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現代プレミア加藤陽子×佐藤優×佐野眞一●広大で豊穣なる世界へ、ようこそより

ただ者じゃない女性作家

加藤 大失敗して甦ったり、大きくなったノンフィクション作家っているのでしょうか?
佐野 たとえば、大失敗とは言えないかもしれないけど、開高健の『ベトナム戦記』。これは失敗作だと僕は思っているんです。それから甦るのに、『夏の闇』(新潮文庫)まで20年ぐらいかかったんじゃないかな。これは小説ですが、紛れもない傑作。そういう例はありますよね。開高健も『ベトナム戦記』は決していい作品だとは自分でも思っていなかったと思いますよ。『輝ける闇』(新潮文庫)を直後に書いたけど、これもダメ。『夏の闇』まで待たなくちゃならなかった。そういうことは往々にしてあります。
加藤 失敗作と自覚しつつ長く待って伸びる場合もあると。
佐藤 でもね、あるとき、『チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫)を書いた海堂尊さんに、その話をしたんです。「いや、佐藤さん、それは小説家のことを分かっていないな」と彼が言うんです。「小説家は、どの作品もぜんぶ大成功なんだ。絶対に失敗したなんて思っていない」と(笑)。成功とか失敗とか言うのは、文芸批評家の仕事です。書いている小説家からすると一つ残らず大成功なんだということなのでしょう。
佐野 まあ、それはそうでしょうね。
佐藤 小説・文学とノンフィクションとの融合として、非常に印象深いのは、澤地久枝さんの仕事なんです。ただし、『密約 外務省機密漏洩事件』ではなくて、五味川純平の『戦争と人間』の註なんです。
加藤 すごい読み方ですね。澤地さんが中央公論の編集者時代に『戦争と人間』の資料助手として、脚註を担当していますね。
佐藤 私は、たとえば戦前の言論界で絶大な影響力を持った蓑田胸喜{むねき}については、その註で知りました。
加藤 澤地さんは『密約』以外にも、『妻たちの二・二六事件』『滄海{うみ}よ眠れ ミッドウェー海戦の生と死』などの作品がリストに上がっていますね。女性の作品という点に着目してみると、保阪正康さんも、福永操『あるおんな共産主義者の回想』とか、上原栄子『辻の華 くるわのおんなたち』を挙げています。私の単純な感想なのですが、どうも一世代前のほうが、女性の書き手が多かったように思うんです。石牟礼道子、有吉佐和子や松本清張の伴走者であった藤井康栄、その妹さんの宮田毬栄がリストに入っています。たしかに、現代の女性ノンフィクションとして、内澤旬子、星野博美、梯{かけはし}久美子、黒岩比佐子など優れた方々がいますが、神聖さというのか、魂を拾って書くというのか、迫力の点で一世代前の人よりスマートな気がする。
佐野 加藤さんがおっしゃっているのは、石牟礼道子的な、ノロ(祝女。琉球信仰における女司祭)のような感覚を持った書き手ということでしょうか。そういう人が昨今はいないと。
加藤 そういう気がするんです。
佐野 石牟礼さんで言うと、『苦海浄土』が代表作と言われていますが、僕は『西南役伝説』を推したいですね。彼女がうんと若いとき、まだ西南戦争の生き残り一人ひとりに、まあ90人とか100人近くに、丹念に聞き取りをして歩いた。
加藤 彼女がそこに目を向けたのは、なぜだったんでしょう。熊本に生き残りがいたから?
佐野 そうでしょうね。西南の役だけじゃなくて、長崎の切支丹についても言及していまして、すごいシーンがあるんです。切支丹を刑場に連れて行く前、どういうわけか最後のメシに、うどんを腹いっぱい食わす。それで、竹で刺すんですね。そうすると内臓から白いうどんがにょろにょろと出てくる。それを克明に描いている。
加藤 細部を色彩とモノで示すわけですね。すごいです。
佐野 石牟礼道子というのは、ただ者じゃないと思いましたよ。そのあと『苦海浄土』を書くわけだけど、『苦海浄土』に行く道筋が『西南役伝説』にはっきり書かれている。

■話題に上がった書籍リンク
ベトナム戦記
夏の闇
輝ける闇
チーム・バチスタの栄光(上)
チーム・バチスタの栄光(下)
密約―外務省機密漏洩事件
戦争と人間 (1)
妻たちの二・二六事件
滄海(うみ)よ眠れ―ミッドウェー海戦の生と死{1}
あるおんな共産主義者の回想
辻の華―くるわのおんなたち
苦海浄土―わが水俣病
西南役伝説


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