昨日は北部病院の耳鼻科の先生たちとの勉強会。いくつか新しい知識を得ることができました。 今回は好酸球性副鼻腔炎について、私も話をさせていただきました。でも、北部病院の先生や、区内の耳鼻科開業医の先生方にとっては、ご存じの事ばかりだったのかも知れません。 しかし、アスピリン喘息を合併している好酸球性副鼻腔炎の患者さんに、内科の先生が風邪薬を処方されて、発作を起こしてしまったこともあります。また、何年も他の病院で副鼻腔炎の治療を受けても鼻閉と嗅覚障害が一度も治らなかったという方に、好酸球性副鼻腔炎としての治療を行ったら鼻ポリープが縮小して、数日で症状が改善したということは、一度や二度ではありません。(もっとも、この病気は一度症状が良くなっても、いずれ鼻ポリープが再燃することが多いですが)。まだ、医師の中にも、好酸球性副鼻腔炎について、よくご存じではない先生もいらっしゃるのも確かなのです。 だから、聴いている方の中にひとりでも、好酸球性副鼻腔炎やアスピリン喘息について、新しい知識を得られたという方がいらっしゃれば、私の話も無意味ではなかったと思うのです。
好酸球性副鼻腔炎とアスピリン喘息誘発物質との関係を明らかにした報告は、現在までのところありません。しかし、好酸球性副鼻腔炎の多くに非アトピー性喘息を合併し、少なくともその一部はアスピリン喘息です。私の患者さんでも、赤く着色された菓子を食べて、喘息の発作と鼻茸の増悪が、同時に起きた方がいらっしゃいます。したがって、明らかにアスピリン喘息を合併する方はもちろん、好酸球性副鼻腔炎の患者さんは一般に、アスピリン喘息を誘発するようなものには、注意が必要であると考えています。
アスピリン喘息を誘発する物質については、宮川先生のブログやみやびさんのブログも見てください。
ここで整理しておきたいのは、医薬品の添加物です。
誘発物質として確実なもの
タートラジン(食用黄色4号):プレドニゾロン(トーワ、三恵、YD) 喘息の治療にも使われるステロイドです。一般に錠剤は白が多いですが、色の着いたものは要注意です。主成分は同じ薬であっても、製薬会社によって添加物は異なることも知っておくべきでしょう。
パラベン(パラオキシ安息香酸:防腐剤):リンデロン点耳点鼻液 好酸球性副鼻腔炎や好酸球性中耳炎の治療に、推奨されることがあります。
サルファイト(添加物に亜硫酸塩とだけ記載されていることがあります)
誘発物質として疑いがあるもの
ベンジルアルコール:ケナコルト 好酸球性中耳炎に推奨されることがあります。
サンセットイエロー(食用黄色5号):4%キシロカイン 鼻粘膜の局所麻酔(塗布麻酔)に最も広く使われている麻酔薬です。注射用のキシロカインと誤用しないように、あえて着色されているようです。ずっと以前には、タートラジンが使用されていましたが、現在は黄色5号が使われています。
ニューコクシン(赤色102号)
日本で許可されている添加物はいろいろあり、上にあげた以外のもので喘息を誘発される方もいるので、注意が必要です。着色料で問題になるのは主としてタール色素(石油からつくられる)で、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄(抗アレルギー薬アレグラの黄色)には、アスピリン喘息の誘発は認められていないようです。プレドニン(塩野義)は以前はタートラジンを使用していましたが、現在は三二酸化鉄を用いています。一般に、タートラジンを使っている医薬品は、製薬会社の自主規制のためか、最近急速に減っています。また、広く使われている保存料としては、ベンザルコニウムには、今のところ誘発の報告はないようです。
なお、英国では安息香酸ナトリウム(清涼飲料水の保存料)と同時摂取すると子供の多動性障害に影響があるという理由から、日本では使われている赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号などの食品への添加が自主規制されています。英国以外のEUでは、使用されていますが、商品ラベルに”こどもの行動や注意に悪影響を及ぼすかもしれない”という記載が義務づけられているそうです。
冬は患者さんが多くて忙しい上に、原稿や講演会の準備が重なって、このブログも開店休業状態でしたが、ようやく落ち着きましたので、毎日は無理でも、できるだけ更新していこうと思います。
私のクリニックに近い基幹病院は、昭和大横浜北部病院ですが、そこの耳鼻咽喉科の先生方が、毎年近隣の開業医との勉強会を開いてくださいます。今年も来週、1月17日に開かれますが、今回はそこで私が好酸球性副鼻腔炎の話をさせてもらいます。大学病院の先生を前に開業医が話をするというのもおこがましいのですが、もしかしたら皆さんの知らないこともあるのではないかと思って、お引き受けしました。
別の話になりますが、私は50歳を過ぎてから、小麦依存性運動誘発アレルギーを発症しました。最初の発作は、休診の日、近くのレストランで昼食をとった後、診療のある日にはできない仕事を片付けにクリニックに行ったときに起きました。突然全身にひどい蕁麻疹が出て、血圧が下がり始めたのです。立っているとふらつきましたが、横になっていれば意識ははっきりしていましたし、呼吸苦もなかったので、抗ヒスタミン薬を飲んで安静にして様子を見ました。血圧も80近くまで下がり、それ以上下がったら救急車を呼ぼうと思っていましたが、しばらくすると回復し始め、蕁麻疹も1時間ほどで消えました。
食事をとったすぐ後だったので、食物アレルギーだと考え、その時に食べたものについて血液中の抗体を調べました。パンも食べたので小麦も調べましたが、すべて陰性でした。その後も、食事の後に蕁麻疹が出る事はしばしばありましたが、特に決まったものを食べたときに出るわけでもなく、同じものを食べても出るときと出ないときがあり、理由が分からないまま、初回の発作以来は常に持ち歩いている抗ヒスタミン薬を飲めば、すぐに治っていました。
2回目の比較的強い発作は、パンを食べた後テニスをしているときに起きました。これでやっと、運動で誘発されるのだということが分かりました。1回目の発作は、別に運動をしているときではなかったし、血液検査で小麦に対する抗体もなく、パンは大好きで外食ではご飯よりもパンを選ぶ方だったのに、初回の発作が起きるまでは全く平気だったので、ピンと来なかったのです。医者もすべての病気をよく知っているわけでなく、自分の病気の診断さえなかなかつけられないことがあるという、一例です。
2回目の発作も、すぐ抗ヒスタミン薬を飲んで1時間ほど安静にさせてもらって、収まりました。現在は、仕事のある日の朝と昼と、運動をする休日の朝は、いっさい小麦の入ったものを食べず、夜や何もない休日の昼などに小麦の入っているものを食べたら、あとはずっと静かに過ごすようにしており、蕁麻疹を起こすこともほとんどなくなりました。
(私は発作が起きたとき、そばに人がいて手元に薬もあり、自分の状態を十分把握できていると判断して、自分で対応してしまいましたが、小麦依存性運動誘発性アナフィラキシーも、ときには生命にかかわることがありますので、一般にはこのような症状が出たら、緊急に治療が必要です。また、私は比較的軽症ですが、重症の方などはそのあと静かに過ごせるときでも、小麦を避けるべき場合があると思いますので、自己判断はしないでください)