佐野眞一のノンフィクション100選:ベスト10
※コメントは選者ご本人によるものです
■西南役伝説 (朝日選書)
石牟礼道子
朝日選書/1988年
西南戦争を目撃した人びとの聞き書き。『苦海浄土』の原点がここにある。知られざる異教徒弾圧の歴史も書き込まれており、圧倒される。近代の奈落を彷徨いながら、魂の救済の在り処を求めた光の物語である
■人とこの世界 (ちくま文庫)
開高健
ちくま文庫/2009年
うるさ型の作家、詩人、画家の内面に肉薄した人物論の最高傑作。開高には、『ずばり東京』、『ベトナム戦記』などの傑作があるが、代表作というなら、これ。インタビューと論評のコラボレーションもみごとである
■スパイM―謀略の極限を生きた男 (文春文庫)
小林峻一、鈴木隆一
文春文庫/1994年
日本共産党のタブーに挑んだ意欲作。立花隆『日本共産党の研究』がやや評論的な記述なのに対し、こちらはよりドラマチック。飯塚盈延という謎めいた男を追及するドラマは、どんなスパイ小説より刺激的である
■鞍馬天狗のおじさんは (ちくま文庫)
竹中労
ちくま文庫/1992年
鞍馬天狗役で一世を風靡した怪優・嵐寛寿郎の掬(きく)すべき芸談。哀歓こもごもの色ざんげも秀逸である。ノンフィクションには、こんな手法もあったのかと驚くこと必至。サブタイトルは『聞書アラカン一代』
■紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)
中上健次
角川文庫/2009年
自分の肉体を切り刻むようにして故郷の被差別を踏破したルポルタージュ。ときに饒舌に、ときに悲痛に自分の出自を語る世界は、読む者を圧倒せずにはおかない。中上文学の原点が、ここにある
■誘拐 (ちくま文庫)
本田靖春
ちくま文庫/2005年
高度経済成長の恩恵にあずかれなかった男がたどった運命の結末。犯罪者をただ断罪するのではなく、罪を犯さざるを得なかった男に注がれた著者の温かなまなざしが日本社会への、痛烈な批評となっている
■昭和史発掘〈1〉 (文春文庫)
■昭和史発掘〈2〉 (文春文庫)
■昭和史発掘〈3〉 (文春文庫)
■昭和史発掘 (4) [新装版] (文春文庫)
■昭和史発掘 (5) [新装版] (文春文庫)
■昭和史発掘 <新装版> 6 (文春文庫)
■昭和史発掘 (7) [新装版] (文春文庫)
■昭和史発掘 <新装版> 8 (文春文庫)
■昭和史発掘 <新装版> 9 (文春文庫)
松本清張
文春文庫/2005年
白眉は二・二六事件の発端から終焉までの人間ドラマ。とりわけ皇居に侵入した青年将校が、警視庁を鎮圧した仲間に手旗信号を送ろうとして失敗するくだりは、圧巻。歴史を肉体化させるとは、こういう作業をいう(新装版)
■忘れられた日本人 (岩波文庫)
宮本常一
岩波文庫/1984年
名もなき庶民のライフヒストリー。もし宮本が記録しなければ、この哀切で逞しい民衆の物語はこの世に存在しなかった。とりわけ、「土佐源氏」と「梶田富五郎翁」は、何度読んでも胸しめつけられ、心洗われる
■戦艦大和ノ最期 (講談社文芸文庫)
吉田満
講談社文芸文庫/1994年
太平洋戦争末期、一戦艦と運命を共にした将兵の悲劇を神話的表現にまで高めた傑作。戦争の愚かさを描いて、これを超える作品は、おそらく今後も出てこないだろう。戦艦大和が、一人の人格として立ち上がってくる
■逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
渡辺京二
平凡社ライブラリー/2005年
幕末・明治に日本を訪れた外国人の目に映ったこの国の原像。日本の庶民はこれほど清潔でモラリスティックな民族だったのか。ここには西欧文明の波に洗われる前の日本と日本人が活写されている
「古典」に続く
Profile
さの しんいち
1947年生まれ。
早稲田大学卒業後、勁文社入社。
その後、業界紙記者を経てフリーのノンフィクション作家となり、97年、『旅する巨人』(文春文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『誰も書けなかった石原慎太郎』(講談社文庫)、 『小泉政権 非情の歳月』(文春文庫)など著書多数
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■外務省:外交史料館
「案外、資料が充実している」
■松岡正剛の千夜千冊・遊蕩篇
「本読みにとっては大いに参考になる」
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