弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード 法の聖域 第3話 暴力の絆 ドラマ「離婚弁護士」がみる

2011年04月05日 | 日記

法の聖域も3話目になりました。
脱線しますが、虚飾の聖域を出版したばかりの私には、因縁のようなものを感じます。
第3話の原題は「Appropriate Response」です。
法廷の場面が多いのが、弁護士の私には嬉しいです。法廷は日本ともアメリカとも違
います。
イギリスの法廷は何度か傍聴したことがありますが、このドラマと同じ雰囲気です。
とても懐かしいです。

今回は、ロメオという青年が刑務所の門から出てくるところから始まります。
ロメオは連続レイプ事件の犯人で、ディード判事の裁判で12年の懲役刑を受け、
仮釈放で出てきたのです。ディード判事を恨んでいます。図書館のパソコンで調べ、
ディード判事の法廷に現れるなど、偵察を始めます。
リベンジの手段として、娘を狙います。
ディード判事、娘のチャーリーにはメロメロです。親友のコルモア副警視監を通して
警察に協力を求めるのですが・・・
警察はなかなか動いてくれません。


今回のメインの裁判は、ボクサーの妻の愛人に対する傷害事件
これに絡む裁判として、警察官2人の傷害事件
お遊びに民事事件(ドラマを面白くするためと思われます。勿論、私の勝手な解釈です。)
これが同時並行的に進行します。


徐々にイギリスの法律事情に詳しくなってきています。
1 イギリスの裁判官は、身分とポストの区別があります。
  ディード判事は、ハイコート・ジャジです。これは身分です。実際にはクラウン・コート
  (刑事法廷)の裁判官です。ただ、どうも民事事件も扱っているようなのです。しかも同
  じ法廷です。日本の場合は、地方の裁判所の支部など裁判官が一人しかいないところ
  では、一人の裁判官が民事も刑事も扱うことがありますが、通常は民事と刑事は完全
  に分離しています。ハイコート・ジャッジは控訴裁判所の裁判官に次ぐ高い地位です
  ので、日本人からみると少々戸惑います。

2 民事ですが、遺産に絡んだ事件のようでした。6年も継続しているということで、もう終
  わりにすべきだとディード判事は考えています。イギリスでもこんなに長くかかる事件が
  あるらしいです。
  無用な(とディード判事は考えているのですが)裁判のためにお金を使い、とうとう弁護
  士を依頼することができなくなった当事者二人は本人訴訟です。ということで、イギリス
  でも本人訴訟が認められていることが分かりました。
  ところで、外国の判決を日本で執行する場合、日本での承認判決がなければ、できない
  のです。
  つい最近、イギリスの判決についての承認判決訴訟の代理人をしたことがありました。
  その際、私の依頼者はバリスターを頼んでいなかったのです。ソリシターは法廷には立
  つことができないので、裁判官と「イギリスでも本人訴訟ができるんですね」などと雑
  談をしたことがあったからです。
  確認ができたことが嬉しかったです。
  話し合いをしない当事者にうんざりして、ディード判事は、やむなく判決ですが勝訴者に
  1セントしか認めません!
  
3 今回のメインの裁判ですが、もともとは、別の裁判官の事件です。
  第1話のところでも取り上げましたが、担当事件の決め方については、個々の裁判官の
  裁量が働くようです。
  今回は、他の判事からディード判事に割り当てられた詐欺事件をもらえないかと頼まれ
  (その理由は、詐欺事件を専門としている)、それと引き換えに、同判事の担当事件が
  回ってきたというわけです。
  書記官、秘書と、「凶器はなに」「拳ですよ。きっと名前も知らないボクサーですよ」
  「言ってみて。知ってるよ。名前だけじゃなく10年前に実際に試合を見たことがあるよ。
  相手をリングの外まで追っかけて行って殴っていたよ。アニマル・・・というあだ名だよ。
  ハァッハァッハァッ。」
  「被害者は誰?」「妻の愛人ですよ」
  「詐欺よりおもしろいよね。換えてあげて良かったね」なんて、
  始まる前から一丁上がりのように冗談言いあうのも、さもありなんで、興味深かったです。


ロメオは娘の大学の寮の部屋に侵入し、祖母からもらった人形を壊しますが、何も
盗んだりはしません。実害がないので、コルモアすらチャーリーの狂言ではないかと
疑っているようですが、当事者であるディード判事にはロメオの仕業とわかっています。
ロメオの狙いもそういうことです。
そもそも、警察の協力がないのは、サブの事件の警察官2人の傷害事件についての
ディード判事の訴訟指揮に原因があるのです。

この事件の目撃証人が証人尋問期日に出頭しません。この証言がなければ犯罪の
立証はできません。弁護側は「NO CASE TO ANSWER」として却下を求めます。
ディード判事は勘がいいですから、何かあると感じます。こういうときは、裁判官室に
移って話し合いがあります。アメリカのドラマでは裁判官の前には大きなデスクがあり、
その前に、検事、弁護人が立っているのがみられますが、このドラマのイギリスでは
検事も弁護人もゆったりとしたソファに着席しています。
出頭日になって、この証人が急に逮捕され、警察に拘置されたことがわかります。
ディード判事は弁護人に聞きますが、「知りません。なんで私に聞くんですか」などと
知らないふりをしていますが、「立場上わかっているはずでしょう」などと皮肉っています。
こういうちょっとしたやり取りが結構面白いです。
警察が目撃証人が証言できないよう圧力をかけたというわけです。
こういう不正はディード判事のもっとも嫌うところです。
すぐに法廷に連れてきなさいと命令です(連れてこなければ、法廷侮辱罪にすると、
ディード判事も脅すわけです)。

法廷に戻って、裁判は再開されます。ディード判事は「随分早く連れてこれましたね」
などと皮肉をいうのですが、これがまた警察の神経を逆なですることになります。
こういう手続きを巡ってのやりとりのときは陪審員に予断を与えるというので、陪審員
たちは退廷させられるのですね。ディード判事は「この後面白い場面が展開されるの
ですが、後で、予断を理由に裁判の効力が問題にされてしまいますから、残念ながら
みなさんには退廷してもらわけねればいけません」などと説明するのも、弁護人に
対するあてつけのようです。

いよいよ目撃証人の出番ですが、従前の陳述を否定し、二人の被告人を見たことを
否定します。間違いだったというのです。何で間違ったかをきかれてもわかりませんと
いうだけで、後は一切証言をせず、沈黙です。
先のとおり弁護人は証拠はないからという理由で却下の申立をしますが、認めず、
それならば、保釈を認めてほしいと申立しても、証人を脅す可能性があるので、保釈は
認められないとして即座に却下します。

というわけで、警察と全面対決しているわけですから、ディード判事が娘のチャーリーの
ことを頼んでも動きが鈍いというわけです。
イギリスではハイコートジャジには警察官の護衛がつくようですが、担当の護衛の
警察官も来なくなっています。
となると自分で動くしかない。とうとうチャーリーが誘拐される?実際はチャーリーの
携帯電話で誘き出されただけですが、ディード判事はロメオと対決、怒りのままにロメオ
に殴りかかり殺しそうなところまで・・・でも一線で思いとどまります。

ロメオは、さらに執拗で、とうとうチャーリーの部屋に忍び込み待ち伏せをして暴力に
及ぶのですが、
ここは危機一発で、助けられ、ロメオは逮捕されます。
狂言でないことがわかり、コルモア副警視官も謝り、一見落着かと思いきや・・・

今度は、ロメオを憎しみで殺したいと思った、殺意を持ったということで、ディード判事は、
自分にはもう犯人を裁く資格がない、判事の資格はないと悩みます。
同僚の裁判官からは同じ立場になれば自分だって同じことをしたと慰留されますが、
辞任を決意します。要は、ディード判事は真面目なんです。

ボクサーの傷害事件の検察官でディード判事の恋人のジョーは、ディード判事に辞任
しないように説得します。
「殺人の一歩手前までいって、でも自分の意思でそこから戻ってきた。そういう貴重な
体験をした裁判官はいない。折角のその貴重な体験は生かさなければいけない。
絶対にやめてはいけない」と必死に説得します。


さて、メインのボクサーの傷害事件、なかなか困難です。被告人は殴ったことは認めて
います(殴ったことも覚えていないがみんながそういうのなら間違いないのだろうという
こと)が、当時のことは何も覚えていないというのです。弁護人は責任能力がないとして
無罪を主張しています。
「Automatism」との主張です。字幕では「自動行為」と出ていましたが、本当は
「無意識の動作、行動」と訳すべきではないかと思います。

そもそも刑事責任は結果責任ではなく、悪いと分かりながら、あるいは悪いとわからな
ければいけないのに不注意でわからず、つまりは故意または過失によって罪を犯した
から罰せられるものです。
そうだとすると、自分が何をしているのか全くわからない状態であったとしたら、たとえ、
それが犯罪だったとしても非難されるべきではないというのが現代の考え方です。
日本の裁判でも、そういう主張は、しばしばあり、マスコミ等でも報道されているとおり
です。

したがって、「Automatism」が認められるには、
1 本当に「無意識のもの」であること、と
2 無意識になったことについて自分の「責任がないこと」の2要件が必要です。
もともと「Automatism」というのは判例で認められてきたのですが、この記事を書くに
あたって調べてみましたが、英米法(英、米のほかカナダ、オーストラリアなど)の世界
では、基本的には同じ理論構成のようです。
日本でも、基本的には同じです。特に⑵については「原因において自由な行為」
については責任免除はされないという言い方がされています。

それぞれについて、わかりやすく説明してみましょう。
1は、たとえば、泥酔してわからないとか、薬の影響でわからないとか、恐怖で

わからなかったとか、発作でわからなかったなどがあります。
2については、たとえば、薬の影響だったとしても、知らない間に薬をもられたのなら
責任はないが、自分の意思で薬を飲んでわからなくなったのなら責任があるとか、
また運転中にてんかんや心臓発作を起こして事故になったとしても、そういう発作を
起こすことがあるというのを知っていたとしたら、事故を起こす可能性がわかっていたこと
になり、第三者に助手席に乗ってもらうなど予防措置をしていなかったとしたら、
やはり責任は免除されないとなるのです。

ですから、このボクサーについてもこの2要件について、証人尋問が行われています。
日本の裁判でも同じかなという感じです。
で、やはり、事件には動機がありますが、この場合は、妻の浮気です。被害者と妻と
ボクサーは小学校からの幼馴染で、親友です。新婚旅行にも同行したというほど、
家族同然のつきあいです。
妻が新婚旅行にも一緒だったと証言すると、リィード判事「うん?その時から関係が
あったの?」なんて口を出します。いかにも彼らしい訴訟指揮です。(もちろん、その時は
なにもないです)
妻の不貞を知り、親友に裏切られて、怒りで暴力に及んだというわけのようでした。
ですから、「殺してやる、殺してやる」と叫びながら殴り続けたと妻の証言です。
本人は記憶していないというのです。しかし、犯行の50分後には、片道切符を持って
飛行場にいたところを逮捕されたというのですから、逃亡しようとしていたように見えます。
そうすると、全然記憶にないというのも、そのまま信じていいのか??
検事役のジョーは「暴力の男であり、生まれつきの暴力であり、暴力を仕事にしていた」
と陪審員に「暴力」を強調する冒頭陳述をしますが、なかなか迫力がありました。
comaというので植物人間のような状態になったのですが、死亡せずに、したがって
被告人にとっては致死罪に問われず、傷害罪という軽い罪ですむことになったのは、
ひとえに医者たちの献身的な医療行為によるにすぎないということも強調します。

弁護人は、被害者との親しい関係を強調して、意識があったら暴力などするわけがない
ことを証明しようとしています。被告人は涙を流したりするので、かなり成功しています。
リィード判事は、凶悪な犯行と被告人のこのような心情との落差に、どう判断すべきか
迷っているようですが、秘書さんはそんな被告人のことを「同情してもらおうとの
作戦ですよ」と冷ややかです。
リィード判事は、やっぱり詐欺事件の方がよかったなかなどと弱気になったりします。
こういうところがリィード判事のいいところです。

そこで、2の要件が重要ですが、弁護人は、発作を、脳の一部の機能損傷が原因と
主張しているようです。どうやらブクサー時代にそのような損傷をうけたというわけです。
専門家の鑑定証言もあって、かなり説得的だったように思います。ところで、弁護人は
まだ新人なのかリィード判事は、温かく?フォローしているようにも見えたりして、
人間味のあるところを見せています。

さて、いよいよ判決という段階になったところで、前述した事件に巻き込まれたわけ
です。
リィード判事が悩むのも、結局自分もこの被告人と同じではないか、娘可愛さに、
ロメオ憎しでつい冷静さを失い、首を絞めて殺そうとするところまでいった、少なくとも
殺してやろうという殺意を抱いた、被告人と同じだ、そういう自分が法の上にたって、
人を裁くなど資格がないのでは、というわけです。良心的なリィード判事、正義の人と
自認するリィード判事が悩むのは当然です。

最後の土壇場でジョーの説得に心を決めたようです。
ここからがリィード判事の見せ場です。

検察官役のジョーと弁護人を裁判官室に呼び、ジョーには軽い罪に訴因変更する
ように説得し(条文をあげていましたが、私にはその知識がないので正確には
いえませんが、日本的な発想では暴行罪かなと思います)、弁護人には有罪を認める
よう説得します。
このとき、そんなことをしたら上司が許さない、評判が落ちると抵抗するジョーには
「Automatismが認められて、無罪になるかもしれないが、
有罪は有罪なんだかいいのではないか」と説得し、他方、陪審員は無罪を認めると
思うと抵抗する弁護人には「そんなこといってもAutomatismは難しいので、有罪に
なるかも、そうすると20年くらいの懲役刑になる。それよりも軽くなればいいではないか」
と説得します。双方に違ったことをいう(一方には無罪になるかもといい、他方には
有罪になるかもと)。
こういう説得の仕方は日本でも同じで、やっぱりイギリスでも同じなんだと安心しました。
後の法廷の場面でわかりましたが、変更後の罪(おそらく暴行罪)の場合は、
最高刑が5年ということのようで、当然、弁護人には言わなくてもわかるわけで、
要は20年が5年で済むなら、危険を冒さなくてもいいのではないかというわけです。
陪審制の下では、有罪、無罪を決めるのは、裁判官ではなく、陪審員ですから、
どちらに転ぶかはリィード判事にすらいえないことですから、日本より説得はしやすい
のかなという感じがしました。

リィード判事は、判決の言い渡しで納得させるから法廷に戻ろうと、自信満々です。

アメリカでは、検察官と弁護人が取引をする場面がよくありますが、この流れをみると、
イギリスでは、アメリカ流の取引はできないのではないかと思いました。

さて、法廷に戻って、有罪を認めると陪審員に用はないというわけでそっけなく用済み
を宣言、そのあと再度被告人に証言台に立ってもらってもう一度確かめます。
被告人は一転して、「家族同然の、頼れるものは自分しかいないのに、そういう人に
暴力をふるってしまった、反省している、どのような重い刑であってももはやこの結果
を償うことはできない、覚悟している」と神妙です。さらに聞きます「いつそのような
心境になったのか」と。被告人は「裁判で勾留されている間にいろいろ考え反省した」
と答えるわけです。模範解答ですね。
そして、自分もこの裁判の期間中に同じような経験をしたというところから始まり、
20年の刑もあるかもしれない(被告人はそれでも軽いくらいだという)、でも最高刑
5年までしか言い渡しができない、それにどのような刑をいいわたしたところで、
関係者3人の失ったものは戻るわけではない、このままでは3人とも失ったままである、
と説明したうえで、
いよいよ判決です。

被告人の介護を毎日すること(ただし被害者がいいといってくれたら)という内容の
社会奉仕命令を出しました。

なかなか、確かに、言い判決だと思います。
ほろっとしますね。人情判決です。これがリィード流の正義です。

ところで、原題の「Appropriate Response」ですが、
直訳すれば「適切な対応」というのでしょうが、何が適切な対応なんでしょうか。
このドラマでは、リィード判事が辞任を決意し、ジョーから思いとどまるよう説得された
とき(この経緯は前述)に、リィード判事は、それが「Appropriate Response」という
ものだと答えています。
そして、判決の言い渡しをしたのですから、ボクサーの事件については、
懲役20年ではなく社会奉仕命令が「Appropriate Response」だと、このドラマは
言っていることになるのだと思うのですが。
「Appropriate Response」が辞任を受けてなのか、それともジョーの説得をうけて
職に留まる決意をうけての「Appropriate Response」なのか、
考えさせられました。


この間に、リィード判事のLOVE LIFEがからんできます。ジョーを誘っておきながら
ローチェスター大法務府事務次官(日本でいえば何にあたるのか今のところまだ
わかりません)の若い妻のフランチェチェスカとダンスをし、みんなを挑発するとか、
ジョーに身勝手を非難されるとこれからは真面目にするからなどと謝るなど、およそ
、裁判官らしからぬ私生活がお堅い法廷物語に華やかな色どりを添えます。というより、
こちらの方が結構楽しかったりです。ただこの部分は、あくまでもドラマだからと
考えたいですね。


裁判官が主役のドラマというのは、そう多いものではありません。
また法廷ものといえばアメリカもので、イギリスのものはあまり見かけません。
法律家としてみても大変勉強になります。

ドラマ離婚弁護士の法律監修者として、全話について、製作にかかわった経験
からいうと、ドラマとして、面白く、理解しやすく、見やすくするためには、いろいろな
工夫が必要です。
このドラマを見ていても、そういう制作者の苦労が見えてきて、ただ無邪気に楽しむ
というだけですませることはできなくなっております。


見どころについては、ANXミステリーのみどころ
主な登場人物については、ANXミステリーのキャスト&スタッフ
をご覧ください。

第4話は「出生の秘密」ということです。楽しみです。