横浜地球物理学研究所

地震予知・地震予測の検証など

「“予測/予知が的中した”との答え合わせは本当か? 〜予測失敗を成功にすり替え、科学に背を向け続ける村井氏〜」(寄稿)

2020年05月03日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
(BD3様より寄稿頂きました記事を以下に掲載致します。今回も、「地震を予測できる」と主張してメディアに再三登場する村井俊治・東大名誉教授に対する鋭い批判がありますので、是非ご一読ください)


1. はじめに

MEGA地震予測のメルマガ先週4月22日号と今週4月29日号のコラムでは、村井氏が過去の予測内容と地震発生状況を突き合わせた答えあわせが披露されましたが、いずれも的中とする判断にはそれぞれ重大な問題があります。前回2020年2月の寄稿で予告した第三回「予測とは、そもそも何であるか」というテーマについて着々と準備を進めている最中でありましたが、さすがに二週連続の悪質な自画自賛、どうせ嘘をついても読者にバレないだろう、という甘い認識を放置するわけにはゆきませんので、そちらの手を止めて急遽号外の作成となりました。

直近二回のメルマガとその周辺にどんな事実があったのか、皆様もご一緒に振り返っていただけましたら幸いです。


2. 2020年4月29日号「予測は的中していたと言えるでしょう。」との結論は、事実と真逆

" 2019年5月10日に発生した日向灘地震(M6.3、震度5弱)の6か月前には宮崎県南部と鹿児島県は大きく沈降していました。 3か月前には一旦隆起しましたが1か月前には再び沈降しました。
一方、水平変動はほぼ1か月前の5月に入ると2週にわたって(5月1日号と5月8日号参照) 宮崎県南部と鹿児島県にまとまって異常が現れました。明らかに危険な状態でした。予測は的中していたと言えるでしょう。 "
(2020年4月29日号のコラムから引用。太字化は筆者BD3による。以下同)

該当の「九州南部」地域に対する三段階レベルの最高位「要警戒」の発令は、最新4月29日号でも継続中ですが、それがいつ始まったのか、バックナンバーを遡ったところ、なんと4年以上も前の2016年4月20日号からでした。この日付にピンと来る方はさすがです。その日のメルマガ冒頭には、2016年4月14日と16日に発生した熊本地震の予測失敗に対する反省の弁と、未来に向けた宣言が以下のように記載されたのです。

" JESEAではメルマガ「週刊MEGA地震予測」及び「nexi地震予測」にて3月30日発行号まで「熊本県」を地震予測エリアに入れて 参りましたが、4月6日発行号で地震予測エリアから外しました。 予測を取り下げる際には慎重を期すよう心がけておりましたが、その直後に地震は起きてしまいました。 改めて地震予測期間の精度を上げることが必要だと認識しております。 今年度中にNTTドコモの電子観測点が全国16か所に建てられJESEAの自社電子観測点と合わせて18か所で リアルタイムデータを用いた実証研究が本格的に始まります。 少しでも予測期間の精度が向上できるよう研究を進めて参ります。 "(2016年4月20日号冒頭から引用)

九州南部に対し、4年以上にわたるベタ塗り状態で「要警戒」発令継続中という今の状況は、警戒という言葉に宿る言霊、すなわち、人々に伝えるべき緊急性や希少性といった価値が完全に滅失したインフレ状態と同じことです。もうひとつ、当時神妙に宣言したはずの予測期間の精度向上が、4年経った今なお実現に遠く及んでいないことも意味します。

さて注目すべきは、今日まで4年以上続く「要警戒」ベタ塗り期間中、唯一の例外で「要注意」にレベルダウンしていた時期があったことで、それは2019年4月3日号から6月5日号にかけての2ヶ月間でした(←さらりと書きましたが、このたった2行を調べるのに投じた手間とバックナンバー購入費用をご想像くださいませ)。この4年間の特例中の特例とも呼ぶべきわずか2ヶ月の短期間に、まるで狙い打ちしたかのように発生したのが、問題の2019年5月10日、日向灘を震源とするM6.3、最大震度5弱の地震でした。

よりにもよってレベルダウン中に発生した地震ですから、誰の目にも明らかな「予測モレ」ですが、さらに注目すべきは、上に引用した2016年4月20日号太字箇所の失敗の経緯と反省です。3年前に反省した「予測をレベルダウンした場所/期間で発生」という失敗を繰り返したのですから、どんな人でも凹むはずです。でも自分を客観視できる研究者、すなわち研究者としての健全性を持ち合わせる人ならば、自分の失敗を糧に成長するものですから、二度の失敗を三度はしない、との新たな決意と覚悟で予測手法を見直す絶好のチャンスと気持ちを切り替えて奮い立たせるものです。

ところがどうでしょう。今週村井氏はそしらぬ顔で「予測は的中していたと言えるでしょう」と真逆の評価をされました。熊本地震の直後に誓った「予測を取り下げる際には慎重を期すよう心がけ」に反して2019年4月3日号で要注意にレベルダウンした最初の判断ミス、2019年5月1日号と5月8日号で「明らかに危険な状態」に気づきながら要注意から要警戒へのレベルアップを怠った二つ目の判断ミス、これらの事実とどう向き合えば、ここまで自分に甘い結論を導けるのでしょうか。

同じ失敗を繰り返した認識がないなら、この先何度でも繰り返すのは時間の問題です。JESEAの中にこれに気づいたスタッフが誰もいなかったなら、はっきり申し上げて研究機関としては腐りきっています(営利企業として、ならそれなりに成功していますが、それは別の話)。


3. 2020年4月22日号「地震予知レベルと言ってよい警告」「予知が的中したと言える」との結論に該当する当時の発信なし

" 2018年7月7日に千葉県東方沖を震源とする地震(M6.0、最大震度5弱、震源の深さ70km)が起きましたが、 10日前6月27日号の「MEGA地震予測」では次のような警告を発信していました。
「水平ベクトルは茨城県南部から千葉県にかけて南東方向に極めて大きく出ています。 今迄に見られなかった一斉異常変動です。危険な状態と言えます。」
発信2日前の6月25日(月曜日)の水平方向の変動分析で千葉県中央部から茨城県南部にかけて 約20地点がまとまって一斉に南東方向の大きな水平変動を起こしていました。その上千葉県中央部は沈降していました。 毎週月曜日に前週の電子基準点のR3データをダウンロードして高さおよび水平方向の変動分析を行い、 2日後の水曜日に会員に地震予測情報を発信しています。
 この時のように多数点がまとまって一斉に同じ方向に水平変動を示したのは極めて稀な事象でしたので強く警戒を呼びかけました。 地震予測レベルというより地震予知レベルと言ってよい警告でした。
果たして発信10日後に地震が起きたのですから予知が的中したと言えるでしょう。 "
(2020年4月22日号コラムから引用)

この答え合わせコメントに該当する箇所を2018年6月27日号から抽出したところ、以下がその全てでした。

冒頭の「地震予測サマリー」には

" ・水平変動は東北地方、北信越、千葉県が活発。特に千葉県はこれまでにない大きな変動。 "

と淡々と記述されていました。一方、本文詳細の南関東エリアには

" 水平ベクトルは茨城県南部から千葉県にかけて南東方向に極めて大きく出ています。 今迄に見られなかった一斉異常変動です。危険な状態と言えます。(別地域につき中略)R3データによりますと千葉県房総半島の中央部の沈降が進みました。 "

と同じく淡々と記述されていました。さらに「書かれなかった」事実として注目すべきは予知レベルの警告に不可欠な「発生時期」の言及がどこにもない点です。発生時期の言及なしに「地震予知レベルと言ってよい警告」と言い切ってしまえる稚拙さは、村井氏が地震被害の軽減とは何か、防災の基本を全くご存知ない事実と、地震予測研究者としての資質のかけらすらない事実の重要な証左であり、ぜひ皆様方にはこの点をしっかりご記憶にとどめていただきたく存じます。

書かかれたご本人の自画自賛以外に、この記述から「強く警戒を呼びかけ」「地震予測レベルというより地震予知レベルと言ってよい警告」であると読み取れた人は、実際にどれだけいらっしゃったでしょう。南関東に住む会員が、問題の2018年6月27日号の冒頭見出し

地震予測サマリ-
〇警戒レベルアップ地域
北海道北部:要注視(新規)
北信越地方・岐阜県:要注意→要警戒
〇警戒レベルダウン地域
なし


を見れば、だれもが「今週は先週から変化なし」と解釈するはずです。時間に余裕があって、しっかり読み込む人なら、その下に淡々と記述された「これまでにない大きな変動」「今迄にみられなかった一斉異常変動です。危険な状態と言えます」などが目に入ったことでしょう。でもこれを「強く警戒を呼びかけ」や「地震予知レベルと言ってよい警告」と解釈して、地震被害を軽減する行動変容に結びつけた、という方は誰一人いらっしゃらないはずです。

ところで、南関東では、2018年4月25日号から現在にかけて、2年以上にもわたって最上レベルの「要警戒」が継続中ですので、前章で紹介した南九州と同じくベタ塗りのインフレ状態です。警告レベルは現在

 要警戒(震度5以上の地震が発生する可能性が非常に高い)
 要注意(震度5以上の地震が発生する可能性が高い)
 要注視(震度5以上の地震が発生する可能性がある)

の三段階で運用されていまずが、かつて2017年8月16日号まではレベル5〜レベル1という5段階で運用されていました。現在の三段階は当時のレベル4〜レベル2に該当し、その上下に

 レベル5(震度5以上の地震の可能性が極めて高く緊急性がある)
 レベル1(何らかの異常変動があり、今後の推移を監視する)

が存在(※)した時期があったのです。

最上レベルの「要警戒」のベタ塗りインフレ状態で「頭が天井につっかえた状態」が継続中に、地震予知レベルと呼ぶべき高レベルの警告を要する予測が導かれた場合、読者に最も確実に伝わる発信方法は、誰もが一目でわかる「要警戒」より上位のレベル5を復活させる、いわばインフレ時におけるデノミネーションのはずです。「地震予知レベルと言ってよい警告」と言い切りながら、レベル5復活に踏み切る判断をせず、脅しのフレーズで煽るにとどめた事実とどう向き合えば、ここまで自分に甘い結論が導けるのでしょうか。

※:2017年8月23日号に、レベル5を廃止した理由の説明があります。一見それっぽい難解な説明が面倒で斜め読みして騙された方は多かったはずです。注意深く読むと「地震予測期間の精度向上に挑んだがハズレてばかりだったので、ハズレを出さないために絞り込みを緩めることにした」という呆れた内容です。言い換えると「実用性を伴う予測手法の確立はあきらめたので、今後は実用性のない的中にみえる錯覚で会員を欺くことにした」という驚くべき方針表明です。2016年4月20日号の「地震予測期間の精度を上げることが必要」「少しでも予測期間の精度が向上できるよう研究を進め」の宣言から、1年4ヶ月後の撤回宣言でした。関心のある方はバックナンバーを購入してご自分の目でご確認ください。


4. メルマガの予測内容は空っぽなのに、読者はなんとなく満足できてしまう騙しのトリックとは

メルマガの予測内容は空っぽで、村井氏はとんでもない発言ばかり繰り返しているにも関わらず、多くの読者がそれに満足できてしまえる理由はなぜなのか?それは、村井氏の巧みな騙しの手口にあります。

これから説明する一次データ(の特異値)〜予測手法〜予測内容の関係を図示するとこんな感じです。ちょっと面倒なので図と照らし合わせながら読んでみてください。



今回指摘している、直近2回のメルマガのコラムの中で、予測的中という誤った答え合わせの裏付けに利用されたのは、何やら小難しくご利益のありそうな専門用語で修飾された特異値への言及でした。ところがこれは予測手法に投入する前の一次データに特異値が含まれていたという客観事実の転写に過ぎませんから村井氏の予測手法や予測結果の成果ではなく、当然答えあわせの対象でもありません。一次データを予測手法に投入した結果として導かれた予測内容、すなわち先週からのレベルアップは不要とした誤判断こそが村井氏の予測手法と予測内容の成果であり、答えあわせの対象です。村井氏の答えあわせには、こうしてすり替えるトリックが巧みに使われますので、我々はそれに騙されないよう注意深く見抜く必要があります。

読者が会費を払ってでも手に入れたいのは、地震被害の軽減に使える予測内容です。自分の関係地域は、先週より危険を増したかどうかを知りたいのであって、予測手法に投入前の一次データの特異値を知りたいのではありません。警告のレベルアップ/ダウン時に、根拠として一次データを添えることには意味がありますが、主従関係はあくまでもそこです。MEGA地震予測のほぼ全体は、この主従関係を入れ替えた騙しのトリックで構築されています。毎週届くメルマガを眺める際は、この入れ替えトリックに騙されないよう気をつけましょう。

以下の観点で、試しにどれかひとつメルマガを注意深く読み返してみてください。そのトリックが見えてくるはずです。

予測詳細ともいうべき本文である「2.地震予測」には
・一次データの特異値ばかり掲載し、その解釈について村井氏は大半を放棄して読者に丸投げ、でも読者が考えなくて済むよう脅しのフレーズで煽っておくサービスは抜かりなく
・肝心の予測内容、いつ/どこで/どんな規模の地震が起きるか一切言及なし

いかがでしょうか。予測内容は空っぽなのに、一次データの特異値と脅しのフレーズさえ駆使すれば読者を不安にさせることに成功し、読者はなんとなく不安感を抱けたことで満足できてしまう、そうして騙されたことに気づかせないWin & Winが成立する高度な騙しのテクニックです。このような実態なき不安感を抱くことに会費を払う価値はあるのでしょうか。さらに種明かしすれば、漠然とした脅しの単語をほどよく全体に散らして煽っておく効果として、今回のメルマガのコラムのような答えあわせのときに的中実績としてカウントできて便利、というこれまた巧妙なトリックがあります。よくぞここまで消費者をバカにできたものです。経営理念に地震被害の軽減を掲げる営利企業として、これが誠実な態度といえるでしょうか。

一次データにせよ予測内容にせよ、「強く警戒を呼びかけた」や「警戒を怠らないで」などの脅しのフレーズで煽ってみせる村井氏のワンパターンスタイルは、ふだんからメリハリ無く繰り出しては空振り、を何年も継続した実績が充分蓄積されました。蓄積の効能として、メルマガ会員はイソップ寓話の「狼が出たぞ〜」さながらに、すっかり慣れっこなってしまった実態があります。いつ/どこで/どんな規模の地震が起きるかを発信しない限り、地震被害を軽減する行動変容を起こす人など誰一人もいない現実について、村井氏本人および村井氏を支持される皆様はいかがお考えでしょう。脅しのフレーズで煽られ抱いた不安感だけで地震被害が自動的に軽減されることは決してないという真理に一日でも早く気付いていただきたいものです。もし、いやそんなことはない、自分またはその周囲に、地震被害を軽減する行動変容を起こした、という方がいらっしゃいましたら、どの地域の方が、何号のメルマガのどの記載から、いつどんな行動変容をしたのか、教えていただけましたら幸いです。


5. また会う日まで

誤解を避けるために補足しますと、予測を外したこと自体について、私は全く問題視しません。当たることもあれば外れることもある、それが予測として当然のことだからです。

私が問題視するのは、外れたケースの取り扱いかたと、巧みな騙しのトリックの2つです。後者は上で十分述べましたので、前者についてあともうほんの少しだけお付き合いください。

予測を外した失敗と向き合うことで得られる学びは、未来の予測技術の向上に繋がる貴重な糧です。失敗と認識できた材料が多いほど、より適切な成果への軌道修正の糧も多くなる、とポジティブに受け入れて改善してゆくプロセスのことを科学と呼びます。どんな研究にも大なり小なり失敗は必ずつきまとうものです。しかし失敗の多くを成功だとゆがめてしまうMEGA地震予測ではその改善プロセスがほとんど機能停止しています。つまりこんなことは地震学うんぬん以前に、そもそも科学ではありません。私が最も批判するはこの点です。ハズレをハズレと認識しない予測研究開発の現場では、予測技術も予測精度も決して向上しません。的中したようにみえる錯覚の正体は、地震被害の軽減に使えないくらい予測内容を曖昧にぼかしたおかげであり、答えあわせは今回紹介した手口でうまくごまかしているだけです。

東京大学名誉教授という肩書きをお持ちですから、こんな簡単な科学の基本は当然ご承知であり、釈迦に説法のはずです。にもかかわらず、大事な分岐路に立つたびに、目先のメンツばかりにこだわるのかどうか知りませんが、予測技術の向上のチャンスをみすみす無駄にする道ばかり選択するという科学への背信の態度を公にしながら、地震被害の軽減に一切結びつくことのない金儲けにのみ邁進する姿勢は、極めて残念でなりません。

最後になりましたが、読者の皆様方におかれましては、今回もまた長文におつきあいいただき、ありがとうございました。もともと予定していた「予測とは、そもそも何であるか」という、さらに一層根幹に斬り込むテーマについても、興味深いおどろくべき材料が揃ってきました。こちらもSTAY HOME GW中の仕上げを目指して鋭意準備中ですので、ご期待ください。
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“科学的根拠”とは? 〜正反対のアプローチで自虐コントを披露し続ける村井氏〜(寄稿)

2020年02月27日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
(BD3様より寄稿頂きました記事を以下に掲載致します。今回も、「地震を予測できる」と主張してメディアに再三登場する村井俊治・東大名誉教授に対する鋭い批判がありますので、是非ご一読ください)


1. はじめに

前回2019年7月の寄稿では、東京大学名誉教授村井俊治氏が、高度なニセ科学な手口を巧みに弄して不公正なビジネスを展開している事実を紹介しました。

村井氏の不公正なビジネスの主体であり、村井氏が取締役会長を務める「株式会社地震科学探査機構」(JESEA)という営利団体のWEBサイト(https://www.jesea.co.jp/company/)には、以下の経営理念が掲げられています。




ここに出てくる「科学的根拠」という言葉について、具体的に何のことを指すか、きちんと説明できるよ、という方はどれくらいいらっしゃるでしょう?少し前の私もそうでしたが、信憑性や信頼性といったなんとなく良さげな印象はあるけど説明はできない、という方は結構おられるかもしれませんね。

「科学的根拠に基づく地震予測」があるからには、その対偶に「科学的根拠に基づかない地震予測」もある訳です。出だしからいきなりキナ臭い気配が漂ってきて、気分がワクワク高揚してきたでしょうか?

さて、はやる気持ちをおさえつつ、こんなシチュエーションを思い浮かべてみれば、科学的根拠とは何らかの判断基準を指すのだとわかります。

 「なるほど、そこまで検証したなら科学的根拠ありですね。」
 「残念ながら、検証がそこまでだと科学的根拠にはなりません。」

十人十色と言われるとおり、人の考え方には多様性や信念の違いがあるため、これに基づいた判断結果には属人的なブレ幅が含まれる弊害が伴います。これに対し、人の意思を介入させることなくデータを機械的に処理するだけで結論が導かれる、つまり誰が判断しても必ず同じ結論にしか至りようがないブレない判断基準が科学的根拠です。これなら議論が不毛な水掛け論や平行線にこじれてしまう心配も無用です。良いことづくめですね。

ということで、科学的根拠とは何か、私の下手な長文を最後まで我慢して読み終えていただいた皆様には、これをきちんと説明できる「お土産」を持ち帰っていただけることを祈りつつ筆を執る次第です。しばしのお付き合いをいただけましたら幸甚に存じます。

今回の寄稿の目的は、村井氏が科学的根拠という言葉の意味を取り違えて、自ら掲げた経営理念に背いて科学的根拠に基づかないニセ科学を続ける矛盾を読者の皆様と共有すると同時に、村井氏ご本人には、科学的根拠の正しい意味を理解いただき、ニセ科学から科学に方針転換されるよう提案すること、の二点です。


2. とある別ジャンルの例、その1

今まさに世界を深刻な状況に陥らせている新型コロナウイルスによる感染症について、海外の複数の国で、エイズの発症を抑える「抗ウイルス薬」を患者に投与したところ、症状の改善が見られたとの報告があるそうです(出典1)。

医学や薬学の心得のない我々素人でも、症状が改善された原因として

 a) エイズの発症を抑える「抗ウイルス薬」投与の効果
 b) 患者自身が持つ自然治癒力(投与は無関係)
 c) その他の要因(投与は無関係)

の3つくらいは、すぐに思いつきます。この報道に接し、a)であってくれと願う気持ちは、きっと誰もが同じでしょう。そう願う気持ちだけが先走って、検討不十分なうちからa)を重視すると同時に、b)やc)を軽視する考え方が、ニセ科学です。

投与の効果の検証に必要な観点は、いうまでもなく

 「この薬には、この症状への改善効果が期待できるか/できないか」

です。そんなのあたりまえじゃないか、と気にも留めない方の中にはきっと、これを意味の異なる

 「この薬はこの症状に効くか/効かないか」

と同じ意味だと誤解してしまう人がいらっしゃるのではないでしょうか。さらには「症状が改善した事例をなるだけたくさん集めること」が、その検証になると誤解される人もまた、きっとおられるでしょう。これらの誤解をされた方には、村井氏のニセ科学に騙されてしまう危険が潜んでいるのです。ご用心、ご用心、、、

なぜ、「この薬はこの症状に効くか/効かないか」ではダメなのか、「症状が改善した事例をなるだけたくさん集めること」では検証にならないのか、その理由を人に説明できるくらいちゃんと理解しておくことは、これからの人生でニセ科学を見破るための便利な拠り所になりますから、面倒な説明がもう少し続くのをお許しください。

投与後の特定の患者さんの症状が確かに改善した症例において、その原因を突き詰めれば、投与の効果によるものか、投与と無関係に自己治癒力その他の要因によるものか、のいずれかですが、その真相は神のみぞ知る領域であって人には絶対にわかりっこありませんよね?この「真相不明」をベースにしている以上、症状が改善した事例をどれだけ集めてきても、投与の効果の検証にはならないのです。

これに対し、「投与群」と「非投与(正確には、偽薬を投与したプラセボ)群」の各集団の症状の改善状況のデータの塊を統計分析手法の計算式に投げ込むと、両群間の症状の改善状況の有意差の有無が定量的に算出されます。両群間に有意差があるなら「この薬には、この症状への改善効果が期待できる」という結論が自動的に導かれます。これが科学的根拠です。

薬の投与の効果を検証する考え方を紹介しましたが、地震予測手法に対する検証も考え方は全く同じですので、対比しながらおさらいしましょう。察しの鋭い方ならすでにお気づきのとおり、検証のたたき台に載せるべき対象は、検証のやりようのない「地震予測」ではなく、検証のやりようのある「地震予測手法」のほう、つまり、注目すべきは「個々の地震予測を的中させたか/はずしたか」の各論ではなく「この手法には地震を予測できる効果が期待できるか/できないか」の総論のほうです。

予測どおりの地震が発生した、いわゆる「的中」ケースについて、その実態が、予測理論の仕組み通り起きたのか、偶然当たっただけなのかは、神のみぞ知る領域であって人には絶対にわかりっこありません。ですから、一件ごとの「的中実績」を何年/何百件、蓄積し続けたって、その実態は「当たった錯覚」という自己陶酔感の重ね塗りでしかなく、地震予測手法の検証には一歩たりとも踏み込んだことにはならないのです。にもかかわらず、世のほとんどの地震予知/予測研究家の皆さんが、訳がわからないままこれを検証だと誤解しています。

予測手法の価値は、「その手法で導いた予測群(薬の投与群に相当)」と、「何の手法も用いず導いた非予測群(薬の非投与群に相当。予測でいえば放っておいても勝手に的中する実績。例:サイコロの目ならデタラメに予測しても1/6は的中する)」に有意差があるかどうか、で定量的に算出されます。

有意差が、あり、と算出されれば「この地震予測手法には、地震を予測できる効果が期待できる(薬の投与には、症状の改善効果が期待できる)」という結論が自動的に導かれます。

有意差が、なし、と算出されれば「この地震予測手法では、勝手に的中するのと変わりないから意味なし(自己治癒力による改善率と変わりないため、投与の意味なし)」という結論が自動的に導かれます。

これが科学的根拠です。そしてこの項の結びにもう少しだけ。

・その薬の化学組成/有効成分/症状改善メカニズム、といった「技術的な仕組み」
・多くの患者の命を救いたい/1日も早い病気の根絶は社会の要請/自分はこの研究に生涯を捧げた、といった「人の想い」

これらが研究の根幹や動機として欠かせない大切な要素であることに異論はありません。ただし「投与群と非投与群」の有意差の算出という工程には一切関与しません。むしろ完全にシャットアウトすることで、そういった事情に流されないことがこの手法の利点です。科学的根拠という切り口に求められるのは、技術的な仕組みでもなければ人の想いでもなく、それらからの独立性を冷徹なまでに担保した有意差のほうだから、です。

結論「予測手法における科学的根拠とは非予測群との有意差のことであり、それがないのは科学的根拠なし(=ニセ科学)」

JESEAの関係者または村井氏を支援される皆様へ:
メルマガやTwitterや講演での村井氏の発言を拝見すると、村井氏はビッグデータの中に自説に当てはまる断片を見かけた瞬間「科学的根拠あり」と勘違いして舞い上がるタイプの方だと判ります。データが膨大であればあるほど、そう見える断片が勝手に混入してくるのは必然でしかなく、こんな程度のことは統計学の基本です。予測を扱う本物の科学者なら誰もが、科学的根拠とは有意差の確認プロセスであることを知っています。村井氏がこれをご存知なく稚拙な発信を繰り返すことは、予測を扱う科学者として持ち合わせるべき最低限の資質が欠けていることを村井氏が自ら語って落ちる残念な行為であることがご理解いただけるはずです。無知を恥じ入るレベルでは済まされない、JESEAの事業の根幹に関わる致命的な問題です。一刻も早く村井氏にこれをお伝えいただき、基礎から建て直す必要を村井氏が自発的に気づかれることを祈るばかりです。


3. とある別ジャンルの例、その2

トルコ共和国の遺跡で、1985年から35年以上の長きにわたって、「製鉄の起源」というテーマで考古学の発掘調査をしている、中近東文化センター附属アナトリア考古学研究所長の大村幸弘氏という方がおられます(出典2)。

調査の目的は年表の作成であり、出土品を地層年代と地域の三次元に順序良く並べて歴史の変遷を読み取る手法をとっているそうです。出土品は年代/地域いずれもおいても連続的に出土するはずなどなく、飛び飛びでしか手に入りません。出土品のない隙間部分は、周辺から推測した仮説で暫定的に補完せざるを得ないため、新たな発掘調査の目的の中に、その仮説の裏付けも含まれることになります。新たな発掘調査で自分が立てた仮説通りの出土品が見つかれば万々歳ですが、中にはそうでない場合があります。

大村氏には35年間温め続けてきた仮説がありましたが、ついに2019年3月、その仮説に反する出土品が出てきてしまいました。さすがに当初こそ、発掘が間違っているのでは、とさえ思ったそうですが、大村氏の科学者としての姿勢が尊敬に値するのは、この新事実と真摯に向き合い、自説に都合よく歪めて解釈する愚を犯すこともなく、35年間来の自説は誤りであったと自ら潔く否定し、新たな説を編み直す方向に直ちに舵を切り直した点にあります。

大村氏の視線は「正しい年表を作る」という大義に向いており、「自説の裏付け」のごとき小義には向いていなかった、ということです。

考古学の分野での事例を紹介しましたが、自説に都合の悪いデータや耳の痛い指摘を糧として、誤りを正してゆく仕組みを科学と呼ぶのであって、これはあらゆる学問分野の共通基盤です。

「ある事象Xの予測」という研究分野での仮説の検証方法は、以下が一般的です。

 1) 自説が正しいなら、データ中の「ある値Y」の出現頻度は、ある事象Xの発生前に増えるはず。
 2) 自説が正しいなら、データ中の「ある値Y」の出現頻度は、それ以外の期間中に減るはず。
 3) もし、1)と2)の間に有意差がないなら、データ中の「ある値Y」の出現で事象Xを予測することは不可能、すなわち自説が間違いである。

これまで述べた通り、1)と2)の有意差を調べる手間をかけることの価値への理解と、3)が出た場合に潔く受け入れて自説を否定できる客観性が「科学的根拠」の本質です。

これに対し、ビッグデータの山の中から苦労に苦労を重ねてようやく1)を見つけただけで、もう自説の正しさが証明できた、と舞い上がってしまえる村井氏の軽率さが、ご自身の研究に似て非なる取り組みをすべて台無しにしているのは、はた目に痛々しいのみならず、学術界が村井氏の研究を相手にしない本当の理由がここにあります。村井氏本人や支持者が口にする「畑違いだから村八分にされる」「地震計を使ってないからバカにされる」「新進気鋭の異端児は目障りだから」「いまだ予測も予知もできないくせに予算を食いつぶすだけの地震学者のひがみ」「学術界に多い保守的な考え方とはマッチしない(出典3)」など、素人受けしやすいストーリーを鵜呑みにしてしまうのは、本人サイドによる印象操作の思う壺ですから気をつけましょう。

誤解のないよう申し添えますが、私が憎むのはニセ科学による不公正なビジネスや社会のミスリードであって、村井氏個人ではありません。望むことは科学的根拠が正しく取り扱われること、ですからもし将来、村井氏が科学的根拠(有意差)を伴った予測手法を公表した際、保守的な学術界がこれを相手にしない、といった事態が万にひとつでもあるとすれば、私は全面的に村井氏の成果を支援し、保守的な学術界を厳しく批判することをお約束しておきます。

結論「自説にとって都合の悪い観測データや耳の痛い指摘に向き合おうとしないのはニセ科学」

JESEAの関係者または村井氏を支援される皆様へ:
かつて村井氏が、謙虚な姿勢で上記の2)や3)に向き合ったことは一度でもあったでしょうか?これには、ただでさえ苦労した1)に要した何倍もの手間が必要ですし、自説が否定される判定が容赦なく、そして頻繁に出てくるのが普通で、たいへん辛いものですが、世の中の実用レベルに達したあらゆる予測手法が例外なく揉まれてきた厳しい試練です。予想をテーマとする以上、どんな分野の研究であろうとも、また、その予測手法がどれだけ斬新かつ画期的であろうとも、この試練が免除される抜け道はない、というのが「科学的根拠」の公平性です。これを「古い考え方」だとか「保守的な石頭が新進気鋭の研究者をつぶそうとする中傷」などと解釈して居直る悪質なニセ研究者が、学術界から相手にされることは決してありません(ただし、前回種明かししたとおり、それでも特許なら取得できるんですよね。審査の観点が違うからです)。

なお、2)や3)には数理統計学の知識が必要ですから、ご多忙な村井氏自身が一から勉強を始めて挑戦する必要はありません。メルマガ売り上げで十分な収益があるはずですから、その一部を投資して数理統計学の専門家と委託契約を結び、あとは必要なデータを渡せば良いだけなので、その気になりさえすればとても簡単です。この投資は、これまで村井氏が一度も向き合ったことがない本物の「科学的根拠」を初めてもたらすものであり、村井氏の研究に似て非なる行為が、ようやく初めて研究と呼べる取り組みにステップアップするために必須の経費です。くれぐれも、その投資を出し渋ったり、企業秘密のデータは外に出せないから、などの子供じみた言い訳を選択しないことを祈るものます。


4. 最近の村井氏の自虐コントの例

さて、読者のみなさま、お待たせしました。堅苦しい話に長々付き合っていただきお疲れさまでした。ここからは肩の力を抜いてクスッと小さく微笑んでみるコーナーです。

私がポケットマネーをドブに捨てる覚悟でやむなく購読しているMEGA地震予測ですが、当然ながら、本文である「1.地震予測」の章に見るべきものはほとんどありません。かわりに冒頭の「地震予測サマリー」や後半の「コラム」には、科学の何たるかを完全に履き違えた村井氏が、ほぼ毎週のように自分で自分を貶める自虐コントを披露されていますので、そのチェックが楽しみ、だったりするかもしれません。毎週発行しているのに、よくその自虐ネタが尽きないものだという驚きは、漫画週刊誌の作者に対する敬意と共通するものがあります。

MEGA地震予測 2020年2月19日発行「3.コラム」より
地震の前兆現象として一瞬のピーク値が複数の衛星に同時刻に現れるのは全く新しい発見でした。 そこで2011年に起きた東日本大震災以後に起きたマグニチュード6以上でかつ震度6以上の大きな地震8個を選んで、 果たして地震の前に大きな異常ピークが現れたか否かを検証しました。

解説1:「一瞬のピーク値が複数の衛星に同時刻に現れ」たという現象をどう検討したら「地震の前兆現象」と結びつける関連づけに至るのか、その経緯は全く示されていません。まさか両者の発生順と時間差だけが唯一の理由?など妄想するしかありませんが、関連あってのことなのか/たまたま偶然そうだっただけなのか、いずれか一方に絞り込むためには、もう一方を排除しうる誰もが納得できる客観的な理由を提示するのが科学的根拠です。しかも「全く新しい発見でした」と自画自賛とするその発見が本物なら、世界中の地球物理学者がびっくり仰天の偉大な発見です。そんな大発見をしながら、決して学会には発表せずメルマガでひっそり報告するだけという行動原理は、1984年の嘉門達夫の名曲「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」の中で、ファンから涙ぐみつつ称えられる川口探検隊長の奥ゆかしさそのものではありませんか。冗談はさておき、これで思い出すのは、私が前回指摘した「科学的事実が世界的に認められている前兆現象(中略)白金測温抵抗体を利用した温度計の気温に擬似的に異常が現れる」で、オームの法則とファラデーの電磁誘導の法則という二大法則を何ら疑問を抱くこともなく易々と粉砕してしまえた村井氏の軽率さです。自分の思いつきに陶酔する村井氏の暴走は、科学者として全くありえない驚きに満ちています。

解説2:「そこで2011年に起きた東日本大震災以後に起きたマグニチュード6以上でかつ震度6以上の大きな地震8個を選んで、 果たして地震の前に大きな異常ピークが現れたか否かを検証しました。」とはまさに上で述べた「ビッグデータの山の中から苦労に苦労を重ねてようやく1)を見つけただけで、もう自説の正しさが証明できた、と舞い上がってしまえる村井氏の軽率さ」そのものです。この目的で後追い検証したいなら、続いて2)との有意差の確認まで済ませて、ようやく初めて何らかの価値が生まれます。

MEGA地震予測 2020年2月12日発行「地震予測サマリー」「今週の注目ポイント」より
この1週間で震度3以上の地震は起きていません。静穏状態と言えます。 静穏の後で大きな地震が起きるケースが多々あります。

解説3:「静穏の後で大きな地震が起きるケースが多々あります。」とのコメント自体は、嘘偽りない事実ですが、「多々ある」というだけなら、他にも以下のケースだって多々ある訳です。

・静穏状態の後で大きな地震が起きず、小さな地震が起きたことによって静穏状態がシレッと明けるケースが多々あります。
・静穏状態でないときに大きな地震が起きるケースが多々あります。

部分的な抜き出しにより、自分のシナリオに都合の良い誤読を誘導する手口は、世間をミスリードすることを生業とするタブロイド紙や週刊誌の常套手段、すなわち不公正な誇張表現です。したがって、まともな科学者なら、うっかり気づかず使ってしまっていないか、文章を念入りにチェックするものです。あるいは「静穏の後で大きな地震が起きるケースが多々あります。」という表現の中に、普段以上に危険が高まっている、という注意喚起の意図があるなら、あらかじめ他のケースと危険性の有意差の確認を済ませた内容とセットで示すのが科学的根拠を伴う文章です。

MEGA地震予測 2020年1月29日発行「3.特集:2019年の震度5以上の地震」より

JESEAでは毎年、前年に起きた震度5弱以上の地震の捕捉検証を行っております。 2019年の地震について行いました。

解説4:検証と称して、2019年に発生した震度5弱以上の計9つの地震に対する村井氏の思いつきと思い込みが述べてあります。前提がそれですから、予測が空振りに終わった全てのケースが「なかったこと扱い」で黙殺されているのは言うまでもありません。また、9つの地震について、予測理論どおりの発生なのか/予測理論のモレを突いた発生なのか、という誰もが知りたい核心に明確な言及がなく失望しましたが、支持者の皆さんはこんなもので満足されているのでしょうか。それより何より、今回指摘した有意差の確認が全くありませんので、予測手法そのものの価値という観点での検証が未実施なのは例年通りです。

MEGA地震予測 2020年1月22日発行「2.コラム」より

科学的根拠を明らかにした地震予測には観測データに基づく前兆検知が必須です。

解説5:今回述べた通り、予測にまつわる科学的根拠とは予測群と非予測群との有意差の提示以外に何もなく、そこに踏み込まなければ何の価値もありません。また、「観測データに基づく前兆検知」とは、改めて言う必要のない当然のことに過ぎません。村井氏の取り組みが、観測データに基づいている程度のことは、先刻誰もが認めることであり、いまさら争点にすべきことでもないでしょう。村井氏が批判されているのは、せっかくの観測データを自分の仮説に都合良い重み付けによって好き勝手に歪めている不正行為です。ついでに言えば、冒頭の経営理念の「科学的根拠に基づく地震予測を確立することにより」は、日本語が間違っており、正しくは「科学的根拠に基づく地震予測手法を確立することにより」であるはずです。

村井氏が確立すべきは「予測」でなく「予測手法」なのですが、村井氏はその違いを理解できるでしょうか。そして大切な看板の脱字が訂正されるのはいつになるでしょうね。また、看板を訂正される際、そのついでに、フレーズ冒頭に一言追加して「有意差検定による科学的根拠に基づく地震予測手法を確立することにより」としておけば、その瞬間から学術界からの風向きが一転するはずですよ。

MEGA地震予測 2020年1月15日発行「2.コラム」より
Guo先生の教えからJESEAでは「ひまわり」の熱赤外画像を検索して独自に地震予測に役立てるための検証研究を始めました。 後追い検証ですが、2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震(M6.7、震度7)の前の衛星画像を調べたところ 確かに地震雲と思われる画像が確認できました。」

解説6:「確かに地震雲と思われる画像が確認できました」と結論づけるのに、地震前の衛星画像だけ調べたのでは片手落ちです。ここまで述べてきた通り、そこに意味が生まれるのは「このような地震前の衛星画像」と「それ以外の期間の衛星画像」の両方を調べて、その間に有意差ありと確認できた後、です。

MEGA地震予測 2020年1月8日発行「2.コラム」より
Guo(郭)先生は(中略)最初の頃は日本のどこで地震が起きる可能性があるという予測情報のみを送ってきました。この情報だけでは科学的根拠がないので、宇宙からどのような地震雲が現れたのかを教えてもらうことにしました。

解説7:Guo先生とやらの地震雲にまつわる独自理論が、村井氏の軽率さと合体してパワーアップした内容が、この後に紹介されていますが、自然界でこのようなメカニズムが現実に機能して雲の形成に結びつくようなら、これは「断熱膨張」「露点」「飽和」「凝結」といった基礎概念がその根底から転覆することを意味し、世界中の全ての気象学者と物理学者がビックリ仰天のトンデモな「大発見」なんですが、そんな一大事とも気づかずあっさり納得できてしまい、平然と配信してしまえる村井氏にとっての「科学的根拠」とは、「それっぽい用語を、思いつきに任せてそれっぽく切り貼りしただけの、一見ありがたみのありそうな文章」程度のことなのかもしれません。一方、本物の科学的根拠に欠かせない有意差の確認行為が村井氏のニセ研究行為の中には一切登場しないことは、今回もう何度も述べてきましたので、皆さんぼつぼつ飽きてきた頃でしょうか。

え?なんですって?こんなティーザー広告をチラつかされたんじゃ、MEGA地震予測を購読したくなっちゃった、ですって?こともあろうに私がJESEAの売り上げに貢献するなんて、なんたる皮肉でしょう。


5. また会う日まで

村井氏が、自身で掲げた「科学的根拠に基づく」とする経営理念に背きながら、自虐コントを配信し続けている滑稽な矛盾を正しく認知でき、科学的根拠に基づいた取り組みをいつになったら始めるのか、JESEAの中にはこれを村井氏にきちんと注進できるまともな科学者が在籍するのか、「科学的根拠」の正しい意味を共有する皆様方とともにこれからも見守り続けることといたしましょう。

今回は、前回予告していた、捕捉率とされる統計のトリックを見破る、とは違うテーマになりましたがいかがでしたでしょうか。次回はまたいつになるかわかりませんが、前回予告の内容も含めながら、もっと基本の「予測とは、そもそも何であるか」を明らかにすることで、村井氏のビジネスは、実はそこにも全くかすりすらしていないという、今回より一層根幹に斬り込むテーマで構想中です。

新型コロナウィルスが収束するのと、次回作で皆様とお会いするのは、はてさて、どちらが先になるのやら・・・



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出典1:NHKオンライン記事「新型ウイルス感染患者にエイズ発症抑える薬投与 治験へ」 2020年2月15日 6時38分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200215/k10012286651000.html

出典2:解説委員室アーカイブス 「製鉄の起源を探る」 (視点・論点) 2019年7月29日
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/372469.html

出典3:今年、東日本大震災級の大地震発生の兆候か…伊豆諸島で土地の異常な高さ変動観測(文=鶉野珠子/清談社) 2020年1月25日
https://biz-journal.jp/2020/01/post_138166.html
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村井俊治氏の「東日本大震災の直前と同じ兆候出現」との主張を信じてはいけません

2020年01月06日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)
 
電子基準点の座標値の変動を見て地震を予測する「MEGA地震予測」なる有料メルマガを配信している、村井俊治・東大名誉教授が、2020年の年初に夕刊フジと週刊ポストに立て続けに登場し、「2020年は東日本大震災と同規模の地震が起こる可能性がある」と地震予測を披露しています。


  測量学の権威が警鐘 「東日本大震災の直前と同じ兆候出現」(週刊ポスト2020年1月6日)
  https://www.news-postseven.com/archives/20200106_1518049.html

  MEGA地震予測「いま最も危ない」3エリアはここだ! “驚異の的中率”地震科学探査機構が解析(夕刊フジ 2020年1月4日)
  https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200104/dom2001040002-n1.html


村井俊治氏の主張は、伊豆諸島にある電子基準点「青ヶ島」において、11月10日から16日までの1週間で81cmもの高低変動が見られ、それが巨大地震の前兆だと言うのです。

しかしながら、この主張は荒唐無稽です。説明するまでもなく、1週間で81cmもの地殻変動が青ヶ島で起きたはずもないので、これは明らかなデマと言って良いでしょう。以下に説明します。




村井俊治氏は、青ヶ島に国土地理院が設置している電子基準点が、1週間に81cmも上下動したと主張しているのですが、ハッキリ言ってこれはありえません。単なる測位ノイズか、解析上のエラーでしょう。

このときの実際のデータを見ますと、青ヶ島の電子基準点の座標値が動いたのは、実は11月10日のわずか1日だけであり、次の日には元に戻っているのです。

  
      (国土地理院が公開するデータより作成。値の跳びが村井氏の主張する81cm(速報解)と数値が異なるのは、
       国土地理院が同サイトで発表している値が最終解だからです)



もしこれがノイズや解析エラーではなく実際の地殻変動だとしますと、ある日、突然、青ヶ島が1mほども沈んで、次の日にはピョンと元に戻ったことになります。地震の前兆だなどという話以前に、大発見で大ニュースです。

もちろん、実際にはそんなことが起きたわけもありません。もし起きていたのなら、その日の青ヶ島の港は海水下に没し、大きなニュースになったのではないでしょうか。

※2020年1月7日後記:
この値の跳びについて国土地理院に問い合わせたところ、回答を頂けました。青ヶ島の電子基準点の受信アンテナの不調により、受信衛星数が確保できなかったことが原因だそうです。もちろん、実際の地殻変動ではないですし、大地震の前兆でももちろんありません。回答して下さった国土地理院の担当者の方、ありがとうございました。





村井俊治氏は、週刊ポストなどの記事のなかで、青ヶ島の電子基準点が1週間に81cmも上下動した、という言い方をしています。しかし、実際のデータを見ると、青ヶ島の電子基準点の値が異常だったのは、上述したとおり11月10日の1日だけなのです。このことから分かることは、村井俊治氏は、実際の変動だとは信じられないような大きな異常値が出たにもかかわらず、元のデータをきちんと確認していないということです。確認さえすれば、異常は1日だけで次の日には元に戻っているので、単なるノイズかエラーであって実際の地殻変動ではないとすぐに推測できたはずです。

村井俊治氏には、このような明らかな荒唐無稽な話を吹聴してしまう行為を、即座にやめていただきたいと思います。また、夕刊フジや週刊ポストといったメディアにも、他のまっとうな専門家や国土地理院に裏取りすることもせず安易にセンセーショナルな記事を書くことを、今後は控えて頂きますよう強く望みます。もちろん、このようにいい加減なデータの取り扱いに基づいて有料の地震予測メルマガ「MEGA地震予測」を配信し続ける、地震科学探査機構(JESEA)も、強く批判されるべきではないかと思います。

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「亥年は大災害がよく起きる年」は本当か?

2019年12月06日 | 地震予知研究(その他)
 
今年2019年ももうすぐ終わりますが、今年の干支は亥でした。ところで、亥年は大地震などの災害が良く起きるという説があるそうです。たとえば「FNNプライム」では、次のように言及されています。

 「イノシシ年は災害の年などと言われる。過去には1923年に関東大震災が発生。
  1995年には阪神・淡路大震災。2007年に、新潟県中越沖地震が起きるなど、
  大地震が発生している

  https://www.fnn.jp/posts/00049297HDK/201912052033_livenewsit_HDK


実際のところは、どうなのでしょう。簡単に調べてみました。


 ■

まず、比較的詳細な記録が残る明治以降について、大災害が発生した年の干支を、犠牲者数順に見てみます。カッコ内は、死者・不明者数を四捨五入したものです。


 関東大震災(10万5千):

 明治三陸地震(2万2千): 申

 東日本大震災(2万1千): 卯

 濃尾地震(7千): 卯

 阪神淡路大震災(6千):

 伊勢湾台風(5千):

 福井地震(4千): 子

 枕崎台風(4千): 酉

 昭和三陸地震(3千): 酉

 北丹後地震(3千): 卯



…たしかに、関東大震災、阪神淡路大震災、伊勢湾台風による被害が、亥年に発生しています。しかしながら、亥年だけにそれほど偏っているわけでもありません。

実は、12面体のサイコロを10回振ったとき、その全てで違う目が出る確率は、わずか0.3%です。同じ目が出てしまう確率のほうが、圧倒的に高いのです。つまり、ある干支に大きな災害が数回重なってしまうことは、確率的に言ってごくごく当たり前のことで、単なる偶然であると言えましょう。


 ■

ついでに、明治より前の主な大災害の発生年も見てみますと、以下のとおりとなります。


 安政江戸地震(1万?): 卯

 善光寺地震(9千): 未

 島原大変肥後迷惑(1万5千): 子

 慶長地震(1万?): 巳

 八重山地震(1万2千): 卯

 宝永地震(1~2万?):

 明応地震(数万?): 午

 永仁関東地震(2万3千?): 巳



…このなかでは亥年は宝永地震だけで、他の大災害は他の干支の年に起きています。亥年が特段、大災害が集中する年には、やはり全く見えませんね。

 
コメント (2)
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高度なニセ科学の数々の手口に当てはまる村井俊治氏の地震予測ビジネス手法 (寄稿)

2019年07月22日 | 地震予知研究(村井俊治氏・JESEA)

(BD3様より寄稿頂きました記事を以下に掲載致します。「地震を予測できる」と主張してメディアに再三登場する
村井俊治・東大名誉教授の講演会に参加された様子をはじめ、貴重な情報と洞察がありますので、是非ご一読ください)



1. はじめに

東京大学名誉教授、村井俊治氏が有償メルマガ「週刊MEGA地震予測」で展開する地震予測ビジネスは、支持者を順調に増やしつつあるようで、村井氏の2019年5月の新刊「地震予測は進化する!(集英社新書)」(以下「著書」と称す)P14によると、いまや購読者数は約5万人にものぼるそうです。これほど多くの方々からの支持を得た理由として、以下のような実績の世間一般への浸透が考えられるでしょうか。

 ・複数の特許取得
 ・テレビや週刊誌などマスコミが「驚異の的中率」と称賛
 ・株式会社NTTドコモが電子観測点の設置運営に協力
 ・活発な講演活動
 ・メルマガの読者増(ラーメン屋の入店待ち行列が長ければ、それが宣伝効果を生むのと同じ理屈)

一方このサイトの上川氏のように村井氏の取り組みをデタラメとバッサリ批判する向きも無視できません。真っ二つに割れた真逆の評価の真相を知りたいと思った時、どんな事実に基づいた場合にそれを「妥当な判断」と呼べるでしょうか。

私は2019年7月2日に開催された日本環境教育研究機構主催の村井氏の講演会に参加した者ですが、これを振り返って確信したのは、

 ・研究には遠く及ばない「ずさんな手法」
 ・研究者なら備わっているはずの「資質の欠如」
 ・この2つを補ってなお余りある、村井氏のしたたかなビジネス手腕

の3点でした。

最初の2点だけなら、自称地震予知/地震予測研究家によく見かける、おなじみの「ただのニセ科学」です。3点めによって「高度なニセ科学」にまで高めたのが、他のニセ科学とは一線を画す村井氏の特徴といえるでしょう。我こそは村井氏を応援する、とおっしゃる方々は皆、村井氏の巧みな戦略に乗せられている、ということをここで明確に申し上げておきます。現在、社会問題になっている特殊詐欺とも共通しますが、被害者には当初被害者としての自覚がなく、むしろ詐欺犯のことを、この先自分に降りかかる災いを事前に教えてくれて、予防してくれた恩人であるかのように信じ込ませるテクニックというものがあって、そこにつけこむ村井氏のテクニックも一流といえるでしょう。

この寄稿は「ニセ科学」とは一線を画す「高度なニセ科学」の種明かしに興味関心を持っていただければ、との切り口で書いてみました。「自分は村井氏を支持するが、詐欺に引っかかるマヌケではない」という自信のある方にこそ、お読みいただきたい内容となっています。長文になりますがお付き合いいただけるようですと幸いです。

私はただの会社員にすぎず、相手は日本の研究者としての最高権威「東京大学名誉教授」ですから、肩書きは雲泥の差です。道端の泥に過ぎない私が、雲の上の村井氏の予測ビジネスをニセ科学と批判する以上、あらゆる方が納得できる客観的な事実でお示しする義務が私にはあります。客観的な事実をお示しすれば、それはケチや中傷でないことも肩書が関係ないこともご理解いただけると信じます。有償メルマガ「週刊MEGA地震予測」は¥216/月(税込)で、前述の通り約5万人の読者がおられるということは、このビジネスは毎月約1,000万円を稼ぎ出している計算になります。ひとりひとりの被害額は微々たるものとはいえ、こういったニセ科学が一般の方々を騙して甘い汁を吸う不正を許容しない社会を目指し、ニセ科学を見抜ける力を持つ人がひとりでも増えることを望んで、寄稿の筆をとった次第です。


2. 白金測温抵抗体の異常値は前兆現象として科学的事実が世界的に認められたか

この著書をお持ちの方はお手元に用意いただき、ぜひご一緒にご確認ください。P68に以下の記載があります。

 「科学的事実が世界的に認められている前兆現象には、以下のものがある。
 (中略)
  ④ 白金測温抵抗体を利用した温度計の気温に擬似的に異常が現れる。


(ちなみに、自然科学系の書き物なら、この手の記載には必ず引用元が紹介されるものですが、この書籍には引用元の紹介が一切ありません。これはニセ科学による成果物を見抜くのに便利な観点でもありますから、覚えておきましょう)

冒頭で紹介した講演会では、①から⑧を列挙した中で④は特に有力であるとして村井氏は予測手段の中にすでに取り入れ済みである旨、重点的に紹介されていました。その概要はP74で以下のように述べられています。

 「地震の前に発信される異常な電磁波が、気象庁の白金測温抵抗温度計の微弱な電流に擾乱を起こし、
 擬似的に気温の異常変化を起こしているのではないか、という仮説が導かれる。


この時点では、まだ「科学的事実が世界的に認められ」る前の仮説段階だったと村井氏は述べています。では、この仮説がどんなプロセスを経て「科学的事実が世界的に認められ」た定説にまで高められたのか追ってみることにしましょう。

科学のプロセスに従うなら、この仮説の証明に必要な手順は以下の通りです。

 1. 実験室で、白金測温抵抗温度計に様々な「周波数(波長)」と「強度」の電磁波を浴びせて、温度測定結果に2〜4℃の誤差を起こす条件をつきとめる
 2. 地震前兆として発生する電磁波の「周波数(波長)」と「強度」の実測値または理論値が1.と矛盾しないことを確認する

これに対し、村井氏の全く異なるアプローチをとります。P74によると

 「気温の異常波形と地震発生の関係を調べると、こちらも高い相関があった。

ことを根拠として仮説を証明できたと判断していますが、書籍には、どんな標本データからどんな相関係数が導かれたか、という肝心のことは書かれていません。


3. 「高い相関」の呆れるべき正体

講演会の質疑応答では、聴講者からまさにこの点について「高い相関とは、具体的にどんな相関係数だったのか」の質問がありました。村井氏はこれに対して

 ・相関係数は計算していない。
 ・100%である。なぜなら8箇所で調査し8箇所とも出たから。


と回答したため、質問者からは、そんな稚拙な手法で相関に言及するのは論外であると厳しく批判されました。

村井氏の研究は「大量の観測データを分析して傾向を見出す」タイプといえますが、この回答は、何年間もこの研究に携わってきた村井氏が

 ・統計学上の「相関」という用語の正しい意味
 ・相関とは、計算で求めるものであること

のいずれも知らないまま現在に至る、あるいは知りつつ怠った、のいずれかであることを公にした点で、大きな意味を持ちます。

研究の舞台裏になじみのない方にはピンとこないかもしれませんので補足しておきましょう。膨大な観測データの中には、自分の仮説どおりの関係性や傾向を示したかのように見える部分が必ず含まれるものです。そのため

 ・本当に関係性や傾向があるのか
 ・関係性も傾向もないが、そう見えるだけなのか

を見分ける必要があり、どんな工夫でその客観性を確保したか、その仕事の丁寧さの開示が研究行為の本質のひとつです。人は誰でも、自分の仮説をひいき目に甘く見てしまいがちであり、研究の場ではそれが事実を歪めてしまう弊害、すなわちニセ科学を生んでしまった失敗を、何世紀にもわたる科学の発展の歴史の中で人類は学んできたからです(リケジョブームに水を差した2014年のSTAP細胞事件の核心もこれと同じ)。「甘く見てしまうひいき目」を取り除く実用的なツールのひとつが統計学であり、関連や傾向を探る研究テーマの場合、これを導入して錯覚や思い込みを取り除くこと、言い換えれば、自分の仮説に対して懐疑的なスタンスを保つことが不可欠であり、これを科学的手法と呼びます。自然科学を研究対象にする理系大学生には必須の基礎知識のため、教養課程でしっかり叩き込ます。統計ツールの導入を怠りながら「仮説を裏付ける相関が見られた」と判断した、ということは、その理由が悪意なき不勉強であれ、悪意による意図的なものであれ、その正体は客観性を欠いた手前味噌すなわちニセ科学でしかない、と見るのが正しい解釈です。

村井氏の上の回答は、研究者としての自身のレベルが、卒業論文に取り組む大学生、あるいは教養課程の大学生の足元にすら及ばないことを自らの口で語ったという意味を持ちます。同時に、過去に村井氏が「相関あり」を根拠に研究成果としてきた全てについて、その実態とは果たして何だったのかという重大な疑惑を生む、さらに深刻な意味も持ちます。村井氏とて、かつて東京大学の教養課程でこの程度の基本を修得したはずですが、それをどこに置き忘れてきたのでしょうか。

もうひとつ、あらゆる分野の科学の現場で研究行為に携わる全ての人たちが共有している基本ルールがあります。それは「相関関係ありと判定されても、それは因果関係を示すものではない」ということです。仮に村井氏が妥当な統計分析手法を導入して、「気温の異常波形」と「地震発生」の二因子間に0.7を上回る相関係数が得られたとしても、それは「地震前の電磁波」が「白金測温抵抗温度計の電流に擾乱を起こす」という二因子間の因果関係の証拠にはならない、という意味です。そもそも因子自体が別物にすり替わっているため、二重の間違いを犯していることになります。この基本ルールを知らずに結びつけてしまったのか、知った上で巧みに混同したのか、いずれにせよ村井氏の「高い相関」論法には分析とは呼べないお粗末な手法で導かれた重大な欠陥があり、これはニセ科学の典型的な手口そのものでもあります。

(少し脱線:この温度計の設置当事者である気象庁は、気温観測データには、もともとこういった異常値が混入することを承知しており「気象観測ガイドブック」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/guidebook.pdf P39から4ページの紙面を割いて解説しています。センサー異常データに何らかの意味づけする場合、これら既知の異常原因に該当しないことを確認するのが科学的手法です。この確認は相当な手間のかかる一仕事であり、重要な成果のひとつですから、書き忘れたり、紙面の都合で省略したりなど、決してないはずです。しかし著書にはこの確認を済ませたような記述はありません。最悪のケースとして、村井氏が思い至らなかったこれらの原因について一切検討漏れ、というお粗末な状況もありえますが、これは推測にすぎません。)


4. 特許成立は「予測手法の信ぴょう性や実用性を国が認めた」ことを意味しない

村井氏がこの予測手法の正当性をアピールする、大きな根拠がもう一つあります。それは上の文に続く

 「二〇一八年一二月に特許証が交付

です。村井氏の予測手法を国が特許として公的に認めた事実は確かに存在しますが、その意味について大半の方々は「予測手法の信ぴょう性や実用性を国が認めた」ようにイメージされるのではないでしょうか。実はそのイメージは特許に対する過大評価であり間違いです。なぜなら特許の審査対象は「アイデアが新しく独創的か」だけであり、「予測手法の妥当性」や「予測内容の確かさ」は審査の対象外だからです。まともな研究者が研究成果を世に問う目的で選ぶ手段は「論文発表」か「学会発表」しかありません。「特許取得」は内容の確かさとは無関係に、そのアイデアは他の誰よりも先に自分が思いついた、という権利を守るための手段ですから、目的が全く違うのです。

村井氏はことあるたびに、予測手法を正当化する文脈の中で、特許取得をアピールしますが、これは一般の方々が特許に対して誤って抱く誇大イメージに便乗した狡猾な戦略と見破るのが正しい解釈です。

論文発表や学会発表を避ける一方で、特許ばかり取っている研究っぽい取り組みは、すなわちニセ科学と判断して間違いありません。もっとも特許取得にはそれなりの費用と独特のテクニックが必要ですので、ただのニセ科学には少々ハードルが高く、簡単には手を出せません。特許取得をクリアできるのは、本気度の高い「高度なニセ科学」と言えます。ではなぜ村井氏は、自分の成果を論文発表や学会発表で世に問わないのか、むしろそれを意図的に避けるのか、そこにはニセ科学のパラドックスとしても知られている稚拙な理屈が登場しますが、今回のテーマからは逸れるため、また機会を改めて紹介できればと考えています。

村井氏の発明内容は「特許 第6438169号」で公開されていますので、興味のある方は特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」のWEBサイト(https://www.j-platpat.inpit.go.jp)でこの番号で検索して内容の全文や図版を確認してみてください。当該箇所はP3に以下のように書かれています。

 

震源周辺からの電磁波によって~検知する技術が提案されることはなかった」とする9〜11行めには突っ込みどころが満載ですが、脱線ばかりで話が進みませんので、ここもまた別の機会に譲ることとしましょう。

発明者らは、測温抵抗体が電磁波に反応することを見出し、測温抵抗体温度計が電磁波擾乱の検知に有益であると考えた。つまり、実際には温度変化がないにも関わらず測温抵抗体温度計による観測結果に変化がある場合、その変化は震源付近からの電磁波によるものと推定できると考えたわけである。」とする16行めでも、アイデアの独創性を述べるにとどまり「科学的事実が世界的に認められ」のくだりや、その推定をどんな手段で証明したかといったプロセスや事実は提示されないままです(特許には不要だからですね。おさらいです)。もっとも注目したいのは、それに続く最後の一文です。


5. 「オームの法則」と「ファラデーの電磁誘導の法則」の否定が前提

 「しかも測温抵抗体温度計は極めて高精度に温度計測することから、繊細な電磁波の擾乱の検知も可能であると考えられる。

前半の19行めでこのセンサーの安定性を述べた次の瞬間、その安定性を否定する矛盾を述べた後半の20行目に結びつけていますが、ここで村井氏が述べているのは「オームの法則」と「ファラデーの電磁誘導の法則」の否定です。この2つを学んだ高校生以上の人すべてが村井氏の勉強不足と思いつきの拙さに呆然となる場面です。もっとも

 「私は「あらゆる可能性を排除しない」ことにしている」(著書P74より)

という村井氏の姿勢は、既存の枠に囚われず常識とされてきたものに懐疑的であれ、という科学者のあるべき姿です。そういう意味では、オームの法則とファラデーの電磁誘導の法則を疑ってみるのも悪くはないです。ただし過去2世紀にもわたり、電気や電磁気のあらゆる応用分野を基礎中の基礎として下支えしてきた実績であるこれら2大法則を否定するなら、誰もが納得できる裏付けを整えるのが科学というものです。

そもそも、白金測温抵抗体の特徴はJIS C 1604:2013(国際的にはIEC 60751:2008)に記述され、世界中のさまざまな過酷な現場で広く用いられている実績が示す通り、我々の日常生活圏に飛び交う程度の電磁波なら、いくら浴びても全く影響を受けない精度と安定性が特徴です。村井氏の仮説が正しいとして、電磁波測定専用のセンサーですら検出困難な地震前兆の極めて微弱な電磁波によって2〜4℃もの大きな誤差が生じるとしてみましょうか。これは白金測温抵抗体が

 ・電磁波測定センサーとしては、既存の専用センサーよりも鋭敏に電磁波を検出してくれる優秀なセンサーであること
 ・温度計としては、測定限界以下の微弱な電磁波ですら誤動作して実用に耐えない不安定なセンサーであること

を意味します。電気や電磁気を扱う全ての分野が転覆してしまう一大事です。地震予測といった狭い領域だけに閉じて済むような、のんきな話ではありません。

また「科学的事実が世界的に認められ」ているくらい周知のアイデアでは特許が取れませんから、世界が科学的事実を認めたとすれば、そのタイミングは、特許成立後という順序になるはずです。もし2018年12月の特許成立から2019年5月の著書出版までの半年も満たない短期間で、電気や電磁気の分野で村井氏が学会発表または論文発表を行い、これが国際的に認められた事実が仮にあったとすれば、オームの法則とファラデーの電磁誘導の法則がひっくり返る、という世界中が驚く2世紀ぶりの快挙ですから、皆様にアピールすべきは、日本国内で地震予測だけに閉じた特許なんてちっぽけな話でなく、当然こちらのほうです。


6. 自然科学に向き合う研究者が備えるべき資質とは

村井氏には、ふと思いついたアイデアが、世界をひっくり返す一大事に等しい意味を持つことすら気付かず、本来やるべき検証を一切怠り、そのアイデアで特許を取っただけで、

 「科学的事実が世界的に認められている前兆現象には、以下のものがある。
 (中略)
  ④ 白金測温抵抗体を利用した温度計の気温に擬似的に異常が現れる。


などと浮かれ舞い上がってしまえる奔放さ、それを出版までしてしまえる軽率さ、そしてまっとうな批判をTwitter上で「ケチをつけに来た方」と評する姿勢

 

そのわずか数日後、「相関」という統計学用語の誤用を改めようとしない強情さ

 

が兼ね備わる事実をご理解いただけたはずです。これらは、自然科学と向き合うあらゆる分野の全ての研究者で共有する資質の明らかな欠如ならびに東京大学名誉教授という肩書きに対する世間の期待や信頼への背信行為に他ならず、5万人もの有償メルマガ読者を擁する研究者としての根幹が揺ぐ一大事です。村井氏がどんな人物であるかという現実について、これで皆様と正しい認識を共有できたはずです。

すでに長文になっていますが、最後にもうひとつ、7月2日の講演会の中で多くのウソが述べられた中から、見過ごせないひとつも紹介しておかねばなりません。


7. ウソをついてまで「気象庁=悪者」とのイメージ誘導を企む村井氏


著書P75の「図25 熊本地震の5日前に阿蘇山に現れた擬似的異常気温」にある、阿蘇山の2016年4月11日の10分毎の気温変化の折れ線グラフをスクリーンに投影した際、村井氏は

 ・気象庁は、二週間後には、異常値を均(なら)したデータに改竄してしまった
 ・だから早くダウンロードしないとデータが失われてしまう


というウソをついて客席をドッと沸かせてみせました。

問題の10分ごとの値のデータは今でも公開されており、誰でも入手できます。

 

公開されているデータをExcelに貼れば、以下の通りP75と同じ折れ線グラフが再現できます。これが改竄などされていない証拠です。

 

講演という公の場で、このようなウソをついてまで気象庁を悪者扱いしてイメージ誘導を図った先には、相対的に自分をどう見せたい演出意図があったのか、ぜひともご本人にうかがってみたいものです。


8. また会う日まで

村井氏が率いるJESEA(地震科学探査機構)のWEBサイトは「過去5年に発生した震度5以上の地震の約9割を捕捉」とする実績を、以下の数値とともに公表しています。

 
 (https://www.jesea.co.jp/about/より)

この数値を根拠として
「悪意に満ちた貴方達が、そのような御託を並べて村井氏の足を引っ張ったところで、村井氏が予測的中させてきた実績は揺るがない」
と反論される人がいらっしゃるかもしれません。

「捕捉率」として紹介されている上の数値は、世間の人たちを欺くのに便利な統計のトリックでしかなく、その正体は、ほぼ意味のない数字の遊びです。

このような統計のトリックを正しく見破れることもまた、ニセ科学を見抜く大切な技術です。もし読者の皆様からのご希望や上川様のお許しがいただけるようでしたら、これについても機会を改めて寄稿させていただければと考えております。

最後になりましたが、長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

この寄稿では、村井氏が書かれた文章と発言内容の事実に基づき批判してきましたが、もし事実に反する記述がありましたら、お詫びして訂正させていただきますので、どうかご遠慮なく、厳しくご指摘いただきますよう、ご協力をお願いいたします。

また、村井氏におかれましては、少々の心得のあれば容易に見破れる、こんな稚拙なニセ科学の典型的手法からは早々にご卒業され、科学的手法に切り替えられることを切に願うものです。
コメント (14)
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