ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

正直村の子どもたち(5)

2008-09-09 | 放蕩息子Part2
教室に戻った生徒たちは、話しました。
「カンニングしたことを申し出れば、再試験を受けられるって言ってたね。」
「だれがカンニングしたか、どうやってわかる?」
「そうだそうだ。申し出たら、再試験だぞ。」
「申し出なければ、そのままテストはいい点数なんだ。」
「でも、先生、私たちの代わりに、鞭打ちになってくれたんだよ。」
「だから感謝して、何にもなかった顔をしておけばいいのさ。」
「そうだそうだ。そうすれば、テストはいい点数のままだ。」
・・・・

ある生徒たちは、校長室に行きました。そして、正直に、自分がカンニングしたことを校長先生に話しました。

校長先生は、黙ってうなずいただけでした。でも、その顔は、どこか穏やかでした。

生徒たちが教室に戻ろうとすると、校長先生が呼び止めました。
「校長室で、校長先生と一緒にお話をしよう。」

生徒たちは、少しびっくりしましたが、校長室に座っている間に、だんだん馴染んできました。そして、校長先生が、いろいろな話をしてくださるので、それを聞いているうちに、みんなは校長先生といるのが、とても楽しくなってきました。そうこうしている間に、また何人か、生徒がやって来て、自分がカンニングしたことを校長先生に話しました。校長先生は、いつも、黙ってうなずいただけでした。でも、その顔は、どこか穏やかでした。

「さあ、12時になった。お昼にしよう。」校長先生が言いました。そこに、給食室から、特別料理が運ばれてきました。生徒たちは、大喜びで、お昼を食べました。こんなに楽しいお昼は食べたことがありませんでした。

(つづく)


正直村の子どもたち(4)

2008-09-08 | 放蕩息子Part2
そのとき義男先生が、手を上げました。

「校長先生。私が、生徒たちの代わりに鞭打ちを受けることができるでしょうか。生徒たちの小さな体が3回も鞭で打たれたら、背中が張り裂けてしまうでしょう。」

校長先生は言いました。
「わかりました。義男先生が生徒たちの代わりになることを認めましょう。鞭打ちは最高の29回とします。」

義男先生は、ゆっくり前に出ました。そして、着ていた上着を脱ぎ、上半身裸になりました。

  校長先生は、鞭を手にしました。

    義男先生は、静かに目を閉じ、そして、校長先生は鞭打ちを始めました。

生徒たちは、身動き一つせず、息を呑んでその様子を見ていました。


鞭打ち29回が終わりました。
義男先生の背中には、深い傷が何本も走り、血がにじみ出ていました。義男先生は、息をするのも苦しいほどでした。それでも、生徒たちのほうを一度見て、そして、振り返って、精一杯の大きな声で、言いました。

「校長先生。決まりでは、テストは0点ですが、生徒たちにもう一度、テストを受けさせてもらえないでしょうか。」


校長先生は、しばらく考えて、そして、はっきりと言いました。

「義男先生が代わりに鞭打ちを受けました。だから、もう今回のカンニングで鞭打ちされる人は、だれもいません。カンニングをした人があれば、今日のお昼12時までに校長先生まで申し出てください。申し出た人は、再試験の権利を与えます。それから、今日の授業は自習にします。では、これで解散。」

(つづく)


正直村の子どもたち(3)

2008-09-06 | 放蕩息子Part2
また、テストがありました。

義男先生はテストの答え合わせをしていました。それがどうも変な感じなのです。生徒たちの答えがあまりにも似ているのです。

翌日、義男先生は、生徒たちに言いました。「もし、みんなのなかで、カンニングをした人があれば、今日の夕方5時までに先生に申し出てください。」

でもだれも、申し出てきた生徒はいませんでした。



次の日の朝です。緊急全校朝礼が開かれました。学校の生徒全員が、校庭に並びました。

校長先生が、穏やかに、けれども重々しく、ゆっくりと話し出しました。

「正直村に住む人は、みんな正直な人たちのはずです。ところが、最近、カンニングをする生徒がいることがわかりました。カンニングをした生徒は、鞭打ち3回、そしてそのテストは0点という決まりです。これから、名前を呼び上げる人は、前に出て来てください。決まりに従って、鞭打ちをします。」

(つづく)


正直村の子どもたち(2)

2008-09-05 | 放蕩息子Part2
また、テストがありました。

義男先生はテストの答え合わせをしていました。それがどうも変な感じなのです。生徒たちの答えがあまりにも似ているのです。

義男先生は、そのことを校長先生に相談しました。

「やはり、生徒たちがカンニングをしているのだろう」、校長先生は、そう言いました。

義男先生は自分の生徒たちに間違ったことをしてほしくありませんでした。「生徒たちがカンニングをしようと思わないように、決まりを作ります。カンニングをした生徒は、鞭打ち3回、そしてそのテストは0点。次のテストから、こうすると、生徒たちに告げます。」義男先生は、校長先生にそう言いました。校長先生は、黙ってうなずいただけでした。


また、テストがありました。

義男先生はテストの答え合わせをしていました。それがどうも変な感じなのです。生徒たちの答えがあまりにも似ているのです。

翌日、義男先生は、生徒たちに言いました。「もし、みんなのなかで、カンニングをした人があれば、今日の夕方5時までに先生に申し出てください。」

でもだれも、申し出て来た生徒はいませんでした。


義男先生は、そのことを校長先生に相談しました。

「生徒たちがカンニングをしているのは間違いないだろう」、校長先生は、そう言いました。

でも、テストを見ただけでは、だれがカンニングしたのか、はっきりしません。

校長先生が言いました。「生徒たちに、もう一度、新しい決まりのことをよく言って聞かせなさい。そして、生徒たちにわからないように、教室にビデオカメラを取り付けましょう。それを見れば、だれがカンニングをしたのか、はっきりとわかります。そして、カンニングをした生徒は、本当に、鞭打ちにしましょう。」

義男先生は自分の生徒たちが不正をしているとは思いたくありませんでした。でも、こうなっては仕方ありません。義男先生と校長先生は、その夜の間に、生徒たちにまったくわからないように、教室にビデオカメラを何台も取り付けました。

(つづく)


正直村の子どもたち(1)

2008-09-04 | 放蕩息子Part2
あるところに正直村がありました。村の人たちはおとなも子どももみんな正直で、ウソをついたり、人を騙したり、物を取ったりする人は、だれもいませんでした。だから正直村の家には、鍵がついていませんでした。

正直村に学校がありました。学校ですから、テストがあります。テストのとき、試験監督の先生はいません。教室にいるのは、生徒たちだけです。なぜなら、正直村の子どもたちは、みんな正直ですから、テストでズルする人はだれもいないからです。


義男先生がテストの答え合わせをしていました。それがどうも変な感じなのです。生徒たちの答えがあまりにも似ているのです。

最初、義男先生は、自分の造った問題がバレていたのではないかと思いました。でも、そんなはずはありません。義男先生は、自分ひとりでテスト問題を作り、大切にしまっていましたし、またテストのその朝、自分ひとりで印刷しましたから、だれも見ることはできないはずです。

義男先生は、そのことを校長先生に相談しました。

「もしかしたら、生徒たちがカンニングをしているのかもしれない」、校長先生は、そう言いました。

義男先生は自分の生徒たちを疑いたくはありませんでした。「これはきっと、たまたま、そうなっただけでしょう。」義男先生は、校長先生にそう言いました。校長先生は、黙ってうなずいただけでした。

(つづく)