好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎について知っていただくために開設したブログです。現在更新は行っていません。

好酸球性副鼻腔炎とは

好酸球性副鼻腔炎とは、多発性の鼻茸(鼻ポリープ)で鼻閉と嗅覚障害を起こし、通常の薬が無効で、内視鏡下鼻内手術を行っても再発が多い、難治性副鼻腔炎です。白血球の一種である好酸球が、血液や粘膜で増えているのが特徴です。しばしば喘息(とくにアスピリン喘息)を伴い、好酸球性中耳炎を合併することもあります。アスピリン喘息とは、ほぼすべての解熱鎮痛剤と、着色料や防腐剤などいろいろな誘発物質で喘息を起こす病気です。

本当に好酸球性副鼻腔炎ですか?

2012-12-15 20:04:28 | 診断

このブログを見て、セカンドオピニオンを得たい方、あるいは治療を受けたいという方が、当院を受診されることがときどきあります。それで、最近気になることがあります。好酸球性副鼻腔炎ではない可能性のある方が、そう診断されて治療を受けているが治らないと言って受診された方が、何人かいらっしゃるのです。

たとえば、喘息をお持ちの方で、数ヶ月前から副鼻腔炎になり、治療を受けている方がいらっしゃいました。嗅覚障害が著明で、ステロイドの全身投与で、嗅覚も少し改善するとのことです。マクロライドを長期投与されていましたが、無効とのことです。血液検査で、好酸球増多もあるとのことです。それで、好酸球性副鼻腔炎と、診断されたとのことです。しかし、喘息は小児期からのアトピー性喘息でした。鼻腔内に鼻茸も見られません。そのかわり、膿性の鼻汁が多く見られます。レントゲンでは、上顎洞に著明な陰影が見られますが、骨洞にはあまり陰影がありません。

喘息の治療で、ステロイドの点滴を受けたばかりとのことでしたので、鼻茸はそれで縮小した可能性を完全には否定できませんが、この症状と所見であれば、好酸球性副鼻腔炎ではなく、従来の副鼻腔炎の可能性が高いです。

以前、診断基準について書きましたが、最も重要なのは多発性の鼻茸の存在と、それがステロイドの全身投与で縮小することです。それに加えて、成人で発症した非アトピー性喘息の合併か血中好酸球増多があれば、診断してよいと考えています。この方の場合は、鼻茸が見られません。血中好酸球増多は、アトピー性喘息でも高率に見られますので、好酸球性副鼻腔炎に特異的なわけではありません。

好酸球性副鼻腔炎のように高率ではありませんが、従来の副鼻腔炎でも嗅覚障害を起こす方は多いので、嗅覚障害が好酸球性副鼻腔炎に特異的というわけではありません。また、レントゲンで上顎洞より骨洞が優位なのは、従来の慢性副鼻腔炎でも多くの例で見られるので、完全に特異的とは言えません。しかし上顎洞が骨洞に優位なことは、まず好酸球性副鼻腔炎ではありません。

マクロライド療法が無効であることも、好酸球性副鼻腔炎の特徴だとされますが、従来の副鼻腔炎でも無効なことはあります。まして、急性副鼻腔炎であったり、慢性副鼻腔炎の急性増悪であったり、細菌感染が著明な時期は、急性副鼻腔炎ガイドラインにもあるように、高容量のアジスロマイシン以外のマクロライド系は、抗菌薬としては、あまり効きません。急性期には起炎菌に有効のあ抗菌薬を投与しなければならないのです。

 

 

 


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診断基準

2011-08-03 01:53:38 | 診断

好酸球性副鼻腔炎の診断基準はまだ確定したものがありません。2006年の臨床問題懇話会でも、シンポジストの先生の間で意見が分かれるところもあったようですが、ご意見が一致したのは、以下の項目です(文献38より引用)。

 

A 主要な症候・所見

1)多発性鼻ポリープ:各先生方が一致しています。(ただし、私の経験上、中には鼻腔内には著明なポリープがなく、副鼻腔の高粘性の貯留液(アレルギームチン)の方が特徴的である例も、少数ですがあるように思います。)

2)喘息合併:これも各先生方が一致しています。ただし、喘息の合併は60~80%とされていますから、喘息の合併がないものも、少なくとも20%あります。

3)好酸球に富む粘性の鼻漏、ときに膠状(アレルギームチン)(図1):これはポリープに比べると、鼻腔内の出現率は低いので、なくても否定できませんが、あれば好酸球性副鼻腔炎の可能性が高くなります。

図1:粘性の鼻汁を通常の組織と同様にホルマリン固定した標本ですが、多数の好酸球と層状に固まったムチンが見られます。

4)早期の嗅覚障害:確かに高率に見られますが、通常の副鼻腔炎でもしばしば見られる症状(手術適応となった例の89.5%に及ぶ(文献1))なので、特異的とは言えません。

5)ステロイドの全身投与による鼻ポリープの消退:これは診断的治療として有用で、これが診断の決めてになることも多いです。

B 組織所見

鼻ポリープまたは副鼻腔粘膜の著明な好酸球浸潤:これが病名の由来であるし、確定診断ですが、組織を生検するか手術をしないと分からないので、外来ではその前に診断したいです。組織所見では、他に杯細胞の著明な増加も特徴的です(文献7)。

C 参考となる検査所見

1)血中好酸球増多(400/μl以上(あるいは6ないし7%以上)):これは、シンポジストの先生方の一致した意見で、1999年の私の報告(文献7)でも同様です。実際の臨床でも、ほとんどの例で見られるので、参考となるというよりも、診断の主要な根拠にできる所見だと考えます。

2)鼻汁細胞診(多数の好酸球の存在):鼻汁好酸球は、鼻アレルギーでも見られるので、特異的とは言えないように思います。

3)画像所見(CT,MRI):好酸球性副鼻腔炎は一般に副鼻腔陰影も高度なので、単純撮影でも十分陰影を確認できます。しかし、多くの先生が言われているように、骨洞が上顎洞より優位であるというのは特異的とは言えないと考えます。小児副鼻腔炎や急性副鼻腔炎では確かに上顎洞が有意なのですが、成人の通常の慢性副鼻腔炎でも、骨洞優位の方が多いのです。下の表は私が集計した、手術適応例の各副鼻腔病変の割合です(文献(青木和博、山口展正、深見雅也、森山寛副鼻腔炎より波及した頭蓋内膿瘍. 耳展 4230-34, 1999)からの引用)。

また、下図も別の対象群の術前副鼻腔画像診断の陰影ですが、同じように骨洞の方がやや優位です(文献1から引用)。


4)その他:鑑別診断のために必要な検査です。

・IgE測定

・真菌、細菌検査

 

私個人の考えでは、Aの1)多発性鼻ポリープと、5)それがステロイドで消退することが、まず重要です。それにAの2)喘息(とくに非アトピー性)合併か、Cの1)血中好酸球増加のどちらかでも加われば、まず好酸球性副鼻腔炎と診断してよいと思います。

もちろんCの3)画像所見も参考にしますし、B組織所見で診断が確実になります。ただし、副鼻腔炎の患者さんは普通、いきなり総合病院を受診せず開業医を受診しますから、我々開業医がまずこの病気を疑い、あるいは診断しなければなりません。したがって、診断基準をつくるとき、画像診断もCT、MRIではなく単純レントゲンでも可としていただきたいし、生検も必須項目にはしないでいただきたいのです。

Cの2)鼻汁細胞診とAの4)嗅覚障害は、必ずしもこの病気に特異的ではないように思います。

 

 

コメント (9)
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