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好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎について知っていただくために開設したブログです。現在更新は行っていません。

好酸球性副鼻腔炎とは

好酸球性副鼻腔炎とは、多発性の鼻茸(鼻ポリープ)で鼻閉と嗅覚障害を起こし、通常の薬が無効で、内視鏡下鼻内手術を行っても再発が多い、難治性副鼻腔炎です。白血球の一種である好酸球が、血液や粘膜で増えているのが特徴です。しばしば喘息(とくにアスピリン喘息)を伴い、好酸球性中耳炎を合併することもあります。アスピリン喘息とは、ほぼすべての解熱鎮痛剤と、着色料や防腐剤などいろいろな誘発物質で喘息を起こす病気です。

上顎洞と篩骨洞

2011-08-05 15:55:50 | 好酸球性副鼻腔炎一般

これは、好酸球性副鼻腔炎の患者さんの篩骨洞と上顎洞の粘膜の組織です。早期には篩骨洞の炎症が主ですが、重症ではすべての副鼻腔炎で、このような所見が見られます。

片隅に黒い核を持つピンク色の丸いポツポツに見えるのが全部好酸球です。上の方で半透明に見える部分が、杯細胞の粘液が貯まっている部分です。ワイングラスの様なかたちなので、杯細胞と呼ばれるのですが、ワイングラスが乱立しています。好酸球がたくさん見られる粘膜固有層と、杯細胞がたくさん見られる上皮層の間のピンクの帯が、基底膜です。

好酸球浸潤、杯細胞の著明な増加、基底膜の肥厚が、好酸球性副鼻腔炎の粘膜組織の3大特徴です。

同じ副鼻腔でも、篩骨洞と上顎洞は成り立ちが違います。篩骨洞は、動物(たとえばウサギ)にはありません。ウサギでは、そのかわり、篩骨甲介と呼ばれる多くの襞状の出っ張りが見られます。この出っ張りは、鼻腔(鼻の中。息の通り道)の後上半分を占めます。そしてこの出っ張りの表面は、すべて嗅上皮で被われています。鼻の2大機能のひとつ、嗅覚の機能を高めるため、できるだけ嗅上皮の面積を広くするため、この襞状の出っ張りは有利なのです。

動物に比べると嗅覚の衰えた人間では、この出っ張り同士がくっついて退化し、迷路のような空洞になってしまっています。これが篩骨洞です。人間の嗅上皮は、嗅裂と呼ばれる、鼻の上の方のほんの一部にしかありません。鼻ポリープで通り道がふさがり、空気が嗅裂までとどかないと、嗅覚傷害が起こります。好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害の主な原因は、それです。

ウサギにも上顎洞はあります。ただし、人間の上顎洞は、鼻腔とは自然孔と呼ばれる小さな窓でつながっているのですが、ウサギの自然孔は、人間に比べると、とても大きい窓です。ウサギより小さい動物、たとえばネズミでは、上顎洞はありません。わずかに、鼻腔の外側に窪みがあるだけです。ネズミには、上顎洞も篩骨洞もないのです。

このように成り立ちが違うので、篩骨洞粘膜と上顎洞粘膜は、少し違います。上顎洞粘膜の方がやや厚く、上皮細胞の高さも高いです。それが最初の写真でも分かると思います。

鼻腔と副鼻腔の粘膜には、もっと差があります。鼻腔の粘膜の方が何倍も厚く、じょうぶです。表面の上皮の細胞の高さも、鼻腔の方がかなり高いです。鼻腔の粘膜には、血管や神経がたくさんありますが、副鼻腔の粘膜には、少ししかありません。だから鼻アレルギーの人の副鼻腔にハウスダストや花粉が入ったとき、アレルギー反応は起きるけど、鼻腔の反応より軽くてすむのでしょう。

鼻から気管支まで、同じ呼吸上皮で似た粘膜の仲間ですが、それぞれ多少違いもあるのです。

中鼻道というところは、鼻腔の中で最も鼻ポリープができやすいところですが、ここの粘膜は形態的(組織を見ると)鼻粘膜ではなく、副鼻腔粘膜の特徴を示しています。厚い鼻粘膜の特徴を示しているところからは、鼻ポリープはめったに出てきません(例外的に、炎症が重症だと、鼻中隔や、甲介(動物の襞々の出っ張りの最後の生き残り)の表面の鼻粘膜もポリープ状になることがあります)。私はその意味で、鼻ポリープは、ほとんど”副鼻腔粘膜”から出てくるのだと考えています。中鼻道は鼻腔の続きですが、粘膜の特徴から言うと、副鼻腔の一部なのです。

また嗅裂のポリープも、これも副鼻腔のような粘膜で被われる上鼻道というところでできて、甲介の隙間から嗅裂側に出てくるのが主です。したがって、好酸球性副鼻腔炎など嗅覚障害のある患者さんの手術では、この上鼻道のポリープを完全に取るため、多少薄い骨を切り取ってでも、上鼻道を広げることをしなければなりません。

以上の内容に、組織学あるいは比較解剖学的に、エビデンスがないことも含まれています。私も、データをまとめて発表することなく、大学をやめてしまいました。どこかで書いておきたくて、このブログに書かせてもらいました。

 

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頭痛のこと、においのこと

2011-08-04 15:00:25 | 好酸球性副鼻腔炎一般

昨日、みやびさんからいただいたご質問の答の中に、他の方にも知っていただきたいことがあったので、あらためてこの記事にします。ほとんどは、昨日のコメントと同じ内容ですが、書き足した部分もあります。

顔が痛むのは急性上顎洞炎です。頭痛は、篩骨洞、前頭洞、に急性副鼻腔炎があるときか、見逃されがちですが、蝶形骨洞に炎症があると、強い頭痛が続きます( 参考文献 深見雅也 : 耳鼻科疾患と頭痛: 頭痛、めまい、しびれ. 鑑別診断から治療まで.  中林治男編. メディカルコア、東京、1997. 65-72 )。

通常の慢性副鼻腔炎でも頭痛が起きることは多い(手術例の71.9%(文献1))のですが、このときは後頸部(後頭の付け根)の筋にこりを伴うことが多いです。したがって、頭痛としては緊張型頭痛ようですが、慢性副鼻腔炎を治すと頭痛も治る方が多いです(手術による改善率97.3%(文献1))。好酸球性副鼻腔炎で、とくに頭痛を訴える方が多いわけではないようです。

くさいにおいがする上顎洞炎は、たぶん急性上顎洞炎です。上顎洞に細菌が感染し、悪臭のある膿が貯まっているためです。好酸球性副鼻腔炎では、くさいにおいはありません。

副鼻腔炎といっても、急性と慢性では症状も違うし、好酸球性は、また全然違う病気なのです。

ついでに触れておきますと、においそのものが喘息の誘因になるような方には、あえてお勧めできませんが、好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害は、嗅裂と上鼻道というところを、しっかり手術すれば、改善することが多いです。

通常の慢性副鼻腔炎でも嗅覚障害は起きますが(手術例の89.5%(文献1))、内視鏡手術による改善率は81.0%です。治癒率になると、33%程度です。これは、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、頭痛といった慢性副鼻腔炎の中では、改善率、治癒率とも一番低いものです。低いといっても、81.0%です。

好酸球性副鼻腔炎では、通常の副鼻腔炎より高率に嗅覚障害が起きますが、手術による改善率は、通常の慢性副鼻腔炎と同等か、おそらくもう少し高い改善率だと思います。ただし、好酸球性副鼻腔炎では、手術直後は良くなっても、鼻ポリープが再発すること嗅覚障害が再燃することが多いです。でも、一度徹底的に手術をしてあれば、再燃してもステロイドで短期間治療を行って鼻ポリープが縮小すると、また嗅覚がもどりやすいです。

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好酸球性副鼻腔炎の問題点1 欧米との違い

2011-08-02 09:02:19 | 好酸球性副鼻腔炎一般

慢性副鼻腔炎に関しては、日本と、欧米とで、かなり事情が違います。(韓国では、ほとんど日本と同じようですが)

好酸球性副鼻腔炎についても差があります。

Hellquist HB:Pathology of the nose and paranasal sinusues. Butterworths, London:27-32、1990.この本は、1冊まるまる鼻と副鼻腔の病理組織について書かれた、スウェーデンの病理学者の著書で、組織学をはじめたころの私の教科書でした。この本では、鼻茸をアレルギー性ポリープとその他のポリープに分類しています。

1990年にはじめてこの本を読んだときは、アレルギー性ポリープというものが本当に日本にもそれほどあるのかどうか疑問でした。しかし、アレルギー性ポリープの特徴は、好酸球浸潤、杯細胞の増加、基底膜の肥厚とされています。今考えれば、これは好酸球性副鼻腔炎のポリープの特徴そのものです。

私はスウェーデンで基礎的な研究だけでなく、実際の診療もかなり見学させてもらいましたが、日本でしょっちゅう見ているような重症の副鼻腔炎はほとんどいませんでした。私がいたHuddingeに、副鼻腔炎の臨床的研究で有名な英国のValerie Lund先生がみえたとき、このことを話したのすが、「どの国の医者も自分の国の患者さんが一番重症だと言うのよ」と、冗談でかわされてしまいました。しかし、確かに、エビデンスはないのですが、通常の副鼻腔炎で鼻茸を伴うような重症例は、欧州では非常に少ないのではないかと、自分の経験から推測しています。

欧州では相対的に”アレルギー性”の鼻茸が多く見られます。現在欧米では、副鼻腔炎を鼻茸を伴うものと伴わないもので分類していますが、欧州では日本でいう通常の鼻茸が少ないので、欧州で鼻茸を伴う副鼻腔炎に分類されるのは、多くが日本でいう好酸球性副鼻腔炎なのではないかと想像します。

日本における好酸球性副鼻腔炎の事情を、横浜市大の石戸谷先生が英文にして、昨年日本アレルギー学会の英語論文誌Allergology Internationalに、投稿されています。Allergol Int. 2010 Sep;59(3):239-45. Epub 2010 Jul 25. Eosinophilic chronic rhinosinusitis in Japan. Ishitoya J, Sakuma Y, Tsukuda M.

本来であれば、病気について海外からいろいろなことを学んで、 その診断や治療に役立てていけるのですが、日本(とおそらく東アジア)と、欧米とで、病気の頻度、程度に大きな差があり、その分類や名称まで異なると、それも難しくなります。国際学会の場などで、コンセンサスをつくっていくことが必要です。

震災のために延期されていた国際鼻科学会が、9月に東京で開かれます。


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臨床問題懇話会”好酸球性副鼻腔炎の克服に向けて”

2011-07-31 08:50:33 | 好酸球性副鼻腔炎一般

2001年にその病名が確立された好酸球性副鼻腔炎は、その後もいくつかのことが分かってきました。2006年の日本鼻科学会の臨床問題懇話会で、”好酸球性副鼻腔炎の克服に向けて”というタイトルでシンポジウムが行われました。司会は、千葉大学の岡本教授と順天堂大学の池田教授です。シンポジストは、横浜市立大学の石戸谷先生、慈恵医大の松脇先生、三重大学の竹内教授、千葉大学の山本先生でした。この先生たちが、今後もこの病気に本格的に取り組んでいただけると、心強いです。

ここでは、「好酸球性副鼻腔炎は、副鼻腔粘膜または鼻ポリープに著明な好酸球浸潤を伴う易再発性の慢性副鼻腔炎の総称である。」と定義されました。そこには但し書きがあり、病因、病態、重症度が異なる様々な疾患が混在している、とされています。またI型アレルギー疾患ではないということも言われています。

疫学調査から、手術適応となる慢性副鼻腔炎の20-40%を好酸球性副鼻腔炎が占める。」 喘息の合併 が60~80%みられ、喘息を合併する副鼻腔炎の70%以上を占める。」ですから、10年前の私の例よりもかなり多くなっています好酸球 性中耳炎の合併が30%近くに見られる。」というのも、私の経験よりかなり多いです。好酸球性副鼻腔炎は、最近さらに増加し、また重症化しているのでしょうか。

文献38)第35回鼻科学臨床問題懇話会 ・好酸球性副鼻腔炎の克服に向けて . 日鼻誌46(1): 37~49, 2007. 



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ブログを開設して1週間

2011-07-30 08:47:12 | 好酸球性副鼻腔炎一般

このブログの目的は、

1.好酸球性副鼻腔炎だと気づかずに、適切な治療を受けられないでいる方に、自分の病気に気づいていただく。

2.好酸球性副鼻腔炎の患者さんが、病気を治していくための手助けになる。

3.まだ好酸球性副鼻腔炎をよく知らない医師に、この病気のことを知っていただく。

4.好酸球性副鼻腔炎にはアスピリン喘息を高率に合併するので、アスピリン喘息についても、知っていただく。

5.自分自身の知識を増やしていく。

 まずスタートしてみようということで、この1週間、手持ちの知識、情報をアップしましたが、はじめに目指した、患者さんのために役に立つブログには、まだほど遠いものです。今後、

1.のためには、まずこのブログを見ていただく工夫を、していきます。

2.についても努力していきますが、私などのブログよりも、実際この病気と向き合って前向きに生活していらっしゃる、みやびさんのブログを見ていただいた方が、ずっと得るものが大きいと思います。3.についても同様です。

4.については、宮川先生のサイトで、実際のご経験に基づいた、きめ細かな情報が得られます。

目標は、宮川先生の喘息のサイトの好酸球性副鼻腔炎版をつくることですが、私の力では及ばないところも多いです。このブログをはじめて、自分の知識がいかに限られたものであるか、改めて分かりました。しかし、大学の先生の方が情報や知識は多いと思いますが、開業医には、より患者さんに近い目線で見ることができるという利点もあります。

当面は、5.の自分の知識を増やしていくことが中心になてしまうかもしれません。その中で、少しでも患者さんの役に立つ情報を出していければと思います。また、ご質問をいただければ、私にできる限りお答えしよう考えています。

 


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