弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード 法の聖域 第5話 政略への反抗

2011年04月25日 | 判事ディード 法の聖域

第5話の原題は「Political Expediency」です。

今回は、事件は基本的には1つです。サウジ皇太子の義弟(シーク・アリ・マズルイ)の
運転手のアリ・アブドル・モンシュリがコールガールを殺したというのです。

ディード判事とジョーとの関係は険悪になっています。
冒頭で、ジョーが弁護人を務めるサッカーのスーパースター、アーミテージ18歳に
ディードがジョーの主張を無視し実刑(1年の少年院送致)にしたからです。
ディード判事にいわせると、18歳とはいえ、マネージャーも雇い、広報担当もいる
ような有名人は、それ相応の責任を伴うものであり、
普通の若者たちのロールモデルになるべきという考えです。

ジョーがまじめで前歴もないと弁護していると、ピッチでは攻撃的であり、何度も
レッドカードをもらっている、ピッチの外でもそう変わると思えないなどと口をはさんで
いました。
そういう経緯を踏まえての実刑ですから、ジョーがおこるのももっともです。
ただ、ディード判事でなかったら、貧しい家庭で育ち、必死に頑張って、超一流の
フットボーラーになったわけで、同じような境遇にある若者に夢を与えたということも
できるので、保護観察とかコミュニティサービスでいいという考えもあります。
どちらかというと、この考え方が一般的でしょう。
ジョーもそう約束していたのです。弁護士として、メンツは丸つぶれということで、
怒るのももっともです。

こういう判決をするのがディードのディードたる由縁です。

例のイアンも勇気ある判決だとディード判事を褒めます。
ディード判事はsuspiciousになります。
そしてディード判事に控訴院の席に空きがあり、大法官がその席にディードを
と考えているというのです。
若くて進歩的な判事を期待しているというのです。
いつものイアンと違うので戸惑いますが、
ディード判事も悪い気はしません。光栄ですし、関心がありますなどとニヤニヤです。

サウジとの間で100億ポンドの航空機契約交渉が進んでおり、
運転手が被告人になってはいますが、真の犯人は義弟のマズルイであるという噂
があるので、この殺人事件をうまく処理する必要があるのです。
もししくじると、契約はフランスにとられる心配があります。
この契約が成立すると5000人の雇用の創出につながるというので、政府も必死です。

ディード判事に白羽の矢が立ったのは、政治がらみの事件であったので、
兼ねてから正義の実現にうるさいディード判事が担当したとなれば、
途中でやめたり、無罪になっても、みんな納得するだろうという思惑からです。
だからイアンは、ディード判事とは敵対的な関係でありながら、
うまく処理すれば、控訴院判事に推薦するといって、餌を投げたのです。

もともとは、マイケルが担当することになっていたのが、こうしてディード判事の
担当になったのです。
また、こういう著名事件はロンドンのオールド・ベイリーで扱うのが通例ですが、
たまたま犯罪地がブライトンということで、
ディードのいるサセックスが管轄ということでそこで扱うことにしたのです。

弁護人はディード判事の同期で、人種差別主義者の弁護士です。
黒人は大嫌いだと公言していたというのです。
例によって秘書のクープさんと、なのにどうしてアラブの弁護人になったのか、
もちろん金のためだよなどと冗談を言い合っています。
ということで、この弁護士さんは優秀ですが、勝つためなら何でもありと
いう感じでした。

裁判は、災難続きです。
まず、主任の検察官が死にます。殺人だとわかります。
(後任の検事の選任に時間がかかるとして、裁判を放棄させることが目的か?)
その後任には、またまたジョーが就任することになりました。

重要な目撃者、死体をコンテナに捨てるところを目撃した証人は、
統合失調症であり、精神病院に出たり入ったりしていたこともあり、
弁護人の厳しい追及にブレーキダウンしていまいます。
現場で、被告人が落とした財布を、この証人は拾っていたのですが、それを
ブレークダウンするまで隠していたため、証拠として提出すことができない
(弁護人が同意すればできますが、この弁護人は当然しません。
そして反対尋問のときに使えばいいよといいます)など
の失策があり、検察側はますます窮地に追い込まれます。

また、陪審員が病気になり欠席することがあり、急きょ、補充の陪審員を選任
しなければならない(この病気も怪しいのです)とか、
検察側の証人(マズルイの護衛をしていた警察官や被害者が被告人と一緒にホテルの
前で車から降りるのを目撃した同僚のエスコートモデル)が急に外国にいって
出頭できないなど、障害続きです。
また、マズルイが最上階のペントハウスに3日間宿泊していたと陳述していたホテルの
副支配人が、以前に提出した宿泊人名簿は間違いだったなどと証言します。
コンピュータが故障していたので、間違いになかなか気づかなかったなどと弁解です。

ここで捜査にあたった警察官の証言です。弁護人にいじめられますが、ここでは
詳細は省略です。

ここで、イアンが判事室に現れます。
検察側の雲行きが怪しくなった、この辺りで陪審員に無罪を進めてもいいのではないか
などと勧めます。このとき「Political Expediency」という言葉を使います。
そして、いや今日寄ったのは、控訴院判事の件については、みんなの総意だということを
伝えにきただけだと言い残します。
(なお、大法官府というのは、裁判官の人事等を扱う部門で、イアンはその事務方のトップ
です。人事を餌に、裁判に影響を与えようとしているのです。)
経済も大事だが、やはり正義が大事というのがディードの言い分です。

また、障害発生です。今度は、補充された陪審員が、書記官に陪審員が買収されて
いると密告します。金の提供はあったようですが、断ったということで実際には
買収されなかったのですが、ディードは、そもそも、黙っていたことが問題だと
いうので、この陪審員を外すことにしました)
ひょっとして、この補充の陪審員による買収に応じなかったので密告した可能性もあります。
判事室で協議です。ディードは11人でも続行するという意見ですが、
弁護人は、被告人が買収しようとしたとほかの陪審員に疑われてしまうので、中止すべき
と反対します。ディードは「だって被告人は拘留されているのだから接触しようもないじゃな
いかと」これは皮肉でしょうか。
ディードは「陪審員に護衛をつけるか、裁判を放棄するかだ」などといいますが、
ジョーは「被害者や家族のために、裁判は続けるべき」と強硬に反対です。
ディードは「それってバリスターとしての意見、それとも女性としての意見」などと軽率な
発言をしてジョーをまたまた怒らせてしまいます。

医師の証人は、被害者の死体に被告人の毛髪が一本付いていたということと、
死体を運んだ車のトランクから見つかった皮膚の破片が被害者のものだったことなどを
証言します。弁護人のいやらしい反対尋問は当然ありました。

突如、弁護側から大使館の駐車場の管理人の証人申請がありました。
ここで、ディード判事が、被告人の証言はと確かめます。
被告人に尋問すればいいことですから。ところが弁護人は被告人は証言しないと
いいいます。
ディードは陪審員に不利な印象を与えることをアドバイスしたかを確かめますが、
わかっているということです。
これで、前述の財布(決定的な証拠です)が証拠としては一切使えなくなったということ
です。弁護人は、最初から被告人に証言させるつもりはなかったのです。
ますます怪しいのですが、陪審員はこの財布のことは知りません。重要な証拠がこうして
隠されてしまったのです。
ディード判事は秘書のクープさんとこれで有罪はなくなったねとがっかりです。

さて、管理人の証言です。事件当日、死体を運んだという
大使館の車は修理中であったと証言します。記録があるといいます。
事件直後の警察の調べときは、そういう話はなかったのです。おかしいのではと
追及されても、自分の記録が正しいと譲りません。
後は、警察が正しいか、この管理人の記録が正しいかは陪審員に判断してもらい
ましょうとなりました。

前述の同僚のモデルの証人から出頭すると申出がありました。
こういう場合は、やはり弁護人の同意が必要になります。被告人と直接関係がないと一応
は反対しますが、弁護人は意外にあっさりと反対をひっこめました。
ディードはクープさんに、強硬に反対すると思っていたのにどうしたのだろうね
と問いかけしますと、何か企んでいるんじゃないですか。
廷吏が、弁護人の見習いがソリシターに良からぬことを指示しているのを耳にした
ということでしたよ、と教えます。
どこの世界でも同じですが、現場の人間の方が、真相に触れる機会が多いのですね。
クープさんは、ディード判事の目となり、耳となり、なかなか表には現れない情報を
収集しているのでしょう。

やはりです。ピーターズというのですが、前の供述を覆します。
被告人と被害者は見たが、その後部座席にすわっていた人は見ていないなどと
言いだしました(警察にはマズルイを見たと供述していた)。マズルイの名前が隠された
のです。これも間違いだったということで、自分は時々そういう間違いをするなどと
弁解します。ところが、ここで思いがけない展開になります。
マズルイはセレブだが、セレブには興味があるなどと証言させます。
マズルイの写真が載った雑誌を見せて、被告人の運転手の姿も後ろに見えます。
この雑誌を見たかもしれないといわせます。そうすると、被告人の顔をみて、
雑誌でしかみていないマズルイを実際にみたと錯覚したのではないかと、
そうかもしれないといわせます。
さらに、そもそも、被告人を見ていないのではないかと質問します。雑誌で見ていたので
錯覚したのではないかということです。
暗かったかどうか聞きます。街灯が切れていたとの証明を示します。
そして「もし、被告人が、この日、ほかの場所にいたという証言があったとしたら、
被告人を見たというのは、それほど確信があるか」という聞き方をします。
なんかあやしいですね。
ピーターズさんは「だって警察の人が言ったもの」などと口走ります。
みんな大慌てで、陪審員に退席してもらって、弁護人は、この証人は全く信用できない、
こういう状態では、事件の放棄しかないと強硬に主張し、
こういう場合の訴訟の進行が許されるかどうかについて、判例をもとに弁護人と
ディードが激しくやり合います。ディードの優秀さがここで証明されますが、
こういうやり取りは日本ではあまりありません。
英米法の国は、判例が重要ですから、いかに多くの判例を知っているかが重要で、
裁判の勝敗を決することもあるのです。
とっさの訴訟指揮ですから、調べて後でなどということは英米ではないのです。

場所を判事室に移して、弁護人は、こういう状態では、裁判は放棄するか再調査して
retrialするしかないなどと執拗に食い下がります。
しかし、再調査してもこれ以上の証拠が出る可能性はないし、いずれにしろ
ディードは、あまりも妨害が多いので、絶対にやめないとの断固たる決意をしています。
天の邪鬼ですね。
ディードは中止を求める弁護人にクープさんから聞いたことを仄めかします。
弁護人はもじもじし始めます。
やはり偽証工作があったのです。こうして弁護人の意見を封じてしまいます。
だからと言ってピーターズさんの証人尋問は続行できません。

検察側の証人は終わりです。
弁護人は、用意周到です。ここで、マルセイユの特命全権大使の証人申請です。
今日の証人の尋問が予定よりあまりにも早く終わってしまったのでと、みえみえの
言い訳をしながら翌日の出頭を確認します。
被告人がいかに有力なコネクションを持っているかが、これで良く理解できます。
被告人が外国にいたというアリバイ証人です。
殺人のあった日に外国(マルセイユ)にいたとなれば、犯人であり得ないわけです。

証人は、マズルイとフランスの航空機会社の社長と大臣がマルセイユで会談したこと、
被告人がその際、送迎車の運転をしていたことを証言します。
起訴されたことは2か月も前に知っていたというのです。
知っていたのなら、2か月もなぜ知らせなかったのか、裁判など時間と金の無駄では
ないか、それか全くのウソをいっているかとジョーは追及します。
追及された証人は、イギリスの陪審員を信じますなどと神妙なことを言って言い逃れ
します。

このような不審な審理状態ですが、ディードは徐々に真相をつかみ始めています。
イアンも例のスパイ(ジョーンズといいます。彼はイアンの指示でディードを陥れる
べく証拠収集をしている人間です)もたびたび傍聴に来ています。
そして、とうとう、このスパイが、ピーターズの証言など審理の様子を録音していることを
知るのです(これもクープ女史の情報です。クープ女史はなかなか優秀な秘書さんです。
幅広い情報網を持っているようです)。
判事室に呼びつけて、知っているよという脅しをかけます。ディードは喧嘩の仕方も
よく心得ています。

さていよいよ陪審員の出番です。
陪審の議論の様子がかなり詳しく描かれています。
一人の陪審員はぬけましたが、実際は買収は続いていたようです。
仕事がないという人には仕事の世話をする、
孫の手術が必要だが金がないという人にはただでいいという知り合いを紹介する
など、親切な振りをして、巧妙に買収するのです。このおばあちゃんは有罪の急先鋒でした
が、親切な陪審員(例の補充の)が無罪に挙手をするのを見て、いわくありげに
無罪に転向です。
最初は有罪は7人、無罪は2人、保留は2人でしたが、最後には1人を除いて全員無罪
です。10人以上の多数決でいいのですね。
一人残った陪審員の買収されたなどという意見を聞く人は誰もいません。
被告人が証言しなかったのは、有罪だからだという意見を述べていましたが、
補充陪審員は、アラブでは何を言っても聞いてくれないので怖かったのかも
などとわけのわからない理由を述べます。また
金や仕事を提供したと名指しされても、親切にしたあげただけだし、それに自分は
もともと保留だったなどと弁解します。綿密に計画してあったんですね。
意見を代える権利はあると、陪審長の女性は、強引に評決を決めてしまいました。

こうして、無罪の評決が出ました。

その瞬間に、買収されなかった陪審員が、事実をすっぱ抜きます。
ディード判事は、無罪で釈放になる被告人の釈放を直ちにストップします。
弁護士は違法だ、すぐに人権救済命令の申立をするとまくし立てますが、
どうぞ、でも4時半までには間に合いませんよと皮肉たっぷりです。

イアンも押し掛けてきて、すぐに釈放させなければと圧力をかけますが、
ジョーンズもイアンを理論で援護射撃します
(ジョーンズは法律に詳しいのです)。
ディードは釈放の手続きがちょっと遅れただけですよなどとはぐらかしています。
ここでも、すぐに釈放しなければ、昇進の話はなしだとディードにプレッシャーをかけますが、
ディードは、ドアを開けて、すぐに出て行けと促します。
イアンやスパイのジョーンズには、控訴院判事という誰もがほしがる餌
(ディードも魅力を感じています。そうすれば元妻の父と同列になるのですから)
にすら食いつかないディードには信じられないというように出ていきます。
要はディード判事は信念の人なんです。

 

陪審員の中にイギリスの諜報部員がいたことがわかりました。
また、同僚のエスコートモデルの証人も実は脅されていたことがわかりました。
被告人はセックス遊びが好きで、証人もひもで首を絞められたということですが、
被害者は運悪く、首を絞められたことで窒息死したという証言を始めました。

被告人は、釈放と同時に再逮捕されました。

イアンやジョーンズやニール(航空機契約交渉に責任をもつ貿易相大臣で
ディードの元妻ジョージが再婚しようとしている相手)が仕組んだものだったのです。
航空機契約に影響があるということもそうですが、
ニールは、接待にコールガールを使っていることなどがばれることを恐れていたのでしょう。
ジョージによると、ニールはしばしばアラブの接待をこういう形でしているというのです。

ディード判事は、イアンやニールを司法妨害罪で召喚しようと思えばできるということや
イギリス政府の諜報員が陪審員として潜り込んでいたことなどを
ジョーに教えます。
政府が裁判の不正に深くかかわっていたということです。
ディードは政府の数々の妨害に勝ったわけですから
もう興奮して眠れないかもと、ジョーにいうところで終わりです。

原題は政治的ご都合主義ですが、今回は翻訳のタイトルの方がしっくりします。

この回では、失言でジョーを怒らせ、お花を持っていって謝ったり、
娘のチャーリーが母の再婚予定のニールと親しくなり、取り残された寂しさから
友達でいてよと懇願したり、
最後には結婚してなどとプロポーズまでした(ドラマですから、ここで
電話が入り、うやむやになってしまいます)ので、よりが戻りつつあったのです。

今回は陪審員室でのやりとりの場面がかなり詳細に描かれていたのが
勉強になりましたし、陪審員を意識した弁護側、検察側の訴訟活動も
参考になりました。

裁判をつぶそうと企てた帳本人の貿易相ニールが元妻ジョージの再婚予定相手として
出てきたので、娘のチャーリーよりは、ジョージの登場場面が多かったようです。
この二人の関係も微妙で、特にジョージはディードにまだ未練があるような感じです。
ただ、設定では、ジョージがディードを捨てたことになっていますが・・
ディードがジョーと親しくしているのをみると、ジョージは邪魔をするのです。
いずれにしても、結婚すると、法廷に立てなくなると
ジョーが言っていましたので、ジョーとディードの結婚はしばらくはお預けですかね。

ディードがいつもいうことは、
「被害者や被害者の家族のために正義を行う」ということです。
このドラマの視点でもあります。
無私無欲の精神性を持ったロールモデルがいなくなったとディードは嘆きます。
ディードのような勇気ある行動は誰にでも取れるわけではないということで、
大法官府でも心ある人は評価しているのだと思います。
このドラマの人気の秘密もそういうところにあるのでしょう。

最近日本でも、検察官による、違法な捜査が問題になっていましたが、
このドラマのような大がかりな司法妨害ではなくても、日本でも、弁護士が、
あるいは当事者が、公正な判断を、意図的に妨害していることはいくらもあるものです。
そして裁判官も見て見ぬふりをする・・

こういうことを書いていると、またまた日本の現状のだらしなさに、
救世主はいないのか?!と
落ち込んでしまいそうです。