「あの、すいません…」
と遠慮がちな声が後ろから聞こえた。
「ドリンクバーの野菜ジュースを床にこぼしてしまいました…」
と女性は言った。
わたしは、「分かりました、拭いておきますね。」と答えた。
たったそれだけの出来事だった…
だけど、その時どこか見覚えのある人だと少し気になった。
それから、1週間に一回のペースで来てくれるようになった。
どうやら、気に入ってくれたようだ。
来るたびに、わたしは頭のなかがモヤモヤした。
あの見覚えのある人は誰だろう…
一度気になるとそれが解決しないと気がすまない性格なので
女性の動きを時々目で追ってしまっていた。
そして次第にわたしは、勝手にその人の、人となりを想像していた。
黒髪ショートで薄化粧である。
爪も短く切って、ラフな格好でいつも来ている。
本と筆記用具をかばんに入れているようで、メニューが来るまで
何やら勉強している。
そして、年齢はわたしと同じくらい。どこかの大学生だろう…
伏せたまつ毛が魅力的な女性だった。