのですが、はかばかしい進展はありませんでした。

「強要されて言わされた」という前提が、そもそも間違っているのか?


 これに関して、最近、ちょっと面白そうなアプローチを思いついたので、以下それについて。


     *


 右代宮霧江という人物について、以下のような部分に注目しています。


「去年よりもずっと成長したと思いますよ。えっと、今年で9歳でしたっけ?」
「9歳。うー。」
(Episode1)

「うー! 濡らさない!」
「くす、素直で可愛いぃ。戦人くん、真里亞ちゃんの面倒、ちゃんと見てあげてね。」
「おうよ、任せろ!」
(Episode1)

「…………女の子には女の子の世界があったことを、私たちはたまに忘れるわ。時には尊重してあげないとね。」
「……そうね。…お気遣いをありがとう、霧江姉さん。」
(Episode2)

「楼座さんは毎日を真里亞ちゃんと過ごしてるから、小さな変化に気付かないかもしれないけれど。一年ぶりに再会した私たちには、その大きな成長ぶりがよくわかりますよ…。」
(Episode2)

「うー! みんな幸せー!! 暗くなるの駄目ー!! 信じてー! みんなで幸せになれるって信じないと、幸せが逃げちゃう! みんなで信じないと駄目なの! うーうーうー!!」
「……いい話ね。私も信じるわ。私たちは幸せになれるわよ。」
「うー! 霧江伯母さん、ありがとぉ!! 戦人と朱志香お姉ちゃんも信じて! ベアトリーチェも、信じないと魔法が力を持たないっていつも言ってる。うー!」
(Episode3)


 つまり、
(1)右代宮霧江は真里亞によく注目しており、言及が多い。
(2)右代宮霧江は真里亞に対する理解が深く、真里亞の感性に共感的である。


 ということが、各エピソードにおいて、非常によく示されている。そういうことが言えそうに思うのです。

 右代宮関係者の大人世代で、このように真里亞に対して優しい視線を向けるのは、右代宮霧江ただひとりなのです。
 夏妃は楼座と友好的関係にある、ということが語られますが、その夏妃だって、真里亞にこのような接し方はしていないのです。

 中でも注目したいのは、このセリフ。

「…………女の子には女の子の世界があったことを、私たちはたまに忘れるわ。時には尊重してあげないとね。」

 Ep2で、真里亞がハロウィン・トリビアを滔々としゃべり、自分が魔女傾倒の夢見がちな女の子であることを一同にあきらかにしてしまいます。楼座は、それが恥ずかしいあまり、真里亞をひっぱたき、あのハロウィンかぼちゃのお菓子を取り上げて粉々に砕いてしまうのです。
 このセリフはその直後に、霧江が楼座に対して言ったものなのです。

 ほのめかしてきな表現で言っていますが、このセリフは、

「女の子が、魔女にあこがれたり、空想の世界をつくりあげることは、おかしくもなければ悪いことでもない。彼女が大事にしている内面世界をみとめておあげなさい」

 という意味にちがいないと思うのです。

 わたしの印象では、霧江という人は、真里亞の語る魔女の夢や魔法の話に対して、とてつもなくシンパシーを持って接している。
 そのように見えてしかたないのです。
 口先だけ真里亞に優しく合わせている譲治なんかよりも、ずっと共感的に見える。

 このセリフのあと、別のシーンで、「真里亞ちゃんはこの一年でかなり成長したわね」という意味のことを、霧江は語ります。
 楼座は、「魔女なんかにいつまでも夢中なのは恥ずべき成長不良だ」と思っているので、霧江のその言葉にポカンとするわけです。

 どうやら霧江という人は、
「内面に、空想の別世界を持っている」ことと、「人間の成長」とは無関係だ
(夢みたいなことにむちゅうになっているからといって、「成長が遅い」「成熟していない」ということにはならない)
 という考え方を持っているようですね。


 ひょっとして、霧江は子供のころ、真里亞みたいな少女だったのではないかな。
 魔女とか魔法とか、そういう空想的なものを、霧江もすごく好きで、内面の空想世界をとてもだいじにしていたんじゃないかしら。
 そして、そういう感性を、大人になった今でも、ちょっと持っている。

 だから、以下のような発言が、ときおりぽろっと出るのかも。

 明日夢さんなんか死んでしまえ。
 そして私と再婚してほしいって、ずっとずっと嫉妬して呪って、そしてやっと明日夢さんが死んだ。
 私は確信したわ。
 私には魔法の力があって、それが呪いとなって明日夢さんを殺したんだって確信したわ。

(Episode3)

「嫉妬のレヴィアタン、ここに……!」
「悪夢の中だっていうなら、………私の悪夢に出てくる友人がいてもいいわよね。嫉妬の地獄の、友人よ。危機一髪だったわ、ありがとう。」

(Episode6)



     *


 さて。以上のような人物理解をもとにして、Ep4「霧江からの電話」を、再び考えてみます。

 霧江は飛び道具による襲撃を受けています。描写でもそうですし本人もそう言っている。
「だんだん着弾が近づいてくる」なんてことも言っていますね。「鍵穴から精密狙撃ができる特殊な飛び道具」なんてものの存在は、なかなか認めがたいので、
「犯人は霧江と同室しており、脅しとして、消音器つきの拳銃をぱすぱす撃っている」
 くらいの理解をしたいと思います。

 やはり、「霧江は犯人の顔を見ている・誰が殺人者なのかはっきりと認識している」と考えるのが自然のように思います。

 にもかかわらず霧江は、戦人への電話で、
「犯人は誰々よ、会ったら逃げて!」
 とは、言わなかったのですね。


 冒頭で軽く推理したとおり、やはり犯人は、
「人々を襲って次々と殺しているのは、金蔵が召喚した悪魔である」
 というようなことを、脅しによって強要し、霧江に言わせた……。
 これはOKな気がします。

 この連続殺人事件の犯人は、
「魔女、悪魔、そして“魔法”が、このように存在することを、認めてもらいたい」
 という願望を、持ってるっぽいのです。

 信頼度の高い、霧江という人物の口からそういう言葉が出れば、戦人は真に受ける可能性が高い。少なくとも、そのことについて真剣に考えざるをえない。
 犯人はそういう意図をもって、武器で霧江を脅し、「悪魔や魔女が現れて、次々に人を殺した」という作り話を「言わせた」。そう仮定します。


 霧江はその要求を聞いて、どう思っただろう。


 真里亞の内面世界にある「魔女と魔法の世界」のお話を聞いて、そこにシンパシーを感じることのできる右代宮霧江。
 ひょっとしたら、幼少期には彼女もそんな少女だったかもしれない右代宮霧江。

 右代宮霧江は、この要求から、
「魔女、悪魔、そして“魔法”が、このように存在することを、認めてもらいたい」
 という、犯人の願望を、逆算で「理解」することができたんじゃないだろうか。

 この連続殺人が、「お願いだから、魔法の存在する幻想世界を、認めて欲しい」という悲鳴のようなものである、ということを、察知し、理解したかもしれない。

 ひょっとしたら、そういう犯人の心の動きに「共感」すらしたかもしれない。


 もし、仮にそうだとしたら。
「犯人は誰々よ、逃げて!」というメッセージは、戦人をあおり、対決を生み出すだけです。犯人は戦人を殺すしかない状況になりますし、戦人は犯人を撃退しようと考えるでしょう。「戦人の安全」という点でも、メリットがないのです。

 そうではなく。
 霧江の、この状況での最善手は、
「戦人が、犯人の気持ちを“理解”するよう、誘導すること」
 なのです、たぶん。

 この犯人が、殺人をやめることがあるとするなら、それは、
「誰かに、深く理解されたとき」
「戦人が、理解してくれたとき」
 に、ほかならないだろう。

 だから、戦人にそれを促す。逃げろ、とか、犯人を阻止しろ、とかではなく、「理解せよ」という布石をうつのです。


 だから、こういう発言になる……。

「………もし。あなたの前に悪魔やら魔女が現れても。」
「あぁ…。」
「その正体を、疑う必要は何もないわ。……そういうものだと、理解して。」


 あなたの目の前に「魔女」として現れたその人物の、
 魔女性を認めてあげなさい。
 その人物が、どうしてそんな願いを抱いたのか。それを理解してあげなさい。

 そういう意味合いの発言のように、急に見えてくるのです。

 そのように解釈した場合、この「疑う必要はない、理解して」発言。内実は、以下のこのセリフと、意味するところはまったくおんなじであると言えるのです。

「…………女の子には女の子の世界があったことを、私たちはたまに忘れるわ。時には尊重してあげないとね。」

 真里亞の内側にある魔法の世界。それを尊重せよ。
「犯人」の内側にある魔法の世界。それを尊重せよ。


 犯人は、「犯行を行なったのは悪魔だ、と言え」というところまでは、要求したと思うのです。
 ですが、「魔女や悪魔を理解しなさい、と言え」とまでは、要求したとは思えないのです。
 だから、この部分は霧江のアドリブだと思うのです。
 そういうアドリブをあえて入れたのだとしたら、それは、どうしても戦人に伝えねばならなかったこと、かなりシリアスな本心なのではないか、という推定ができます。

 同じシーンの霧江のセリフですが、これなどは、とてもシリアスで深刻なトーンがあって、「言わされている」感じはまったくしないのです。

 ……あなただけは信じ、理解して、………私たちに受け止め切れなかった存在を、……受け止めてほしいの。


 あなただけは信じ、理解して。ということは、霧江たちは信じ切れず、理解しきれなかったのです。
 私たちに受け止め切れなかった。ということは、受け止めようとしたのだけれど、受け止め切れなかったのです。

 霧江たち大人が、信じ、理解し、受け止めることができたなら、この惨劇はきっと起きなかった。
 それができなかったから、この惨劇が起きてしまった。

 だから、最後に残った戦人にそれを託す。信じ、理解し、受け止めることで、これを終わらせて欲しい。それが、あなたが生き残る道でもある……。



 右代宮霧江は、「誰も魔法を信じない世界の孤独な魔女たち」に対して、シンパシーを抱くことのできるメンタリティの持ち主であった。
「悪魔、魔法、魔女の作り話」を強要されたが、そのことによって、犯人の中にある内的幻想世界がどんなものであるか、理解することができた。
 この惨劇を止める方法は、抵抗でも逃走でもなく「理解」である、という結論に、霧江はたどりついた。
 その結果、犯人の強要に抵抗するのではなく、また戦人にも抵抗を促すのではない。犯人が要求する通りのストーリーを戦人に告げ、「理解を促す」。これが、戦人をこの惨劇から救う可能性のある最善のルート。

 だから、悪魔のストーリーを語り、それを「理解して」と訴える。

 犯人が霧江に求めていたアクションと、霧江が考えるこの状況下の最善手は、たまたま、ぴったりと一致した。だから、抵抗的なメッセージなどは彼女は入れなかった。ただただ、「理解し、受け止めるのよ」とシリアスに助言した……。


 ひょっとしてそんな感じだったかもしれないな、という一説です。


 続き→ 補遺・右代宮霧江とシンパシー・フォー・ザ・デビル


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Ep4三択の真里亞解答/煉獄七杭を本物に変える魔法

2009年12月25日 21時22分07秒 | 背景考察
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Ep4三択の真里亞解答/煉獄七杭を本物に変える魔法
 筆者-初出●Townmemory -(2009/12/05(Sat) 19:39:35)・(2009/12/06(Sun) 21:36:01)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=36638,36714&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注

 公式掲示板の雑談の中から、すくい上げる価値のありそうなパーツを、いくつかピックアップします。

 掲示板ではだいたい常に推理集計企画が動いています。
 特定のお題に対する推理を、みんなでいっぺんに投稿することで、「推理の比較」をしやすくすると同時に、推理書き込みへのインデックスとして機能させようという企画です。

 わたしが投稿した答案のなかから、こまかい部分を2点ほど。引用部は出題文です。
 必要な部分だけザックリ切り取って貼り付けます。注釈を入れておきます。

 以下が本文です。


     ☆


●Ep4の三択問題・真里亞の解答は?

>R-4:EP4での真里亞の課題はなんだったのか。また、金蔵に合格点とされたその答えは?(魔神アリス)

 課題は同じ。回答は、
「3つとも選ばない。そのことにより全員が悪魔に殺される」
 それは大きな目で見れば、「すべてを手に入れる」のと同じ、という考え方が、ベアトリーチェや真里亞にはあると思うのです。

 真里亞が死ねば、真里亞がどうなったのか真里亞にはわからなくなる。つまり「猫箱」の中に入る。
 ママが死ねば、ママがどうなったのかママにはわからなくなる。つまり「猫箱」の中に入る。
 おじさんやおばさんや譲治や戦人や朱志香や使用人たちが死ねば、彼らがどうなったのか彼ら自身にはわからなくなる。つまり彼らはまとめて「猫箱」の中に入る。

「猫箱」のなかの猫は、生きているかもしれないし死んでいるかもしれない。つまり「生きているかもしれない」。
 全員が死んだのに、その「死」によって、「生きている可能性」が発生する。

 すなわち、「全員の死」という第四の選択肢を選ぶことで、「全員の生」を手に入れることができる。

 これがベアトリーチェの無限の魔法で、真里亞はベアトリーチェの弟子なのだから、当然彼女は、無限の魔法を理論的に知っている。だから当然、この選択肢を積極的に選ぶことができます。


     ☆


●煉獄七杭を本物に変える魔法

※注釈:
 この項は、「碑文解読ep5・台湾説でFA」への補足として書かれたものです。あらかじめ「碑文解読ep5・台湾説でFA」をお読み下さい。
 以下、「鍵の仕掛け」に関する発展アイデアです。



 ブログエントリでは、ギミックの例として「プレートを踏み込む」というアイデアを挙げていますけれど、個人的な趣味としては、やっぱり、鍵をさしこんで、がちゃっとねじる、というアクションは欲しいなって感じはしています。

 やっぱり、穴が開いてて、何かをぐっと差し込んで、回転させてこその「抉る」ですものね。
 この場合、戦人とヱリカは、傘の石突きをつっこんで強引に回した、というくらいの想像で良いかなって気がしています。

 でも、金蔵翁は、このギミックの「正式な鍵」として「七杭」を使用していた、なんていう真相があったりしたら、とっても素敵だなー、みたいなことも、ちょっと夢見ています。

 七杭は、モノとしてはニューヨークで作られたイミテーションかもしれないけれども、「黄金郷の鍵」としては、まごうことなく本物だった、という。
 そして魔女は、儀式の進行にともなって、「黄金郷の鍵」を人間側にどんどん譲り渡していく。おまえたちの側にはすでに十分な数の「鍵」があるのに、まだ黄金郷にたどり着けないのか? みたいな挑戦と問いかけ。



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 竜騎士トラップ解析3・薔薇は郷田が摘んだ?
 Ep4三択の真里亞解答/煉獄七杭を本物に変える魔法
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竜騎士トラップ解析3・薔薇は郷田が摘んだ?

2009年12月19日 19時10分59秒 | 背景考察
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竜騎士トラップ解析3・薔薇は郷田が摘んだ?
 筆者-初出●Townmemory -(2009/12/19(Sat) 19:04:32)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=37334&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注

 ep6発表前に、言及できることはできるだけ言及しておこうキャンペーンです。先に答えが発表されてしまった場合、「ああ、それは考えていたのに」というイイワケをなるべく自分に許さないようにしたいと思います。
「この謎にはまだ取り組んでない」
 というようなトピックが、ほかにあったかしらん。お題はひきつづき募集中です。

 今回のネタは、薔薇消失に関する一案です。まだ、推理としては正式採用してはいませんが、これでも良いような気がしています。

 ひぐらしのネタバレあります。

 以下が本文です。


     ☆


「真里亞の薔薇が消える」事件は、全エピソードで必ず発生します。ということは、全エピソードで必ず発生する何かが「原因」となって、薔薇が消えるという「結果」が発生している。
 その原因とは何だろう……という方向で考えていたら、郷田が作るランチのデザート、パンナコッタに添えられた花びら……にしか思えなくなってきてしまったワナです。ランチは必ず作られるでしょうし、パンナコッタなんて手の込んだもの、前々からのしこみがなければできないでしょうしね。


 郷田が料理のために摘んだ、という説は、できれば採りたくなかった考えなのです。
「真里亞の薔薇が消える」というのは、シリーズ中でも、もっとも印象の強いイベントのひとつです。
 だからできれば、もっと強烈な「真相」とリンクしていてほしい。そういう願望があるのです。
 なので、たとえば苦しいですが、
「黄金郷の入り口を示す目印の向きが変わったため、その目印を基準に薔薇の位置をおぼえていた真里亞は、薔薇を見つけられなくなってしまった」
 とかいったアイデアをひねったりしていたわけなのです。
 参考→ 碑文解読ep5・台湾説でFA


 けれども。
「これじゃなくて、もっと深いものがあるだろう?」
 と思わせること。そういう「竜騎士トラップ」なんじゃないか、という可能性も、じゅうぶんに考えられるのです。

 竜騎士07さんが得意とするトリックのパターンに、こういうのは、あります。

 竜騎士07さんはしばしば、事件の「真相」を、いちばん目につく場所に、ゴロンと放り出しておくのです。
 わたしたちユーザーは、無造作に転がされた「真相」を、まっさきに見つけます。
 そして、
「こんな目につく場所に置いてあるものが、真相であるわけがない」
 と判断して、ほかのものを見つけることに、やっきになるのです。

 その類例が、たとえば、『ひぐらし』の『鬼隠し編』や『罪滅し編』。
『鬼隠し編』では、圭一は、「入江監督が黒幕であり、白いワゴンに乗った男たちが悪事の部下である」という置き手紙を残します。
 それは精神錯乱が見せた被害妄想だ、とわたしたちは思ってきたわけですが、実は全部正解でした。
『罪滅し編』のレナは、「宇宙人がウィルスをばらまいていて、入江診療所は悪の巣窟だ」ということを訴えていて、それは本編中では完全に妄想として扱われていたのですが、のちにそれは全部正解だったことが、明らかになります。


 わたしたちミステリユーザーは、もはや擦れすぎていて、
「こんなに真っ先に思いつくことが、正解なわけがない」
 と思いこんでしまいます。竜騎士07さんは、その心理を突いてくる……という可能性は、少し真剣に検討しても良いように思うのです。


 さて。
 郷田がどうして真里亞の薔薇を手折ったのかということですが、参考資料としてお目にかけたいある文章があります。

 今はもうサイトが消えてしまったのですが、e-novelsという、小説のネット販売サイトがかつてあって、そこに無料の読み物として
『食は応酬にあり』
 という食べ物に関するエッセイが連載されていました。
 著者は我孫子武丸さんと、田中啓文さん。『かまいたちの夜』シリーズの脚本を手がけられたお二人です。ちなみに余談ですが、竜騎士07さんはまちがいなく『かまいたちの夜』をプレイ済みのはずです。

 そのエッセイのある回に、こんなエピソードが紹介されています。


・小学校の夏休み、農家(母親の実家)に一週間ほど滞在したとき、庭に半放し飼いにされていたニワトリたちと仲良くなったのに、最後の夜に食卓にのぼったのが、最も仲の良かった「ピーちゃん」の唐揚げだった。なぜ、よりによってピーちゃんだったのかと伯母に訊いたら、
「首にピンクのリボンが結んであったから、目についた」
 との返事。それは友達の印に、あたしが結んであげたリボンだよ! 台所のゴミバケツに捨てられたピーちゃんの生首……。

『食は応酬にあり』第49回 食べ物にまつわる悲しい思い出
http://web.archive.org/web/20060707152257/www.so-net.ne.jp/e-novels/yomimono/ousyuu/049.html 

 竜騎士07さんがこれを読んでたとか読んでないとか言うつもりはないのですが、もし薔薇を郷田が摘んだのなら、これとまったく同じことが起こったのではないかな。

 真里亞にとっては、飴の包み紙のリボンは薔薇と自分との友情のあかしですが、事情を知らない大人から見れば、
「ゴミがくくってある」
 と見えても、しかたないのです。

 この説に、問題点を挙げるとすれば、郷田が薔薇の花びらを使ったのは、デザートに文字通り「花を添える」ためで、花びらそのものをお皿に飾ったのです。
 真里亞の薔薇は一見してわかるくらいしおれていたのですから、そんな薔薇をわざわざ使うだろうか、という疑問が生じます。

 でも、べつにこれは、「盛りつけの練習用として摘んだ。本番にはもちろん使わなかった」くらいで回避できてしまうかもしれません。
 薔薇の花びらを盛りつける、なんて、いくらベテラン料理人だって、そうそうあることではないでしょう。
 だから、いちど予行演習として、薔薇の花をひとひらひとひらにバラしてみて、大きさや形を吟味する。で、お皿の上にのっけてみて、どう盛ったら映えるかを研究する。
 体温の高い男の手で、いろいろいじくった薔薇の花を、そのままお客様に供するわけにはいきません。だからお客様には、本番用に手折ってきた、とくべつきれいな薔薇をつかう。
 練習用は、べつにきれいでなくてもかまわない。というか、きれいなものを練習用につかうということは、庭園に咲いている美しい花が、その一輪ぶん減るということ。

 そこで以下のようなかたちになる。

「おやおやこの薔薇にはゴミがついている。おまけに少ししおれている」
「この完璧な薔薇庭園にはふさわしくないですねえ摘んでしまいましょう」
「ああ、ちょうどいい、デザートの盛りつけの練習にでも、これを使うことにしましょう」

 こんなもので、じゅうぶん、整合します。

 もしくは、郷田がしゃれっ気をきかせて、
「お客様がたに、ご滞在の記念として、当家でとれた手作りの薔薇のジャムをプレゼント」
 なんてことを思いついた、というのでも、ちょっと可愛いですけどね。
 あ、むしろそっちのほうがいいかな。わたしはこの手の、日本人ばなれしたキザな感じって大好きです。



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 竜騎士トラップ解析3・薔薇は郷田が摘んだ?
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霧江が会ったベアトは誰/マルフク寝具店にあったもの

2009年12月07日 09時28分31秒 | 背景考察
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


霧江が会ったベアトは誰/マルフク寝具店にあったもの
 筆者-初出●Townmemory -(2009/12/07(Mon) 09:27:54)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=36736&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注

 少し加筆しています。
 以下が本文です。


     ☆


 わりあい細かい推理を二題。

●ep2で霧江は誰に会ったのか

 ep2。源次をしたがえて、玄関ホールから堂々と屋敷に入来するミニスカブレザーのベアトリーチェ。
 それを霧江は目撃して、会話をかわしています。

 霧江が目撃しているのだから、ブレザーベアトはああいう姿の人物としてじっさいに存在しているのではないか、という説を採る人もけっこう多いみたいですね。

 わたしは、朱志香=ベアトリーチェ説をとっていますので、あの場面は、朱志香と霧江の会話が発生したのだ、という立場です。
 ブレザーベアトは、「朱志香が魔女として行動している姿」だという理解をしています。ブレザーベアトがいるところには朱志香の体があるっていうことです。ドレスベアトは観念的な存在で、ブレザーベアトは物理的な存在だという区別ですね。

 さて、こういう考え方をとる場合、「玄関ホールの霧江とベアト」のシーンは、どう解釈したらいいのか。わたしがどういう整合のさせかたをしているのかということをお話してみます。じつは、わりと強引で、アクロバティックです。

     *

 ep2の霧江は、玄関ホールのシーン以前に、いくつか印象的な発言をしています。

 まず霧江は、薔薇庭園で、真里亞が語る「ハロウィンと魔女の話」をきちんと聞いています。その話を嫌がる楼座に対して、
「…………女の子には女の子の世界があったことを、私たちはたまに忘れるわ。時には尊重してあげないとね。」

 というフォローまで入れている。

 さらにそのあと。
 霧江は楼座とふたりで真里亞のことを話すのですが、
「楼座さんは毎日を真里亞ちゃんと過ごしてるから、小さな変化に気付かないかもしれないけれど。一年ぶりに再会した私たちには、その大きな成長ぶりがよくわかりますよ…。」

 と、真里亞ちゃんに対して、とても肯定的なものの見方をしています。

 ここで押さえておきたいのは、
 まず、霧江さんという人は、
「魔女に傾倒する少女の感性」
 に対して、ひじょうに理解とシンパシーをもった人だということ。

 そして同時に、霧江はこの日、
「魔女ぶりたがる女の子」
 というものに対して、すごく印象が強い状態だ、ということなのです。


 さて。
 そういう霧江さんが、そういう精神状態で、化粧直しに出たところ、玄関ホールで源次を従えた朱志香に会ったと思って下さい。
 一年ぶりに再会したといえば、霧江は朱志香にも一年ぶりに会ったのです。

 ここでは、ブレザーベアトは朱志香であるという仮定ですから、
「肖像画の魔女のように尊大な表情をして、肖像画の魔女のように尊大に歩く朱志香」
 に、ばったり出くわしたのです。

 霧江は、こんなセリフを投げかけます。
「……初めまして。霧江と申します。初対面でしょうか。もし以前に挨拶をしていたなら、名前を忘れてしまって申し訳ございません。」

 さて、これは一見、義理の姪っ子に言うようなセリフではありません。

 けれども。
 このセリフにこめられたニュアンスが、以下のようなものだったら、どうでしょう。

「あら初めまして。そんなふうに肩で風を切って偉そうに歩くあなたはいったいどちらさま?」

 からかいを含んだ、ユーモアなセリフ。状況にも一致し、大人の女が18歳の女の子に投げかけそうな言葉に、急になってきませんか。

 霧江には、
「朱志香ちゃんはベアトリーチェを気取って、ベアトリーチェぶって歩いている」
 と見えたんじゃないかな。
 霧江は、「女の子の魔女傾倒」に理解とシンパシーがある人です。
 真里亜のつぎは、朱志香の魔女ごっこをみて、「あらあら、ここの一族は」と思いつつも、軽ーく、乗ってあげる。そんな行動は、とりそうな気がするんです。

 霧江はそのあと、こんなやりとりを想定してたんじゃないかしら。

「あら初めまして。そんなふうに肩で風を切って偉そうに歩くあなたはいったいどちらさま?」
「妾はベアトリーチェであるぞ」
「プッ、ウフフフ、何言ってるの朱志香ちゃん。なかなか似合うわよ」


 ところが、朱志香の返答は、霧江の予想をこえていました。
「…うすうすは想像がついているくせに、妾に敢えて名乗らそうというのか。」
「………………………。」

 想定外の返事が返ってきたので、霧江は思わず絶句してしまいます。
「冗談の魔女ごっこだと思っていたら、本気っぽかった」がための絶句だと考えても良いのですが、
「18歳の小娘が、自分の詰め手をあっさり見抜いて、切り返してきた」
 から、一瞬、虚を突かれた、と考えたいような気がします。

「初めまして。あなたのお名前を教えて下さい」
 という霧江の呼びかけは、
「相手に、自分はベアトリーチェだと名乗らせる」
「それによって、『何言ってんの、もう』というところに話を持って行く」
 という、「会話の詰め将棋」だったんじゃないかなっていう理解なんです。

 この手のカケヒキには自信を持っている霧江が、詰め手をかわされ、逆に沈黙させられた。これは驚いた……。という反応だというふうに見たいのです。わたしの願望的に。


 ブレザーベアトが階段を上がっていったあと、夏妃があらわれて肖像画を見て、「魔女なんてお父様の世迷い言ですよねー」といった意味の発言をします。
 それを聞いて霧江は、「いやいや、あんたのお家、魔女ウロウロしてますから! それともごまかしてんの?」といった意味のことを内心で思います。

 でも、ブレザーベアトが朱志香だとしたら、それも問題ないのです。
 霧江は朱志香の中に魔女を見たわけですが、夏妃にとっては単に、自分の娘が屋敷の中を歩いているだけのことなのです。
 もし夏妃が、階段を上がっていくブレザーベアトの後ろ姿をちらっと見たとしても、それは彼女にとっては、「娘の後ろ姿」としか認識しないわけなのです。


●マルフク寝具店にあったもの

 アニメ版を見て思い出したもう一題。ep4の縁寿が、マルフク寝具店で見つけた「これが魔法なのね」と思うもの。
 これはもう、「さくたろうがもう一個あった」という推理が定説になっていますよね。それに賛成です。そう思います。いまさらの論点だけれども、いちおう論じておきます。

 この場合、「さくたろうはひとつしかない楼座のハンドメイド品である」という事実に反することになるわけで、そのあたりの整合のさせかたには諸説があるみたいです。

 これは普通の考え方で、多くの人が同じ意見だと思うのですが、わたしは、
「楼座の死後、アンチローザ社がさくたろうを商品化して流通させた」
 ということで、良いかなって思っています。

 この説の良い点は、「さくたろうは楼座が愛をこめて作った唯一無二のものであってほしい」という願望に、反しないことです。

 さくたろうのぬいぐるみは、六軒島の事件が起こった時点では、たしかに、
「楼座が手作りした唯一無二のもの」
 であった。
 けれども、事件後、楼座の会社が勝手に商品化して売り出したので、同じデザインのぬいぐるみがあるという意味では、唯一無二ではなくなった。

 楼座が手作りしたオリジナルさくたろうと、社員がコピーした製品版さくたろうが存在するという形の理解ですね。

 未来の真実は過去の真実にまさる、というセリフがep5にあります。これはまんま「後期クイーン問題」で、さくたろうのこともきっとこれだと思います。
「さくたろうは世界にたったひとつ」という真実は、ある時点までは真実だったけれども、その後、新たな別の真実が生まれたので、それは真実ではなくなった。

 TIPSには「型紙も消失している」とあるけれども、べつに焼却処分されたと書いてあるわけでもないし、「消失していた型紙が発見された」ということで良いのです。これも「未来の新たな真実」です。

 アンチローザ社は、オーナー・デザイナーであった社長が急死したので、たいへんな混乱に陥ったのでしょう。
 進行中だったビジネスもストップだし、新商品だって作れない。
 けれども社員たちにも生活があるわけで、なんとか会社を回していかなければならない。
 そこで、会社の方向転換がはかられる。
 楼座が好むような、高額高付加価値商品ばかりで押していくのをやめて、安価で大衆的な縫製商品を出していくことで、会社の生存を図ろうとする。ようするに、渋谷か原宿にしか売ってないような服ばかり売るのをやめて、場末のマルフク寝具店に置かれるようなものを作って売るようになる。

 たぶん、型紙はそんな折にタイミング良く発見されたのかな。
「非業の死にみまわれた当社の前社長・右代宮楼座が、愛娘のために作った抱きまくら」
 というのは、売り出し文句として申し分ありません。六軒島事件は大ニュースですから、それに乗っかるかたちで、会社の存続をはかる。
 そのくらいのことは普通にありそうで、無理な想像ではないように思うのです。


 ベアトリーチェが「さくたろうを生き返らせられない」というのは、
「さくたろう人形は唯一無二のもの」
 という情報にもとづくものです。
 ベアトリーチェは1986年までしかない、切り取られた六軒島の中にいるので、その時点までの情報しか持っていません。

 1998年の縁寿は、そんなベアトとマリアの黄金郷に、
「さくたろう人形はもうひとつ(以上)ある」
 という、1986年以降に生まれた「新たな真実」を持ってきた。だから、古い真実しか持っていないベアトにはさくたろうを生き返らせられないが、新しい真実を持っている縁寿はさくたろうを生き返らせることができる。

 縁寿はベアトリーチェに「後期クイーン問題」をつきつけたのだ、という理解なのです。
 未来の真実によって、過去の真実を撃退する。この形はきれいなので、できればそういう形にもっていきたい。この形をつくるには「楼座はスペアを作っていた」とか「さくたろうは最初から市販品だった」という説では、なかなかうまくいかない感じなのです。



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【カケラ紡ぎ】六軒島の惨劇を起こさない方法

2009年12月02日 08時05分46秒 | 背景考察
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


【カケラ紡ぎ】六軒島の惨劇を起こさない方法
 筆者-初出●Townmemory -(2009/12/02(Wed) 07:55:53)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=36486&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 カケラ紡ぎです。
 可能性のカケラを集めて、「惨劇が起こらないカケラ世界」を組めるかどうか、という試みです。
 たしか『ひぐらし』の祭囃子編には、「私(作者)の推理とあなたの推理の一騎打ちです」というような挑発的なメッセージが書かれていたのではなかったでしょうか。とすれば、「オリジナルのカケラを自分で紡げる」ようになるところまでが、「求められている推理」であるようにも思えます。

 ※ひぐらしのネタバレあります。

 以下が本文です。


     ☆


『ひぐらし』の祭囃子編には「カケラ紡ぎ」というフィーチャーがあります。連想ゲームのような要領で、すべての登場人物のバックグラウンドを「世界のパーツ」として取り出すことができる。そのパーツを組み合わせて、ひとつの世界として組み上げたのが祭囃子編だというような理解です。必要な部品が全部揃っているので、世界を完結させられる。ゲームクリアまでもっていける。

 すべての背景が判明し、ゲームクリアまでの道筋が判明したことで、「惨劇にいたる最初の一歩」が理解されます。それは「田無美代子の両親の事故死」で、これが起こらなければ、雛見沢村の惨劇はほとんど起こらなかったんじゃなかったか、とユーザーは思い至ります。そこで、最後の最後に、スペシャルフィーチャーとして、
「列車事故が起こらなかったカケラ世界」
 が可能性の海の中から紡ぎ出されて、あの物語は幕を閉じるのです。


 では、『うみねこ』における、「田無美代子の両親の事故死」にあたるイベントは何だろう。それが、今回のお題です。

     *

 ところで、アニメ版のep4を最新話まで見てきました。さくたろう周りの描写、真里亞の感情が変質していく過程が、すばらしい。たぶん原作よりずっとわかりやすいです。

 さくたろうは、真里亞の友達であるけれども、同時にやっぱり、真里亞の別人格(ペルソナ)としてとらえるべきものでもあります。
 さくたろうは、真里亞の中にある「信じる気持ち」「優しい気持ち」「善性」などを、別人格として独立させたもの。

 ママを恨んだり、憎んだりしそうになると、真里亞の善き側面が「さくたろう」というかたちをとって、「そんなこと考えちゃ駄目だよ」「ママを信じてあげようよ」と反論する。
 そのことによって負の感情が抑えられ、精神のバランスがとられる。

 さくたろうはいわば、真里亞の精神が善悪の均衡をたもつための安全弁であった、といえます。
 真里亞は孤独とか不安の生活のなかで、そういうセルフコントロールシステムを独自に構築して、なんとかやってきたのです。


 楼座は、そんなことも知らずに、さくたろうの首をひきちぎって殺してしまいました。

 真里亞をかろうじて安定させていた「さくたろうシステム」が破壊されました。
 さくたろうは真里亞の「善性」そのものです。
 それが死にました。つまり、真里亞の「善性」は、実の母によって殺されました。

 もはや、真里亞の「負の感情」を抑制してくれる存在は、ありません。いや、むしろ、「善性」そのものが死んだのだから、
「負の側面だけの存在になった」
 といういいかたのほうが、正しいかもしれません。シスの暗黒卿ダース・マリアの誕生です。

 自分を愛さない、約束を守らないママを憎みたくなったとき、それをおしとどめていたのはさくたろうでした。さくたろうはもういません。
 だから真里亞は、楼座に対して怒り、憎悪し、なじり、想像力の中でママをめちゃめちゃにひきちぎることを止められないのです。たぶんそういうことだと思います。

     *

 そんなママ殺しの様子を、じっと眺めていた人物がいて、それはベアトリーチェです。

 ベアトリーチェが残酷な悪い魔女になったのは、真里亞が黒真里亞になる過程を見て、それがいわば「うつった」からじゃないかな、という感じがするのです。
 ベアトリーチェは「闇の魔女の世界へようこそ」みたいなことをいいますが、じつは因果関係は逆で、真里亞の黒化が、ベアトリーチェを悪い方向にひきよせた、みたいな印象をもっています。

 あんまり、作者インタビューから情報をひっぱってくるのは好きではないんだけれども、電撃オンラインのインタビューで、

「真里亞との出会いなくして今日のベアトリーチェはありえないということは間違いないわけなので。ベアトリーチェにとって真里亞は無視できない存在であり、そして今日のベアトリーチェを構築するうえで欠かせない要素であったことも間違いないわけですね」

『【うみねこEP4対談】現段階で碑文の謎は、解けるといえば解けます』
 http://news.dengeki.com/elem/000/000/144/144722/index-2.html


 という発言を竜騎士さんはなさっていますが、この発言は「真里亞の魔法に邪悪な面があった」という文脈上にでてくるのです。


 なんというか、それまでのベアトリーチェ(の中の人)は、白真里亞とおなじで、よき魔法で自分と周囲をさいわいにする白い魔女だったんじゃないかなあ。
 けれど、負の側面に支配された真里亞のすることを見て、ああ、と気づいてしまう。
 魔法というのは、自分を祝福し、他人を祝福して、幸せをもたらすものだとばかり思っていたけれども、くるっと180度ひっくり返せば、他人を傷つけ、つまり「呪う」ことにも使えるんじゃないか。
 祝うか呪うかは、そこにこめられた感情が正なのか負なのかの違いだけで、メカニズムとしてはまったくおなじなのですね。

 ベアトリーチェは、真里亞がママを呪いつづけるようすを見て、たとえばですが、こう思う。
「自分だったら、誰を呪うだろう」

 わたしはベアトリーチェの正体は朱志香だと思っていますので、たとえばですが、以下のように想定したりします。

「私に呪いたい相手がいるとしたら、ジジイ以外の、右代宮一族全員だな」
「あいつらは誰一人、一族みんなで愛し合うということを知らない」
「欲の皮をつっばらせて、遺産をせしめることで頭がいっぱいだ」
「楼座おばさんが真里亞を愛していないように、あいつらはお互いをまったく愛していない」
「あいつらをもう見たくない」
「いっそ殺してしまいたい」
「楼座おばさんを殺してしまえば、私や真里亞は、想像力という名の黄金郷のなかに、理想の楼座おばさんを生み出して住まわせることができる」
「右代宮家を全員殺してしまえば、想像力という名の黄金郷のなかに、理想の右代宮家を生み出すことができる。そこでは誰も遺産で争わず、みんなが仲良く幸せに暮らしているのだ」
「だからもうみんな殺してしまおう」


(これに加えてもうひとつ。さくたろうに相当するような、「朱志香にとっての想像上の友達」を誰かに殺された/否定された経験があり、それも黒化に影響している、というような推理も持っています。これは上で書いた想像と両立できます。
 現状、わたしは、「嘉音」は朱志香のイマジナリーフレンド(想像上の友人)だと考えています)

     *

 さて。
 以上のような想像を、仮にOKだとして下さい。
 こうなりますね。

「さくたろうが殺されなければ、六軒島の惨劇は起こらなかった」

 わたしの個人的な推理上では、ここがひとつのチェックポイントになるのです。

 だから、「さくたろうが殺されない可能性」をカケラの海から取り出してやれば、「六軒島殺人が起こらないカケラ世界」を紡ぎだすことができる。
 さあここからが本論だ。


 さくたろうが殺されないようにするためには、どうしたら良いでしょうか。
 たとえばミニマムなことを言えば、「真里亞が家の鍵を落とさない」とかも考えられますが、これは問題を先送りするだけです。別のきっかけでさくたろう殺しが発生する可能性はいくらでもあります。

 さくたろうを殺すのは楼座ですから、楼座と真里亞のあいだにある問題が解決されないかぎり、いつかさくたろうは死にます。

 そこでざっくり、こういう言い方をしてみます。
「楼座が育児ネグレクトを起こさない」
 か、もしくは、
「楼座が育児ネグレクトを起こしても、周囲のフォローによって適切に処理される」

 このどっちかの条件があれば、さくたろう死亡ルートをかなり塞ぐことができるんじゃないかしら。

 楼座が抱えてる問題は、「会社がうまく回らなくて忙しくてしょうがない」です。まあ、真里亞がいるから再婚できない、という感情の問題もあるんでしょうが、そっちはメインじゃないように見ました。

 わたし個人の話をしますが、わたしは子供の頃、両親が共働きだったので、いとこの家に預けられて面倒をみてもらう、ということがけっこうあったのです。

 もし楼座が育児をネグったら、民生委員さんが頑張るか、親族の誰かが気を利かして言い出すか、もしくは楼座自身が知恵を働かすかして、
「楼座が帰宅できない日は、親戚の誰かのうちに真里亞を預ける」
 という習慣が右代宮一族に発生すれば、真里亞がひとりでコンビニ生活をすることもないし、真里亞の精神に強いストレスがかかることもないし、真里亞が外でお人形遊びをすることもないし、楼座がさくたろうをビリビリにひきちぎるようなことも起こらないはずだ、と考えたのです。

 さて、楼座の親戚といえば、三家あります。

 蔵臼さんのお宅は孤島ですから、ちょっと難しいです。

 絵羽さんのところと留弗夫さんのところはどうでしょう。
 はっきりと描写はされていませんが、絵羽、留弗夫、楼座は、3人とも都内かそのへんの在住ではないかな。銀座のお店がどうのっていう話が出てきますしね。なので地理的にはこの2家族は問題ないとしましょう。

 絵羽さんのお宅は、子供を預かるというのは難しいかもしれません。
 秀吉が社長で、譲治もすでに就職しています。絵羽が何をしている人なのかちょっとわかりませんが、すごく多忙っぽいという描写は若干あります。ep6で、絵羽と留弗夫のスケジュールが合う日がほとんどない、なんてことを言っていました。

 留弗夫さんのところはどうでしょうか。
 留弗夫本人は、社長ですから、当然多忙です。霧江は、留弗夫の片腕としてこれまた仕事をしています。そして会社はトラブルに巻き込まれて大変な状況です。
 そういえば縁寿はどうなっているのかしら。おそらく託児所などが利用されているはずだと思います。
 そう考えると、留弗夫さんのお宅も真里亞を預かるのは難しそうですね。


 しかし。
 ここに「戦人」という存在を想定するのなら、すこし話は違ってきます。

 もし、戦人が家出をせずに、留弗夫のもとにいづづけていたら?

 留弗夫と霧江が働いているあいだ、戦人が家にいたら、彼は縁寿のめんどうをみることができます。
 そのついでに真里亞のめんどうをみる。これは問題なく可能であるように思うのです。

 縁寿がいるところに真里亞を預ける。かたちとしては、真里亞が縁寿のところにあそびに行くというような体裁。これは自然です。
 というか、もし「戦人と縁寿が仲良くおるすばん」しているという状況があったとしたら、ついでに真里亞も預かろう、という話が出ないワケない気がするのです。


 ということは、
 これが仮定のうえに仮定をかさねた話であることは自分でも承知してはいますが。

「戦人が留弗夫のもとから去らない」
 というカケラを探し出し、そこから適切に物語を紡いでゆけば、
「さくたろう殺しが発生せず、六軒島殺人も発生しないカケラ世界」
 を紡ぐことができるんじゃないか。

 ということを考えたのです。

     *

 このカケラ紡ぎの延長上にある話として、以下のことを指摘したいのです。

 もし、仮に。
「戦人が6年間の家出をしなかった」としたら。
 戦人は6回、毎年親族会議に出席したでしょう。
 そして出席するたびに、楼座が真里亞に暴力をふるうさまを、目撃するでしょう。

 戦人はぜったい、どっかの段階で「やめろ叔母さん!」と止めたはずです。そう思うのです。

 ep1だったと思うのですが、楼座が(自分ではしつけのつもりで)常軌を逸した折檻を真里亞に対して与えるシーンがあります。
 そんなシーンを初めて見た戦人はビックリして、止めようとする。
 けれど譲治がそれを制して、
「あれは楼座おばさんと真里亞ちゃんの二人の問題で、僕たちが口をはさめるようなことじゃないんだ」
 というようなことを言う。
 その場面ではそれが結論のようになって、次のシーンに進む……。

 わたしはこの場面を見た瞬間に思ったのです。

「ひぐらしの沙都子のエピソードを描いた竜騎士07さんが、『僕たちが口をはさめるようなことじゃない』なんていう結論を、本気で良しとしているハズがない」

 これは絶対に、「あとで強く否定されるために提示されたもの」にちがいないと思いました。今も思っています。

 戦人は6年ぶりに楼座や真里亞に会って、そんなふうになってしまっている親娘に直面したのです。もう、この段階から口を挟むことは無理です。すでに固まってしまった状況を、ちょっと意見したくらいでほぐすことなんて不可能です。6年間、他人のふりをしていたというひけめだってあります。

 でも、その親娘問題を、もっと当初から戦人が目撃していたら、どうなっていただろう。
 たとえば、3年くらい前に。
 戦人は熱血漢で正義漢です。口をはさめる筋合いじゃないことはわかっていても、何度も何度も幼い娘をひっぱたく楼座を見て、
「やめろよ!」
 と割って入ったにちがいない、ということが、わたしにはなんとなく幻視できるのです。

 もし、そういう「やめろよ!」があったとしたら。戦人が、楼座家のことを問題だと感じて、留弗夫や霧江にそのことを相談したとしたら。
 それをきっかけに、
「楼座が忙しければ、留弗夫の家で真里亞ちゃんを預かる」
 という流れは、かなり自然にうまれたような気がするのです。
 ひょっとしたら、「俺が真里亞ちゃんの面倒みるわ!」くらいのこと、戦人はタンカをきった可能性だってありそうです。



 ベアトリーチェは「戦人に罪がある」というようなことをいって、戦人の家出のことをほのめかしていますが、まさかこんなところまで可能性をさぐって「おまえが家出したからこんな惨劇が起こるんだ」と言ったわけではないと思います。それはまた別の文脈だと思うのですが、それはそれとして、やっぱり「戦人の家出」を起点として、いろんな悲劇が派生していそうだなあという感じは、とても強く受けるのです。



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明日夢はいったい誰なのか?

2009年10月12日 21時21分41秒 | 背景考察
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明日夢はいったい誰なのか?
 筆者-初出●Townmemory -(2009/10/12(Mon) 20:18:00)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=34084&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注

 前回に引き続き、「整合性とかにあまりとらわれず、いろいろ自由に想像してみよう」という趣旨です。

 以下が本文です。


     ☆


「雑多な想像」シリーズです。
 根拠がうすくてもいいから、いろいろ組み合わせて火サスみたいにドラマチックにしてみよう、という趣旨でお送りしております。


 さて、「明日夢さんはいったい何者なの?」ということについて、そろそろまとまった考えをもちたいな、と思っておりまして、少しまとめてみることにしました。
(これまでの書き込みと、内容が重複します)


 「ep5初期推理その6・戦人の謎」という書き込みで、

「19年前の赤ん坊は戦人ではないか?」
「戦人は九羽鳥庵ベアトと金蔵の間にできた子じゃないか?」


 という推理をしました。

 そして、「19年前の赤ちゃん崖落ち事件」のときに、夏妃のそばにいた使用人とは熊沢なのではないか、とも、想像しました。

 ep4の川畑船長の話によると、熊沢は九羽鳥庵の存在を知ってるようでした。熊沢は九羽鳥庵ベアトの、「ばあや」だったのではないか、という想像は、それほど無理がありません。
 すると(この推理での)熊沢は、「赤ちゃんは九羽鳥庵ベアトと金蔵の子である」ことを知っていることになります。

 この場合、
「どうして使用人は、赤ちゃんを崖っぷちなんかに連れて行ったのか」
 が、心情的に説明がつきます。
 九羽鳥庵ベアトが崖から落ちて死んだからです。
 これから継母に育てられることになる不憫な赤ちゃんに、せめて、実のお母さんが天に召されていった場所を見せてあげようと思った。
 この想像は、ドラマとして、悪くなさそうです。

 そして、「崖落ち事件」が起こった。
 赤ちゃんも熊沢も、何らかの理由で、死ななかったことにしましょう。

 熊沢は、
「この赤ちゃんを奥様に預けておいては、また今日のように危険かもしれない」
 という判断をすることができます。
 熊沢は夏妃の苦しみも間近に見ているわけですから、
「この赤ちゃんがいては、奥様は決して幸せにはなれない」
 という判断も働かせることができます。

 だから熊沢は、赤ちゃんを死んだことにして、ひっそりどこかに逃がした……。
 そんなバックグラウンドストーリーを、想像してみたのです。
 ここまでが前置きです。

     *

 さて……。
 この赤ちゃんなんですが、19年たったとき、留弗夫と明日夢の子になっていてもらわないと困ります。

 留弗夫については、「熊沢が赤ちゃんを留弗夫に預けたのかな?」という想像で、なんとかなりますが、明日夢さんをどこかから登場させてやらないと、具合が悪い。
 なにしろ明日夢という人は、留弗夫が霧江との婚約を蹴ってでも結婚したかった人なわけで。そしてそんな明日夢の子としての戦人という人がいるわけで。

 ここで思い出したいのは、ep4で戦人が、飛行機を異様に怖がるくだりです。

 留弗夫と霧江が、
「戦人の『落ちる落ちる騒ぎ』は、明日夢の遺伝かもしれない」
 という話をしています。
 明日夢という人は、留弗夫いわく、
「怖い怖い落ちる落ちるぎゃーぎゃーとうるせぇ女だった」
 というのです。

 でも、「戦人は明日夢から生まれていない」という赤い字があります。
 明日夢から生まれていない戦人に、明日夢の恐怖症が遺伝することはありません。
 つまり、遺伝子的には赤の他人である2人に、なぜか同じ恐怖症があるということになります。

 この場合、
「明日夢にも戦人にも、高いところから落ちた経験があり、それがトラウマになっているのだ」
 と考えればよい。
 それが「19年前の崖落ち事件」だった、としたらどうでしょう。
 戦人と明日夢のあいだに、つながりを作ることができるのです。

 この仮定を採用する場合、

「明日夢は右代宮家の使用人だった」
「崖から落ちた使用人は、熊沢ではなくて明日夢だった」


 という推論が、自動的に導かれることになります。

 事件のとき、実は使用人は2人いた。2人の使用人とは熊沢と明日夢だった。
 赤ん坊を抱いていたのは明日夢だった。
 崖から落ちたのは、明日夢と戦人だった。

 夏妃の回想で、以下のような記述があります。

「あの日、年配の使用人に赤ん坊を預け、私は薔薇庭園でこれからを思案していました。」
「赤ん坊の泣き声がうるさいので、聞こえないところへ連れて行きなさいと、私は使用人に命じました。」

 ちょっと苦しい感じではありますが、この場には、「年配の使用人」と「使用人」がいた、と考えるのです。年配が熊沢で、使用人が明日夢です。

     *

 さて、崖から落ちた明日夢。
 生きてはいたけれど、かなりの大けがをしたのかもしれない。
 そうでなくても、崖から突き落とされるなんて経験をした以上、こんな屋敷に勤めてはいられません。

 そこで、熊沢によって、
「明日夢と赤ちゃんを死んだことにして、右代宮の屋敷から遠ざける」
 というプランが発案された(と、考えます)。

 夏妃はべつに死に顔を見たわけじゃなさそうですし、金蔵にいたっては「うちすてい」ですから、源次をはじめとする使用人たちさえ口裏を合わせれば、生きてる人間を死んだことにもできるのです。
 これは奇しくも、死んだ金蔵を生きてることにした夏妃のプランに酷似しています。生と死が逆ですが、本質的には同じことですね。

「死んだことにする」とはいっても、法的なところまでどうこうするわけではなく、「金蔵と夏妃と蔵臼には、死んだと言っておく」という程度のことです。
 夏妃は、「使用人の遺族にはじゅうぶんなねぎらい金を与えた」と言っていますが、まさか夏妃本人が遺族に会って手渡したわけでもないでしょう。
 なので、
「そのねぎらい金は、明日夢本人が、源次経由で受けとった」
 ということにします。
 源次や熊沢は、この大金を明日夢に与えたうえで、
「この資金で、この赤ん坊を連れて、どこか遠くで暮らしてくれまいか」
 というふうに言い含めた……というようなストーリーを想像するのです。

 このとき、当然の疑問として、
「なぜ、赤ちゃんを連れて行かねばならないのですか?(お屋敷で不自由なく育てたほうが良いのでは?)
 と、明日夢は訊ねたはずです。

 それを納得させるためには、隠された事情を打ち明けねばなりません。熊沢(か源次)は、
「実はこの赤ちゃんは金蔵翁と愛人のあいだにできた子で、夏妃との軋轢がうんぬん……」
 ということを、正直に打ち明けたことにします。これこれの事情だから、赤ちゃんが二度と夏妃の前に現れないよう気を配ってくれ、と。

     *

 ところで、19年前に、明日夢が右代宮邸につとめていたとすると、当然、留弗夫と明日夢は、面識がありますね。
 留弗夫という男は、女癖がわるい、という描写がされております。
 そこで、面識だけじゃなくて、もう二、三歩、踏みこんで、

「明日夢は、留弗夫坊ちゃんと、一時期、恋愛関係にあった」

 というようなことを、勘ぐってみました。
 ちょうど、譲治と紗音ちゃんみたいな関係だったと考えるわけですね。

 ただ、違うのは、留弗夫は遊びのつもりだったけど、明日夢は本気だった……。

 明日夢は、自分が預かった赤ん坊が、右代宮家を左右する、とんでもないジョーカーであることに気づきます。
 右代宮の屋敷を出た明日夢は、留弗夫のもとに直行し、こんなことを言ったのではないかしら。

「この赤ちゃんは、金蔵翁と愛人のあいだにできた子供です」
「蔵臼に育てさせようとした、ということは、金蔵翁は家督をこの子に継がせるつもりです」
「金蔵翁は、財産のかなりの部分を、この子に譲る可能性が高いですね」
「そうでなくても、愛人の子というのは、まちがいなく金蔵翁のウィークポイントです」
「この赤ちゃんを手に入れるということは、金蔵翁に対して無条件に勝てるジョーカーを手に入れるようなものです」

「この赤ん坊を、あなたの子として育ててみませんか」
「そのかわり条件があります。私と結婚して下さい


 もし留弗夫が自分と結婚しないなら、この赤ん坊は絵羽に献上する、くらいのゆさぶりはかけたかもしれません。

 留弗夫は、このジョーカーを手札に引き入れる誘惑には勝てなかった。もしくは、こんな切り札が絵羽の手に渡るのはなんとしても避けたかった。
 そこで、妊娠までしていた霧江との婚約を強引に破棄して、明日夢と結婚し、戦人を育てるみちを選んでしまった。

 こんなストーリーを想定すると、
「わけがわからないうちに留弗夫を明日夢にかっさらわれた霧江」
 というあたりまで、うまく、はまる感じです。

 明日夢が戦人にやさしかった、というのも、この想定ではそうおかしくないです。明日夢にとって戦人は、自分を留弗夫とむすびつかせてくれた愛のキューピッドです。恩人です。

 ep2で、お手洗いの中でプロポーズのリハーサルをする譲治に、「あんまり力むなよ」と軽口をいっていたのは留弗夫でしたが、あれは自分と明日夢のことをちょっと思い出して、ひとこと言いたくなった、のかな……? という想像もできます。

     *

 以上のようなドラマチック展開なのですが、二、三点、問題がありますね。

 この条件だと、明日夢は結婚後、留弗夫以外の右代宮関係者と、顔を合わせることができません。
 会ってしまったら、「あ、あんた、前にうちに勤めてた人……」ということになってしまいますし、「死んだはずの人がなぜか生きてる」ことにもなってしまいます。
 死んだはずの明日夢が生きていたら、「赤ん坊も生きてるかもしれない」という発想に至るのはすぐですからね。

 金蔵と夏妃と蔵臼にだけ会わなければ、それでおっけーという考え方もあります。その場合は、親族会議にさえ出なければいいのかな。
 ただその場合でも、結婚式は挙げられませんし、姻族どうしでいっさい挨拶ごとをしないという、不自然な人間関係になります。

 もうひとつ。
 夏妃は、「気の毒な使用人には、老いた夫がいた」「その夫は、数年前に老衰で亡くなり、その後墓前に立って謝罪をした」という意味のことを言っています。
 明日夢にはもちろん老いた夫はいませんし。
 まあ、夏妃は「年配の使用人が崖から落ちた」と考えているわけで、なんらかの心理的な作用によって、自分の記憶を自分で改竄している、つじつまをあわせている……という突破もできますが、苦しいです。

(何かうまいすりぬけ方はないかなあ)


 そして、明日夢の死……。
 ここにも、何かのドラマを想定したいところですよね。
 明日夢の死は6年前で、ちょうど縁寿が生まれるタイミングと一致します。
 明日夢が死んでくれたことによって、縁寿は非嫡出子にならずにすんだ……。

 さらーっと単純に連想するなら、霧江が陰謀をめぐらして殺した。
 もしくは、霧江のバックにいる「恐い人たち」が、勝手な判断をして、勝手に明日夢を殺した、という感じにしても良いかな。
 霧江はep3で、
「明日夢を呪っていたら、勝手に死んでくれた。呪いが効いたにちがいない。自分って魔女かも」
 という趣旨のことをいっています。
 霧江がドロドロと憎悪をにやしていたら、京都方面にいる「ちょっと恐いご友人たち」(須磨寺関係でしょうねえ)が、気を利かしてサクっとやっちまった。そんな想像でもいいですね。
 この場合、ep4での縁寿による「霞殺しの魔法」の正体が「天草の銃撃」だった、というのと、ほぼ同じ構図になります。

 そしてこの場合、
 須磨寺が右代宮明日夢を殺した
 →右代宮縁寿は幸福に、須磨寺霞は不幸になった
 →須磨寺霞は右代宮縁寿を殺そうとした
 →右代宮縁寿は須磨寺霞を殺した……
 という、一種の因果応報譚、というか、右代宮と須磨寺のあいだに発生した復讐連鎖の物語として読むことができるようになります。


 さらにですが、
 明日夢の死が「霧江関係」だとすると、なんと右代宮家の女性陣4人のうち、実に3人が、過去に殺しの罪を背負っている勘定になります。
 夏妃は19年前の赤ん坊殺し。
 楼座は九羽鳥案ベアトを崖から落としたこと。
 霧江は結果的に明日夢をなきものにしたこと。

 この調子だと、絵羽の過去にも、何か殺しに関する罪が出てきそうな勢いです。
 ひょっとして右代宮の女性陣は、「殺人者シリーズ」なんじゃないのか、という揃え方ができたら、ますますおもしろい感じがしますが、このへんはあんまり深くほりさげるのはやめて、気軽な想像として、浅く夢想するにとどめておきましょう。



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


■関連記事
●背景考察

 朱志香の喘息・鎮守の祠と鏡・ep5死体移動
 明日夢はいったい誰なのか?
 【カケラ紡ぎ】六軒島の惨劇を起こさない方法
 霧江が会ったベアトは誰/マルフク寝具店にあったもの
 竜騎士トラップ解析3・薔薇は郷田が摘んだ?
 Ep4三択の真里亞解答/煉獄七杭を本物に変える魔法
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朱志香の喘息・鎮守の祠と鏡・ep5死体移動

2009年09月30日 05時42分24秒 | 背景考察
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


朱志香の喘息・鎮守の祠と鏡・ep5死体移動
 筆者-初出●Townmemory -(2009/09/30(Wed) 05:21:07)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=33412&no=0 (ミラー
 Ep5当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 整合性とかにあまりとらわれず、いろいろ自由に想像してみよう、という趣旨です。必ずしも推理として採用しているわけではないが、くらいに思って下さい。

 以下が本文です。


     ☆


 いくつか、雑多な想像を展開します。
 雑多な想像、というのは、
「はっきりいって、根拠にはとぼしいけれども、発想としては捨てがたく思ういろいろなこと」
 くらいのことだと思って下さい。なので、こんなの妄想じゃん、と言われたら、「えへへ、その通りです」という感じ。
 まあ、それをいいだしたら、今までの書き込みだってぜんぶ妄想同然なんだけれども……。


●朱志香の喘息

「朱志香が喘息持ちであったり夏妃が頭痛持ちであったりの必然性については、どこかで触れられていましたか?」
 というお題を、ブログのコメントでいただきました。

 取り上げたことなかったです。他の描写と、うまくリンクしてくれない要素なんですよね。単に「そういう病気持ちだ」というだけでも、困らないといえば、困らないですし。

 が、今回はうまく整合しなくても良いことにして、何か想像してみましょう。

「うみねこのなく頃に」に影響を与えたとされる、いくつかのミステリー作品がありますね。
 このあいだ、そのひとつをたまたま再読していて、
「あ、この真相は、うみねこにもそのまま当てはめられるかもしれない」
 と思ったことがあります。それは、

「朱志香は単なる喘息ではなく、もっと重篤な病気で、その余命はあと三ヶ月である」
 という可能性。

 これは「朱志香犯人説」をとる場合だけ整合する想像ですね。
 南條医師が金蔵に向かって、「あんたの余命はあと三ヶ月だ」というのを、そのまま、朱志香に対する余命宣告だ、とみなすわけです。

 そう考えると、犯人がこんな「大量殺人」にふみきった、きっかけのひとつとして見なせるようになる。
 ふつうの人は、誰かを殺そうと思って計画を立てたとして、なかなか実行にはふみきれません。
 が、近いうちに自分が死ぬことが確定している場合は、そのタガは外れます。失敗して罪に問われるのも、死刑になるのも、返り討ちにあって死ぬのもこわくない。
 最近読みかえした「とあるミステリー」もそういう形になっていました。


●鏡よ、鏡

 落雷で消失した鎮守様の祠。あれは、金蔵がわざわざ修復したものだそうです。

 祠におさめられていたご神体は、鏡でした。それを、紗音が割ってしまうのでした。
 この鏡の、出どころはどこだろう? というお話。

 破れかけ状態の祠に現存していた……のでないとしたら(仮に)、どこからか金蔵が手に入れてきて、祠に納めたのです。
 その場合、「祠を修復したのは、鏡をそこに納めるためだった(鏡を納める場所が必要だった)」という見方が可能になります。

 その考え方をとる場合、金蔵がどっかから持ってきたその鏡は、金蔵にとってとても大事な、とても意味あるものだということになりそうです。なにしろご神体として祀ってるのですからね。

 ようするに何がいいたいのかというと、
 祠の鏡は、金蔵に黄金を与えた「オリジナルベアトリーチェ」の愛用品だったとしたらどうだろう、という想像なんです。

 黄金伝説をうんだオリジナルベアトは、金蔵のもとから逃げようとして、自殺したということのようです。ep3でそんなことが語られています。
 その事件にショックを受けた金蔵翁が、

「おお、ベアトリーチェよ。おまえの姿を映し続けたこの鏡に、魂の残り香でも残っているのなら。どうかここでいつまでも島を見守り、私と私の一族を守ってくれ」

 そんな願いをこめて祠をつくり、その鏡をご神体として納めたというのは、ちょっとありそうな感じがするんです。

     *

 で、ここからわたし、ちょっと暴走します。

 鏡といえば。夏妃も、お守りの霊鏡を持っていました。
 オリジナルベアトも、鏡を持っていたことにしました(想像で)。
 何がいいたいかといいますと、
「オリジナルベアトリーチェは、ひょっとして夏妃の一族の出身だったんじゃないかな?」
 という想像なのです。

 たとえば、年齢的に考えて……「夏妃は、オリジナルベアトの、姪っ子にあたる」とかね。そんな、距離感(源氏物語だなあ)。もう少し遠くても良いですね。

 西洋かぶれで魔術趣味の金蔵が、神道の鳥居をたてて祠をまつるというのは、不自然とまではいえませんが、ズレを感じます。
 夏妃の一族は古い神官の家ですから、オリジナルベアトが、その家の出身だったとすると、神道つながりで、ズレた部分がぴっちりはまるのです。
 夏妃が霊鏡を持っていたように、ベアトも霊鏡を持っていたことにして、その霊鏡を、ベアトの出自(神道)に合うような形式で祠にまつった。霊鏡はお守りですから、「島を守ってくれ」という願いにも合う。そういう合わせ方です。

 仮にこの想像をよしとするなら、夏妃が蔵臼の妻として迎えられたことも、「ベアトリーチェがらみ」であると考えるのが自然です。

 たとえばこう。
 ベアトリーチェを失った金蔵翁は、ベアトリーチェの代わりになるものを求めた。
 その結果、「ベアトリーチェの血に近い女」を、右代宮家に迎え入れよう、という発想に至った。
 ベアトリーチェの一族を調べてみると、夏妃という娘がいる。
 これを手に入れ、身近に置き、せめて、ベアトリーチェの面影をその娘に見て、心なぐさめることにしよう……。

 金蔵は、夏妃の実家を経済戦争でうちまかし、そのトロフィー的な意味で、夏妃を長男の嫁として迎え入れたとのことです。ep5で、熊沢と南條がそう明かしています。
 描写をみると、「(金蔵が)その手打ちとして、縁談を提案した。」とあります。夏妃をよこせと言い出したのは金蔵なのです。

 ひょっとして、この経済戦争は、「夏妃を手に入れる」ことを最終目的として(夏妃を身近に置きたいというたったそれだけの理由で)起こされたものなんじゃないか……という想像が、できそうなのです。

 蔵臼がいうには、金蔵は夏妃が嫁いできてから、ビンロウをかじる趣味をやめたそうです。ビンロウは、それを食べる姿が少しばかり、はしたなく見える食べ物です。
 これってひょっとして、
「ベアトリーチェの血につらなる、ベアトリーチェの面影のある女性に、はしたない所を見せたくないおじいちゃんの見栄」
 なんじゃないかなー、という考え方です。
 すなわち、金蔵が夏妃に冷たかったというのは、なんかいろいろ気恥ずかしくて素直になれない金蔵のツンデレだったー、ということなわけです。おじいちゃん可愛い。

     *

 わたしは、
「本当の金蔵は、生涯、夏妃を心の底から信頼したことはない」
 というベルンの赤字が、感情的に、とても嫌で、本当に気に入らなかったのです。
 なので、想像力でひっちゃぶいてやりたかったのです。


●「愛がない」お話

 ep5では、霧江は、留弗夫の会社が早急に多額の現金を必要としていることを、ゲーム開始前から知っていました。

 はっきりしないepもありますが、他のゲームでは、霧江はそのことを知りませんでした。ゲーム中になって初めて知るのです。

 このことから、
「登場人物が、ゲーム開始以前に、どのような状態にあるか(何が発生し、何が発生していないか)は、固定されているわけではない」
 という見方が可能になります。
 霧江がカネのことを知っているゲームもあるし、知らないゲームもある。ゲーム開始以前に何が起こっているかは、エピソードごとにちがっていても良い(とも解釈できる)。

 わたしは「金蔵の(1~2年前の)大往生は、ep5限定の特殊イベントである」という説をとっていますので、この解釈のしかたは、まことに都合が良いです。

 さて。
「ep5では、譲治と朱志香の死に対して、紗音嘉音がショックを受けていない。不自然な反応ではないか」
 という論点があります。公式掲示板でもさまざまな人が指摘していたと思います。

 単に、「描写されなかった」だけという可能性もあります。が、ここはちょっと思い切って、
「ep5の世界では、紗音と譲治の恋愛イベントは発生しなかった」
「ep5の世界では、嘉音と朱志香の恋愛イベントは発生しなかった」

 という仮定をしてみるのも、ちょっと、おもしろいかもしれません。

 紗音と譲治の恋愛成就や、嘉音が恋を意識しはじめる展開は、
「ベアトリーチェが、意図的に恋の種をまく」
 というアクションによって、はじめて発生しているようなふしがあります。

 よって、ベアトリーチェ(の中の人)が、別の用事でそれどころじゃなかった場合、
「紗音と譲治は恋人同士にはなっておらず、嘉音と朱志香も互いを意識してはいない」
 というゲームはじゅうぶんに発生可能性があります。

 この場合、ロノウェのいう、
「(ラムダのゲームには)愛がありませんな」
 という発言は、まんま「恋愛イベントが入ってませんでした」という意味をも含んでいた……という合わせ方です。
「紗音に、その恋を成就させてあげる」
 というのは、やはり一種の思いやり、愛情ゆえの行動だと見ることができます。
 それをまったく無視しているラムダの進め方は「愛がないなあ」というような。

 もちろん、それ以外のいろんな意味も含んだうえでの「愛がない」だと思います。意味の一部ということ。


●譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!

「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」シリーズの赤字。
 これ、見たときから、なんか違和感がありました。

 はっきりいってしまうと、文法的にヘンです。一文中に「譲治は」で「遺体は」ですものね。「象は鼻が長い」式の第二主語という感じでもない。

 スマートに言い換えるなら、こんな感じになるでしょうか。
「譲治の遺体は、(譲治の)死後、一切移動していない」

 なるべく手を加えずに直したいなら、こうでも良いです。
「譲治“の”死後、“その”遺体は一切、移動されていない」

 つまり、主語が「譲治は」なのか「遺体は」なのか。そして遺体は譲治のものなのかそうでないのか。そのあたりが、原文ではあいまいなのです。


 さて、わたしは別に、文章の不備を指摘して添削したいわけではありません。
「この原文は、意図的に、破綻した文法で書いてあるのではないか」
 という可能性について考えたいのです。
 なぜ破綻して書かれているのか。
 もちろん、ミスリードのためです。
「譲治の死体が移動したことはない」という意味だと読み手は受け取る。しかし、のちのち、そうではない意味だったことが明らかになる。そういう叙述トリックの可能性についての検討です。

 いくつか、詐欺的な抜け方ができそうですよ。例えば、

・「譲治は(秀吉の)死後、遺体は一切、移動されていない」

 これは「死後」を、譲治本人の死後とは取らない場合。この場合、秀吉が死亡する瞬間まで、譲治の死体をいくらでも移動することができます。


 笑い話みたいな領域に入ってきますが、こんな抜け方も考えました。

・「譲治は死後、遺体“を”一切、移動“なさって”いない」

 これは「されて」を受け身ではなく、尊敬語として解釈する場合。この場合、以下のような解釈になります。
「譲治さんは死んだあと、遺体と呼ばれる物体を、一切移動なさっていません」
「譲治さんは死にました。死んだ以上、自発的行動を取ることができませんから、(誰かの)遺体というものを運搬するという自発的な行動も、取ることができません」

 文章的には「遺体は一切、移動“していない”」でも、通用するのです。なのに、あえて受け身になっている。そこには、意味があるのではないかという発想です。

 この解釈の場合、物理的にいって当然のことを、ただ単に言っただけの文になりますね。
 少なくとも、そういう解釈を取る余地が、この文章にはあります。
 にも関わらず、読み手は、「譲治の死体は移動したことがない」という意味に受け取る……。

 竜騎士07さんは、かなり独特な文章を書かれる人ですが、ベースにある言語能力はすごく高い、とわたしは認識しています。作中で特に重要な意味を持つ「赤字」を、こんなふうに明らかな文法ミス入りで書くことはないように思われるのです。
 だとしたら、わざと。わざとだとしたら、ひっかけ……?

 そうした可能性の指摘でした。



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