好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎について知っていただくために開設したブログです。現在更新は行っていません。

診断基準

2011-08-03 01:53:38 | 診断

好酸球性副鼻腔炎の診断基準はまだ確定したものがありません。2006年の臨床問題懇話会でも、シンポジストの先生の間で意見が分かれるところもあったようですが、ご意見が一致したのは、以下の項目です(文献38より引用)。

 

A 主要な症候・所見

1)多発性鼻ポリープ:各先生方が一致しています。(ただし、私の経験上、中には鼻腔内には著明なポリープがなく、副鼻腔の高粘性の貯留液(アレルギームチン)の方が特徴的である例も、少数ですがあるように思います。)

2)喘息合併:これも各先生方が一致しています。ただし、喘息の合併は60~80%とされていますから、喘息の合併がないものも、少なくとも20%あります。

3)好酸球に富む粘性の鼻漏、ときに膠状(アレルギームチン)(図1):これはポリープに比べると、鼻腔内の出現率は低いので、なくても否定できませんが、あれば好酸球性副鼻腔炎の可能性が高くなります。

図1:粘性の鼻汁を通常の組織と同様にホルマリン固定した標本ですが、多数の好酸球と層状に固まったムチンが見られます。

4)早期の嗅覚障害:確かに高率に見られますが、通常の副鼻腔炎でもしばしば見られる症状(手術適応となった例の89.5%に及ぶ(文献1))なので、特異的とは言えません。

5)ステロイドの全身投与による鼻ポリープの消退:これは診断的治療として有用で、これが診断の決めてになることも多いです。

B 組織所見

鼻ポリープまたは副鼻腔粘膜の著明な好酸球浸潤:これが病名の由来であるし、確定診断ですが、組織を生検するか手術をしないと分からないので、外来ではその前に診断したいです。組織所見では、他に杯細胞の著明な増加も特徴的です(文献7)。

C 参考となる検査所見

1)血中好酸球増多(400/μl以上(あるいは6ないし7%以上)):これは、シンポジストの先生方の一致した意見で、1999年の私の報告(文献7)でも同様です。実際の臨床でも、ほとんどの例で見られるので、参考となるというよりも、診断の主要な根拠にできる所見だと考えます。

2)鼻汁細胞診(多数の好酸球の存在):鼻汁好酸球は、鼻アレルギーでも見られるので、特異的とは言えないように思います。

3)画像所見(CT,MRI):好酸球性副鼻腔炎は一般に副鼻腔陰影も高度なので、単純撮影でも十分陰影を確認できます。しかし、多くの先生が言われているように、骨洞が上顎洞より優位であるというのは特異的とは言えないと考えます。小児副鼻腔炎や急性副鼻腔炎では確かに上顎洞が有意なのですが、成人の通常の慢性副鼻腔炎でも、骨洞優位の方が多いのです。下の表は私が集計した、手術適応例の各副鼻腔病変の割合です(文献(青木和博、山口展正、深見雅也、森山寛副鼻腔炎より波及した頭蓋内膿瘍. 耳展 4230-34, 1999)からの引用)。

また、下図も別の対象群の術前副鼻腔画像診断の陰影ですが、同じように骨洞の方がやや優位です(文献1から引用)。


4)その他:鑑別診断のために必要な検査です。

・IgE測定

・真菌、細菌検査

 

私個人の考えでは、Aの1)多発性鼻ポリープと、5)それがステロイドで消退することが、まず重要です。それにAの2)喘息(とくに非アトピー性)合併か、Cの1)血中好酸球増加のどちらかでも加われば、まず好酸球性副鼻腔炎と診断してよいと思います。

もちろんCの3)画像所見も参考にしますし、B組織所見で診断が確実になります。ただし、副鼻腔炎の患者さんは普通、いきなり総合病院を受診せず開業医を受診しますから、我々開業医がまずこの病気を疑い、あるいは診断しなければなりません。したがって、診断基準をつくるとき、画像診断もCT、MRIではなく単純レントゲンでも可としていただきたいし、生検も必須項目にはしないでいただきたいのです。

Cの2)鼻汁細胞診とAの4)嗅覚障害は、必ずしもこの病気に特異的ではないように思います。

 

 

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9 コメント

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上顎洞と篩骨洞 (みやび)
2011-08-03 04:42:53
先生、こんばんわ。
有意という言葉は、その場所の方が悪化しやすいということですか?
上顎洞はよく耳にしますが、篩骨洞はどこなのだろうと検索し、構造の絵を
見ました。まさしくその場所が悪化します。
蓄膿症は、頭痛が出たり、顔が痛むことがあるようですが、私は
それが一度もありません。それらの症状がないのは、悪化の場所が
違うからでしょうか?上顎洞炎を起こした友達は、くさいにおいがすると
言っていましたが、好酸球性副鼻腔炎でもくさいことはあるのでしょうか?
私は嗅覚障害なので自分で確認できないことが心配です。
返信する
Unknown (himawaritomte)
2011-08-03 14:36:39
みやびさん、ありがとうございます。
すみません、有意は優位の変換間違いです。さっそく訂正しました。しかし、意味はみやびさんの受け取られた意味で、それほど間違いではないかも知れません。
ただし、皆が言う優位というのは、診断した時点の画像診断(CTなどで)で、篩骨洞の陰影の方が強いということです。私が今日のブログで言いたかったのは、まず篩骨洞に病気があり、重症になると上顎洞にまで病気がひろがるというのは、通常の慢性副鼻腔炎でも同様に見られるということです。
優位というのは、急に悪化したときに、その辺りの自覚症状が出るという意味ではなかったのですが、みやびさんの症状は参考になります。
顔が痛むのは急性上顎洞炎です。頭痛は、篩骨洞、前頭洞、に急性副鼻腔炎があるときか、見逃されがちですが、蝶形骨洞に炎症があると、強い頭痛が続きます。
通常の慢性副鼻腔炎でも頭痛が起きることは多い(手術例の71.9%)のですが、このときは後頸部(後頭の付け根)の筋にこりを伴うことが多いです。したがって、頭痛としては緊張型頭痛のかたちをとりますが、慢性副鼻腔炎を治すと頭痛も治る方が多いです(手術による改善率97.3%)。好酸球性副鼻腔炎で、とくに頭痛を訴える方が多いわけではないようですが、詳しく調査はありません。
くさい上顎洞炎は、たぶん急性上顎洞炎です。上顎洞に細菌が感染し、悪臭のある膿が貯まっているためです。好酸球性副鼻腔炎では、くさいにおいはありません。
副鼻腔炎といっても、急性と慢性では症状も違うし、好酸球性は、また全然違う病気なのです。
ついでに触れておきますと、みやびさんの場合、においそのものが症状のきっかけになるということなので、あえてお勧めしませんが、好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害は、嗅裂と上鼻道というところを、しっかり手術すれば、改善することが多いです。
返信する
においのこと (みやび)
2011-08-04 19:37:27
先生、こんにちは。いつも分かりやすいご説明をありがとうございます。
「篩骨洞に病気があり、重症になると上顎洞にまで病気がひろがる」という
お話、分かりやすかったです。上顎洞炎のこと、勉強になりました。
くさいにおいがないと聞いて、ほっとしました。長い間心配だったので、すっきりしました。
好酸球性は全然違う病気ということに驚きました。
診察時、鼻を覗けば鼻ポリープがあるので、「慢性副鼻腔炎だね」と診断されますが
好酸球性副鼻腔炎の話は一度も医師から聞いたことがありません。
内科でアレルギー検査をすると、好酸球が高いと言われるだけです。
先生個人の考えの多発性鼻ポリープ、ステロイドでの消退、喘息合併、
血中好酸球増加、私はすべて当てはまっています。
私は、においで症状が悪化するので、嗅裂と上鼻道を手術しても再発しやすいという
ことでしょうか?でも、私のように反応しない人ならば、改善するというのは
うれしいことですね!ありがとうございました。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-08-05 08:48:46
再発しやすいということではありません。手術をすれば、おそらく嗅覚障害は改善します。今まで匂わなかったにおいが匂うようになるのですから、においで症状が悪化するのであれば、それがいいことなのかどうか、ということです。
我々医者は、病気になっているところは全部取ってしまわなければならないと思ってしまいがちですが、そうでない場合もあるのかも知れません。
でも、一般的に言えば、鼻ポリープがない方が、鼻でちゃんと息ができる方が、気管支喘息にも良いと思います。
返信する
Unknown (みやび)
2011-08-05 19:17:14
先生、こんにちは。お返事ありがとうございます。
私のブログに「漢方薬でにおいが復活しました」というコメントを
もらったのですが、それを読んで、においの復活が私にとっては
いいことなのだろうか?と疑問に思いました。
先生が言いたかったことが分かりました。
においが分かっても、またそのにおいで再発すると思います。
すぐに悪化しなかったとしても、強いにおいで起きてしまう頭痛や
吐き気に悩まされるかもしれません。そのうちまた鼻ポリープが再発すると
思います。
においがない生活は、とても穏やかで過ごしやすいです。火事や
ガス漏れなどが分からないのは不便ですが、それ以外なら、においが
ない生活で十分満足です。においだらけの生活は疲れます。

鼻呼吸は、とても大切だと思います。鼻ポリープが巨大化しすぎて
鼻呼吸がまったく出来なくなると、喘息発作を起こす可能性が
非常に高くなると私も感じました。
100%鼻呼吸は出来ませんが、40%でも30%でも、出来る限り
鼻呼吸を心掛けています。どうしても口呼吸が癖づいてしまった時は、
唇の中央に、1センチ幅くらいの医療用の肌にやさしいテープを貼って
口が開かないようにします。
すると、鼻ポリープがあっても、鼻呼吸の癖がつきます。
朝起きると喉がイガイガするという人にも、この方法はいいと思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2012-09-01 03:42:27
こんばんは、はじめまして。
私は好酸球性副鼻腔炎と闘っているものです。いくつか気になったところがありましたので、質問です。

「早期の嗅覚障害:確かに高率に見られ ますが、通常の副鼻腔炎でもしばしば見られる症状」

とありましたが、副鼻腔炎の場合も鼻が詰まっていなくても匂いがないという事があるのでしょうか?

長い間、鼻症状に悩まされてきましたが、鼻が詰まっていないのに鼻で十分に息が吸えるのに、匂いがないというのは初めての症状です。

それともう1つ。
コメント欄から、
「副鼻腔炎といっても、急性と慢性では症状も 違うし、好酸球性は、また全然違う病気なのです。」

とありましたが、わたしは鼻茸ができてから2~3年経ち、現在は好酸球性副鼻腔炎と診断されておりますが、1年に1度位は急性副鼻腔炎をおこし、頬が痛くなります。
いつもダラシンカプセル200mgを5日程飲んで事は収まるのですが。

好酸球性副鼻腔炎をベースに持ちながら、急性副鼻腔炎を起こすといった事はよくあることなのでしょうか?
どうぞよろしくお願い致します。
返信する
Unknown (himawaritomte)
2012-09-10 17:10:00
返答が遅くなり、申し訳ありません。

鼻腔はけっこう前後も上下も広がりがありますが、人間の嗅覚の細胞は、鼻腔の上の方の脳に近いところ一部分にしかありません。犬などは、鼻腔の粘膜の半分に嗅細胞があるのですが。
したがって、その部分(嗅裂)が狭くなっていたり炎症があったりすれば、呼吸は普通にできても、匂いを感じられなくなります。特に好酸球性副鼻腔炎では、その部分を塞ぐようにして、鼻茸ができやすいのです。

好酸球性副鼻腔炎に細菌感染を合併することは、もちろんあります。また、そういうときは好酸球性副鼻腔炎の症状(鼻茸の増大、好酸球性中耳炎の合併など)も、起きやすいです。好酸球性副鼻腔炎の原因は、不明の部分が多く、細菌の毒も、一部では関係しているのかも知れません。
いずれにしても、急性副鼻腔炎になったら、早く治療をするべきです。
返信する
Unknown (Unknown)
2012-09-22 01:22:31
こちらこそ返信が遅くなり、申し訳ありません。

確かに嗅列に鼻茸がたくさん出来ていると言われました。そういう事だったんですね。
詳しく教えて頂けてスッキリしました。
どうもありがとうございました。
返信する
好酸球性副鼻腔炎 (好酸球性副鼻腔炎患者)
2014-07-31 12:09:18
アルコールを飲むと、数十分にもサラサラの膿(ベタベタする)がでて鼻腔内が炎症を起こしてきます。アルコールにも反応し好酸球が暴れだす体質の人(私)もいることも
考慮し、研究していただきたいものです。ちなみにアレルギーはスギ・ダニ・ハウスダスト・ねこ、ただし食物反応は
ありませんでした。アルコールを飲んで、2から3日ごろには黄色い鼻膿が出てきます。
返信する

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