今夜NHKスペシャルで、アレルギーを特集していました。
その内容は1.卵アレルギーに対する免疫療法、2.スギ花粉症に対する舌下免疫療法、3.加水分解小麦入りの石けんによる蕁麻疹、4.アトピー性皮膚炎の原因のひとつしてのスキンバリア(フィラグリン)の欠損とその治療の可能性、5.アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用薬でした。
免疫療法は、もともと花粉症などの治療として、注射で行われていました。食物アレルギーに応用されるようになったのは、比較的最近のことだと思います。原因になる卵を、症状の出ないぐらいの少量から食べさせ、少しずつ量を増やしていく治療法です。短期間でかなり急速に量を増やしていきますので、治療中に強いアレルギーが起きてしまう可能性があり、必ず入院して医師の管理下で、治療が行われます。番組では、横浜のこども医療センターが出ていましたが、成功率が98%ということで、これは信じられないぐらいの高い成功率です。
現在日本でも、スギ花粉症に対する舌下免疫療法の臨床治験(実際の患者さんに行って調べる、新しい治療法の研究の最終段階)が始まったところです。番組では、この治療法を行っているかどうか、病院やクリニックに問い合わせてくださいと言っていましたが、実際にはまだ認可された治療法ではないので、現在この治療を受けられるのは、その臨床治験を行っている、限られた施設だけですし、治験として治療を受けるために、その間は内服薬などに制限があります。
加水分解小麦入りの石けんで小麦アレルギーを誘発された方が多数出たことは、少し前にニュースにもなっていました。番組に出ていた方も、最初は踊っているときに強い蕁麻疹が出たとのことですが、小麦依存性運動誘発アレルギーのかたちをとることもあるようです。番組の内容から外れますが、小麦依存性運動誘発アレルギーの場合、血液検査では小麦アルルぎーが出ないことが多いので、注意が必要です。また番組では、いろいろな合成された物質が、アレルギー性の病気の原因になり得るということにも、言及していました。
アレルギー性鼻炎が花粉やハウスダストを抗原とし抗原特異的なIgEによる、比較的単純なアレルギーであるのに対し、アトピー性皮膚炎は、もっと複雑にいろいろな要因がからみます。番組では、フィラグリンというスキンバリアの因子が欠落して、皮膚から抗原が入りにくくなっている患者さんが多いことに注目して、新しい治療を開発しているフランスの施設が紹介されていました。
アトピー性皮膚炎のステロイド外用については、母校の第三病院の皮膚科の上出良一先生が出演されていました。上出先生は大学では私の先輩でもあり、私と同期の耳鼻咽喉科医である友人の上出洋介先生のお兄様でもあります。ステロイド外用を正しく使うことが、皮膚の炎症を治すのに著効があることを強調されていました。ただし、正しく使わなければならず、その指導を医師が十分行ってきたかどうか、医師の側にも反省が必要であると、上出先生はおっしゃっていました。
好酸球性副鼻腔炎に明らかに有効であるのは、現在のところステロイドの全身投与だけです。内服のステロイドも、少量であれば、あるいは短期間であれば、それほど副作用の心配をせずにすみますが、局所投与(点鼻)がもっと有効であれば、その方が、より安全です。点鼻が明らかに有効だという患者さんは比較的少ないのですが、量、投与方法、投与期間などについて、正しい方法が確立されれば、もっと有効性が高まるのかも知れません。
さらに言えば、ステロイドは現在起きている炎症を治す治療であり、正しく使えば非常に有効な薬です。しかし、病気のもとを治すものではありません。好酸球性副鼻腔炎にも、ステロイド以外に、もっと根本的な治療法が開発されることも求められます。
近隣の3区(都筑区、青葉区、緑区)の耳鼻咽喉科医の会を毎年開いているのですが、今回は、横浜市立大学の石戸谷教授をお招きして、ご講演いただき、私が座長を担当しました。
テーマは花粉症でしたが、好酸球性副鼻腔炎についてもお話をいただき、有意義な会でした。
講演終了後の意見交換会で、ステロイドについて、いくつかの質問をさせていただきました。以下に石戸谷教授のお答えも書かせていただきますが、あくまで非公式な場での会話ですので、石戸谷先生の公式な見解ではなく、内容についての責任は、すべて私にあります。
B型肝炎キャリアーの方にステロイドの投与はどうするか。ステロイドの使用によって、肝炎が発症する可能性はないのか。私は、もちろん用心しながらですが、好酸球性副鼻腔炎で使用するステロイドの量と期間であれば、それほど可能性は高くないと考え、ステロイドによって大きな利益が得られるなら、できるだけ投与したいという考えなのですが、石戸谷先生も賛成してくださいました。
好酸球性副鼻腔炎に使用する程度のステロイドでも、副腎抑制(本来体の中で必要なステロイドを造っている副腎皮質の働きが弱くなってしまう)に対する注意が必要なのか。全くないわけではないですが、頻度は低いと考えられ、これも石戸谷先生も同じお考えでした。もちろん注意は必要ですが、必要以上にステロイドを恐れて、ステロイドによる改善の機会を逃すことの方が、問題であるというお考えで、私も賛成です。
リンデロン耳科用液の保存料パラベンは問題にならないのか。石戸谷先生は今まであまり問題にされていなかったとのことですが、今回の私の質問で、関心を持っていただけたようです。私のような一開業医の力はたかが知れているので、石戸谷先生のように好酸球性副鼻腔炎に力を入れてくださっている大学教授がいらっしゃるのは、心強いことです。