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東京グリンツィング シェフブログ

フレンチレストランのシェフが紹介する季節の料理と食材

仔羊のロースト タイム風味 ジロール茸のソース

2008年02月03日 | メインディッシュ

本日は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

仔羊のロースト タイム風味 ジロール茸のソースです。

オーストリア産仔羊の背肉を、豪快に骨付きでローストしています。

仔羊にも、肩肉や腿肉等の色々な部位が有りますが、ローストして最も美味しい所が、今回の背肉の部分です。

赤身の部分はとても柔らかく、脂身のコクも有りますので、十分な食べ応えがあります。

よく羊肉は、癖があり、特に脂の部分を苦手だと言われる方がおられますが、確かに牛肉や豚肉に比べて味わいも個性的な所は有りますし、育って大きくなった羊は、独特な香りがあります。

しかし、新鮮で良質な仔羊肉は、癖も無くとても繊細で美味しい、お勧めの食材です。

さて、作り方は、背骨と余分な脂を取った背肉に塩をふり、フライパンで焼いていきます。

特に、脂の部分をよく焼いて香ばしさを強調する事が大事で、その他の面は硬くならないように、軽く色付く程度にしています。

その後、170℃のオーブンに入れますが、最後まで脂の面を下にする事で、柔らかくソフトに火を通せますし、途中で出てくる仔羊の脂を頻繁にかける事で、その旨みと香りをお肉に戻しながら乾燥を防ぎます。

触った弾力等でロゼ(バラ色)になるように焼きあげたら、温かい所に置いて休ませます。

そしてその時に、黒胡椒をふりかけますと、繊細な香りがお肉に付きます。

オーブンから出した後に休ませておく事が大事で、もし、仔羊の中の肉汁を落ち着かせずに切ってしまうと、その断面から大切な肉汁が出てしまいます。

今回のように、骨付きの状態でじっくりと焼き上げる方法は、仔羊の自然な美味しさをストレートに味わっていただけると思います。

そして、お肉を休ませている間に、ジロール茸のソースを作ります。

ローストに使ったフライパンで、ジロール茸とエシャロットの微塵切りにを炒めてから、少量の白ワインを加えて煮詰め、そこに仔羊の骨をフォンドヴォー(子牛のダシ)で煮出して作った仔羊のジュ(肉汁ソース)を入れて軽く煮込みます。

仕上げに、香草のタイムの葉を加えてから、塩で味を調えています。

最後に、温めてカットした仔羊肉とオリーブオイルでソテーした季節野菜をお皿に盛り、ジロール茸のソースをかけて完成です。

現在は、季節の問題でジロール茸に変わり、シャントレル等の他のフランス産キノコに変わっています。

お肉を焼いた鍋を使いその場でソースを作っていますので、とても香りが高く、味わいにも勢いを感じます。

大胆に見える料理ほど、作る時に意外と繊細な感覚が必要な気がします。

上質なワインともピッタリですので、お客様には大胆に楽しんでいただきたい一皿です。 

 

 

最近、営業中の働いている時に、ふと思った事があります。

「自分の夢って何だろう?」

人の数だけ、それこそいろんな夢があると思います。

自分自身の最初に抱いた夢は、小学生の1年生位の時に、将来は手品師になりたいと思った事でした。

その時は、手品師は何でも好きな物を好きな時に出す事が出来ると信じていましたので、大好きだった祖母に、沢山のプレゼントをしたかったのです。

当然、そんな夢は、無理な事に気づいて諦めました。

その後は、自分の才能を認めてもらえるような絵描きや、沢山の人に喜びと夢をあたえるお菓子屋さんになりたい等と、年齢と共に変わっていった気がします。

そして今は、グリンツィングでシェフとして働いています。

もう一度考えました。

「今の自分の夢って何だろう?」 

将来、お金持ちになりたいのだろうか?それとも、料理人として有名になることが、自分の夢なのだろうか?

そんな事を考えながら、いつもの様に小窓から客席を見ると、自分の料理を美味しいと喜んでおられる一人のお客様を見つけたのです。

小さい時に、大好きな祖母に喜んでもらいたい。

そこが、自分の夢の始まりでした。

そして今、自分の仕事が、人を幸せにしている。

気が付いたのです。

自分の夢は、もうすでに叶っている事に・・・

 

自分の夢であるこの職業を、これからも大切にしていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 


蝦夷鹿腿肉のロースト ポワヴラードソース

2007年12月17日 | メインディッシュ

本日は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

蝦夷鹿腿肉のロースト ポワヴラードソースです。

毎年この時期には、北海道から上質の蝦夷鹿が届きますので、煮込みやロースト、グリル、パテ等にしています。

そして今年は、柔らかく味わいも豊かな内腿肉をシンプルにローストして、滋味深い旬の根菜等を添えた一皿にしてみました。

通常ですとローストには、ロース肉やフィレ肉を使うお店が多いのですが、グリンツィングでは、腿肉を使いよりジビエらしい野生の風味を味わっていただきたいと思っています。

個人的には、柔らかく繊細なフィレ肉やロース肉よりも、ある程度肉としての噛み応えが有り香りも濃厚な腿肉の方が、よりワインを楽しめる気がします。

火を通すとパサつき硬くなり易い肉質ですが、ローストする時にはたっぷりのバターと共に低温のオーブンでじっくりと焼いていますので、その心配もありません。

その他にも、ローストした後に黒胡椒を挽きかける所もポイントの一つです。

今回の鹿肉だけでなく他の肉を焼く時にも、最初に胡椒をせずに焼き上がりにする事で、肉の余熱によって胡椒の繊細な香りが立ち上がります。

そしてこだわりのソースは、黒胡椒の香りと鹿肉の風味が詰まったポワヴラードソースです。

完成するまでにとても手間がかかるソースですが、鹿肉との相性は本当に素晴らしいです。

作り方は、最初に鹿のフォン(ダシ)を作りますが、鹿の骨とスジ肉、香味野菜を香ばしく焼き、赤ワイン、フォンドヴォー、スパイス、ブーケガルニを加えて3時間程煮出して漉します。

そして、ソースのベースですが、鹿の屑肉やスジ肉とニンニク、エシャロットを炒めた所に、赤ワインビネガー、赤ワインの順に加えて煮詰めてから、先ほどの鹿のフォンとスパイス、ブーケガルニを入れて1時間程煮込み、味が出た事を確認して漉します。

漉した物を軽く煮詰めたら、仕上げにカシスのジャムとディジョン産マスタード、生クリーム、黒胡椒を加えてから塩で味を調えて完成です。

読んでいただければわかると思いますが、工程も細かく、作る時間も材料の費用もかかります。

もっと簡単に、時間も手間もかけずにソースを作る方法も他にありますが、自分には簡単なそれだけの味でしかない気がします。 

訳も無く、赤ワインとフォンドヴォーを煮詰めただけの物をソースとは言いたくありません。

頻繁に、このブログの中でもソースの重要性やこだわりを書いていますが、決してソースが主役の料理や、究極の旨みを持ったソースを作りたい訳では有りません。

メインの素材を引き立て、一皿の中で自然に調和する完成度の高いソースを作りたいのです。

 

今回ご紹介した鹿肉のローストにポワヴラードソースの組み合わせは、沢山の料理人が作る定番の一皿ですが、こういった王道の一皿を自信を持って作れるようになった事は、最近の自分にとって本当に嬉しい成長です。

以前でしたら、無理にでも人と違う方法や形で表現しなければ評価してもらえない気がして、本当に良いのか悪いのか自分自身にも分かっていない事があったと思います。

大切なのは変わった事をする事ではなく、いかに完成度の高い本物の味を表現するかだと学びました。

見た目には普通の当たり前の一皿を、自信を持って自分の料理だと言える勇気を、これからも大切にしていきたいと思います。 

 


ハタのムニエル 茸を添えて

2007年11月23日 | メインディッシュ

今回は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

ハタのムニエル 茸を添えてです。

脂がのり肉質もしっかりとしたハタには、香ばしくコクのあるバターが良く合いますので、時間をかけてじっくりとムニエルにしてみました。

白身魚にはオリーブオイルでカリッと焼く事が多いのですが、しかし今回仕入れたハタには、白身の肉に近い力強さと濃厚さを感じましたので、その個性に負けない調理法とソースにしています。

その他にも大きなハタには、他の白身魚と違い、熟成によって味わいや身質が変わる気がします。

そこでソースは、豚のジュ(肉汁)をベースにレモン汁やケッパー、イタリアンパセリ、エシャロットを加えて、仕上げに香ばしい焦がしバターで仕上げた、香り高くコクのある物になっています。

魚のソースに豚のだしとは少し変わっていますが、ハタの強い味わいとイメージから、インパクトのある旨みが欲しかった事と、バターを使った調理法には、ベーコン等の豚肉の香りとの相性が良い事から使っています。

バターと豚のジュと聞きますと、重くてくどいように思われるかもしれませんが、レモン汁やケッパーの酸味が強く効いていますので、むしろサッパリとした味わいです。

ソースに加えるバターも焦がす事で、乳化させたソースよりも味の切れがぐっと良くなりました。

付け合わせには、香ばしくソテーした茸をたっぷりと添えていますので、ボリューム感のある魚料理を楽しんでいただけると思います。

ワインとの相性もピッタリの一皿です。

 

そして、先日ついにミシュランの東京版がでました。

ミシュランはフランス修行時代によく読み、星付きのレストランやシェフに憧れていましたし、そこで修行する自分の励みにもなっていました。

今回の東京版の発売も、日本の飲食業界の活性化や、料理人の意識向上などの効果を期待しています。

星をもらい仕事を評価される事はとても素晴らしい事ですし、本人にとっても嬉しい事だと思います。

しかしミシュランに掲載されたお店以外にも、それ以上に努力をして経験をかさねて、本当に素晴らしい仕事をされている先輩の料理人が、東京には沢山おられる事を自分は知っています。

今回はミシュランというガイドブックの、ある一つの基準の評価として受け止めたいと考えています・・・。

 

人に評価される事も大切ですが、それ以前に人が見ていてもいなくても、自分の仕事を一生懸命にする。

そんな料理人に自分はなりたい。 


雉とフォワグラのパイ包み焼き サルミソース

2007年11月12日 | メインディッシュ

本日は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

雉とフォワグラのパイ包み焼き サルミソースです。

今年もジビエの季節になり、フランスから野生の雌の雉が届きました。

毎年この時期には、フランスからは雉の他にも山鶉や山鳩、青首鴨等が届き、日本では北海道の蝦夷鹿や丹波の猪、新潟の真鴨が、グリンツィングのキッチンに集まります。

今回届きました雉は、鮮度や状態共に良く、とても素晴らしい食材でした。

野生ですので個体差があり、その上鉄砲で撃たれた場所が悪いと状態が良くない為に、そのつど調理法や味付けを変えなければいけません。

そこがジビエの難しさでありますが、しかし面白さでもあるところです。

野生の肉が持つ繊細で力強い味わいに、ぴったりの熟成と適切に調理された一皿は、飼育された肉には出せない凄みが有ります。

今までに食べたジビエでは、フランス修行中に食べた野ウサギの煮込み(リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル)は、これぞジビエという複雑で野生的、そしてこの上なく濃厚な美味しさに、とても感激した思い出があります。

東京でもその時の味を再現したいのですが、今はフランスから野ウサギが入りませんので残念です。

さて、今回の雉ですが、ボリュームとコクをプラスするために、フォワグラと一緒にパイで包んで香ばしく焼き上げる事にしました。

雉はとても淡白な味ですので、お店に届いたばかりの新鮮な状態では、癖のない鳥肉位の価値しか有りませんが、数日間じっくりと熟成させる事で、本来の雉の個性と独特の良い香りが出てきます。

そんな香り高い雉に、コニャックや赤ワイン、バター、生クリームを合わせて、フランス料理らしい一皿を食べていただきたいと思います。

パイ包みの作り方は、雉の胸肉と腿肉、砂肝や心臓、レバーと豚のノド肉を、コニャックと塩、スパイスと共に1週間漬け込み、ミンチにしてから炒めた玉葱と卵、クリームを加えて良く練った物と、軽く焼き色を付けた鴨のフォワグラを折り込みパイ生地で包み、溶いた卵黄を塗ってから、250度の高温のオーブンで15分程焼きます。

サルミソースは、雉のガラと香味野菜を炒めた所に、コニャックと赤ワインを加えてよく煮詰めてからフォンドヴォー(仔牛のダシ)を入れて、ブーケガルニとスパイスを加えて一時間位弱火で煮ます。

目の細かい漉し器で漉した後に、軽くソテーした雉のレバーと一緒にミキサーに入れてよく回します。

鍋に移し弱火で加熱して濃度を付けてから、もう一度漉して、最後に塩とコショウ、コニャック、バター、生クリームで味と濃度を調えて完成です。

付け合せには、別皿で胡桃風味のサラダを添えていますが、今回は熱々のパイ包み焼きと濃厚なサルミソースを、じっくりと味わっていただけたら嬉しいです。

 

美味しい料理には、必要な作業や要素と同じく、必要で無い作業や要素が有ると思います。

やらなければいけない事と、やらなくてもよい事とも言えます。

今まではその作業や要素の違いが解らずに、やらなければいけない作業を軽く考えたり、外してしまったり、逆にやらなくてもよい事に、時間や労力を使っている事も多かった気がします。

お店によって必要な事はそれぞれ違いますが、基本的な所や、基礎になるベースの部分こそ大切であり、時間と労力を注がなければいけないと思います。

いくら外側の綺麗さや奇抜さが目立っても、そこに本当の美味しさや感動はあるのでしょうか?

「当たり前の事をきちんとする」またそこから始めたいと思います。


鶉の葡萄の葉包み焼き マスカットとコニャックのソース フォワグラ添え

2007年09月23日 | メインディッシュ

本日は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

鶉の葡萄の葉包み焼き マスカットとコニャックのソース フォワグラ添えです。

9月も半分を過ぎまして、少しずつ秋の気配がしてきました。

毎朝、食材の買出しに行きましても、松茸や秋刀魚、栗、等の秋の食材で、売り場も賑わっています。

そんな食欲の秋に、とても調理したくなる食材の一つが、鶉です。

グリンツィングでは、フランスのアンジュ産の中でも特に大きいサイズの物を取り寄せていますが、毎週届くたびにその鮮度と良質さに、とても嬉しくなります。

野生のジビエと違い家禽ですので、味わいに特別な癖は有りませんが、その中にも鶉としての個性は、しっかりと感じることが出来ます。

むしろ、脂がのりとても柔らかい肉質は、肉の芸術品の様な完成度です。

そんな素晴らしい鶉を使い今回は、とてもクラシックな調理法で味わっていただきたいと思います。

鶉を葡萄の葉で包んでローストする事で、間接的で蒸し焼きに近い状態になり、とてもしっとりとジューシーに仕上げる事が出来ました。

そして同時に、葡萄の葉の良い香りもお肉に付きますので、秋の季節感の表現も出来て一石二鳥です。

ソースには、マスカットとコニャックを使っていますので、同じ葡萄つながりで相性が悪いはずがありません。

そのソースの作り方ですが、鍋で鶉の骨をバターで炒めた所に、皮付きのニンニクを加えて更に炒め、余分な脂を捨てた後に、シェリー酒ビネガーとコニャック、マデイラ酒の順番に加えてよく煮詰めます。

煮詰まりましたらフォンドヴォーを加えてから、黒胡椒とタイム、ローリエを入れて軽く煮出します。

そして漉した後に、塩、胡椒、コニャック、バターで味を調えてから、皮を剥いたマスカットを加えて完成です。

上品なコニャックの香りとマスカットの甘さが、優しく繊細な鶉と本当にピッタリです。

更に付け合せには、フォワグラと茸のソテーを添えていますので、食欲の秋に相応しい一皿になったと思います。

 

フランス料理もワインも美味しいこれからの季節。

営業中にお客様以上に楽しんでいるのは、調理場の中で素晴らしい食材に囲まれた、自分達かも知れません。