８月のチャップリン

下落合のジェームスディーンも寄る年波にめげて、最近はチャップリン化してきた。

鼻歌まじりで自宅近所を徘徊している。

以前から気にはなってはいたが、この界隈はフランス租界になっているようで、おフランス人がやたらたくさんいる。

日本人は、おフランスが大好きである。

日本人のおフランスとは、花の都パリである。

憧れのシャンゼリゼ通りである。

あのカトリーヌドヌーヴやオードリーヘップバーン。

そして大好物ソフィーマルソーがたくさん歩いている街並み、それがパリなのだ。

僕が日本軍将校だったら、たちどころに手込めにしてしまうだろう乙女心と愛の故郷、それがパリ。

なぜだか豊島区は、区をあげておフランスが大好きなようだ。

ここ数年、区長が軍服のようなスーツ姿で水平にした腕を斜めにあげて、入る石原と叫びながら体操していると言う。

チャイナタウン池袋をパリにするんだと、私服の月収を担保にされた役人達が街中に潜伏し、中国人粛清に躍起になっているようだ。

これじゃ未来の池袋は、パリじゃなく大連と呼ばれるに違いない。

そして僕んちの界隈にも、駅前にまもなくフランス人が経営者なのか、クレープレストランと描いてある？？…なるオシャレおフランスものができるようだ。

行き交う人は、その前を通る度にチラッと覗き見している。

そして、下落合のチャップリンの、またまた揺れ始めた天秤の原因は、そのおフランスレストランの張り紙だった。

スタッフ募集の下に、フランス人スタッフと一緒にお仕事しませんか…とある。

これがもし、中国人や朝鮮人スタッフと一緒に仕事しませんかと書かれた張り紙だったらどうだろう。

街中がドン引きするんだろうな。

朝鮮人スタッフ…との１行に人権団体からクレームが殺到するかもしれない。

たかが募集の張り紙が、デリケートな事件となってしまうのだろう。

日本に限らずどこの国にもある根拠のない優生思想。

自分にも必ずあるだろう。

そして、自分にもある偏見やコンプレックス。

その偏見やコンプレックスこそが、全ての病や争いの根源なのではないか。

僕が数々旅をしてきて得たものは、下界を見下ろす気持ちになる国や場所と、頂上を見上げる気持ちになる国や場所がある、と言うことだった。

間違いはつきものだから、左右にブレもする。

がそのブレの基準値を教えてくれたのが旅だった。

だから、一人旅は大切なのだ。