宝物。

ひとり言など

バジル…

2014-11-10 18:44:41 | 

低いエンジン音が聞こえ、ドアの開く音がした。

「おはようございまーす。」と元気のいい先生の声と共に

子どもは、バスに乗って幼稚園へと出かけた。

 

わたしは、少しずつ記憶を取り戻しながら

以前の生活をするようになった。

 

病院に入院しているときは、記憶が曖昧で

何度も同じことを聞いていたようだった。

しかし一度もとがめることなく、少し笑いながら

初めて聞いたように優しく答えてくれる妻に

本当に助けられた。

 

家に帰ってからは付き合っていた頃の写真や

結婚式の写真を二人で見た。

そして、大きなお腹に顔を寄せている自分や

生まれたばかりの少しぼやけた息子の写真も見た。

その時わたしは、声を出して泣いたと言っていた。

 

何もかも失ったと思い、妻に居場所を告げることなく

いなくなったわたしを攻める気持ちもあっただろう。

 

失ったものは大きかった。

しかし、失っていないものも大きかった。

また、1から始めよう…

慎ましい生活なら何とかやっていける。

 

以前の会社が生きがいだと思っていた自分は

もう他人のように遠い存在に変わっていた。

 

白いレースのカーテンが風に揺らめいた。

 

 

バジルの葉っぱについた、こぼれ落ちそうな雫が

キラキラと輝いているのがチラリと見えた。

 

 


白と水色…

2014-11-09 18:10:37 | 

再びわたしは目を覚ました。

うっすらと白い天井が見えた。

 

「うう…。」思わず声を出してしまった。

 

すると「大丈夫?」

懐かしい声が横で聞こえた。

 

頭をゆっくりと少しだけ動かし、その女性を見た。

顔は少しやつれていたが、瞳の大きな綺麗な人だった。

 

薄い水色のTシャツは、なだらかな曲線を描いていて

白のスカートはわたしの目に眩しく清楚な感じの人だった。

でも誰かは思い出せなかった。

 

誰だろう…この女性は…

 

 

「記憶がないのね…無理に思い出さなくていいよ。

今はゆっくりしてね。本当に無事でよかった…

いっぱい心配したよ…」

 

その女性はやさしく笑いながらそう言った。

 

しかし潤んだその瞳からは涙が溢れ

雫が白いスカートを濡らしていた…

 

 

 


オーガンジー…

2014-09-30 21:51:21 | 

白いオーガンジーの向こう側に

うっすらとなだらかな曲線が見えた。

日の光が当たると

より鮮明にその部分が明らかになる。

 

朝日が差し込み穏やかに流れる時間の中で

わたしは、うっすらと目を開け

現実と夢の間で

その景色を堪能した。

 

風がその景色を揺らめかせ

思わず息を呑んだ…

 

もう一度夢を見よう…

瞼をゆっくりと閉じ

深みに落ちていった…