好酸球性副鼻腔炎に著効を示す薬は、今のところステロイドの全身投与だけです。ステロイドには副作用の可能性もありますので、他の治療法の開発が待たれるところですが、現在のところは、必要なときには副作用に注意しながら内服ステロイドを用いることになります。
ステロイド(コルチゾン)が関節リウマチに劇的な効果があることが報告されたのは1949年ですが、翌1950年にはもうその功績にノーベル賞が与えられていることが、いかに画期的な発見であったかを示しています。その後10年もしないうちに、グルココルチコイド作用(治療に必要な作用)を残し、ミネラルコルチコイド作用を減らした、現在も使われているようなステロイドが、次々に合成されています。
ステロイドのグルココルチコイド作用は、コルチゾールを1とすると、プレドニゾロンが4、デキサメタゾンとベタメサゾンが25です。プレドニン1錠が5mgであるのに対し、セレスタミン1錠には、0.25mgのベタメサゾンが含まれています。血中半減期は、プレドニンが2.5時間、ベタメサゾンが3.3時間です。デキサメタゾンやベタメサゾンは、1錠中に含まれる量は少ないですが、力価が高く持続時間も長いので、注意が必要です。
健常成人の副腎皮質から分泌されるコルチゾールは約1日約10mgと言われています。
ステロイドは抗炎症作用だけでなく、全身にいろいろな作用がありますが、副作用も同様にいろいろあります。ステロイドの副作用の発現は、個人差もありますが、薬の種類、投与量、投与期間によって違います。短期間の投与であれば安全域が広いのに対し、中等量以上を長期間投与すると、副作用は出やすくなるとされています。
一般的に好酸球性副鼻腔炎のステロイド内服は短期間ですので、副作用の可能性はそれほど高くないと言えます。点鼻ならいっそう可能性は減ります。オルガドロン点鼻を1週間に1本使用し、その大部分がのどに流れてのみこんで吸収されたとしたら、プレドニゾロン換算で1日1mg弱です。しかし、長期に至れば絶対副作用が起きないとは言えません。点鼻ステロイド薬も、効果がないのに漫然と続けるのは、避けたいと考えます。
現在使われている点鼻ステロイド薬を列挙してみます。商品名(一般名/添加物)
- オルガドロン点眼・点耳・点鼻液0.1%(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム1mg/ベンザルコニウム塩化物液、ホウ酸、ホウ砂、エデト酸ナトリウム水和物、等張化剤)
- リンデロン点眼・点耳・点鼻液0.1%(ベタメサゾンリン酸エステルナトリウム1mg/乾燥亜硫酸ナトリウム,塩化ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素ナトリウム水和物,水酸化ナトリウム,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)
- ケナコルト-A筋注用関節腔内用水懸注40mg/1m(Lトリアムシノロンアセトニド/ベンジルアルコール、ポリソルベート80、カルメロースナトリウム、塩化ナトリウム及びpH調節剤)
- フルナーゼ点鼻液50μg56噴霧用(フルチカゾンプロピオン酸エステル/結晶セルロース、カルメロースナトリウム、ブドウ糖、ポリソルベート80、濃ベンザルコニウム塩化物液50、フェニルエチルアルコール、pH調整剤(希塩酸)) 各鼻腔1噴霧1日2回
- ナゾネックス点鼻液50μg112噴霧用(モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物/ベンザルコニウム塩化物,ポリソルベート80,結晶セルロース・カルメロースナトリウム,グリセリン,pH調整剤) 各鼻腔2噴霧1日1回
- アラミスト点鼻液27.5μg56噴霧用(フルチカゾンフランカルボン酸エステル/結晶セルロース、カルメロースナトリウム、ブドウ糖、ポリソルベート80、ベンザルコニウム塩化物液、エデト酸ナトリウム水和物) 各鼻腔2噴霧1日1回
- アルデシンAQネーザル50μg(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル/ベンザルコニウム塩化物、ポリソルベート80、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、濃グリセリン、プロピレングリコール、pH調整剤) 各鼻腔1噴霧1日4回
- リノコートパウダースプレー鼻用25μg(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル/ヒドロキシプロピルセルロース,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸) 各鼻腔1噴霧1日2回
- エリザスカプセル外用400μg(デキサメタゾンシペシル酸エステル/乳糖水和物)各鼻腔1噴霧1日1回
以上は、主にアレルギー性鼻炎の治療に用いられますが、好酸球性副鼻腔炎に用いられることもあります。
従来の点鼻薬が1日4回ないし2回であったのが、新しい薬(アラミスト、ナゾネックス、エリザス)では、1日1回になっています。
1本で最も長く使えるのは、ナゾネックス112噴霧で、4週間使えます。ナゾネックスには56噴霧用もあります。フルナーゼ56噴霧用(2週間)は、瓶が持ち運びしにくいという欠点があるようです。フルナーゼには、28噴霧用と小児用(1回の噴霧が半量で、56噴霧使える、日本独特のもの)があります。
たいていの薬に、保存料としてベンザルコニウムが使われています。リノコートとエリザスは、粉なので保存料が入っていませんが、霧状の噴霧薬に比べて、使用感の問題なのか、あまり使われていないようです。リノコートにも、カプセルタイプがあります。
フルナーゼには、フェニルエチルアルコールが含まれて独特の香りがありますが、最近は無臭のものが主流になっています。
アレルギー性鼻炎の点鼻ステロイド薬は、全身投与に比べれば、副作用の少ない薬です。もともと使う量が少ないし、局所に使う薬なので、全身に回ることが少ないためと考えられます。これは、喘息の吸入ステロイド薬も同じだと思います。
ただし、嗅覚障害で一般的に使われている点鼻ステロイド薬については、アレルギー性鼻炎の点鼻とは違う部分もあります。たとえばオルガドロンの点鼻液は、1本に1mgのデキサメタゾンが入っていますが、1日2回懸垂頭位で数滴点鼻して、これを1週間で1本使うのが、ひとつの標準だと思います。デキサメタゾンやリンデロン点鼻液のベタメサゾンは同じ量でも比較的効き目が強く、長く効く薬です。ちなみにアレルギー性鼻炎の噴霧薬は、たとえばフルナーゼは1日2回噴霧で1週間に1.4mgのフルチカゾンです。噴霧薬と違って嗅覚障害の点鼻は液体ですので、のどに流れて飲み込んでしまう分も、けっこうあるかも知れません。
その点で、嗅覚障害の点鼻薬は、アレルギー性鼻炎の点鼻薬に比べて、やや全身の副作用が出やすそうですが、そういう報告は見られません。でも、あまりにも長期間使用するのは、注意が必要かも知れません。
いずれにせよ、多発性の鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害は、局所のステロイドではなかなか効果が出ないので、これを長期使うより、短期間ステロイド内服を行うか、手術を考慮する方がよいと思いますが、内服のステロイドは副作用のこともありますので、患者さんそれぞれの状況によって、ステロイド点鼻の必要性は、違ってくるのかも知れません。
点鼻ステロイド薬のもうひとつの問題は、添加物としての保存料です。点鼻薬は液体ですから、錠剤と違って必ず保存料が入っています。ですから、とくにアスピリン喘息の方には、注意が必要です。オルガドロンにはベンザルコニウムが、リンデロン点鼻液にはパラオキシ安息香酸メチル(パラベン)が使われています。リンデロン液は、好酸球性中耳炎の点耳にも、嗅覚障害の点鼻にも、広く使われており、それで症状が増悪したという報告はないようですが、パラベンは明らかなアスピリン喘息の誘発物質なので、私はオルガドロンを選びます。しかし、オルガドロンの方が安全だという、エビデンスがあるわけではありません。
今日の記事の内容、嗅覚障害の点鼻薬がアレルギー性鼻炎の点鼻よりも、長期間の使用に注意が必要だとか、点鼻薬の保存料が問題になるかも知れないということは、一般には言われていないことです。あくまで私個人が注意している点であるということです。しかし、好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害で、長期間リンデロンの点鼻をされていても効果が得られていない方は、以上のことを踏まえて、主治医の先生に相談されてもよいかも知れません。
来週の国際鼻科学会、14th Intenational Rhinologic Society & 30th Intenational Symposium on infection and Allergy of the Nose(ISIAN)のプログラムから、好酸球性副鼻腔炎に関係のありそうな群を抜き出してみました。
Impact of Eosinophiles on Rhinosinusitis
20日11:00- メイヨクリニックの紀太先生のMechanisms of Eosinophilic Inflammation and Pathology in Rhinosinusitis、女子医の野中先生のPromising Pharmacological Treatments for Chronic Rhinosinusitis Associated with Asthmaなど
Nasal Polyp -Eosinophilic or Neutrophilic-
22日15:40- 京都第2赤十字病院の出島先生の、Clinical Aspects and Postoperative Outcomes of Eosiophilic or Non-Eosinophilic Nasal Polyposis in Japanなど
Eosinophilic Rhinosinusitis
21日、17:20- 慈恵の松脇先生のDifferences and Similarities between Western Countries and Asia in Eosinophilic Rhinosinusitis、メイヨクリニックの紀太先生のPathophysiology of Eosinophilic Rhinosinusitis and Nasal Polyps
Mucus Secretion in Sinonasal Inflammation
21日、15:00- 滋賀大学の清水先生のMerits and Demerits of Mucus Hypersecretionなど
Fundamental Knowledges of Eosinophile for Rhinologist
22日15:40- 紀田先生の講演Recent Advances in Immunobiology of Eosinophils
アレルギー性鼻炎では、患者さんの鼻の中に原因になるもの(抗原)が入って来ると、鼻粘膜の肥満細胞の表面についたIgE抗体と結びつき、それによって肥満細胞からいろいろな症状を引き起こす物質(ケミカルメディエーター)が放出され、それが神経を刺激してくしゃみを起こさせ、副交感神経を介して鼻腺から鼻水を分泌させ、鼻腔の粘膜の血管を拡張させて鼻づまりも起こさせます。
これらの症状は、抗原が入ってきてから数分で起きます。さらに鼻粘膜に好酸球を呼び寄せるなどの反応が続いて起こり、数時間後にそのための症状が起こります。
副鼻腔粘膜にも肥満細胞はあり、アレルギーの反応は起こるのですが、鼻粘膜のように、強い症状は起きないようです。もともと血管も神経も鼻粘膜より少ないというのもひとつの理由でしょう。
通常の鼻茸には、神経があまりありません。血管も、鼻粘膜ほど豊富ではありません。好酸球性副鼻腔炎の鼻茸については、神経について調べた報告がありません。血管については、通常の鼻茸よりも多い可能性はありますが、鼻粘膜ほどではないと考えられます。
だから、ステロイドの内服で鼻茸が数日、もしかすると数時間で、著明に小さくなる理由が、実はよくわからないのです。鼻茸も血管を収縮させる薬を鼻に入れると、少し縮みますが、すぐ元にもどってしまいます。しかし、ステロイドでは何倍も効果があり、しかもステロイドを止めても、何週間も何ヶ月もそのまま縮んだままです。
アスピリン喘息は、IgEによるアレルギーを介さずに起こりますが、最終的に気管支で起こる症状は、IgEによるアレルギー(アトピー型)喘息と同様の症状が起きていると考えられます(同様と言っても、しばしば重症ですが)。アスピリン喘息の発作時の鼻粘膜については、あまり調べられていませんが、鼻水を伴うことが多いと言われているので、おそらくアレルギー性鼻炎と同じようにケミカルメディエーターにより、あるいは直接の刺激により、同様の反応が、鼻粘膜でも起きているのでしょう。
鼻茸が、アレルギー性鼻炎の鼻粘膜のように、誘発物質が体の中に入って数分で大きくなるのかどうか、これも分かっていません。数分で鼻が詰まるのは、もしかすると、鼻茸が大きくなっているのではなく、アレルギー性鼻炎のときと同様に、鼻粘膜が腫れているのかも知れないとも思うのです。誘発物質が入って数時間すると鼻茸も大きくなるのは、私も自分の患者さんで経験しています。